瀬戸内海に面した香川県の東端、徳島との県境に佇む「東かがわ市」。瀬戸内海の海水が出入りする安戸池でのハマチ養殖、豪商の屋敷が並ぶ風情ある引田の町並み、日本一の手袋生産、和三盆の甘い香り。産業と農業が織りなす穏やかな暮らしの中に、この地の魅力が静かに息づいています。東かがわは、日本の原風景と進取の気性が調和した、小さくも奥深い宝石箱のような町でした。
画像: あなたの知らないディープ香川 ~歴史と未来が交差する東かがわの魅力

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

"防寒・ファッションからスポーツまで" 東かがわ、130余年の手袋物語

私たちの生活において、身近な存在の“手袋”。防寒対策やファッションアイテムとしては勿論、各種工場での作業やアウトドアでの作業といった場面でも手を守るために欠かせません。スポーツの世界においても、その機能的必要性から広く利用されています。手袋の国内シェア約90%の生産量を誇るのが、香川県の東部「東かがわ市」です。日本で使われるほとんどの手袋に、東かがわが関わっているのです。

その始まりは1899年、大内郡松原村(現・東かがわ市松原)出身の棚次辰吉らが東かがわの教蓮寺内に「績善商会(しゃくぜんしょうかい)」を設立したことでした。
その8年前のこと。辰吉は大阪で、従兄弟にあたる両子舜礼(ふたごしゅんれい)とその妻タケノが従事していた手袋づくりの仕事を手伝うことになります。しかしまもなく舜礼は病死。辰吉は必死に働き、貯金をためて人を雇い、独立して手袋製造を始めました。
当時の東かがわは製塩業や製糖業の衰退により、新たな産業が求められていました。そんな中、辰吉は故郷に「績善商会」という手袋産業の種を落とし、人々に手袋生産という職を与えていったのでした。彼は当時の輸入品のドイツ製手袋を参考に、独自の軽便飾縫ミシンを開発、特許取得。この技術革新が産業発展の基盤となり、辰吉が蒔いた手袋という種がこのエリア一帯に、一気に芽吹く時期を迎えたのです。人々に新たな職をもたらした手袋産業は、東かがわの地に根付き、地場産業として発展していきました。

現在でも、ものづくりの精神はしっかりと受け継がれています。ファッションや防寒手袋だけでなく、アスリートの競技用手袋など、特別な仕様が求められる手袋もこの地で多く作られています。軽さやフィット感、機能性に優れた手袋は、選手一人一人の手にぴったりと合わせて製作されるため、スポーツ選手のパフォーマンスを最大限に引き出す重要な役割を果たし、世界中で活躍する日本人アスリートを支えています。
市内には手袋に関する碑や棚次辰吉の銅像など、各所でものづくりの歴史を感じることができます。
また、「香川のてぶくろ資料館」では、手袋産業の歴史や昭和初期の貴重な手袋、実際に有名なトップアスリートが使用したグローブが展示されています。また、ショップも併設されており、最新作からアウトレット商品まで多彩なデザインが揃っているので、お気に入りの一品を探してみてはいかがでしょうか。手袋の聖地で見つけた手袋は、きっと楽しい思い出の逸品となることでしょう。

香川のてぶくろ資料館

住所香川県東かがわ市湊1810-1
電話0879-25-3208(日本手袋工業組合)
入館時間10:00~17:00(受け付けは16:30まで)
休館日11月23日と年末年始
URLhttps://www.tebukurokumiai.jp/

ヨークス株式会社

住所香川県東かがわ市湊609-2
電話0879-25-5151
URLhttps://www.yorks.co.jp/
(一般の見学は不可)

伝統の味から新たな挑戦へと続く、東かがわ"和三盆"の世界

四国地方で製造される伝統的な甘味「和三盆」。その存在は多くの人にとって漠然としたものかもしれません。
和三盆は、四国地方特産の「竹糖」と呼ばれるさとうきびから作られる上品な和菓子です。

