日本最大の淡水湖・琵琶湖のほとりに位置する滋賀県長浜市は、古くから水陸交通の要所として栄えた町。戦国時代の武将、豊臣秀吉(羽柴秀吉)によって建てられた長浜城やその城下町など、歴史が色濃く感じられるエリアです。この豊かな歴史の中で受け継がれてきた祭りや伝統工芸、自然との共生など、人々の生活に深く根付いてきたさまざまな伝統と文化を持つ長浜の魅力に迫ります。

曳山祭りを生み出した伝統工芸「仏壇」

滋賀県の長浜は、京都・祇園祭、岐阜・高山祭と並び、曳山(山車)の壮麗さと優美さで知られる「長浜曳山祭」が行われる地。この祭りは一説には豊臣秀吉が長浜城主だった頃、城下町の発展を祝うために始まったとされ、現代においても地域の文化や人々の結びつきを象徴する重要な行事です。

祭りの最大の見どころは、華麗な曳山です。曳山は高度な木工技術と装飾が施されており、その豪華さと精巧さは他に類を見ません。各曳山には伝統的な彫刻や金具、漆塗りや金箔が施され、地域の職人たちの技が結集されています。
実はこの曳山のルーツは「仏壇」。とても興味深く、深い歴史がありました。

長浜をはじめとする湖北地域には、江戸時代前期から寺社建築で大いに名を馳せた藤岡家という大工一門がいました。藤岡家当主は代々「和泉」を名乗ったので、地元では藤岡和泉とも呼ばれています。
藤岡家は寺社建築だけでなく、日本伝統の木工技術や、釘を一切使わない「仕口」を使って仏壇を製作した宮大工の名門。特に柱間や梁上、欄間などに施した素木の彫刻に定評があり、蓮華といった仏教に関するモチーフや琵琶や牡丹といった、吉祥の図案を写実的に表現しました。仏壇の製作は分業で行われることが多いのですが、藤岡家は木部に関する部分は全て自らが手掛け、さらに金具のデザインも行っていたことが分かっており、仏壇の総合プロデューサー的な立場でもありました。
長浜では古くから仏教信仰が根付き、全国で最も寺院数が多い土地柄です。ゆえに各家庭には、立派な仏壇を備える風習がありました。特に長浜エリアで作られた仏壇は「浜壇(長浜仏壇)」と呼ばれ、まるでお寺をそのままミニチュアにしたような繊細さと緻密さ、技術の粋をあつめたその造りは芸術品としても見応えがあります。

「浜壇」をルーツとする長浜の曳山は高度な木工技術、彫刻や漆塗り、金具といった華麗な装飾が共通し、構成する屋根や欄干には類似点も多く見られます。藤岡家が仏壇づくりをするようになった後に造られた現存する13基の曳山の、その全てに藤岡和泉が関わっており、それが〔曳山のルーツが浜壇である〕といわれる所以です。
商業の中心地として発展した長浜は、秀吉の町づくりにより「年貢300石の朱印地(免税地)」と定められ、大きな富を築いたことから、財を成した商人たちにより豪華な曳山が作られていきました。それが後に、今度は仏壇にも影響を与え、時代の中で仏壇も曳山のように華麗で豪華なものになっていきました。
現在確認されている最も古い「浜壇」は、街の中心部にある「長浜市曳山博物館」で見ることができ、2基が展示されています。どちらも藤岡家初代にあたる藤岡甚兵衛重光によってほぼ同時期に作られたにもかかわらず、その意匠は全く違うものになっています。比較してみると、1680年に作られた1基は、漆塗りや素木の彫刻が中心のシンプルな美しさが特徴ですが、その5年後に作られた仏壇は、至るところに精巧で絢爛豪華な金具が施されています。こうした装飾は、仏壇が造られて約100年後に後から取り付けられたもので、仏壇が後の時代になってから曳山の影響を受け、装飾性を高めていったものと読み取れます。

曳山の豪華さを徐々に取り込んでいった浜壇ですが、さらなる理由として、この地域における仏事の多さなどにより、各家庭の仏壇を目にする機会が頻繁にあり、人々の間に仏壇への関心が途切れずに働いていたことも挙げられます。藤岡一門の質実剛健な創作から始まり、現代の豪華な仏壇へと発展していった過程には、まさに長浜の人々のコミュニティーの強さや結びつきによる"熟成"があったと考えられます。
館内では現役の曳山展示や修繕の様子も見られるので、浜壇と曳山それぞれを比べながら鑑賞すると、より興味深い見方ができるかもしれません。

市内の仏壇店にも浜壇が並んでいます。
「永樂屋 長浜店」では、古い時代の仏壇から現代の生活スタイルに合わせた仏壇までを、一堂に見ることができます。
仏壇店は職人育成や次世代への継承、仏壇の価値の見直しなど、仏壇販売を超えた取り組みも行っています。一度途絶えてしまうと再興が難しくなってしまう伝統工芸。そんな中、仏壇店は熟練した職人を育て、歴史を発信し、製作過程を紹介するなど、未来へとつなげていく役割を担っているのです。

