駅前の「めがねストリート」や「めがねミュージアム」、工場が集まる神明エリアを歩けば、精緻な手仕事と遊び心が街に息づきます。さらに越前市では、伝統技術を結集した越前箪笥の工房で、緻密な木工や漆塗り、鉄金具の装飾など職人技の奥深さを体感。100年の歴史を刻む北府駅の木造駅舎や古い列車に触れながら、福井の歴史を感じる旅を楽しみました。
0.01ミリを見極める精密な手仕事~多彩な技が凝縮「越前箪笥」
越前箪笥は、指物、漆塗り、そして鉄——いくつもの高度な技術を組み合わせて作られる工芸品です。越前は狭いエリアに多くの伝統工芸が伝わる地域で、職人が多く集まることも特徴のひとつ。
そんな多彩な技術を全て詰め込んだ越前箪笥を、一から全ての工程で作り上げているのが「小柳箪笥kicoru」です。分業で行われることが一般的な箪笥づくりですが、ここでは職人たちが手仕事の全てを担い、丁寧に仕上げています。
越前箪笥の魅力は、ただ美しいだけでなく、一つ一つに意味や工夫が込められていること。
例えば、箪笥に取り付けられる鉄の金具は、単なる装飾ではなく縁起を担ぐ役割も持っています。越前箪笥の象徴とも言える「猪の目」の金具は、ハート形に似た愛らしい形で、家を守る意味が込められています。また如意や雲龍など、吉祥の意を込めたモチーフが施されることもあります。
さらに、日本の箪笥ならではの精巧さも特筆すべき点です。扉や引き出しは狂いがなく、ぴったり閉まる気密性があります。職人は指先の感覚だけで、0.01ミリ単位の調整を行い、完璧な仕上がりに仕立てています。
こうした技術と心遣いの積み重ねが、越前箪笥をただの収納家具ではなく、工芸品としての価値ある存在にしているのです。
越前箪笥の産地として知られる武生(たけふ)は、かつて越前国府が置かれた場所です。寺町が広がるこの地では、寺社仏閣建築に携わる多くの指物師が技を磨き、その中から、やがて庶民の暮らしに欠かせない箪笥づくりが生まれていきました。宗教文化とともに、その技はこの地に根付いていったと言われています。
現在も、越前箪笥は時代に合わせて進化しています。現代の暮らしに合うよう、小ぶりなサイズのものや、デザインをシンプルにするなど、実用性と美しさを両立させた家具が生まれています。
職人の技に触れ、製造工程を間近で見られる開かれた場所として併設されたkicoruでは、誰でも気軽に箪笥づくりの世界と触れ合えるのも魅力です。
小柳箪笥店kicoru
| 住所 | : | 福井県越前市武生柳町10-7 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0778-22-1854 |
| 営業時間 | : | 10:00~17:00 |
| 定休日 | : | 不定休 |
| 公式サイト | : | https://kicoru.com/ |

150年以上の歴史を持ち、職人の技が光る越前箪笥。「小柳箪笥店kicoru」を訪問。

蔵が並ぶ歴史的な町並みの武生(たけふ)

