山形県南部・置賜(おきたま)地域は豪雪地帯かつ山深く、暮らしの中に人々の知恵や工夫により独特の文化が花開いたエリア。ここは明治初期、英国人女性旅行家として活躍したイザベラ・バードが旅し、のどかな景観や農村の暮らしを目にして"東洋のアルカディア(桃源郷)"という最高の賛辞を贈った場所でもあります。日本のあるべき姿が今に生きる置賜の魅力に迫ります。

黒い竜神が舞い、人々の繁栄を祈る伝統神事「黒獅子」

長井市・飯豊町中心に伝わる「黒獅子」は、険しくも勇壮な獅子頭(蛇頭)を持つ黒獅子の獅子舞です。神社の例大祭で奉納され、地域の人たちによって大切に守り伝えられています。
獅子幕(獅子の体にあたる部分)の中に大人数の人が入り、竜の如く長い胴を持つ"むかで獅子"と言われるスタイルで、躍動的な舞いを披露します。

獅子舞は全国にある民俗芸能で、誰もが一度は目にしたことがあると思います。この地域の黒獅子舞は総宮神社(長井市横町)が発祥で約1000年もの歴史があり、長井市内だけでも約40社の神社に現在も獅子舞が伝わっています。
「黒獅子」は名前どおり、黒光りする獅子頭が特徴です。
やなぎの木から彫り出した木地に艶々とした漆。対照的な真っ白な毛は獅子のたてがみ。獅子舞の躍動的な動きに呼応して、この毛の間から大きな瞳が見え隠れすると、時に雄々しく時に尊く、そしてまた時につぶらで可愛く見えるのも不思議です。

獅子舞は伝播していく中で、山岳信仰の地であった三淵渓谷に棲む竜神伝説と結びついていきました。
"水を司る神の象徴(権化)"として黒獅子は信仰の対象とされ、恵みをもたらす神でもある一方、日照りや洪水で人々に災いを及ぼす神として人々に信心されてきました。古人たちはこの神仏を信仰することで荒ぶる神(自然)をも制御できると考えました。
舞いの中では竜の体のように長くうねるような動きが繰り返されます。また獅子幕には水流と波しぶきが描かれ、水上をすべっているかのような所作があり、これらの動きは伝説、信仰、布教というさまざまな意味合いを含んでいます。

毎年5月下旬に行われる「ながい黒獅子まつり」は、通常それぞれの神社でおのおのの例祭日にのみ披露される獅子舞が一堂に会するイベントで、2024年の今年で34回目となりました。
祭りの観客は獅子の"歯打ち"によって祓い清められ、また一方で獅子舞を演じる側も清められけがれが落ちるといった意味があるとされ、黒獅子はとても神聖なものです。黒獅子は、氏子の五穀豊穣・交通安全・家内安全・商売繫盛などを祈願しながら市内の目抜き通りを勇壮に駆け抜け、白つつじが咲き乱れる公園のお宮へと帰っていきます。
迫力のある獅子のパコーン、パコーンと心地よく響く"歯打ち"、大きく力強い動きに歓声が上がり、笛や太鼓のリズミカルな祭囃子に子どもたちはたまらず体を揺らします。獅子頭の面持ち、幕の絵柄、舞い姿や獅子を制する警護・相撲との力比べには神社ごとの違いがあり、それらも楽しめます。
この地のシンボルでもあり、民衆の誇り。人々の心の拠りどころでもある祭りです。

獅子宿燻亭

住所山形県長井市上伊佐沢2900
電話0238-84-1143
営業時間11:00~14:00
定休日木曜日
URLhttp://shishiyado.club/

道の駅川のみなと長井

住所山形県長井市東町2-50
電話0238-87-1121
営業時間3月~12月 9:00〜18:00、1~2月9:30~17:00
休業日なし
URLhttps://kawanominato.jp/

ながい黒獅子まつり

住所山形県長井市内
電話0238-88-5279
開催時期毎年5月最終土曜日の1週間前の土曜日
URLhttps://kankou-nagai.jp/kurojishi/

