旅をするとき、カバンに本を忍ばせる人も多いのではないでしょうか? けれど、どんな本を持っていこうかな……という、嬉しい悩みに頭を抱えてしまうこともあるかもしれません。
この企画では、日々さまざまな本に触れている全国の書店の店主が、「旅のおともにぴったりの本」をご紹介。1003・奥村千織さん、SNOW SHOVELING・中村秀一さん、汽水空港・モリテツヤさんの3名に3冊ずつ選んでもらい、それぞれの本に対するコメントを寄せていただきました。旅をした人の本、さまざまな旅のあり方に触れられる本、旅とは何か考えたくなる本……。旅先で読みたい本や、次の旅に出かけたくなる本が見つかりますように。

1003(兵庫)・奥村千織さんが選ぶ3冊

画像1: 本屋の店主が選ぶ。「旅のおともにぴったりの本」

奥村千織さん

神戸・栄町の本屋1003店主。本を読むのがおそいです。

Instagram:@1003books
X(旧Twitter):@1003books

知らない土地で自分の小さな居場所を取り戻す

普段は棚からひょいとつかんだ本を持ち歩くことが多いが、旅に向けては念入りに本を選ぶ。できれば文庫本、あるいは単行本でもソフトカバーであまり厚くない軽いもの。移動する乗り物の中で、通りがかった喫茶店でコーヒーを飲みながら、眠る前にホテルのベッドで少しだけ。そんな風に少しずつ読み進められる本、どのページから読んでも楽しめる本をおともにすることが多い。旅先の書店に立ち寄ることも楽しみの一つなので、帰りに読むものの心配はない。旅先で本を読むなんてこの上ない贅沢に思えるが、読書という日常の習慣を旅に持ち込むことは、知らない土地で自分の小さな居場所を取り戻す、必要な行為なのかもしれないと最近は考えている。

移動と読書の蜜月

画像: 移動と読書の蜜月

『電車のなかで本を読む』(著:島田潤一郎 発行:青春出版社)

私にとって読書がすすむシチュエーション、それはダントツで電車の中。たとえ10分の乗車時間でも、あっという間に本の世界に入り込めるから不思議だ。そのものずばりのタイトルが掲げられた本書は、東京・吉祥寺でひとり出版社を営む著者による読書エッセイ。「普段本を読む習慣のない親戚」という具体的な読み手を想定しているがゆえか、個人的な体験を交えて読者と同じ目の高さで語られる言葉からは体温が伝わってくる。1冊の本につき3~4ページで紹介されているので、パッと開いたところから読めるのもいい。この秋、東京出張に行った際にまっさきにカバンに入れ、道中の相棒になってくれた本。

本を開いて、さらに遠くの世界へと

画像: 本を開いて、さらに遠くの世界へと

『コスモポリタンズ』(著:サマセット・モーム 訳:龍口直太郎 発行:筑摩書房)

「ただこれらの物語を面白いと感じてくれること以外は何ひとつ読者に要求していない」

世界中を旅したモームが、1924年~29年の間『コスモポリタン』誌に連載した掌編を集めた一冊。ヨーロッパをはじめ、南洋、中米、中国、横浜、神戸といった世界各国を舞台に描かれるのは旅先の風景や名所ではなく、人間模様。語り手と行き交う人々の日常を少しはみ出たエピソードは軽妙洒脱、だが通底には著者の人間への尽きない興味と温かなまなざしが感じられ、物語世界に安心して身を委ねられる。「生家」「約束」「社交意識」など、女性が主人公となる話は特に情感豊かで、余韻が深い。旅先のホテルのベッドで2~3編読み、頭をほぐして眠りにつきたい。

旅先にも日常があり、人生は続いていく

画像: 旅先にも日常があり、人生は続いていく

『とある暮らし』(著:miyono 発行:mizōchi)

年齢、職業、経歴もバラバラ。共通するのは福井県に居住しているということだけ。福井県在住の著者がそんな50人に話を聞いたインタビュー集。「出身は?」「福井県は好きか?」という問いから始まり「怒ることはあるか」「自身のターニングポイントは?」というプライベートに突っ込んだものまで、全員に同じ質問を投げかける。回答は一つとして同じではなく、インタビューが進むにつれどんどん開示される50人の来し方が、会話形式という臨場感も相まって読み手に迫ってくる。

旅先での予期せぬ出会いは時に非日常感を盛り上げてくれるけれど、相手にも自分自身にも出会いの前後に地続きの生活がある。この本を読むとそんな当たり前のことに気づかされる。帰宅後、旅先で出会ったあの人やこの人の暮らしに想いを馳せながらページをめくりたい一冊。

