近年、アメリカ西海岸から始まり、全米に広まったクラフトビール文化。ブルックリンを中心に広がったDIY(Do It Yourselfの略語で、自身でやること)文化の影響もあり、衰退していたアメリカのビール文化はたちまち豊かで刺激的なものに生まれ変わった。特に、地産地消のマインドが根づいたブルックリンでは自らブルワリー(ビール醸造所)を立ち上げる若者が増えており、ニューヨークはいまや、立派なクラフトビールメッカの一つだ。それぞれの地域の物語が詰まったこだわりビールバーは増えているが、今回は定番のマンハッタンに加え、ブルックリンと、クイーンズのロング・アイランド・シティーの名店を紹介する。それぞれのお店の良さを楽しみ、好きな飲み方を見つけよう。

マンハッタンの中心地で、地元ニューヨークのタップ(樽)ビールをゆっくり楽しめる隠れ家

The Jeffery Craft Beer & Bites(ザ・ジェフリー・クラフトビール&バイツ)

画像: The Jeffery Craft Beer & Bites(ザ・ジェフリー・クラフトビール&バイツ)

The Jeffery Craft Beer & Bites(ザ・ジェフリー・クラフトビール&バイツ)

The Jeffery Craft Beer & Bites(ザ・ジェフリー・クラフトビール&バイツ)は五番街やセントラルパーク、MoMAなど、マンハッタンの定番コースを回るときにぴったりのアクセス良好ビールバー。クイーンズボロー・ブリッジのたもとに隠れた、落ち着いた空間が魅力の店だ。地元のタップ(樽生)ビール20種類が堪能できる「メイン・バー」に加え、ビールを使ったカクテルやエスプレッソを楽しめる「カクテル・ラボ」も用意されている。

画像: 店内には過去の写真が飾られている。こちらは大正11年、お店の前で撮影されたもの

店内には過去の写真が飾られている。こちらは大正11年、お店の前で撮影されたもの

オイスターやシャルキュトリー(パテやベーコンなどの加工肉)を含むバーフードに、サンドイッチ各種など、メニューも充実し、進化し続けるビール業界のニーズに素早く応える姿勢がうかがえる。温もりある内装のわりには、まだ営業3年目というから驚きだ。開放的なバックヤードでは、結婚式やイベントも行っている。街の刺激に疲れた感覚を癒しに来るのも良いが、昼過ぎから地元民に混ざる贅沢も捨て難い。

画像: カウンターには20のタップが並び、つい目移りしてしまう

カウンターには20のタップが並び、つい目移りしてしまう

画像: 「メイン・バー」と「カクテル・ラボ」で入り口は2つあるものの、奥の広い空間でつながっている

「メイン・バー」と「カクテル・ラボ」で入り口は2つあるものの、奥の広い空間でつながっている

The Jeffery Craft Beer & Bites(ザ・ジェフリー・クラフトビール&バイツ)
営業時間11:00~翌02:00
定休日無休
webhttp://thejeffreynyc.com/
住所311 East 60th St, New York, NY 10022

ビールを缶に詰めて持ち帰ろう。20のタップに600種類以上の銘柄が揃う、ビールのカルチャーセンター

Top Hops Beer Shop(トップ・ホップス・ビール・ショップ)

画像: Top Hops Beer Shop(トップ・ホップス・ビール・ショップ)

Top Hops Beer Shop(トップ・ホップス・ビール・ショップ)

ローワー・イースト・サイドで買い物や、クラシックなダウンタウンの雰囲気を堪能したなら、ぜひ寄っていただきたいのがこちらのバー。クリーンでポップな佇まいには昼間から気持ち良く誘い込まれる。店奥のガラスケースには店内で飲むも持ち帰るもOKな世界各地のビールがずらりと並ぶ。オーナーのテッド・ケネディーは元アンハイザー・ブッシュ(バドワイザーで知られるアメリカの大手ビール製造会社)の営業責任者であり、その知見を活かしてさまざまなイベントやレクチャーなどを行なっている。東海岸のブルワリーを中心に揃えられたタップビールは、4種類を飲み比べられるテイスティングセット、「フライト」をオーダーするのがおすすめ。

画像: 親切なバーテンの助言もいただいて、自分好みのフライトを

親切なバーテンの助言もいただいて、自分好みのフライトを

タップビールはグラウラー(持ち帰り用の瓶)や、ちょっと珍しい製缶機を使い、缶に詰めて帰るも自由自在。バースナックは、近所の「Essex Street Market(エセックスストリートマーケット)」のチーズやシャルキュトリーなど、地元色を大切にしているのがチャーミング。

画像: 店の奥に並ぶおびただしいビールセレクション

店の奥に並ぶおびただしいビールセレクション

Top Hops Beer Shop(トップ・ホップス・ビール・ショップ)
営業時間月~水13:00~00:00 / 木13:00~翌01:00 / 金・土12:00~翌2:00 / 日12:00~翌2:00
定休日無休
webhttp://tophops.com/
住所94 Orchard St, New York, NY 10002

ベジタブルビールなどコアなビールがゆるりと楽しめる名店

The Owl Farm(ザ・アウル・ファーム)

画像: The Owl Farm(ザ・アウル・ファーム)

The Owl Farm(ザ・アウル・ファーム)

地域色やクリエイティビティーをさらに感じたいなら、ブルックリンに足をのばそう。サワーやバレルエイジ、フルーツ、ベジタブルビールなど、個性的なビールスタイルが揃ったザ・アウル・ファームのメニューには、お店の、そしてブルワーたちの遊び心が感じられる。全部で28個のタップが準備されているが、そのうちのいくつかはシードル(リンゴ酒)用だ。注文できるサイズは3段階で、小さいグラスでいろいろと試したくなる。

