
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

雨もあがり、2日目は秋保温泉エリアへ。山あいには全国にも名を轟かす有名なものから小さなものまで数々の温泉地があります。しかし今回は“温泉だけじゃない”秋保を見つける旅に出ます。途中、好きな場所で止まって自然を満喫、寄り道もできちゃうサイクルツーリズムを楽しみます。
秋保温泉地区を軽快にライド。「アキウツーリズムファクトリー」のサイクルツアーにエントリー。
秋保温泉までは仙台市中心部から車やバスで約30~40分、仙台空港からは直通バスで50分ほど。
ご存じの通り、秋保温泉は「仙台の奥座敷」とも呼ばれる名湯湧き出でる温泉地。温泉だけでなく、新緑や紅葉、滝、渓谷など、美しい自然も魅力。グルメや工芸なども楽しめる一大観光地です。
今回は「アキウツーリズムファクトリー」に自転車を使った秋保ツアーを依頼。様々なスポットに立ち寄りながら秋保の自然を満喫するアップダウンの少ないコースを作っていただき、アテンドもしてもらいました。ゴールは「仙台秋保醸造所/Akiu Winery(以下、秋保ワイナリー)」に設定。
ワインテイスティングしたいから…ワイナリーをゴールにする抜け目のない私です(笑)
迫力の「秋保大滝」や全世界にファンを持つ「ガラス工房尚」へお邪魔しつつ、秋保のさわやかな風を感じる旅を楽しみます。

秋保エリアでeBike(電動アシスト付きマウンテンバイク)を使ったサイクルツアーに参加します。

今回は「秋保ビジターセンター」から、下り道メインで様々なスポットへ立ち寄るコース。

使い方、運転マナーなどしっかり指導を受けて出発!名取川を左に見ながら風を切ってまずは「秋保大滝」へ~。

滝を間近で見るためには長くてキツい階段が待っています…!

河原へ降りると、離れていても川面を渡る風に運ばれて水しぶきが飛んできます。「豪快!」という他ないほどの勇壮な姿。これを眼前に見ることが出来る、秋保でも代表的な絶景スポットです。

滝つぼに落ちては湧き上がる濛々とした水けむり。大・大迫力でした。

水に緑が映るリフレクションも美しかったですが、秋はさらに優美に、華やかに燃えるのでしょうね。

お次は「ガラス工房 尚」さんへ。鍋田 尚男さんの工房です。鍋田さんは日本各地で個展を開催されているだけでなく、海外での展示でも人気を博す注目のガラス工芸作家です。
宮城県出身の鍋田さんはギャラリーを構えるにあたり、秋保の地を選びました。秋保大滝からすぐ近くという立地で、観光がてら立ち寄るお客さんも多いとのこと。木々に囲まれた美しい工房です。

ガラスの芸術作品には触れる機会が少なかった私ですが、拝見するうちに「光の操り方」の巧みさに感動しました。色ガラスを重ね、さらにそれらを小さなパーツにして寄木のように組み合わせひとつの作品として形作られています。

透明な部分と色ガラスの光の透過度の違いが、色の違い以上のコントラストを生みます。柔らかな光と色彩が水の中で自然に身を任せているような表現です。
お店全体のコーディネートは空間デザイナーである奥様・久美子さんのお仕事。
日常の中でも違和感なく使えるんですよ、と久美子さん。カラフルな器でも不思議と料理の邪魔をせず馴染むのだそう。

試してみたいという方はぜひ、ギャラリーに併設されたカフェで。ご友人の作られる陶器とガラスで提供されるお茶がいただけます。

秋保に住み始めてから日常の中で何気ない自然を感じることも多く、創作のモチベーションになっているという鍋田さん。お二人の穏やかな表情、静かな物腰に癒されました。
eBikeでさらに坂を下りながらグルメスポットに立ち寄ります。

