文:宮田文久 写真:岩本良介
旅への醒めやらぬ「憧れ」を投影した、JALの機内食プロジェクト
JAL:Soup Stock Tokyoは、2008年6月よりJALと機内食の共同開発を行っていますね。2012年9月には海苔弁を機内食として展開、2013年1月にはスープを提供。以降、毎回異なるスープでコラボレーションを繰り返し、2017年3月から5月にかけても、最新のコラボレーションメニュー「北海道産とうもろこしのシチュー」を提供されていましたね。
遠山:私にとって「空の旅」というものは、出張や旅行で飛行機に乗ることが当たり前になってからも、幼いころからの憧れのままであり続けているんです。高校時代、初めて一人で乗ったときは、あまりに嬉しくて、機内食を2回も食べさせてもらったんですよ。「もうひとつ食べたいです……」とCAの方に身振り手振りで伝えて(笑)。ですからもう本当に、旅も、飛行機も、機内食も、私にとっては憧れそのものなんです。
JAL:その「憧れ」を投影したのが、JALの機内食プロジェクトなんでしょうか。
遠山:はい。あまりに憧れが強すぎて、JALさんへの初めてのプレゼンテーションの前日、社員みんなが準備していた企画書や映像をすべてつくり直す決断さえしました。映像は再編集してもらい、企画書は自分で書き直し、1冊ずつ製本して……。普段は、こんな強権発動はしないんですよ?(笑) 憧れの旅路で口にしてもらう機内食に、それだけ強い思いを抱いていたということなんです。
映像にも私がナレーションをつけたんですよ。空の旅をイメージした名ラジオ音楽番組『JET STREAM』の初代パーソナリティー、城達也さんのように、「このタマネギのなんと芳醇な甘さか……」みたいな感じで、思い入れたっぷりでした(笑)。
空の上の豊かな時間のなかで、ビジネスのアイデアも湧いてくる
JAL:いくつになっても、飛行機の旅というのはどこか心が躍るものですよね。
遠山:最近、プレミアムエコノミーの魅力に気づきまして。今回の『アートバーゼル』にもJALで行きましたけど、あれは書斎のような雰囲気でゆったりできて、いいですねえ。普段の生活のなかではなかなかゆっくりと読書の時間がとれないのですが、行きの機内ではちょうど1冊を、たっぷり味わうことができました。帰国予定日のプレミアムエコノミーが満席だったので、わざわざ1日遅らせて帰ってきましたよ(笑)。
帰りの機内でも、とても印象的な瞬間がありました。私が飲んでいたハイボールに、窓からの日差しがスーッと差し込んで、それは美しい輝きを放ったんです。すごく豊かな時間だなあ、と感動しました。そこでふと、思ったんです。雲の上というのは常に晴れていて、窓から差し込む日差しの方向も、航路と時間から計算できるわけですよね。だとしたら、日差しを使った食事の演出ができるのではないか。ドリンクやスープの透明感を伝えたり、食材の陰影を見せたり。食事の時間にはアナウンスして、乗客の皆さんに窓を開けてもらうのもよさそうです。雲の上の日差しで魅せる機内食――いいですねえ、やっぱり憧れますねえ(笑)。
遠山正道
1962年東京生まれ。1985年三菱商事(株)入社後、1999年スープ専門店「Soup Stock Tokyo」第1号店をオープン。2000年三菱商事初の社内ベンチャー企業(株)スマイルズを設立、2008年MBOによりスマイルズの株式100%を取得。現在「Soup Stock Tokyo」、ネクタイブランド「giraffe」、新しいリサイクルショップ「PASS THE BATON」のほか、「100本のスプーン」「PAVILION」「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」などの企画・運営を行う。著書に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)などがある。
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