古くから日本の国民食として親しまれているそば。一口にそばといっても、日本にはさまざまな種類のそばがあり、地域によって特徴や食べ方が異なります。各地の美しい自然や文化によって育まれたそばは、実に奥深いもの。この記事では、日本三大そばに数えられる岩手県・長野県・島根県のそばの特徴に加え、一度は足を運びたい伝統的なそば店をご紹介。そばの世界に足を踏み入れ、美食旅を体験してみてください。

※価格は税込み表記です。

日本三大そばとは? 違いや特徴を知る

年越し・引っ越しといった行事やご当地そばなど、そばは、地域ごとに個性を感じられる食べ物。中でも岩手県の「わんこそば」、長野県の「戸隠そば」、そして島根県の「出雲そば」は全国的にも知名度が高く、「日本三大そば」といわれています。

日本三大そばがどのようにして定められたかは、はっきりとした謂れはありません。新潟県の郷土料理である「へぎそば」を日本三大そばのひとつとする記述もありますが、一般的には「わんこそば」「戸隠そば」「出雲そば」を三大そばと呼んでいます。

色み、味わい、食べ方などそれぞれ異なる日本三大そばの特徴をご紹介します。

エンターテインメント性も魅力ながら歴史も奥深い「わんこそば」(岩手)

わんこそばは、岩手県盛岡市と花巻市を中心とする地域の郷土料理。一口で食べられる量のそばがお椀に入れられており、食べ終わると次のそばが給仕によってお椀の中に追加されます。

画像: iStock/PHOTON09

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そんなわんこそばの誕生については、花巻発祥と盛岡発祥の2つの説があります。

花巻説は、初代盛岡藩主の南部利直公が、江戸に向かう途中で花巻に立ち寄った際に振る舞われた、平椀に盛られたそばを気に入り、何度もおかわりをしたというもの。

盛岡説は、内閣総理大臣であった原敬が故郷の盛岡に帰省し、わんこ(岩手の方言で木地椀)に入ったそばを食べた際に、「そばはわんこで食べるに限る」と言ったことから広まったとされる説です。

いずれも共通しているのは、元々これらの地域では客人にそばをもてなす習慣があったということ。大勢の人へ同時に茹でたてのそばを振る舞うために、少しずつお椀に盛って提供していたのが、わんこそばの始まりの背景として考えられています。

画像: エンターテインメント性も魅力ながら歴史も奥深い「わんこそば」(岩手)

わんこそばといえば、食べ方も独特です。盛岡では、「はい、じゃんじゃん」や「はい、どんどん」という掛け声とともに、テンポよく食べ進めていき、満腹になったらお椀のフタを閉めると終了。

とはいえ、必ずしも早く食べなければいけないわけではありません。ねぎ、とろろ、鰹節、のりなどの薬味と一緒にゆっくり味わうのもOK。店舗によっては、刺身や山菜といったバラエティ豊かな薬味と一緒にそばを堪能できます。

わんこそば15杯ほどで、かけそば1杯分の量といわれている中、15分間で大食いを競う全日本わんこそば選手権の歴代最高記録は、なんと632杯です。

今では大食い料理の印象を持つ人が多いかもしれませんが、本来のわんこそばは「おもてなし料理」。これを知れば、少し気楽に楽しめるのではないでしょうか。

自然の恵みが生み出した絶品「戸隠そば」(長野)

戸隠そばは、長野県で作られる信州そばのひとつ。そばは、高低差があり寒さが厳しい土地であるほど上質なものが育つとされ、長野はまさにおいしいそばが作られるのに最適な環境。そんな土地柄もあり、長野はそばの名産地として全国的にも知られるようになりました。

画像: iStock/Megumi Kodaira

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戸隠そばの始まりは、平安時代にまでさかのぼります。

長野市北部にそびえる戸隠山は、山岳信仰の聖地で修験道場として知られていました。当時、山を訪れた修行僧が、簡単に栄養補給できる携帯食としてそば粉を水で溶いて食べていたことが由来とされています。

