
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。
かわいいだけじゃない!誇り高き“モフモフ”に出会う
凛とした立ち姿に深い瞳、のんびりと穏やかな性格も魅力です。秋田犬(あきたいぬ)のふるさとは今回の旅の舞台、秋田県大館市。
かつては土着犬として暮らし、戦時中に数十頭まで減ったものの、地元の人々の努力で血統が守られました。その姿は“忠犬ハチ公”として世界にも知られています。
秋田犬の魅力は見た目だけでなく、飼い主に寄り添う忠誠心。信頼できる相手とゆっくり関係を築く気質を持っています。
1920年代、洋犬との交配で姿が失われかけた秋田犬を守るため、1931年に「秋田犬保存会」を設立。日本犬で初めて天然記念物に指定され、今も大館の文化として大切に受け継がれています。
大館市中心部にある「秋田犬会館」は、秋田犬の血統(犬籍登録)を守る秋田犬保存会の拠点です。館内には、秋田犬や保存会の歩みを紹介する資料を集めた日本唯一の「博物室」があり、歴史や文化を学べます。さらに、実際に秋田犬が日替わりで常駐していて、その愛らしさを間近で感じられるのも魅力です。秋田犬保存会支部は国内外に広がり、SNSでも情報を発信。世界とつながる秋田犬の魅力を身近に感じられる場所です。
また大館駅前にある観光拠点「秋田犬の里」は、秋田犬「まさる」で有名なロシアのフィギュア女王ザギトワさんも訪れたことがある人気スポット。愛くるしい姿の秋田犬がくつろぐ姿をガラス越しに楽しめ、秋田犬に関する説明を聞いたり、大きさに驚いたり、秋田犬を体感することができます。
また、ハチ公を通じた東京都渋谷区との交流から、東急電車初代車輛「青ガエル」も設置されています。
建物前のハチ公像も見どころで、渋谷駅前に立つ晩年の片耳が折れた姿とは異なり、生まれ故郷にちなみ両耳が立った若い頃の姿がモデル。そんな違いを楽しむのもいいでしょう。この建物が、渋谷駅開業時の駅舎を再現していることも見どころのひとつです。
秋田犬は、ただの“犬”ではなく、人とともに時を重ね、この地から世界へとつながる懸け橋となってきました。ふわふわの毛並みに触れながら、ハチ公の物語に思いをはせ、人と動物のあたたかな関係を感じる。そんな旅が、ここ大館にはあります。
秋田犬会館(公益社団法人秋田犬保存会)
| 住所 | : | 秋田県大館市三ノ丸13-1 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0186-42-2502 |
| 営業時間 | : | 9:00~16:00 |
| 定休日 | : | 年末年始12月30日~1月5日、8月13日午後 |
| 公式サイト | : | https://akitainu-hozonkai.com/ |
秋田犬の里
| 住所 | : | 秋田県大館市御成町1-13-1 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0186-59-4649 |
| 営業時間 | : | 9:00~17:00 秋田犬展示室 9:30~16:45(犬の休憩時間あり、月曜日休み) |
| 定休日 | : | 12月31日、1月1日 |
| 公式サイト | : | https://akitainunosato.jp |

ふわふわの毛並みに癒やされる、大館の名犬・秋田犬(あきたいぬ)