こうして見ていくと、仏壇は町の成り立ちや信仰、人々のつながりなど、歴史における長浜の社会生活を凝縮しているものだとわかります。宗教的な儀式や道具としてだけでなく、仏壇は工芸の文化継承リレーバトンをつないでいく役割も果たしていることがわかりました。
長浜の伝統工芸・歴史・文化全てを内包する仏壇。旅で触れるにはあまりにもディープすぎる、しかし旅と学びが融合する教養にあふれた時間を過ごせました。

長浜市曳山博物館

住所滋賀県長浜市元浜町14-8
電話0749-65-3300
開館時間9:00~17:00(入館16:30まで)
休館日月曜日(祝日・休日の場合は翌平日休館)、12月29日~1月3日
URLhttps://nagahama-hikiyama.or.jp/

永樂屋 長浜店

住所滋賀県長浜市八幡中山町1194-8
電話0749-64-0181
営業時間9:00~17:00
定休日火曜日、水曜日
URLhttps://eirakuya.com/

人の暮らしを支えた舟運。長浜の生活をうるおした米川の物語

長浜は琵琶湖畔と繁華街が近い場所にある都市で、歴史的にも日本海および京阪神(京都、大阪、神戸)地域を結ぶ重要なルートの一部として多くの物資が輸送される中で、街も発展を遂げてきました。長浜港は舟運と陸上交通の経由地として発展し、北国街道の宿場町として栄えました。

まちなかを流れる「米川」も、琵琶湖を利用した舟運の荷下ろし・荷積みが行われた川で、川沿いには船着き場や市場などが形成され、町の奥まで船が入り込んでいた時代もありました。今でも周囲には船町、浜町など、そのなごりを感じさせる町名が使われ、倉庫や舟屋、船の灯台として役目を果たした常夜灯などが残されています。
水運だけでなく生活用水や田畑へのかんがい用水として、また、子どもたちの川遊びや釣り遊び場として、社会全体が川から恩恵を受けていた時代を経て、今も涼しげなせせらぎを景観に加えています。

米川は観光地でもある長浜市中心部に流れており、多くの人が旅の途中に目にする川です。湧水が豊富であるため水質も保たれており、よく見るとたくさんの鮎が群れている姿も。周囲の緑とも調和して、訪れる人々に癒しを与えてくれます。
歴史を経て観光地として成熟した長浜にも、人の暮らしや営みがある。「米川」を体験することで感じる“普段の長浜”。観察会や川清掃、川とのふれあいイベントなどを開催する〔長浜まちづくり(株)〕協力のもと、川の中から長浜の暮らしを紐解いていきます。

さっそく長浜まちづくり(株)の竹村さん、山田さんと一緒に川の中へ。さっきまで歩いていた町を数段低いところから見上げ、正面を見つめるともうすぐそこに川面が迫る、非日常体験。
米川は、道路脇や家々の間を流れる用水として役割を果たし、生活圏内にしっかりと入り込んでいる小さな川です。川へ向かってかかるいくつもの階段は、家や商店から降りて洗い物などに利用されてきた当時の風景を思い起こさせます。
川中の観察で、最初に気づくのが川の中に無数にある「茶わん」。これこそが土地の生活感。陶磁器大量生産時代の産物なのでしょうか。
そして次に気づくのは、そこかしこを泳ぎまわる水生生物。街のど真ん中を流れる川の中に、こんなにたくさんの生物が暮らしているとは、なんと豊かなことか。鮎やオイカワだけでなくヨシノボリやウキゴリ、カマツカやサワガニなど、足もとを悠々とすり抜けてゆく魚たち。これも湧水の豊富さ、母なる琵琶湖の豊かさ、そして地元の人の川の保全の賜物なのでしょう。
川沿いに目をやると、戦国時代に建立され、地域信仰の拠点ともなっていた「大通寺」の門前町として栄えた木造建築がいい味を出しています。多くの人が各地から訪れたことを感じさせる料亭跡。その裏手にあたる川には生け簀跡があり、琵琶湖名物を提供する名店がひしめき合っていた往時を偲ばせます。
各家々がそれぞれに積んだ石垣の違いは、護岸工事されていない昔のままの風景の象徴。
ここには、いつまでも残しておきたい古き良き日本の情景がありました。

近くに当たり前にありすぎて意識しなくなった川をもう一度理解し直し、その中から長浜の魅力を見つけ出す。
今回もごくごく身近にある自然を意識し、川を楽しみながら長浜を五感で感じる体験ができました。

長浜まちづくり(株)が行う自然体験は、ゴムボートを使った川下りや、清掃しながらの川歩きイベント、その他にも琵琶湖畔でのピクニックやサイクリングなど、川や町を取り巻く自然を存分に感じられるものばかり。
人とは違った旅、暮らしに寄り添う旅がしたい方や、町を深く掘り下げる体験をしたい方にぴったりのメニューがあります。

〔川遊びに関するご注意〕
川歩きや川遊びを計画する前には天気予報を確認し、急な天候の変化に注意してください。水遊びに適した服装やライフジャケットの着用を心がけて、特に子どもが川で遊ぶ際は必ず大人が目を離さずに見守る、または専門家の監視の下で行ってください。

BIWAKO PICNIC BASE(長浜まちづくり(株))

住所滋賀県長浜市元浜町7-5
電話0749-65-3935
営業時間9:00~18:00
定休日第2・4土曜日 / 盆正月
URLhttps://nagahama36.com/picnicbase/

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