1003

住所兵庫県神戸市中央区栄町通1-1-9 東方ビル504号室
アクセス大阪国際空港からリムジンバス伊丹空港線に乗車→「神戸三宮駅」下車(約40分)→東海道・山陽本線に乗り換え、「三ノ宮駅」から乗車→「元町駅」で下車(約1分)→徒歩で1003(約5分)
営業時間12:00~19:00
定休日火曜・水曜
webhttps://1003books.tumblr.com/

SNOW SHOVELING(東京)・中村秀一さんが選ぶ3冊

画像2: 本屋の店主が選ぶ。「旅のおともにぴったりの本」

中村秀一さん

「本好き」というよりは「本屋好き」。村上春樹からアメリカ文学、カウンター・カルチャーと偏った読書遍歴。本屋に勤めることなく、素人まるだしで2012年にSNOW SHOVELING BOOKS & GALLERYを東京・駒沢に創業。未だにどこを目指していいのか定まらないので、今のところ”本屋の姿をした何か”を目指しています。2013年秋より”旅する本屋”として、移動本屋プロジェクト『SNOW SHOVELING BOOKS ON THE ROAD』を始動。

Instagram:@shuputnik @snow_shoveling
X(旧Twitter):@Snow_Shoveling

旅をするということは非日常へ移動する行為

あくまで個人的な意見なのだけれども、旅をするということは非日常へ移動する行為だと思っている。そして滞在先から、しばし自分の不在の世界(つまり私の居住地)のこと、あるいは残してきた人々のことを考える良い機会なのではないか。そういう意味では自分の内省を促す書物は、貴方の旅を刺激するかもしれない。空港や飛行機の中、現地のカフェやビーチ、あるいは想定外に顕れたポッカリ空いた時間などに本を開いてみる。人は何かを見れば何かを思い出すように、何かを読めば、何かを(思いがけず)思い出してしまうものだから。そしてその読書の記憶が、その土地の記憶にさえなってしまうチカラがあるから、面白いね~「本」ってやつは。

僕らが旅に出る理由

画像: 僕らが旅に出る理由

『オン・ザ・ロード』(著:ジャック・ケルアック 訳:青山南 発行:河出書房新社)

どこか遠くに想いを馳せる。そこで起こるかもしれないことに胸が高鳴る。知らない誰かと出会い、みたことのない芸術に触れる。それこそが「旅」あるいは「旅行」の醍醐味ではないだろうか。おそろしく長く、ドキュメンタリーのように脚色の少ないアメリカのロード・ノベルの金字塔『オン・ザ・ロード』が教えてくれるのは、人がなぜ旅に出るのかという根源的な問いや、いつの時代でも人間が、今いる場所から、どこかへとまだ見ぬ世界へと旅立っていく性(さが)なのかもしれない。そしてある年齢の最中でしか得られない「渇き」のようなものの在処をも気づかせてくれる。それが古傷なのか生傷なのかは、また別の話。

本を開けば心の扉も開く

画像: 本を開けば心の扉も開く

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(著:村上春樹 発行:文藝春秋)

青年期に負ったトラウマ(のようなもの)を精算するべく、36歳の主人公は高校時代の同級生4人をひとりひとり訪ねていく。それは移動する旅のようで、自分自身と向き合う「心の旅」でもあった。この本のページをめくる読者は、東京ー愛知ーフィンランドと旅する物語に没入しながらも、自分の人生(あるいは自分自身の物語)にもパラレルにアクセスすることになる。かつての友人、あるいは恋のようなもの、挫折、葛藤、そして数々のランダムなラベルに記載のない記憶にさえリーチするかもしれない。それはまさしくあなたにとっての巡礼にさえなりうる不思議な体験。行き先不明な読書の旅。

“退屈”な旅のススメ

画像: “退屈”な旅のススメ

『ヨーロッパ退屈日記』(著:伊丹十三 発行:新潮社)

元祖文化人のようで、元祖シティ・ボーイのようでもある伊丹十三によるこの本は、この国で最初の(随筆ではなく)エッセイとも言われているんだとか。時代は1960年代、民間人の渡航も難しい時代に、かつて俳優として訪れたヨーロッパの国々で若きイタミが見たり聴いたり感じたりしたことを書き記している。その国々の暮らしぶりや営み、食べること着ることなどの些細な発見を、軽妙洒脱な文章で伝えてくれる西洋式文化風俗百科事典のよう。その一つ一つをいろいろ真似てみたくなり、そしてちょっと背伸びしてみたくなる。これから旅に出るあなたが、この退屈日記を2020年代版にアップデートするのも面白いかもしれない。

