日本とはまったく文化が異なる少数民族の世界に物怖じせずに飛び込んで行く彼女だが、そこまでアフリカに魅了されるのはなぜなのか。幼少から憧れていたというアフリカ人への熱い思いや、度重なるアフリカへの旅を通じて身につけてきたコミュニケーション術などについて聞いた。
文:冨手公嘉 写真:豊島望
「マサイ族になりたかった」。引きこもりの10代から旅する写真家に
OnTrip JAL編集部(以下、JAL):アフリカには小さい頃から憧れがあったのですか?
ヨシダナギ(以下、ヨシダ):5歳の頃に、テレビでマサイ族を見たんです。黒々としたからだに原色の衣装をまとって、ヤリを持って飛び跳ねる姿が強烈に印象的で。いつか自分もマサイ族になりたい、なれると信じていました。でも当然肌の色は変わらず、10歳で夢はあっけなく打ち砕かれました。
JAL:もともと引きこもっていて、あまりアクティブな性格ではなかったと別のインタビューで拝読したのですが。
ヨシダ:そうですね。10代の頃は、海外に行きたいという気持ちもまったくなくて。中学時代は周囲との友人関係が上手くいかず、21歳のときに実家を出るまでは、ネガティブなことばかりが頭に浮かんで家に引きこもっていました。
JAL:そんな「引きこもり」で「ネガティブ」だったヨシダさんと、地球の裏側まで一人で行ってしまう、いまのヨシダさんとのあいだには、かなりの開きがあるように思えますね。
ヨシダ:外に出るきっかけというか、生きることの楽しさを知ったのが、初めて実家を出て一人暮らしを始めたとき。それまでは掃除も洗濯も料理もしたことがなかったので、生きていくために必要な家事をするだけで、毎日が新しい発見の連続でした。「人生ってまだまだ知らないことがあるんだ! 捨てたもんじゃないかも?」っていう。それをきっかけに、だんだんとネガティブなことを口に出さなくなっていったんです。
JAL:アフリカに行き始めたのはどういったきっかけからですか?
ヨシダ:最初のきっかけは仕事のスランプでした。当時イラストレーターとして活動していたのですが、描けなくなってしまったんです。そこで「人生観が変われば、もう一度描けるのでは」と思い、一念発起してタイに旅行することに決めました。そのとき記録用に一眼レフを買ったことが、いまの仕事につながっています。
ただ、タイにはじまり、カンボジア、ベトナムとアジア圏を何か国か巡ったのですが、感情を強く揺さぶられることがあまりなくて。アジア圏は日本での日常の延長にあるなと感じました。それで、幼少期からずっと憧れ続けたアフリカに行ってみようと。まったく英語ができなかったので不安もありましたが、あまり細かいことは気にせずに、国内の旅行代理店を通じてエチオピアに一人で行くことにしました。
JAL:初めてのアフリカはどうでしたか?
ヨシダ:いま思い返せば、最初の旅がいちばん穏やかだったかもしれないですね。英語がまったく話せない私を前に、ガイドは苦笑いしながらも、ひとこと英単語を話すだけで褒めてくれて。自分の言葉で意志を伝えられない不便さはあったものの、それ以上に「英語が話せなくても人と仲良くなれるんだ!」という発見が楽しかったです。しかも憧れのアフリカ人がそこら中にいて、ハリウッドスターにでも囲まれているようなはしゃぎっぷりでした(笑)。
JAL:少数民族の方たちとのコミュニケーションは上手くいったのですか?
ヨシダ:写真を撮らせてもらうことはできましたが、撮る人と撮られる人のあいだの壁は大きくて、すぐに仲良くはなれませんでした。私のことを「物珍しさからアフリカに来た白人」としてしか認識してもらえなかったんです。でも、初のアフリカでしたし、リベンジしようと思って帰路につきました。
自分を受け入れてもらうには、まずは自分が相手の文化を受け入れること
JAL:それから幾度となく旅するなかで、どうやってアフリカ人や少数民族と仲良くなっていったのでしょうか?
ヨシダ:難しいところですね……。基本的に彼らは自分たちの肌の色を誇りに思っているのですが、それゆえに白人から迫害されてきたという歴史と記憶は根深いものです。だから本音であっても、「あなたたちの肌の色に憧れている」とは安直に言えないところがあるんですね。
じつは私は日焼け止めを塗らないのですが、それは現地の人に対して失礼だと直感的に感じていたからでもありました。するとあるとき現地の人から、「なぜナギは他の人のように、日焼け止めを塗らないの? 長袖を着ないの?」と質問されたんです。そのときにやっと、「私はあなたたちに憧れているから」「黒い肌かっこいいじゃない!」と伝えることができました。そのおかげで「やっぱりこいつ、本気で俺らのこと好きなんだ!」と、他の観光客とは違うと認識してくれたようでした。
JAL:ヨシダさんといえば、日本ではなじみのない現地の食べ物に積極的にチャレンジしてコミュニケーションしていく姿が、テレビで「クレイジー」だと紹介されることが多いですね。
ヨシダ:現地の人々は、観光客が本当に彼らをリスペクトしているのかを見極めようとしてきます。少数民族は特にその傾向が強いです。私は、彼らが出してくれる食べものはどんなものでも食べます。「知りたい」という好奇心から食べているだけなのですが、マズくてもおいしくても、食べて反応を示せば、彼らは「自分の文化を受け入れている」と感じてくれるようです。
JAL:少数民族の方を撮影するときに、ご自身がその民族の伝統的な姿になられることも、彼らの文化を知りたいからなんですね。
ヨシダ:はい。私にとってアフリカ人は、ガイドであっても少数民族であっても、皆憧れの人なんです。でも彼らにとっては、自分たちより肌の色が白い人は皆「白人」。しかも「みんな同じ顔だ」って言うんです。そのなかで、「ナギっていたよね、あいつが一番だよね」っていうふうに、彼らの歴史に残りたいというか(笑)。自己満足かもしれませんが、「ナギは特別な白人だったね」と、彼らに言われるようになりたい。憧れる人たちにとっての特別になりたいんです。
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