和三盆を作る前段階として、"製糖する"という工程があります。そこで、12月に収穫されるさとうきび(竹糖)から絞り出した樹液を煮詰めて濃縮させ「白下糖」を製造します。白下糖は名前に反して黒っぽい色をしており、沖縄の黒糖に似ています。この白下糖からさらに複雑な工程を経て、柔らかな白色をした和三盆へと仕上げていきます。
和三盆の特徴は、その優れたくちどけと上品な甘さと繊細な味わいにあります。お茶席で特に好まれる理由もここにあります。
和三盆は単なる甘味料を超えた、四国の伝統と職人の技が結実した芸術品とも言える和菓子なのです。

地元では、「白下糖仕込み」の季節が訪れると、毎年ニュースで取り上げられる冬の風物詩となっています。
市内の酪農・農業に携わる砂川さんの作業場を訪ねました。ここでは、高松市などのお菓子屋に卸される白下糖が製造されています。
砂川さん自らが育てたさとうきびを収穫し、圧搾。灰汁を取りながら煮詰めて半透明に輝く飴色の白下糖にまで仕上げます。煮詰めていくと徐々に液体の比重が重くなり、かき混ぜるのにも相当な力が必要です。ぽたぽたと落とした時の固まり具合やかき回す時の抵抗、色などでちょうど良い仕上がりを判断する、繊細な感覚が求められる作業です。
砂川さんは、100年以上続いた製糖農家から製法を受け継いで3年目。この貴重な技術を次世代に引き継ぐことを使命とし、日々技術の向上に励んでいます。

最近になり、和三盆糖製造から生まれる副産物に新たな価値が吹き込まれました。
それは、和三盆糖の製造過程で生じる"糖蜜"を活用して作られる「ラム酒」。
和三盆糖は、白下糖を「研ぎ」、「押し舟での圧搾作業」することで白く美しい色になります。滑らかでくちどけの良い和三盆糖を作るため、これら作業を"盆の上で三度繰り返す"ことが「和三盆」の名前の由来ともなっています。
この作業により、和三盆となる結晶と糖蜜が分かれます。糖蜜自体も豊富な糖分を含み、風味豊かで料理などにも使われてきましたが、糖蜜の全てを使い切ることができず、廃棄せざるを得ませんでした。この糖蜜の可能性に着目し、新たな商品「ラム酒」として製造販売を行うのが「馬宿蒸溜所」です。
「和三盆ラム」は、すっきりとしたクリアな味わいが特徴です。さっぱりとした飲み口と、ほんのりとした優しい甘さ、香ばしい香りを楽しむことができます。今後は木樽で熟成させた「ゴールドラム」や「ダークラム」などの商品開発も予定されており、多様な味わいを楽しめる展開が期待されています。

高松市の商業施設「高松オルネ」内にある「RUM STAND UMAYADO」は馬宿蒸溜所の直営店。定番商品から季節限定商品まで、さまざまな和三盆ラムを使用したドリンクを楽しむことができます。さらに、ラム酒ボトルの購入も可能で、同じく糖蜜をベースに使用した「クラフトコーラ」も販売されています。今後、ガラスボトルだけでなく缶タイプドリンク商品も販売される予定で、旅行者にとっても手に取りやすい商品になりそうです。
蒸溜所では見学コースの準備なども行われており、味わう和三盆に加え、見たり学んだりできる新しい観光スポットが生まれつつあります。
伝統的製法にこだわる「和三盆」とそこから新たに登場した「和三盆ラム」。地域の伝統と革新を融合させた注目すべき取り組みは、さらに東かがわのブランド価値を高めていくことになりそうです。

RUM STAND UMAYADO

住所香川県高松市浜ノ町1-20 TAKAMATSU ORNE 北館 1F
電話087-811-2200
営業時間10:00~20:00(施設営業時間に準ずる)
定休日高松オルネの休館日に準ずる
URLhttps://www.instagram.com/rum_stand_umayado/

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