今回はそんな新潟県の、下越地方を巡る癒しの旅。公共交通機関やレンタサイクルを使った、心も体もリフレッシュできる旅を紹介します。

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

9:00 五頭温泉郷の朝散歩を楽しむ
温泉のおかげかぐっすりと眠れて爽快な目覚めの朝。朝ごはんを食べたら宿のお庭と温泉街をお散歩します。
4千坪という広大な敷地を誇る長生館のお庭は、春にはツツジ、夏には竹灯り、秋には紅葉、冬は雪景色と様々な顔で楽しませてくれる純和風庭園。しかも温泉から立ちのぼる成分による「ラドン浴」もできるお庭です。朝の静寂とともに深呼吸をすれば、爽快な気分で一日をスタートできます。
五頭温泉郷には「出湯温泉」「今板温泉」そして私が泊った「村杉温泉」という、3つの温泉街があります。
まずは出湯温泉にある“寺湯”へ。
五頭温泉は五頭山西麓にある温泉地で、中でも出湯温泉は最も早く開かれた温泉だと言われています。五頭山は山岳信仰の霊山で、修験僧らが開いた「華報寺」があります。
この寺の境内にある元湯が「寺湯」と呼ばれる共同浴場です。小さな浴室なので、湯気がこもることからラドンの効果も高いと考えられます。また浴槽下から直接温泉が湧出しておりその量も豊富です。地元の人だけでなく日本中からこの温泉のファンが訪れるということです。
お散歩がてら周辺温泉街にも足を伸ばして五頭温泉郷を丸ごと楽しみたいですね。村杉温泉の源泉や外湯もありますし、時間があれば足湯などに入るのも良さそうです。

翌朝、目覚め良く起きられました。これも宿の温泉のおかげでしょうか。空気がきれいな朝の時間に長生館のお庭を散策。今年は雪が少なく、雪つりもちょっと寂しい感じです。しかし池の鯉が鮮やかで、手入れされたとても良いお庭でした。

昨日見た「村秀鬼瓦工房」の鬼たちも飾られていました。表情豊かでこちらまで笑顔になってしまいます。

長生館の離れのひとつ「松濤亭」は明治期に建てられた純和風の建物。こちらは一棟貸切りで利用でき、しかも2階建という広さです。

長生館のお風呂。開湯700年の歴史ある村杉温泉のお湯。無色透明、無臭なので入っている時は普通のお湯のように感じるのですが、上がった後にはじんわりと温まり、翌朝の体調が整う気がしました。

岩に囲まれた露天風呂も自慢です。深呼吸…深呼吸…と、私もしっかりラドンの湯気を吸いこみながら入りました。

五頭温泉郷をぐるりと散策。まずは出湯温泉の「華報寺」へ。歴史が古く、鎌倉時代には大きな影響力を持っていた由緒あるお寺だとされています。

華報寺の境内にある華報寺共同浴場は弘法大師が開湯したと伝わっていて、こちらも歴史がある温泉。小さいながらもとても風情があり浴槽の下からぼこぼことお湯が沸きだしていました。

こちらは村杉温泉の外湯「薬師乃湯」。朝から大変な賑わいでした。

奥には足湯もあります。

源泉の一つを見せていただきました。湧出量がすばらしい!何百年も続く自然の恵みを感じました。
出湯温泉 | ||
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住所 | : | 新潟県阿賀野市出湯 |
営業時間 | : | 6:00~18:30 |
定休日 | : | 無し |
入浴料金 | : | 200円 |
11:00 村杉温泉を後にして鮭の街・村上へ到着
長生館から最寄りの駅「水原駅」まで送迎してもらい、今度は鉄道で村上へ向かいます。
新潟の北部・村上は塩引き鮭の食文化と、城下町であった時代から続く町屋文化があります。
まずは「千年鮭 きっかわ」へお邪魔しました。天井から吊り下げられた沢山の鮭は圧巻です!この日も沢山の人が見学に訪れていました。
塩引き鮭は鮭と塩のみ。保存料も添加物も一切使いません。鮭の内臓を取り出し、塩に漬け込んだ後、塩を洗い流してから数週間乾燥させると出来上がります。村上の湿気を持つ風や独特の気候風土によってうまく発酵・熟成され、旨味が凝縮されるのだそう。秋に水揚げされる新鮮なオスの鮭のみを使い、各家庭で作られていた村上の伝統食です。元々は冷蔵庫がない時代の長期保存品として生み出され、当時の人の貴重なたんぱく源となっていました。今では伝統的な製法として受け継がれています。
村上の人たちはこの塩引き鮭を骨も皮も余すことなく調理します。塩引き鮭の製法とともに多種多様な鮭の調理方法も一緒に伝わっており、鮭をとても大事に扱っていることがわかります。
さらに塩引き鮭の下ごしらえの際には、腹の割き方に一部をくっつけて全部開いてしまわない「止め腹」を行います。これは手間も技も必要とする割き方ですが、大切な鮭に切腹をさせないようにという想いからです。また乾燥のために吊るす時にも、「首から吊るすのは縁起が悪い」ということから尻尾を吊るす、村上特有のスタイルを守ってきています。
魚にさえも敬意を忘れない村上の人たちの鮭に対する感謝の気持ちと、今に続く鮭文化の発展を支えてきた人々の誇りを感じる時間でした。