江戸時代に入ると、江戸から「そば切り」の技術が伝わったことで麺状に加工して食べるようになり、修験者へのおもてなし料理として振る舞われるように変化しました。

その名残から、現在でも戸隠周辺にはそばを提供する宿坊や名店が多く、その味を求めて全国から旅行客が訪れます。

画像: 自然の恵みが生み出した絶品「戸隠そば」(長野)

戸隠そばの特徴は、水をほとんど切らず、少量を束ねてざるの上に盛り付ける「ぼっち盛り」です。一人前が5束になっているのが一般的で、これは5社から成り立っている戸隠神社を表現しているとのこと。

食べ方は一般的なざるそばと同じですが、薬味として辛味大根が添えられているのが戸隠ならでは。戸隠大根を使った大根おろしのピリッとした辛みが、良いアクセントになっています。店舗によって麺の太さをはじめ、クルミだれや塩をつけるなどつゆの味わいも異なるため、いろいろな食べ比べを楽しむのも戸隠そばの醍醐味です。

また、毎年秋に戸隠神社で開かれる「そば献納祭」や「戸隠そば祭り」など、街ぐるみの催事があるほどそばとの関わりが深い戸隠エリア。

戸隠そば祭りでは「半ざる食べ歩き」というイベントが行われ、専用の半ざるチケットブックを購入すると、戸隠周辺の4店舗で半ざるを食べられます。秋の新そばの時期にそれぞれの個性を味わってみてください。

※イベント内容等は変更となる場合があります。詳細はwebをご確認ください。

戸隠観光協会

神話のふるさと発祥の美しい食文化「出雲そば」(島根)

出雲そばは、島根県出雲地方で食べられているそばを指します。

江戸時代初期に松江藩の松平直政公が、信州から松江へ移ってきた際に、そば職人を連れてきたことが出雲そば誕生のきっかけ。そこから、30年ほどで出雲中にそばが広がったそうです。

画像: iStock/kyonntra

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出雲そばは、殻のついたそばの実をそのまま挽く「挽きぐるみ」という製法が採用されており、見た目が黒っぽいのが特徴。一般的には殻をむいてから挽くことが多いですが、殻ごと挽くことで、栄養価が高く、香りや風味の良いそばが出来上がります。

出雲そばには、冷たい「割子(わりご)そば」と温かい「釜揚げそば」の2種類があり、見た目や食べ方が異なります。

画像: iStock/TokioMarineLife

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割子そばは、赤くて丸い容器が三段に重なったそばのこと。一番上の段につゆをかけ薬味をのせて食べ始めます。次に、一段目に残ったつゆを二段目にかけ、好みで薬味を追加。三段目も同様で、自分の気に入った食べ方で味わいましょう。

そばを食べ終わったら、残ったつゆをそば湯に入れて最後まで楽しみます。つゆで割らずにそば湯をそのまま飲むと、そばの風味を楽しめるだけでなく、お湯に溶け出したそばの豊富な栄養を余すことなく取り入れられます。

もうひとつの釜揚げそばは、器の中にそばと、麺を茹でた際のそば湯が入れられた状態で提供されます。薬味をのせ、つゆを入れながら好みの濃さに調整して食べていきます。

かけそばとは違い、そば湯につゆを追加していくため、一般的な温かいそばよりもそばの香りを存分に味わえます。

割子そばも釜揚げそばも出雲そば特有の食べ方なので、ぜひ一度ご賞味ください。

旅行で訪れたい! 日本三大そばの名店

歴史ある日本三大そばを味わうなら、やはり古くから愛される名店へ。数あるお店の中から、一度は訪れたい人気店をピックアップしました。

【わんこそば】記録にチャレンジできる「そば処 東家」

画像1: 【わんこそば】記録にチャレンジできる「そば処 東家」

「そば処 東家」は、盛岡市にある明治40年創業のそば店。本格的なわんこそばを体験できると、全国から多くの人が訪れます。

画像2: 【わんこそば】記録にチャレンジできる「そば処 東家」

同店の「わんこそば」(3,900〜4,500円)は、お椀に入ったそばを食べるたびに、掛け声とともに給仕が次々にそばを追加してくれます。食べ終わったお椀は目の前に重ねてくれるので、どれだけ食べられたかは一目瞭然。

