忙しい日常から少し離れ、心と体を癒やす旅へ行ってみませんか? 観光も楽しいけれど、ホテルや宿でゆっくり滞在する旅は、日常へと戻っていく力を養ってくれるはずです。この記事では、これまでさまざまなホテルに足を運んできたクリエイティブコンサルタントの市川渚さん、アートディレクターのYUMI KUROTANIさん、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんの三人が、日常生活から少し離れてゆったりとした時間を過ごせる「リトリート旅」におすすめのとっておきのホテル・宿を一つずつ紹介。それぞれの言葉で旅の思い出を綴ってくれました。

※価格は税込み表記です。

真冬の銀世界で過ごす非日常へ

市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)

画像1: 市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)

雪に覆われた冬の景色が大好きです。初心者でも行ける雪山登山やスノーシューハイキング、スキーによく出かけるのですが、長野県・美ヶ原でスノーシューハイクをした際、併設のカフェで休憩させていただき、そのあたたかな雰囲気に心を掴まれたのが「王ヶ頭ホテル」でした。

松本駅から送迎してくれる車に揺られながら、冬季は一般車両の通行が禁止されている山道を抜け、真っ白な雪原が広がる美ヶ原高原へと向かいます。外気温はマイナス。痺れるような寒さの中、ホテルスタッフのあたたかな接客とホスピタリティに出迎えられ、ほっと一息。

画像2: 市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)
画像3: 市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)

到着すると、美ヶ原の雪原を巡る雪上車クルージングが開催されていました。ここは以前もスノーシューで歩いたことがあったので、行きは雪上車に乗せてもらい、帰りはお借りしたスノーシューで帰ることに。通常のスノーシューハイクは早朝から昼にかけて行くのが基本ですが、日没ギリギリまでこの雪原を楽しむことができたのは、この場所での宿泊だからこその経験です。

雪上車クルージング

画像: スノーシューで雪の上を散歩

スノーシューで雪の上を散歩

夕朝食付きなので、食事の心配も不要。地元の食材と季節の恵みを生かしたメニューには、またとない癒やしを感じました。リピーターが多く、スタッフとの「お久しぶりです」の会話が耳に飛び込んでくるのも印象的。朝食時はレストランに差し込む朝日が本当に美しく見とれていたところ「席を窓際に移動しますか?」との提案も。どのスタッフさんも近すぎず遠すぎずの接客が心地よい。

画像4: 市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)
画像5: 市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)

雪上車体験のほか、星空見学や朝日を見るツアーなど、ホテルと雪原以外“何もない”ロケーションを存分に満喫できる無料の館内イベントが豊富です。可愛らしいデコレーションや温かい笹茶などスタッフさんたちの工夫が随所に感じられるあたたかな館内には、カフェやドリンクカウンター、テラス、思い思いの時間を過ごせるフリースペースといったパブリックなスペースも充実しています。

画像6: 市川渚さんが選んだ、「王ヶ頭ホテル」(長野県)

山の上は天候が変わりやすいのもあり、いろいろと事前に計画を立てるよりも、「ここで、今、やりたいと思ったこと」に従って過ごすのがおすすめ。展望ラウンジでコーヒーを飲んだり、山々を眺められるお風呂にゆっくり浸かったり、私たちのように外へ出て寒さを楽しんだり。王ヶ頭ホテルで真冬の銀世界で過ごす非日常をぜひ体験してみてほしいです。

王ヶ頭ホテル

住所長野県松本市入山辺8964
電話0263-50-8765
料金〈宿泊〉朝夕食付き18,900円~
webhttps://www.ougatou.jp/
※雪上車クルージングの開催期間は12月20日頃から3月31日まで
画像2: 心と体を癒やす「リトリート旅」へ。あの人が選ぶホテル・宿

市川渚さん

ファッションデザインを学んだのち、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。クリエイティブコンサルタントとして国内外の企業/ブランド、サービスのコミュニケーション設計、コンテンツ企画・制作・ディレクションに関わる。また、自身の視点・視座、興味・関心を写真、動画、文章などを用いて表現するパーソナルワークの制作にも力を注いでいる。丁寧なモノづくりと少し先の未来を垣間見られるデジタルプロダクトが好き。

X(旧Twitter):@nagiko726
Instagram:@nagiko

自然に身を委ねられる、遠くの島にある豊かな空間

YUMI KUROTANIさんが選んだ、「Entô」(島根県)

画像1: YUMI KUROTANIさんが選んだ、「Entô」(島根県)

Entôは自然豊かな島根県・隠岐島に佇んでいます。羽田空港から伊丹空港へ、そこから隠岐世界ジオパーク空港へと飛行機2便を乗り継ぎ、そして空港からバスに乗り港へ、さらに船に揺られて隠岐島に辿り着きます。遠島(Entô)という言葉がふさわしく、本当に遠くの島に来たことを感じます。

隠岐島の美しい自然とEntôでの時間は長旅の価値があり、豊かな気持ちになれます。

部屋のドアを開けると、壁一面の大きなガラス窓から美しい海が見える。思わず息をのむ美しさです。内と外が調和され、自然に身を委ねて、地球の中にいる、ということを感じます。

画像: 部屋の窓の前に立つ夫

部屋の窓の前に立つ夫

空間にあるすべてのデザインはモダンなようで自然にも馴染み、海を引き立てます。窓枠やインテリアが心地よくおさまり、美しい自然をまっすぐ感じられるところが好きです。

感覚が研ぎ澄まされていき、やさしい時間が流れます。

ホテルの中には心が躍るセレクトのライブラリーもあるので、その中でお気に入りの本を部屋に持って帰って読んだり、ときどき船が行き交い、水面がきらきらと美しく動くのを眺めたり。隠岐島でのほとんどの時間をEntôでゆっくり過ごしました。

