リット"に満ちたハートフルな大会として、どなたでも参加しやすく、誰でも楽しんでいた
だける大会を目指しています。時間制限がないことや10kmの距離も用意されていることな
どから、ランニング初心者でも参加しやすく、障がいのある方もご参加いただけます。
本記事では、病気により車いすでの生活を送る母と、知的障がいのある弟と過ごす岸田奈
美さん一家がホノルルマラソンに挑戦した様子をお届けします。
とりあえず、行けるところまで。
歩いて、歩いて。
押して、歩いて。
止まって、濡らして。
とにかく歩いた。一歩でも前へ。
もう動けなくなるまで、少しでも前へ。
何時間も前にゴールして、メダルを首からぶら下げた人たちと、何度もすれ違った。がん
ばれ、がんばれ、と応援してもらった。
アッサリとした爽やかさに、心底救われていた。
気がつけば、怖さとか、恥ずかしさみたいなものは、わたしの中から消えて失くなってい
た。足の痛みでそれどころちゃうのかもしれないけど。
普段からわたしは、どれだけ他人の目を気にしていたんだろう。
どんなに遅くて、最後尾でも。
何度も止まりながら、歩いていても。
弟は堂々としている。
「あかん、良太のこと見れへん」
母が言った。涙ぐんでいた。
「すごいわ。あの子、信じられへんぐらい、めっちゃがんばってる。わたしもがんばる」
弟が見せる奇跡でマイペースなド根性に感激し、涙をこらえながら、母は車いすをこいで
いた。
ごめんな、ごめんな。わたしは心の中で謝る。恥ずかしいとか、そんなこと、全然なかっ
た。今はなんと誇らしいことか。
弟には、弟なりに、走るよりもずっと大切なことがある。ここがハワイでも。見られてい
ても。そんなことはなにも関係なくて。
走らなくてもええんや。前に進んだらええんや。
わたしはこれから先、思い込みやプレッシャーに押しつぶされそうになったら、何度も思
い出すと思う。この背中を。
スタートから4時間40分。
岸田一家、ホノルルマラソン10kmを完走。ってか、完歩。どっちでもええ。そんなもんは
、どっちでも。
ゴールでメダルをかけてもらった。
参加賞という響きのものが、これほどありがたく思ったのは初めてだった。弟のありえな
いがんばりに、母もわたしも、歩かせていたはずが歩かされていた。
これから先、いろいろなことがあるはずだ。つらいことも、くじけそうなことも、家族がば
らばらになることだって。
どんな準備をしていたって、叶わない局面もきっと待ってる。
「でも、まあ、歩けたもんなー」
そういうときに放つ、岸田家の家訓ができた。家訓ってそういうもんじゃないけど、細か
いことはよい。前に進んだ者勝ちだ。
全てのことを「でも、まあ、歩けたもんなー」で乗り越えてゆきたい。そういう大雑把
な希望を、わたしたちはハワイで、手に入れたのだ。
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