越前国の国府が置かれ、職人文化が花開いた町・武生

越前箪笥の源流となった宮大工や木工の技は、寺社建築を通して育まれた

釘を使わない指物の技から、日々の暮らしに欠かせない箪笥が作られるようになった

越前箪笥の歴史と技を伝える、タンス町通りの越前箪笥会館

飛鳥時代後期作、国宝「橘夫人厨子」(法隆寺所蔵)。台座の隅に「越前」の墨書があり、越前の職人の関わりをうかがわせる

日常では金品などの貴重品を保管し、火事の際に運べるよう車輪が付いた「車箪笥」

精密に仕上げられた箪笥は、巧みなカンナ使いが生み出す

木と木をつなぐ「ほぞ組み」。凸のほぞと凹のほぞ穴を隙間なく組み込む

数多くの工程を経て、丹念に組み上げられた箪笥

越前箪笥の金具には必ず「猪の目(ハート)」が入り、装飾と魔除けの役割を持つ

箪笥の金具に施された「如意」。仏教の世界観を反映した装飾が、伝統の雅を伝える

伝統的な金属加工技法「真綿焼き」。熱した鉄に絹(真綿)をすりつけて表面を変色させ、黒く仕上げる

越前箪笥の特徴である分厚く重厚感のある金具は、手作業で細部まで丁寧に仕上げられている

数十のパーツを丁寧に組み上げ、精巧に仕上げられる

漆塗りも箪笥づくりの工程のひとつ。漆塗りによって深みのある美しい仕上がりと光沢が加わる

人気を集める木製パッシブスピーカー“kicoele”。スマートフォンの音を自然に増幅する仕組み

現代向けの小さな越前箪笥。格式を保ちながら暮らしに溶け込む

日本の伝統文様をデザインした組子風のコースター。手前は七宝、奥は亀甲。デザイン性と共に由来と意味がある。小さいのでおみやげにも
軍用線から旅の思い出駅へ 100年の歴史が詰まった福井鉄道福武線「北府駅」
福井鉄道福武線の「北府(きたご)駅」は、大正13年に建てられた木造駅舎が今も残る駅です。
当時は「西武生(にしたけふ)駅」という名前で、建物はほとんど変わらず現役。木の柱や梁の質感から、長い年月を経た落ち着きが感じられます。この駅は現在、歴史を紹介するパネルや鉄道用品が展示される福井鉄道のミュージアムとしても利用され、駅として現役として利用されるかたわら観光地としての役割も果たしています。
福武線は、全長21.3キロのうち約3キロが路面電車として走る、全国でも珍しい鉄道です。
福井駅をスタートし、街中を抜けたあたりからは最高時速65キロで走行するとして、路面電車としても使われる電車としては異例のスピードから、「日本最速路面電車」の異名で親しまれています。
福井鉄道・福武線の始まりには、神明の街の歴史が深く関わっています。
福武線は、かつて現在の鯖江市・神明に駐屯していた歩兵第36連隊の軍隊を輸送するため、特別な認可を得て建設された鉄道です。国鉄と並走するように線路が敷かれたのは、そうした軍事輸送の目的があったためです。
また、当時の射撃場を避けるため、線路が大きくカーブしている区間もあります。そんな歴史の名残は、ぜひ列車に揺られながら実感してみてくださいね。
また、駅名の「北府」にも少し面白いエピソードがあります。
もともと「西武生」だったこの駅が「北府」に変わったのは、あるテレビCMの舞台となった“架空の駅名”がきっかけでした。CMの放送をきっかけに「実際にその駅名をつけてみよう」という流れになり、現在の名前になったそうです。
車両も多彩です。
大正時代に導入されたオリジナルの木造車両「デキ11」(今も現役!)、昭和時代の名車「モハ200形」(クラウドファンディングで保存が決定)、そして平成に入って導入されたドイツ製新型車両「レトラム」(土佐電気鉄道で運用されていた元ドイツシュツットガルト市電)までさまざまな車両を見ることができ、それはまるで電車の博物館。
行き交う電車も動態展示されているようで、乗って、撮って、見て楽しめる鉄道です。
静かな北府駅のホームに立つと、レールの響きや木造駅舎の佇まいの中に、福武線が歩んできた100年の時間を感じます。
そしてこの駅は、ただの移動の通過点ではなく、旅の想い出が生まれる場所でもあります。
訪れた人の記憶が少しずつ重なり、これからも新しい旅の風景をつくっていくのでしょう。
福井鉄道北府駅鉄道ミュージアム
| 住所 | : | 福井県越前市北府2-4-7 駅内 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0778-22-3704 |
| 公式サイト | : | https://fukutetsu.jp/ |
※車両工場はイベント時のみ公開

旅情あふれるローカル線の旅、福井鉄道福武線。レッサーパンダのモチーフつり革

「北府(きたご)駅」を訪問。奥に見えるのは木造車両工場

全国の鉄道ファンに愛される木造駅舎

駅開業時の面影を残す売店などを残し、2023年から北府駅鉄道ミュージアムを併設

時を重ねてあめ色になった木造ベンチ。待合室で今も現役。

風情ある駅舎は、今も通勤・通学や観光で親しまれる

開業100年を超える福井鉄道の歴史が詰まったミュージアム

昭和40年代の行先標示板

国鉄に挑む思いで誕生したモハ200形は、福井鉄道を代表するオリジナル車輛

車両工場の横に並ぶは「デキ11」。どちらも福鉄の歴史を見守ってきた大正生まれの現役

2014年から福鉄のレールを走るドイツ製車輛「レトラム」

個性豊かな車両がずらり。統一感のなさも福井鉄道の“ちょっと変わった魅力”

携帯電話会社のCMで使われた名前に改名「北府(きたご)」。そんなユニークさも福鉄らしい
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