2019年9月に新型機・Airbus A350が国内線で就航しました。現在は羽田-福岡路線と羽田-新千歳路線の一部で運航しています。シートは普通席、クラスJ、ファーストクラスの3構成で、今回すべての内装を一新。最新鋭の機内でおくる快適な空の旅がどのようなものなのかーー。『一千兆円の身代金』で第12回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、現在IT企業でも働く北海道出身の兼業作家・八木圭一さんにファーストクラスに搭乗していただき、エッセイを寄稿してもらいました。
画像1: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

時代の大きな節目を迎えた2019年も、数え切れないほどJAL機に乗った。国内の離島旅が好きで取材を兼ね、近年は南の島を中心に攻めているが、初めて沖縄・多良間島、奄美諸島・与論島にも足を延ばした。プロペラ機のATR42やDHC8は何度乗っても、美しい海を背に旋回するプロペラに身を乗り出して見入ってしまう。

画像2: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

方や、北の空に目を向けると、羽田と我が故郷・とかち帯広空港間でよく遭遇するB763。その翼はグレーと白のツートンカラーに日の丸が映え、十勝平野と調和する姿が四季を通じて表情を変え、愛おしい。2019年はNHKの朝ドラ『なつぞら』の影響で、十勝の魅力が広く伝わり、多くの観光客が訪れたことも印象深い出来事だった。

画像3: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

幸運にも特別塗装の『なつぞら』バージョン、ミッキーが登場した「JAL DREAMEXPRESS 90」の機体に搭乗できたし、2019年の最終フライトは、「みんなのJAL 2020ジェット」だったので、感慨深いものがあった。同じ路線であっても、同じフライトなんて存在しない。

そして、飛行機に乗れば乗るほど、機体にはわかりやすい外見、体格だけでなく、細部に個性が宿っていることに気づく。すべての機体は、関わっている人の数だけ、物語を乗せて飛んでいるのだ。

兼業作家をしていて、仕事量だけは一人前の僕にとって、快適なプライベートルームが空を飛ぶようなAirbus A350のファーストクラスは理想を絵に描いた空間だった。あの日の物語を紡いでみたのだが、普段は乗らないファーストクラスに背伸びをして乗ったことが鼻につくようであればその点はご容赦いただきたい。

画像4: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

その日の早朝、僕はダイヤモンド・プレミアラウンジでパソコンに向き合い、メールを処理しながら、朝食の誘惑をぐっと我慢していた。食欲を生かしてグルメミステリーを描いているほど、食い意地が張った人間だが、機内での朝食を楽しむため、ここは仕方ない。

出発時刻は7時30分だ。時間を見計らい、作業をいち段落させると、胸を高ぶらせながら、搭乗口に歩を進める。すると、特徴的なコックピットの窓、タレ目なタヌキフェイスのA350が窓ガラスの向こうに出迎えてくれていた。

搭乗口を抜けて、機内へと向かう。いよいよ、初めての潜入で緊張が高まる。お馴染みのBoardingmusic「I Will Be There With You」とともに、笑顔のCAさんに迎えられてシートに到着した。開放感を強く感じられているのは、大きな窓からの日差しも理由かもしれない。日本の伝統美を感じられる内装が心を落ち着かせてくれる。

画像5: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

二度見してしまうほど広大な収納スペースにラゲッジを預けると、僕はシェル型シートにゆったりと背を持たれた。

画像6: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

すべての乗客を乗せた機体が移動を始めた。聞いていた通り、エンジン音が静かなように感じられる。それは、離陸の際も同様だった。黒いフルレザーのシックなシートは座り心地がよく、そのまま眠ってしまいたいところだが、AC電源が使用できる高度10000フィートに機体が上昇したところで、ノートPCのアダプターを差し込む。MacBook Proは電池の減りが早いため、コンセントがあるのは心強い。

シートテーブルを開いて、パソコン操作をスタートする。テーブルは距離を最適な間隔に調整できて、キーボードをタッチしやすい。ここで隣の席との間にあるディバイダをスライドさせると、さらに個室空間に近づいた。

多彩なシートアレンジはすべて電動ボタンになっている。シェルタイプなので、後ろを気にせずリクライニングを倒せるし、フットレストも随分と上がる。いろいろ試していくと、突然、腰のあたりでマッサージが作動した。心地よいバイブレーションに、心までほぐれていくようだ。

画像7: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

ほどなく楽しみにしていた朝食がやってきた。さわらの粕漬焼が、北海道産のふっくりんこの御飯とよく合う。そして、焼きばら海苔の味噌汁が身にしみて、身体を温めてくれる。デザートまで堪能し、完食すると、食後のコーヒーをテーブルに置いてもらった。重厚感のあるトレイのデザインが美しく、カップを手にするまでしばらく見つめてしまった。

画像8: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

今度は、リモコンを使って大型モニターを操作してみる。チャンネルをいろいろ変えていくと、機外カメラの映像に気づいた。機体前方の下に取り付けられたカメラからと推測されるフロントビューと、尾翼のかなり上部に取り付けられたカメラからと推測されるウイングビューの二点がある。天気がいいこともあり、みていて飽きない。臨場感のあるフロントビューに見入っていると、まるでパイロットにでもなったかのような錯覚を味わえる。

画像9: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

これだけ快適だと、このままずっと空の上にいてくれないかと思ってしまうが……。再びMacを開いて仕事をしていると、あっという間に新千歳空港が近づいてきた。着陸の際、目を瞑り、耳を澄ませてみたが、あらためて静寂性を確認できた。人にも、環境にも、やさしい飛行機なのだ。久石譲さんの「明日の翼」を聴きながら、自分も常にそうありたいと心に誓った。

画像10: まるで空の上の書斎。ミステリー作家が語るAirbus A350ファーストクラス

新千歳空港に到着すると、僕は初めて3F展望デッキの近くにある「スーパーラウンジ」を訪れた。窓際の席に座ると、偶然にも、自分が搭乗していたA350の機体が目の前に停まっているではないか。ハイスペックな最新機体でありながら、独特なタヌキフェイスが正面から見てもどこか愛嬌を感じさせる。しばらくすると、飛び立っていったが、代わる代わる入ってくる機体はまた個性的な表情を覗かせている。

コックピットをはじめ、いくつも開いた窓の中には、機体に愛情を込めて航行に関わる人、そして、旅をする人、それぞれの物語が透けて見える。人の熱い想いをいっぱい詰め込んで飛行機は大空を飛ぶのだ。そんな空間が堪らなく好きで、だから空の旅はやめられない。次はどの機体で、どの空を飛ぼうか。僕は、空を見上げながら次の旅へと想いを馳せるのだった。

取材・文:八木圭一

北海道十勝出身。大学卒業後、旅行雑誌「じゃらん」の編集者や飲食系のコピーライターなどを経て、2014年に『一千兆円の身代金』で宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して作家デビュー。同作は翌年、フジテレビでドラマ化。現在、IT企業でパラレルキャリアを歩みながら、小説やエッセイを執筆している。最新刊はグルメミステリーのシリーズ2作目『手がかりは一皿の中に ご当地グルメの誘惑』(集英社)。

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