画像: 面白いネーミングのビールを少しずつ飲み比べるのも楽しい

面白いネーミングのビールを少しずつ飲み比べるのも楽しい

タップの他には、ボトル入りのシードル、レアなボトルビール、世界一苦いと評されるイタリアのビターリキュール「フェルネット・ブランカ」など好奇心を煽るものばかり。これだけいろんなメニューがあれば、フードが一切ないのもかえって清々しくて、気楽な感じだ。店内の照明は暗くて、奥でぼんやり光るピンボールマシーンなんかからは古き良き高級住宅地、パークスロープ地区のマイペースさが伝わってくる。ビールに詳しくともそうでなくとも、都心の喧騒からは離れた場所で、その風味のピンキリを楽しく体験できる一軒だ。

画像: 照明を落とした店内は賑やかながら落ち着ける雰囲気

照明を落とした店内は賑やかながら落ち着ける雰囲気

The Owl Farm(ザ・アウル・ファーム)
営業時間月~金14:00~4:00 / 土日12:30~4:00
定休日無休
webhttp://www.theowlfarm.com/
住所297 9th Street Brooklyn, NY 11215

ブルワリー併設のオールマイティーなバー・レストラン

Threes Brewing(スリーズ・ブルーイング)

画像: Threes Brewing(スリーズ・ブルーイング)

Threes Brewing(スリーズ・ブルーイング)

ビール自体の多様性も大事だが、ビールを中心に生まれた空間の多様性にも驚かされる。とにかく個性を前に押し出すブルワリーも多いなか、ここではスタイルを絞り、クセの強すぎない、飲み続けたくなるビールづくりを心がけている。バー・レストランに併設されたブルワリーなので鮮度は抜群。カクテルやワインメニューも充実していて、レストラン入り口では、良質な肉を扱うことで有名な「The Meat Hook(ザ ミート フック)」が提供する料理を注文できる。

画像: フードは地元の農場から仕入れた良質の肉を取り扱っているブルックリンの肉専門店、「ザ ミート フック」から。

フードは地元の農場から仕入れた良質の肉を取り扱っているブルックリンの肉専門店、「ザ ミート フック」から。

画像: ブルワリー併設のバールームでは、新鮮なビールはもちろん、カクテルメニューも充実している。

ブルワリー併設のバールームでは、新鮮なビールはもちろん、カクテルメニューも充実している。

入り口から奥に向かって縦長な空間の1部屋目はダイナー仕様、2部屋目はバー・レストラン、3部屋目はアイビーのつる草模様の壁紙と照明が素敵なバックヤードとなっており、それぞれの雰囲気が楽しめる。ブルワリー併設という贅沢に加え、豊富な選択肢はまたすぐに行きたくなる魅力をはなっている。

Threes Brewing(スリーズ・ブルーイング)
営業時間月~水17:00~23:00 / 木17:00~02:00 / 金15:00~00:00 / 土・日12:00~00:00
定休日無休
webhttp://www.threesbrewing.com
住所333 Douglas St, Brooklyn, NY 11217

サーファーたちが好きなビールをつくり続けるための、純粋な空間

Rockaway Brewing Company(ロッカウェイ・ブルーイング・カンパニー)

画像: Rockaway Brewing Company(ロッカウェイ・ブルーイング・カンパニー)

Rockaway Brewing Company(ロッカウェイ・ブルーイング・カンパニー)

ここのところ開拓が進んでどんどんお洒落になっているロング・アイランド・シティー。イースト・リバーをはさんでマンハッタンのすぐ東にあるこの地域は、風景や街並みが美しく、穏やか。自分たちが飲むためのビールを造っていたロッカウェイ・ビーチのサーファーたちが、ここの一角にブルワリーと併設のバーを設けたのは2013年。自由奔放で気楽な雰囲気と、90年代のブルックリンを思い起こさせるDIY感に愛着を持つファンが多い。隅々までプロデュースされた店がどんどん増えていくなかで、やりたいことをやり続けている店舗は貴重な存在なのだ。

画像: DIY感溢れるタップルームには、早くから地元のビール好きが集まる。みんな適当に過ごしている感じが心地良い

DIY感溢れるタップルームには、早くから地元のビール好きが集まる。みんな適当に過ごしている感じが心地良い

もちろんビールは美味しく、幅広い8種のスタイルのうちから4種が楽しめるお得なフライトも人気。純粋においしいビールを飲んでリラックスしたいなら、これ以上ない場所だ。

画像: 金、土、日と行われているブルワリーのツアーは、ビールをより身近に感じたい人におすすめ

金、土、日と行われているブルワリーのツアーは、ビールをより身近に感じたい人におすすめ

Rockaway Brewing Company(ロッカウェイ・ブルーイング・カンパニー)
営業時間月~水17:00~21:00 / 木15:00~21:00 / 金15:00~22:00 / 土12:00~ 22:00 / 日12:00~21:00
定休日無休
webhttp://rockawaybrewco.com/
住所46-01 5th St, Long Island City, Queens, NY 11101

アメリカ全域、世界各地でクラフトビールの人気が高まっているが、このムーブメントはただの流行という話で収まるものではない。ニューヨークのビールスポットを巡っていると、ブルワーやバーの経営者たちの意図、地元色や世界中から集まってきた文化、いろいろなものが入り混じってそれぞれユニークなかたちに具現化されているのだとわかる。その「なんでもあり」な感じは清々しくて、開放的で心地いいものだ。クラフトビールは難しいものではない。それぞれの背景にあるものや特徴を味わいながら、リアルタイムで変わっていく自分の好みや感覚を楽しめば良いのだ。

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