早食いではなく、お給仕との掛け合いを楽しみながら自分のペースで味わえるのが魅力。鮪のお刺身といった一品料理や、なめこおろし、出汁で煮込んだとりそぼろなどのさまざまな薬味と一緒に味変しながら食べられます。

食べた杯数はわんこそば証明書に書いてもらえます。また、100杯以上食べると木製の記念手形がもらえるので、きっと良い思い出になるでしょう。

わんこそば以外にも、鴨せいろやカツ丼などの単品メニューも人気。街歩きに便利な市中心部にある本店のほか、盛岡駅のすぐ近くにも店舗があるため、観光で訪れやすい場所に店を構えています。どちらも盛岡らしい旧商家造りの中で食べられます。

そば処 東家 東家本店

住所岩手県盛岡市中ノ橋通1-8−3
電話0120-733-130
営業時間11:00~15:00(10:30頃より受付)、17:00~19:00
※営業時間は変更になる場合があります。詳細は公式web内新着情報をご確認ください。
定休⽇なし
webhttps://wankosoba.jp/

【わんこそば】文豪も愛した「やぶ屋」

画像1: 【わんこそば】文豪も愛した「やぶ屋」

「やぶ屋 花巻総本店」は、花巻市にある創業100年の歴史あるそば店。いわて花巻空港から車で約15分とアクセスも至便なので、現地に到着してすぐや、帰り際にも立ち寄れます。

画像2: 【わんこそば】文豪も愛した「やぶ屋」

大正12年の創業間もない頃から、日本を代表する詩人である宮沢賢治が足繁く通ったことで知られている同店。宮沢賢治が当時いつものように注文していたのが、天ぷらそばと三ツ矢サイダーでした。現在では、天ぷらそばと三ツ矢サイダーがセットになった「賢治セット」(1,150円)が名物です。

画像3: 【わんこそば】文豪も愛した「やぶ屋」

もちろん「わんこそば」(3,500円)も提供しており、時間制限なしでそばを食べられます。こちらも給仕が、食べた分のお椀を目の前に積み重ねてくれる、本場のわんこそばスタイル。

小学生向けの「子供わんこそば」(2,800円)や、幼児向けの「ちびっこわんこそば」(1,000円)もあるので、家族連れでも楽しめます。

やぶ屋 花巻総本店

住所岩手県花巻市吹張町7-17
電話0198-24-1011
営業時間10:30〜15:00(L.O.14:30)、17:00〜19:00(L.O.18:30)
定休⽇月曜(祝日の場合は火曜)
webhttps://yabuya.jp/

【戸隠そば】宿坊で食べる特別感「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」

画像1: 【戸隠そば】宿坊で食べる特別感「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」
画像2: 【戸隠そば】宿坊で食べる特別感「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」

長野駅から北西に車で約1時間進んだ山沿いにある「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」。戸隠神社の神職も務める店主が、完全手打ちで作るそばが自慢のお店です。

画像3: 【戸隠そば】宿坊で食べる特別感「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」

100%戸隠産のそば粉に、戸隠高原で採れる「クマザサ」の粉末が配合されており、ほんのり緑がかっているのが特徴。そばの風味にクマザサの香りがほんのり加わり、ここでしか食べられない味わい深いそばとなっています。

そばの風味を最大限に味わいたい人には、シンプルな「ざる盛り蕎麦(880円)」がおすすめ。戸隠特産の「ネマガリタケ」で編まれたザルに盛って提供されたそばは、一口食べるとそばの味や香りをダイレクトに感じられます。

画像4: 【戸隠そば】宿坊で食べる特別感「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」

ほかにも名物の「鳥そば」(1,320円)も必食です。鶏肉とネギ1本を煮込んだアツアツのそばは食べ応え十分。「スタミナにんにく鳥そば」(1,430円)や「カレー鳥そば」(1,430円)など、種類が豊富なので気分にあわせて選べます。

画像5: 【戸隠そば】宿坊で食べる特別感「戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山」

また、食事目的だけでなく、宿坊に泊まれるのも同店ならでは。5社巡りと一緒に訪れると、心身が清められ、研ぎ澄まされたような気持ちになるでしょう。

戸隠神社宿坊 いろりの蕎麦処 築山

住所長野県長野市戸隠2348
電話026-254-2545
営業時間11:00〜(そば粉が終わり次第閉店)
定休⽇不定休
webhttps://tsukiyamakan.jp/