黄色の駅舎の村上駅に到着です。どこか懐かしい雰囲気の建物です。

駅構内には村上の名物「塩引き鮭」が早速見られました。近隣の小学校で作られたものでした。子供のころからこうした文化に触れるのは良いことですね。

まずは塩引き鮭を見に行きます。「千年鮭 きっかわ」へ。

天井から吊り下げられた鮭が圧巻です!これが「塩引き鮭」です。

塩引き鮭は吊るして乾燥させます。一気に乾燥させて“干物”にするわけではありません。程よい湿気を含んだ冷たい風が吹く村上では、ゆっくりじっくり乾くのと同時に熟成が進み、旨味を増やしていきます。

「千年鮭 きっかわ」では、時間をかけて作られた塩引き鮭製品を購入することができます。店舗も素敵ですからぜひ立ち寄ってみてほしいです。
千年鮭 きっかわ | ||
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住所 | : | 新潟県村上市大町1-20 |
電話 | : | 0254-53-2213 |
営業時間 | : | 9:00~18:00 |
定休日 | : | 元旦のみ |
web | : | https://www.murakamisake.com/ |
12:30 新多久で郷土料理の和食コースに舌鼓
村上で昔から続く料亭のひとつ、「新多久」にお邪魔しました。
京料理の伝統に新潟の食材を取り入れた料理が提供されています。季節ごとの素材や暦に合わせた行事や習わしを込めた料理には、村上の食文化やさらには人々の暮らし方まで感じ取れるほどの奥深さがありました。
お料理の最後に、ゆっくりじっくりと火を入れた塩引き鮭が出てきました。お米の産地である新潟で、炊き立ての土鍋ごはんと一緒に食べる塩引き鮭は格別!しっとりとした身を口に入れると、一口ごとに増幅していくようなふくよかな旨味を感じました。

歴史ある料亭「新多久」でランチをいただきます。

お昼のランチコースは3,000円から。コースメニューには季節ごと、その日ごとに合わせた食材を使った料理が盛り込まれます。この日のスタートは節句「初午」に合わせた稲荷寿司と新潟の伝統食である糠イワシ。

八寸には白子や黒豆、厚焼き玉子などが乗っています。鮭の飯寿司や酒びたしなどの村上鮭も入っていました。

鯛の昆布締めといしもちの炙り。お刺身はその日の魚の状態によって切り方を変えるそう。

最後には土鍋ごはんと新多久特製の塩引き鮭。目の前でじっくりと焼かれていきます。

“白いごはんと鮭”という極めてシンプルな食事だけれど、至高の味です。塩引き鮭からは天然の熟成発酵の旨味を感じられ、お米の美味しさも素晴らしく、越後の食の底力を存分に味わえるランチでした。