ディナーは隠岐島でしか味わえない季節のコース料理を。水面からやさしい風を感じ、太陽が海にもぐるのを眺めながら美味しいディナーとお酒を楽しみました。

そして、ホテルの方におすすめしていただいて海中クルージングへ。半潜水型の船に乗り、夜は写真にも写らないほど繊細に青く光る幻想的な夜光虫の光を見て、昼は船底の窓から海藻の間を群れ泳ぐ魚たちを眺める。地球とのつながりを感じる、かけがえのない時間となりました。

画像2: YUMI KUROTANIさんが選んだ、「Entô」(島根県)

たくさんインプットする旅も楽しいけれど、忙しいときはリセットして心から休めるような、そういう時間がいちばん大切な気がします。

この豊かな空間に身を置くと、心も体もまっさらになって、やさしい気持ちに包まれます。そして、また明日からがんばるエネルギーが湧いてくるのです。

Entô(エントウ)

住所島根県隠岐郡海士町福井1375-1
電話08514-2-1000
料金〈宿泊〉朝食付き31,970円~
webhttps://ento-oki.jp/
画像7: 心と体を癒やす「リトリート旅」へ。あの人が選ぶホテル・宿

YUMI KUROTANIさん

アートディレクター・フォトグラファー・美術デザイナー。多摩美術大学インテリアデザイン専攻卒業。在学中にフィンランドのアールト大学に留学。新卒で資生堂クリエイティブ本部にデザイナーとして在籍。2023年独立。ビューティーブランドなどの広告ビジュアルや空間のアートディレクションを手掛ける。

Instagram:@yumi.kurotani

浸かるための温泉ではなく、過ごすための温泉へ

龍崎翔子さんが選んだ、「忘れの里 雅叙苑」(鹿児島県)

画像1: 龍崎翔子さんが選んだ、「忘れの里 雅叙苑」(鹿児島県)

原稿をたくさん抱えているのに、ふと遠くに行きたくなった日の宿。鹿児島県・霧島市にある、1970年創業の「忘れの里 雅叙苑」。この日は宮崎空港から向かい、電車を乗り継ぎたどり着いた小さな駅から、タクシーに乗ること15分。緑の深い温泉街のさらに奥にあるその小さな宿の入り口には「この先 ニワトリ優先」と書かれていました。

そこは、温泉旅館とも、リゾートとも、古民家宿とも違う趣がある宿。石畳の道はでこぼこに起伏し、枝分かれし、地形のようになっていて、宿全体がまるでひとつの村であるかのように、いくつかの茅葺き屋根の家が寄り集まっていました。道端に、炉端に、井戸端に、至る所に、野山の花が生けられ、大根が天日干しされていて、それはあたかも、心の中にある日本の里山の風景であるかのよう。足元の苔むしたお地蔵さんが、私を見上げながら笑いかけていました。

画像2: 龍崎翔子さんが選んだ、「忘れの里 雅叙苑」(鹿児島県)

部屋に入り、居間の障子を開けると、地続きの空間に半露天の温泉がこんこんと湧いていました。数年かけて巨岩を穿って作られたという大きな石風呂。翡翠色の青葉が窓の外に見えるデイベッド。ここは浸かるための温泉ではなく、過ごすための温泉でした。

PCを抱えてデイベッドに寝転がりながら原稿を書き、疲れたら温泉に入る。のぼせたら上がって浴衣を着て、またデイベッドで原稿を書く。こうして、風呂とデイベッドの往復運動を繰り返して、日がな一日原稿を書き続けました。

風呂場ともリビングルームとも言える場所

画像: 貸切風呂の「うたせ湯・ラムネ湯」も

貸切風呂の「うたせ湯・ラムネ湯」も

風呂に入ることも、原稿を書くことも、私の生活の延長線上にあるごくありふれた行為に過ぎません。けれど、いつものありふれた日常が、非日常空間で営まれるとき、ありふれた行為だからこそ、その非日常が際立っていきます。do(何をするか)ではなくbe(どう在るか)が旅を形作るのだとすれば、だからこそ物見遊山の旅ではなく、非日常空間に在り続けるリトリートが求められているのでしょう。「忘れの里 雅叙苑」は朴訥とした空気感の中で、そんな滞在が作り込まれていました。

この場所は、数十年も昔からずっと、そんなリトリート旅の姿が見えていたのかもしれません。

忘れの里 雅叙苑

住所鹿児島県霧島市牧園町宿窪田4230
電話0995-77-2114
料金〈宿泊〉朝夕食付き52,950円~
webhttps://gajoen.jp/
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龍崎翔子さん

2015年に株式会社水星(旧社名:L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.)を設立後、2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」、2021年に「香林居」、2022年5月に産後ケアリゾート「CAFUNE」を開業。そのほか、ホテルの自社予約SaaS「CHILLNN」の開発・運営や、観光事業者や自治体のためのコンサルティングも行う。

X(旧Twitter):@shokoryuzaki
Instagram:@shokoryuzaki

非日常でリフレッシュして、次の日からの日常に力をもらおう

リトリートといっても、何もしなくてもよし、そこで見つけたことをやってみてもよし、なかなか取り組めなかったことをやってみてもよしで、過ごし方は人それぞれ。非日常を感じさせてくれるホテルで過ごす時間は、きっと次の日からの日常に力を与えてくれるはずです。

画像9: 心と体を癒やす「リトリート旅」へ。あの人が選ぶホテル・宿

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