地元の人々に大切に守られ伝えられる“ふるさと置賜”の手仕事と工芸

食文化と手仕事、工芸といった古くから置賜で伝わる伝統は、置賜の恵まれた自然が生んだ産物です。
山形の食卓に浸透している食材「お麩」を使ったカフェ、上杉藩の元で育まれた白鷹の和紙、競技用けん玉生産日本一のまちにあるけん玉スポットを訪ねてきました。

山形県の食文化の中に強く根付いた「お麩」。県内では日常的に食べられるもので、特に「焼麩」が好んで使われます。山形県はお麩の生産額が常に全国トップクラスで、麩製作所や麩屋の数は日本一です。
大正15(1926)年創業「斎藤麩屋」を訪問しました。
金沢で修業した四代目兄弟が新たにリブランディングしたBtoCの販売店舗と、ニューオープンの「CAFE麩和里」があります。山形では煮物などによく使われるお麩をスイーツとして提供することで、新しいお麩の表現方法を紹介しています。名物はくるま麩を使用したフレンチトーストで、フルーツやナッツがあしらわれた華やかな一皿。同敷地内製麩所で作られた焼きたてのくるま麩を使い、麩屋ならではの最もおいしい食べ方とアレンジを発信しています。
店舗で販売されるお麩の商品はどれも使い切り、食べきりサイズで購入しやすくちょっとしたおみやげにもぴったりです。

白鷹町深山(みやま)には、独特の原料を用いて作る手漉き和紙があります。
ここ深山では雪の降る冬、農作業ができない時期の生業として秋に収穫した楮(こうぞ)を使った紙漉きが盛んになりました。
深山和紙で特徴的なのが、紙漉きの工程で、楮の繊維を分散させるために使う「ノリウツギ」を使うこと。各地の紙漉きでは畑で育てた「トロロアオイ」を使うことが一般的です。「ノリウツギ」はこのあたりでは、高い山へ分け入らないと手に入らない植物。昔からずっと使われてきた、深山和紙の製造には欠かせないものです。
深山地区の紙漉きは、時代の流れの中一度は途絶えそうになりましたが、地元の人々の協力によりその歴史がつながれました。
作業場となっている深山和紙振興研究センターでは、和紙作りの全ての工程を一貫して行っています。また和紙を購入することもできます。和紙について学ぶこともできるので、紙漉き体験に訪れる人も多いということです。

競技用けん玉生産日本一の長井市。市民の多くが子どもの頃からけん玉に親しみ、過去には大皿乗せのギネス世界一チャレンジ成功という偉業も成し遂げました。
そもそも山形県は産業のひとつに木工業があり、高い技術を持った企業が数多くあります。
長井市で1973年に創業した木工芸の玩具メーカー「有限会社山形工房」は、約40年前に日本けん玉協会から公認のけん玉づくりを依頼され、1ミリの誤差も許されないという厳しい基準の中精巧な木工技術で競技用けん玉づくりを行ってきました。年末のNHK紅白歌合戦の中で使われているのも「山形工房」のけん玉です。
1992年の国民体育大会「べにばな国体」が行われた際、当時の小学6年生がけん玉デモンストレーションを披露、その時の生徒たちが後に大人になった平成28(2016)年、けん玉でギネス世界記録「長井式大皿ドミノ」にチャレンジし、見事成功させました。その前年2015年にはけん玉の練習や検定が受けられる市公認のけん玉スペース「けん玉ひろばSPIKe」が開所。また現在市内56か所で行われているけん玉チャレンジ(店舗ごとの規定の技を決めるとさまざまなサービスが受けられる)、さらに出産や小学校入学のタイミングにはけん玉が贈られるなど、市の取り組みや市民のチャレンジ精神で長井市は名実ともに「日本有数のけん玉のまち」となりました。

SHOP斎藤麩屋(CAFE麩和里)

住所山形県長井市成田1440
電話0238-88-2551
営業時間11:00~17:00
定休日火曜日、水曜日
URLhttps://www.saito-fuya.com/

深山和紙振興研究センター

住所山形県西置賜郡白鷹町大字深山2527
営業日不定休
URLhttps://www.town.shirataka.lg.jp/1294.htm

けん玉ひろばSPIKe

住所山形県長井市栄町3-5
電話070-2016-2509
営業時間10:00~17:00
定休日なし
URLhttp://www.nagai-kendama.com/

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