変に色々付け足さない、素材の一番おいしいところをまっすぐ伝えてくれるお料理の数々。村上に、このお店に足を運ばないと食べられない価値を感じる料理があり、かつ敷居が高すぎないお店で楽しく食事ができました。
新多久 | ||
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住所 | : | 新潟県村上市小町3-38 |
電話 | : | 0254-53-2107 |
営業時間 | : | ランチ/11:30~13:30 (L.O.) ディナー/17:00~20:00 (L.O.) |
定休日 | : | 水曜日 |
web | : | http://sintaku.sakura.ne.jp/ |
14:00 町屋見学と村上街歩き
村上の街には城下町の名残がある「町屋」が多く点在しています。この町屋を活用し観光地として訪れてもらえる街づくりが始まったのが20年ほど前のことです。現在は1年に30万人もの人たちが訪れ、町屋を楽しみながらそぞろ歩きする一大観光地となりました。
今の形になる前の村上の町屋は、時間の経過とともに外観が近代化し、古びた風情は失われてしまっていました。しかしながら一歩中へ足を踏み入れると、そこには昔ながらの神棚、仏壇、いろり、吹き抜けの高い天井に太くて大きな梁、箱階段、並べられた村上特産の堆朱(ついしゅ=漆塗り工芸品)など、当時のままの姿がありました。村上の良さは家の中や大事にされてきた人形や、奥にしまい込まれていたものにあったのです。
そこで、20年前から市民が中心となり、生活空間を公開する「町屋見学」を行うようになりました。春には各家々が持っている人形を飾る「町屋の人形さま巡り」、秋にはこれも家々が保管していた屏風を飾る「町屋の屏風まつり」を開催し、多くの観光客を家の奥まで招き入れました。
2時間ほど街を歩き、町屋見学させてもらえる家を訪ねましたが、皆さん丁寧に説明をして下さいます。どの家にも家の中を一本の廊下でつなぐ「通り土間」などの村上独特の家の形や、堆朱の素晴らしい机や茶道具などを見ることもでき、村上がいかに城下町として豊かで熟成された土地柄であったのかを体感することができました。

ランチの後は帰るまでの2時間で村上の街歩き。新多久からの帰り道には黒塀連なる通り、その名も「黒塀通り」があります。

コンクリートやブロックの塀だった外観を市民が一丸となって修繕し、昔ながらの街並みに再生させる「チーム黒塀プロジェクト」。市民から寄付を集め、みんなで少しずつ延伸しながら「城下町・村上」を情感溢れる街並みへと変貌させていく、現在進行形の活動です。

黒塀通りのあたりは昔の寺町。ここには国の重要文化財に指定されている「浄念寺」があります。珍しい、白壁土蔵のお寺で、正面には大きな唐破風があります。

村上の街ではお店の奥の生活空間を開放し観光客に見せる「町屋見学」も行っています。昔ながらの意匠などはもちろん、村上の暮らし方や各家々に眠っていた村上の工芸品などを並べた部屋を見せてもらえるのです。

どのお店も快く迎え入れて下さり、丁寧に説明をしてくださいます。

渋い外観のお茶屋さん「九重園」。こちらは見学だけでなくお茶も淹れてくださいました。村上は商業的なお茶産地としては北限にあたり、村上茶が有名です。

どの家も、典型的な町屋の形をしていて、間口が狭く奥に長いいわゆる「ウナギの寝床」、そして奥に続く廊下「通り土間」があります。通り土間で続く奥に、現在の住まいがあります。

お客さんを迎え入れる部屋を「茶の間」と呼び、高い吹き抜けや箱階段、囲炉裏、仏壇や神棚などが置かれています。仏壇や神棚が一番店の近くにあるのは、村上の町屋同士はほとんど隙間がないほどに接しているので、火事になった時にすぐに持って出られるようにとのことでした。

観光客に町屋を巡らせ、茶の間を見学させることで、日常であった各家々の価値が外の眼によって評価され、それにより街の人々は村上の街に誇りを感じるようになっていきました。これだけ市民が地域活動に積極的に参加している村上の街は、今後の発展がますます楽しみな街のひとつです。
心と体をリセットできた新潟旅。
1泊2日のかけ足でしたが、「白山神社」やゆったりと時間が流れる喫茶店「パルム」からは心の癒しを、「村杉温泉長生館」の美味しいお料理と効能を感じる温泉からは体の癒しを、村上の「千年鮭きっかわ」や街並みからは多くの学びをもらえた旅でした。新潟県は細長く、また離島もあるので、地域ごとに文化や風土や方言までもが異なるそれぞれの特色があります。今回は下越地方を選んで旅をしましたが、他にもまだまだ魅力溢れるエリアがある県です。
「ミシュランガイド新潟版」の発行などもあり、グルメの街としても今後、注目を集めるのではないでしょうか。海も山もありまた歴史も文化も深い街。新潟の知られざるスポットを探しに行ってみてはいかがでしょうか。
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