かつて使われていた石橋。旧道だったそうですが、今はすっかり自然に溶け込んでいます。
汗をかいた体に染み渡る「ミヤギシロメ豆乳」とデンマーク人がこよなく愛する「オープンサンド」。
秋保グルメを楽しむならばと連れて行ってもらったのが「太田とうふ店」。
創業者は、江戸時代末期に副業として豆腐屋を始めたのだそう。今では、地元の良質大豆と製法に強いこだわりを持つ、秋保地区でも人が絶えない人気の豆腐屋さんです。店内にはイートインがあり、その場で「ミヤギシロメの豆乳」と「三角あぶらあげ」をいただきました。隣県の大豆を使った「竹とうふ」や「青ばた豆腐」、「豆乳杏仁豆腐」も人気です。
ランチではニューオープンの「グリーンシューツ」さんへ。
素材の良さ、組み合わせ、見た目と、どれをとっても申し分のない、オープンサンドイッチの極上ランチ。
日本の味覚に寄せることなく、デンマーク料理の美味しさと素材の豊富さ、組み合わせバリエーションをそのまま伝えるお店です。低温調理したチキンやビーフにはフルーツ(クランベリーやすぐり)を合わせ、ライ麦のパンに乗せて味わい深く仕上げます。ミートボールやデザートのアーモンドケーキも絶品。
トムさん、美佳子さんご夫婦の温かさに何時間でもいたくなる、リピートしたくなる居心地の良さを感じました。

豆腐専門店「太田とうふ店」。一度ここで休憩です。

竹やざるに入れられた豆腐が売られています。東北は大豆作りに適した環境だということで、岩手山形、そして宮城県の大豆を使ったお豆腐が販売されていました。

この地域が豆腐作りに向いている理由は、良質な大豆が採れることに加え、なんといっても水がきれいだということです。豆腐は80~90%が水。豆腐は水からできている、と言っても過言ではありません。

ミヤギシロメで造られた豆乳はクリーミーな味わい。甘さがあってクセはありません。

大粒で丸いのが「ミヤギシロメ」。小さいほうは輸入大豆。

豆乳で作った杏仁豆腐。重たくならない程度に生クリームを加え、豆乳が上質なスイーツに変身。

この地方では常識という三角形のあぶらあげ。ざっくりと香ばしく揚がったあぶらあげに醤油をかけてかぶりつきます。お店の奥で毎日手作りされている商品が、次々と運ばれてきていました。

太田とうふ店を出てのどかな田んぼの一本道。私にとってはこれが非日常!米どころ宮城の「ひとめぼれ」に囲まれて、ペダルを踏む足にも力が入ります。
秋保神社横に新しくオープンしたヒュッゲカフェ「グリーンシューツ」へ。

墨黒の渋い外観とは裏腹に、白を基調とした壁に、森をイメージさせるたくさんの絵画が飾られた店内。

今年秋保へと移住してきたというトムさん、美佳子さんご夫妻が開いたまだ出来立てほやほやのカフェなんです。このお店の名物は、トムさんの故郷であるデンマークのオープンサンドイッチ。

まるでパーティー料理と見まごうような、華やかで手の込んだ料理のように見えますよね。実はこれ、デンマークの伝統料理、「スモーブロー」と呼ばれるソウルフードなのです。

ライ麦パンの上にフレッシュ野菜、そしてチーズやハーブやマリネ、時にスパイスやソースも加えたアレンジ自在のメニューです。食べる時はお皿に取り分けナイフとフォークでいただきます。

ローストビーフに合わせたのは赤ワインで煮込んだクランベリー。お肉にはフルーツの甘酸っぱさをアクセントにすることが多いのだとか。

デンマークの家庭料理、ミートボール。デンマークはひき肉に豚肉を使います。旨味が閉じ込められていておいしい!