ハチ公ゆかりの地として、大町商店街に名付けられた「ハチ公通り」

マンホールにも秋田犬と秋田杉。まち歩きで見つけたい一枚

日本で唯一、犬の博物室を持つ「秋田犬会館」

門柱には小さな秋田犬がひっそりと

会員の飼育する秋田犬が在駐、実際に会うことができる

博物室では、秋田犬と保存会の歩みや展覧会の様子、暮らしに寄り添ってきた秋田犬の写真などを目にすることができる。

駅前の人気観光施設「秋田犬の里」。若き日のハチ公像が迎えてくれる

施設のモデルとなった初代渋谷駅舎。秋田犬を通した渋谷区との交流も盛んに行われている

渋谷のシンボルでもあった東急車輛「青ガエル」。冬季を除き内部見学も可能

大きなガラス窓から秋田犬を見学できる、秋田犬展示室

のんびりおっとり「杏子(あんず)ちゃん」

看板犬の想空(そら)くんもお出迎え

愛らしい瞳で迎えてくれる想空くん。名刺までもらえる

海外からの来館者も多く、外国人客には缶バッジのプレゼントも。2024年末には来館者100万人を達成
日々の道具にこそ美しさを。秋田杉のやさしさにふれる“大館曲げわっぱ”の「柴田慶信商店」
秋田杉のぬくもり、香りとまっすぐな木目の美しさが魅力の「大館曲げわっぱ」。自然が生んだやさしいかたちは、ひとつの“デザイン”としても味わえ、また、その優れた吸湿性や通気性による実用性もあります。
檜、杉などを薄く削りそれを丸く曲げた容器「曲げ物」。かつては全国各地で作られ、日用品として全国で作られていました。プラスチック素材などに押され、徐々に必要とされなくなってきた中、失われていった伝統技法もありました。
その中でもいくつかの地域では技法が継承され、そのひとつが「大館曲げわっぱ」です。曲げ物で唯一、国の伝統的工芸品に指定されています。
江戸時代初期、大館城主であった佐竹西家は、林業の振興とあわせて領内に豊富に育つ秋田杉に着目し、木工品、なかでも曲げわっぱ作りを奨励しました。これが、下級武士の副業や内職として広く受け入れられ、やがて伝統工芸として発展していきます。曲げわっぱは伝統ある入れ物であり、世界にも共通する道具です。
大館市内では、見る、買う、使う、体験するなど、曲げわっぱの世界観にどっぷり浸れます。
たくさんの曲げわっぱに出会いたくて訪れたのが大館駅から徒歩数分、その名も“わっぱビルヂング”。ギャラリー、ショップとして、また、曲げわっぱづくりの体験もできる「柴田慶信商店」です。
職人の技と美しい曲げわっぱが見やすく配置され、魅力をしっかりと味わえます。白を基調とした店内は、曲げわっぱが映える雰囲気です。
木の香りに包まれる工房で、曲げわっぱが形になるまでの工程を見学しました。杉の原木から薄く削り出された板を、一晩水に浸してから、翌日80℃のお湯で煮沸し柔らかくして素早く型に巻きつけ、1週間~10日ほど乾燥させます。その後、曲げた板を接着し、底板をはめ込んで形を整えます。最後に施されるのが「樺綴じ」です。山桜の木皮を薄く加工し、継ぎ目を補強するとともに文様を描くもので、模様には縁起や願いが込められ職人の技と日本の美意識が宿っています。
柴田慶信商店は2024年、新商品「源平」を発表しました。杉丸太には中心の赤い部分(赤太)と外側の白い部分(白太)があり、これまで曲げわっぱには赤太だけが使われてきました。新しい「源平」は、赤太に比べて吸水性が高い白太の特性を補うため漆塗を施し、「拭き漆製法」を用いることによって木目の美しさを引き出しました。また、赤太と白太を組みあわせることで、従来は難しかった深さのある器や体積のある商品も作れるようになり、より豊かな意匠が生まれ、魅力と革新が加わりました。
大館で出会える曲げわっぱは、伝統の技と自然のやさしい風合いが息づく道具です。実際に手を動かして作る体験もでき、見るだけでなく触れ、使い、感じることで、その魅力をより深く味わえます。
柴田慶信商店(ショップ&ギャラリー)
| 住所 | : | 秋田県大館市御成町1-12-27 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0186-59-7123 |
| 営業時間 | : | 10:30~17:00 |
| 定休日 | : | 火曜日 |
| 公式サイト | : | https://magewappa.com/ ※工房見学不可 |

技が息づく「柴田慶信商店」の工房兼ギャラリー、工芸品“大館曲げわっぱ”

薄くスライスした秋田杉を型に巻き付け、木バサミ(継ぎ目を留め置く道具)で留めていく

曲げ加工に使われる木バサも全て手づくり

曲げを定着させるため、1週間から10日乾燥させる

端をしっかりと接着し1日置き、底板を入れる工程へ。たくさんの仕事と時間をかけ完成へと近づいていく

つなぎ目で綴じるのは、山桜の木の皮

目通しで切り込みを入れて山桜の木皮で接合部を綴る。ワンポイントとしての役割もある

「子持ち縫い」──親と親の間に子を配し、子孫繁栄を願う伝統の文様

秋田杉にある赤太と白太。大館曲げわっぱには赤太を使う

2024年新作「源平」では、赤太と白太を共に使い拭き漆を施した意欲作

大館駅からのアクセスが良い「柴田慶信商店」ショップ&ギャラリー

娘のために考案した「つくし弁当箱」。ふっくらとした蓋が美しい

暮らしの中で生きる曲げわっぱの魅力が、わかりやすく紹介されている

水槽部分に曲げ輪を用いた、見た目も涼し気な「金魚鉢」

曲げわっぱの仕組みを学び、自らの手で作る体験メニューは要予約

世界各地の曲げ物も展示。慶信氏が研究のために集めたコレクションの一部

思わず微笑む、店舗併設のトイレのサインにも曲げわっぱ

洗面台や鏡にも曲げわっぱを取り入れた、柴田慶信商店ならではの空間
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