文:上條桂子 写真:森山将人
マリメッコの工場を覗けるだけでも幸せだった。初めて行ったフィンランド
OnTrip JAL編集部(以下、JAL):そもそも鈴木さんが北欧のテキスタイルデザインに興味を持たれた最初のきっかけはなんだったのでしょうか?
鈴木マサル(以下、鈴木):じつは、もともとはグラフィックデザインをやりたいと思っていたんですが、入れた学科が多摩美大の染織デザイン科(現テキスタイルデザイン専攻)だったんです。最初は葛藤もあったのですが、大学1年生のときに偶然、インテリア雑誌のなかに写真を見つけまして。洗濯物みたいに吊られたマリメッコのテキスタイルが、風にたなびいていたんです。すごく大胆なグラフィックのパターンで、小さなモノクロ写真なのにすごく印象的でした。
1980年代の後半ころで、マリメッコなんて日本ではまったく知られていないとき。雑誌は英語だったのですが、キャプションの情報から調べてみたら、どうやらフィンランドの「マリメッコ」という会社のものだとわかって。
JAL:その後、実際にフィンランドを初めて訪れたのは2008年とのことなので、ずいぶん後になるのですね。
鈴木:2004年に自分のブランド「OTTAIPNU(オッタイピイヌ)」を立ち上げる前は、日々生活するためというか、食べるための仕事として、ごく一般的なカーテンのデザインを手がけていました。ドイツやフランスにテキスタイルの展示会を見に行くことはありましたが、北欧とは縁がなくて。マリメッコもフィンランドも好きだったのですが、見ると胸が痛かったんです(笑)。本当はこういう、鮮やかなものがつくりたいなあと思いながらも、現実の自分はベージュとか、地味な色の無地の生地をデザインしていたので。
でもやっぱり、一度理想のテキスタイルづくりに挑戦してみたい、という思いで、OTTAIPNUを立ち上げました。初めてフィンランドに行ったのは2008年、とにかく一度現地でマリメッコを見てみたいと思ってのことでした。当時はコネクションもなかったのですが、まずは工場にメールを入れてみて、でも返事がなかったので直接行ってかけあったのですがダメで。周囲からのぞいてきました(笑)。
JAL:他にはどんな場所に行かれたのですか?
鈴木:ヘルシンキ市内のマリメッコショップをたくさん巡りました。面白かったですね。現地の主婦の方が、大きなクッションを手に店へやってきて、「これを包む生地をちょうだい」っていう買い方をしてたり。夜、街を歩いていると、部屋の灯りで照らされたマリメッコのカーテンが、ポツポツと窓際に浮かび上がっていたり。また、行ったのは1月末くらいのとても寒い時期だったのですが、そんななかでもマリメッコの生地に綿を入れたコートを着ている人にすれ違ったりもしました。見事に日常のなかに溶け込んでいるのを目の当たりにして、本当に愛されているブランドなんだなと思いました。
出張で行っても、欠かせないのはヴィンテージファブリック探し
JAL:その後、フィンランドには毎年必ず行っているそうですが、お仕事ですか?
鈴木:はい。2010年からは念願叶ってマリメッコの仕事をするようになったので、毎年2、3回くらい行っています。フィンランドは貴族文化がほとんどない国なので、気負いがなくて親しみやすく、街も安全なのですごくリラックスできます。いつも大阪出張くらいの気分で行っています(笑)。アパートメントタイプのホテルを借りて仕事をしているのですが、快適ですよ。
JAL:お仕事だけでなく、観光もされますか?
鈴木:美術館や建築を見るのが好きですね。また、ヴィンテージファブリック探しは外せません。2010年から本格的に始めたのですが、いまだに見たことのないような柄がたくさん見つかるんですよ。マリメッコはもちろん、無名作家のものでも、ぐっとくるテキスタイルがあったら即買いです。
大好きなマリメッコの仕事をしてはいますが、毎回新しいデザインを提案し続けていて、楽しい反面しんどいこともあります。だから、フィンランドに行く楽しみが他にもあればと思って始めたんです。いまではすっかりハマってしまって、ファブリックを買いに行くために頑張って仕事をしなくっちゃ、という感じです(笑)。
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