デザートにはアーモンドスライスたっぷりのしっとりとしたケーキとミューズリーが練り込まれたクッキー。何時間でもいられそうな心地よさ、心穏やかになるゆとりの時間。これがデンマークの人たちが大切にしている「ヒュッゲ」なのでしょうね。

庭の桜の木にあるハートもトムさんのお気に入り。ぜひ皆さんも探してみてください。

オープンしたばかりのところにお邪魔したにも関わらずたくさんお話を聴かせてくださった、トム・ニールセンさん、奥様の美佳子さん。
“新しい秋保”を提案してくれる「アキウ舎」、 地域産業の創出「秋保ワイナリー」。
秋保地域には最近明るいニュースがたくさんあります。
まず昨年、地域の古民家を利用したレストラン「アキウ舎」がオープン。訪問時は庭の造成などまだまだ手を入れている段階で、これからもっと素敵になっていく予感です。地元の食材を使ったランチやカフェメニューが楽しめます。
このアキウ舎、今回お世話になったアキウツーリズムファクトリーが運営元で、つまり秋保エリアのツアーの拠点となっている場所でもあります。
「ツアー」と「食」というコンテンツにさらに加わるのが2015年にオープンした「秋保ワイナリー」。
その土地が持つ特徴(テロワール)をつなげる(マリアージュ)、という意味の「テロワージュ」というコンセプトを掲げています。コンセプトには、テロワール=地域にある各所の働きや役割、マリアージュ=そこから生まれる関係性、という意味合いも含まれています。「魅力的なものを生み出し続ける、そしてそこでつながった人とのつながりを大事にしていけば、また来てもらえる場所になる。」こんな考え方の発信基地になっているのが秋保ワイナリーで、この想いに賛同する人たちにより、活動は東北全体に広がってきています。
秋保地域一帯が新たな思考と試行を繰り返し徐々に盛り上がっていくことで、地域への移住者や関わる人たちも増えたのだそう。今度は秋保の魅力に惹きつけられて来た人たちが、テロワージュの伝道師になっていくのでしょう。
秋保ワイナリーではワインテイスティングをはじめ、目の前のぶどう畑を窓越しに見ながらの食事やガーデンでのBBQなどが楽しめます。

朝から自転車でまわった秋保のツアーもそろそろ終わり。今回のツアーを作ってくれた「アキウツーリズムファクトリー」が運営する古民家レストラン「アキウ舎」に立ち寄りました。

築160年の古民家を改築し使っていくということは、連綿と続く歴史をつなげていくこと。長い歴史がある温泉地・秋保のイメージとも重なるレストランだと感じます。

純和風の要素をしっかり押さえつつ、現代風にアレンジするところは大胆に。畳、障子、筬欄間のある場所にダイニングテーブルと椅子を置き、居心地の良さもしっかりと守られています。

こちらは窓際のテーブル席。オープンキッチンで料理人の動きも良く見えます。地元野菜や食材を盛り込んだランチプレートなどが人気です。

アキウツーリズムファクトリーの事務所も同じ敷地内。秋保地区のアクティビティやツアーの紹介、アテンドなどを行ってくれます。

今回お世話になった高橋さん。彼自身も旅好きなので、旅人の気持ちをよーくわかっているツアーガイド。田園風景や渓谷を眺めながら色んな話をしつつツアーを進めてくれるのが、とても楽しかった!

そして自転車を置き、最後の到着地は「秋保ワイナリー」。

2015年に開業し、今では秋保観光の目玉のひとつともなっています。

すぐ目の前はぶどう畑。窓を開ければ手が届きそうなほど畑に近いです。ぶどうは、摘みたてをそのまま工場へ。栽培、醸造、熟成、瓶詰をすべてこの場所で行っています。

試飲カウンター。これだけで十分酔えそう…。私のオススメはマスカット・ベーリーAのロゼ。あとシードルも!

この日はワイナリーの社員さんをはじめ、移住者の方(なんとお会いしたことがある方だった!)、近くで自分のぶどう畑からワイン造りを目指す方など、ここに関わる全ての方が顔を出してくれて、ガーデンでのバーベキュー。

途中から豪雨になって大変だったけど、「これこそ旅」。全部思い出にして持って帰ります。
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