SNOW SHOVELING

住所東京都世田谷区深沢4-35-7 2F-C
アクセス羽田空港から空港線に乗車→「品川駅」下車(約19分)→山手線に乗り換え「渋谷駅」で乗車(約12分)→[渋82]バスに乗り換え「深沢不動前」で下車(約23分)→徒歩でSNOW SHOVELING(約1分)
営業時間12:00~19:00
定休日水曜・木曜

汽水空港(鳥取)・モリテツヤさんが選ぶ3冊

画像3: 本屋の店主が選ぶ。「旅のおともにぴったりの本」

モリテツヤさん

1986年北九州生まれ。インドネシアと千葉で過ごす。2011年に鳥取へ漂着。2015年から汽水空港という本屋を運営するほか、汽水空港ターミナル2と名付けた畑を「食える公園」として、訪れる人全てに「実り」を開放している。農耕、建築、執筆、焼き芋の販売、本の売買等、さまざまな活動を行う。

Instagram:@kisuikuko.mori
X(旧Twitter):@kisuiairline

「読書」というもの自体が、世界の幅、揺らぎ、奥行きを知る旅

何かと出会い、自分が変わることを旅と呼ぶのだとすれば、本を読むことも旅のようなもの。一冊一冊の本は書かれた時代、書かれた場所も異なる。本屋や図書館へ入るとき、無性にワクワクするのは、あらゆる本が時間や国を越えた未知へと続く旅の入り口として目の前にあるからなのかもしれない。恐れずに外へ出ること、一冊の本を手に取りページを捲ることが続くようにと願って「汽水空港」という店名にした。世界の幅、揺らぎ、奥行きを知る旅のひとつとして「読書」もその中に数えられるのではないかと思っている。

日常と異なる時間の流れを意識する

画像: 日常と異なる時間の流れを意識する

『旅をする木』(著:星野道夫 発行:文藝春秋)

1978年からアラスカに滞在し、極北の地で生きる人々や動植物たちと共に生きた写真家・エッセイストである星野道夫さんのエッセイ集。広大なアラスカの土地のそこかしこに「包み込まれるような静けさ」を湛えた世界が存在することを旅の中で知る。そこには人間のつくりだした「社会」とはまったく異なる世界、時の流れがある。星野さんはそれを「悠久な時間」と呼ぶ。それは「喜びや悲しみとは関わりのない、もうひとつの大いなる時の流れ」なのだという。

星野道夫さんの言葉には、読む人の目の前に当時のアラスカを見せ、体験したことのない「悠久の時間」が世界には確かにある/あったのだということを思い出させてくれる力がある。

「ここではないどこか」を夢見るときに

画像: 「ここではないどこか」を夢見るときに

『Settlements』(著:デイヴィッド・スペロ 発行:私家版)

はるか昔から「ここではないどこか」を夢見て実行に移す人々がいる。写真集『Settlements』には、「我々は、この地球でどう生きて行くべきなのか?」という問いに真摯に向き合い、自ら家を建て、負荷の少ない生活を築き、独自のコミュニティを形成するイギリス各地の人々の暮らしが記録されている。創意工夫に満ちたそれぞれの家や畑の写真からは、自分の手でつくることの喜びがほとばしっている。誰かに用意された「ここ」から、自らの足で辿り着く未知の「どこか」を見せてくれる一冊。

言語と言語の間を行き来する旅

画像: 言語と言語の間を行き来する旅

『カタコトのうわごと』(著:多和田葉子 発行:青土社)

「衣服がきつければ、それが肌にとって異物であることを忘れがちになる。それどころか、日本人は日本語を肌として持って生まれてくるのだと信じ込む人まででてくる」と、ドイツに暮らし、ドイツ語と日本語でそれぞれに小説を書いてきた多和田葉子さんは日本人と日本語の距離をこのように綴っている。

母国語を離れ、外国語の中で暮らし、再び日本語と出会ったとき、「わたしが昔使っていた日本語は、一度死んで、別のからだで生まれ変わってきたかのようだった」とも語る。国と国を旅し、言語と言語の間を越境する中で見た世界を書いたエッセイ集。母国語と一体化したかのような肌、それに紐付けられるさまざまな思い込みをほどいてくれる本。

汽水空港

住所鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434−18
電話鳥取空港からリムジンバス鳥取空港線に乗車→「松崎駅」下車(約35分)→徒歩で汽水空港(約4分)
営業時間12:00~19:00
定休日水曜・木曜
webhttps://www.kisuikuko.com/

どちらも未知の場所に連れて行ってくれる「旅」と「本」。まずは気になった1冊を手にとってみてはいかがでしょうか。旅の選択肢が広がり、旅についての視点が増えることを願っています。

画像4: 本屋の店主が選ぶ。「旅のおともにぴったりの本」

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