【戸隠そば】地元からも愛される人気店「そばの実」

戸隠屈指の人気店「そばの実」。お昼時になると駐車場に車が入りきらないほど、観光客や地元の人が訪れます。

こだわりは、地元の契約農家から仕入れた玄蕎麦を、石臼を使って自家製粉していること。ミネラルが豊富に含まれている地下水を使って毎朝手打ちしているそばは、強いコシと豊かな風味が味わえます。

おすすめは「そば三昧」(1,500円)です。ざるつゆ、信州産長芋のとろろ、信州産鬼クルミ汁の、3種類のつけだれで手打ちそばを味わえます。信州名物であるクルミを使ったそばつゆは、濃厚でコクがあり、長野県を訪れたらぜひ食べたい一品です。

そばだけでなく、地元で採れる季節ごとの山菜や野菜、きのこなどの天ぷらも人気があります。また、「そばだんご」(330円)や「そばチーズケーキ」(500円)といった、そばを使った甘味も充実しているので、食後のデザートまで楽しんでください。

そばの実

住所長野県長野市戸隠3510-25
電話026-254-2102
営業時間11:00〜16:00(売り切れ次第終了)
定休⽇木曜、第2・4金曜
webhttps://www.sobanomi.co.jp/

【出雲そば】由緒ある名店「献上そば羽根屋本店」

画像: 【出雲そば】由緒ある名店「献上そば羽根屋本店」

江戸時代末期に創業した出雲そばの名店「献上そば羽根屋」。

献上そばという店名は、皇太子時代の大正天皇が出雲市を訪れた際に、羽根屋のそばをさしあげたところ大変気に入られ、その名がつけられたのだそう。麺には出雲産のそば粉を使用するなど、由緒ある歴史とこだわりが自慢のお店です。

画像: 割子そば

割子そば

画像: 釜揚げそば

釜揚げそば

羽根屋では、「割子そば3段」(900円)と「釜揚げそば」(850円)の2種類の出雲そばを提供しています。350円を追加すると、日替わりご飯やしじみ汁がセットになった定食に変更可能。代々受け継がれてきた手打ちの技術を活かし、香り高くのどごしの良いそばに仕上げています。

テーブル席に加え座敷もあるので、ひとり旅や友人、家族旅行などさまざまなシーンで利用できるお店です。

献上そば羽根屋本店

住所島根県出雲市今市町本町549
電話0853-21-0058
営業時間11:00~19:00(15:00~17:00は休み)
定休⽇1月1日
webhttps://kenjosoba-haneya.com/

【出雲そば】出雲大社参拝後にも立ち寄りやすい「そば処田中屋」

画像1: 【出雲そば】出雲大社参拝後にも立ち寄りやすい「そば処田中屋」

出雲大社の正門前に店を構える「そば処田中屋」。出雲大社への参拝とあわせて訪れたい名店です。季節ごとに産地を厳選したそばの実を石臼で挽いた、希少な国産のそば粉を使用しています。

画像2: 【出雲そば】出雲大社参拝後にも立ち寄りやすい「そば処田中屋」

田中屋の定番は「三色割子そば」(1,254円)です。温泉玉子、とろろ、揚げ玉の3種類のトッピングと一緒に出雲そばを堪能できます。また、「特製 五色割子そば」(2,200円)では、海老と野菜の天ぷら、島根県産あかもく、おぼろ豆腐、とろろ、温泉玉子の5つのトッピングがセットになっています。

どちらも、バラエティ豊かなトッピングとともに、伝統的な出雲そばを味わえる人気メニューです。

そばと一緒に食べたいのが、そば粉で作ったもちもちのそば団子が入った「縁結びそばぜんざい」(748円)。ぜんざい発祥の地でもある出雲で、ハート型のそば白玉を食べれば、素敵なご縁に恵まれるかもしれません。

そば処田中屋

住所島根県出雲市大社町正門鳥居前
電話0853-53-2351
営業時間11:00~16:00(売り切れ次第終了)
定休⽇木曜
webhttps://soba-tanakaya.jp/

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