大胆な色づかいとダイナミックな構図、それでいてシンプルな色の組み合わせ、愛らしいハリネズミやヒツジ、キリンの柄……。鈴木マサルさんがデザインするテキスタイルは、広げると空間がパッと華やぎ、そこにいる人の気分を高揚させる。フィンランドのテキスタイルメーカー「マリメッコ」のデザインも手がけ、年に2、3回はヘルシンキを訪れるという鈴木さんに、フィンランドでの過ごし方や、仕事を通じて考える北欧と日本の文化についてお話をうかがった。
文:上條桂子 写真:森山将人

広げるだけで、気持ちが華やぐようなテキスタイルを

JAL:鈴木さんのデザインするテキスタイルは、色がとても印象的ですね。それは北欧の影響もありますか?

鈴木:ぼくはとにかく、広げたときに「わー、きれい!」と気持ちが華やぐようなテキスタイルをつくりたいんです。もちろん暗い色や地味な色も使いますが、派手な、彩度の高い色って、無条件に気分が高揚しますよね。そういう色は好きだなあと思います。

画像: 腕時計も、エプソンとのコラボレーションで自身がデザインしたもの

腕時計も、エプソンとのコラボレーションで自身がデザインしたもの

鈴木:マリメッコのような派手なプリントテキスタイルって、ヨーロッパをいろいろ見ても北欧にしかないんです。それは寒くて冬が長い気候のせいかもしれません。また、北欧の家具や建築、テーブルウェアのデザインを見ると、華美ではない機能的な美しさがあります。そんなシンプルな空間だったから、パキッとした色のテキスタイルが映えたのかもしれませんね。

マリメッコは1951年創業ですから、まだ始まって60年そこそこなんです。そういうブランドが、フィンランドという国のイメージに強い影響を与えるまでのものになっているって、なんだか不思議ですよね。ぼくがOTTAIPNUを始めたときも、日本のインテリアはもともと狭い住空間を圧迫しないシンプルなものが基本なので、個性的で鮮やかなデザインは受け入れられないだろうと思っていました。しかしいまでは、おかげさまで少しずつ選んでくれる方も増えている。価値観が多様化している時代なので、マイノリティーなものも受け入れられやすくなっているのかもしれません。

いまだに自分でもわからない「北欧デザイン」の秘密

JAL:日本とフィンランドの共通点や相違点については、どう思われますか?

画像: 持ち歩くテキスタイル「OTTAIPNU KASA COLLECTION」

持ち歩くテキスタイル「OTTAIPNU KASA COLLECTION」

鈴木:フィンランド人と日本人は、結構似ていると思います。真面目で、シャイで、控えめ。決定的な違いは、消費のサイクルでしょうか。フィンランドの人は、たとえばお気に入りのマグカップが割れてしまったとき、まったく同じものを新しく買ったりする。だから店頭にも、同じ商品が長く売られているんですね。マリメッコには「ヨカポイカ」という縦縞のシャツがあるんですが、これはなんと50年間同じ柄なんですよ。

ぼくも、ひとつの仕事は10年続けたいという気持ちでやっています。OTTAIPNUでは2011年から傘のコレクションを発表しているのですが、これは毎年骨組みをそのままに、生地の柄だけ変えて新作をつくっているのです。今治のタオルメーカーとのコラボレーションも、2006年から10年以上続いています。日本は消費のサイクルが非常に早いですが、少しくらい変わらないものがあってもよかろう、という気持ちでやっているんです。

JAL:鈴木さんのデザインは、日本では北欧的だといわれていると思いますが、北欧の人々から見るとどうなのでしょうか?

鈴木:それが不思議なことに、日本的だと言われることが多いですね。マリメッコのデザインにしても、北欧的なデザインに寄せたつもりが、日本っぽいと言われたり(笑)。北欧のテキスタイルデザインに潜む圧倒的な魅力の正体が知りたくて、自分でつくったテキスタイルのプロモーション写真を北欧で撮影してみたり、2016年には初めて北欧でのプリントにも挑戦してみたりもしましたが、結局秘密はまだよくわからず、探求している途中なんです。

これから行ってみたい国は、色鮮やかな国メキシコ

JAL:鈴木さんは、デザインを考えるときはどうされているのですか?

鈴木:がっかりしないでくださいね(笑)。ぼくの場合、アイデアは天から降ってくるわけではなく、かといって積極的なネタ探しもあまりしないんです。普通に生活しているだけで、結構な量の情報が入ってくるものだと思うんですよ。そうして日々なんとなく貯めておいたものが、生地のデザインを考えるときに出てくる感じです。旅先でも、あまり意識せずに街を見て回っているだけで、色々なものが自然と貯まっていく感じです。

JAL:旅先で、メモやスケッチもされますか?

画像: 修正テープで描かれたシロクマ

修正テープで描かれたシロクマ

鈴木:そうですね。きちんとしたスケッチというより、メモ程度のことを何でも描くので、持ち歩きやすい軽いノートを持って行きます。使う筆記具はペンと修正ペン、修正テープ。絵の具を持って行ったこともあるんですが、持ち運びが大変だったので止めてしまいました。最近はペンタブとノートPCを持っていきます。ホテルをプチオフィスのようにして、リラックスしながら仕事をしています。

JAL:次に行ってみたい国はありますか?

鈴木:メキシコに行ってみたいですね。あの国は、色がすごくいい。ぼくの大好きな、テキスタイルもたくさんデザインしていたデザイナー、アレキサンダー・ジラルドも、メキシコのフォークアートから大きな影響を受けたそうです。同じくアメリカのインテリアデザイナー、チャールズ&レイ・イームズもそうですし。鮮やかな色づかいで有名な、ルイス・バラガンの建築も一度この目で見てみたいです。これは、メキシコに仕事をつくらないといけませんね(笑)。

画像: 北欧を愛するデザイナーが語る、マリメッコとフィンランドの魅力

鈴木マサル
多摩美術大学染織デザイン科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立、2002年に有限会社ウンピアット設立。2005年からファブリックブランド「OTTAIPNU(オッタイピイヌ)」を主宰。自身のブランドの他に、2010年よりフィンランドの老舗ブランド「マリメッコ」のデザインを手がけるなど、国内外の様々なメーカー、ブランドのプロジェクトに参画。東京造形大学教授、有限会社ウンピアット取締役。

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