現在24歳の彼女が、はじめて海外遠征を経験したのは中学3年生、15歳のとき。親元を離れ、チームメイトとともに訪れたイギリスでの経験は、もともと海外に強い興味を持っていた彼女の胸を躍らせたといいます。以来、コンスタントに海外での試合に出場し続け、いまでは月の半分以上を遠征先の海外で過ごしているとのこと。
決して身軽とはいえない車いすでの旅ながら、旅の話をする上地さんの様子は身軽そのもの。試合の日程が詰まっていて、身体的にもハードな日々のなかで、そうした姿勢をキープできる秘訣は何なのか。テニスを通して世界を見てきた彼女だからこそのこだわり、そして車いすで旅することの魅力を聞きました。
取材・文:片貝久美子 撮影:Lori Barbely 編集:原里実、佐々木鋼平
ディズニーランドで列に並んだときのワクワク感が新鮮だった。
JAL:上地さんは現在、シーズン最終戦の『NECシングルスマスターズ』に出場するためアメリカ・フロリダ州オーランドに滞在中ですが(※取材時)、オーランドの街の印象はいかがでしょう?
上地:今回、初めてオーランドを訪れました。試合会場のUSTA National Campusはノーナ湖という大きな湖の近くにあって、滞在しているホテルの周辺はまるで別荘地みたいです。
すごく珍しい鳥がいたり、鹿が放牧されていたり、会場に向かう途中も普通にイタチが横切ったり(笑)、全体的に自然が豊かな場所といった印象ですね。
街の中心には、レイクエオラパークという大きな公園があるんですが、ここもそれほど人は多くなく、時間がゆっくりと感じられるような落ち着いた雰囲気がありました。
JAL:ふだんの遠征では、あまり遊びに行かないという上地さんですが、今回は『ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート』に行かれたと聞きました。
上地:そうなんです!(笑) パーク内をまわったり、パレードを見たり、とても楽しかったのですが、見たいものがたくさんあって、まったく時間が足りませんでした。
ディズニーのキャラクターのなかでは、スティッチが好きなんですけど、今回スティッチに会えてそれはとってもうれしかったです(笑)。
JAL:『ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート』は、パーク内のすべての場所がバリアフリーだそうですね。対応も日本とアメリカでは違いましたか?
上地:日本と違って、ほとんどのアトラクションが車いすのまま列に並べたり、利用できたり、園内での行動がとてもスムーズだったのが印象的でした。
日本だと、車いすの人用にアトラクションの詳細な説明があり、体調などの確認、非常時の避難方法など、乗る直前に10分ほどかけて、細かくいろんなことをすり合わせます。
安全のためにはとても大事なことですが、はじめて乗るアトラクションなのに、「ここでこういう展開が来るので注意してください」と先に聞いてしまうのは、少し残念な気持ちになります(笑)。
また、車いすの人だけ別ルートでアトラクションまで案内してもらえることも多いのですが、アメリカでは一般の方と同じ列に並べたので、待ち時間のワクワク感がとても新鮮でした。
JAL:たしかに待ち時間も含めて、アトラクションの楽しさってありますよね。これから行ってみたい国や場所はありますか。
上地:いっぱいありますが、近いところだと2019年はイスラエルに遠征するかもしれなくて、それが楽しみです。
『リオデジャネイロ2016パラリンピック』や、先日の『2018年アジアパラ競技大会』で行ったインドネシアもそうですが、テニス選手じゃなかったら行く機会がなかった国に行けるのがすごくありがたくて。
せっかく行くのだから、行った先でできること、感じられることをたくさん経験したいなと思っています。
自分から「こうしてほしい」って伝えると、相手は想像以上に受け入れてくれる。
JAL:車いすの方のなかには、海外旅行を躊躇してしまうケースも多いと思います。そうした方々に向け、たくさんの国を旅してきた上地さんからメッセージをお願いします。
上地::海外に行くとなると、準備の段階からいろいろ気になることがたくさんあると思います。私自身、試合でもプライベートでも、行く前に不安を感じたことがないわけではありません。
でも実際に行ってみて、後悔したことは一度もないんですよ。逆に一度経験したことでまた行きたくなって、他の国はどうなんだろう? どんな人に会えるんだろう? おいしい食べ物に出会えるかな? って、考えるだけでも楽しいんですよね。
海外に行くとなると、いまでもワクワクする気持ちが湧いてきます。たった一度の旅が、次の旅のきっかけにもなると思うので、ぜひ一度は経験してみてほしいなと思います。
JAL:行く前は不安だったけど、行ってみたら意外とそうでもなかったという実体験はありますか?
上地::きっと、一番不安なのは言葉の壁だと思うんです。私も最初は全然言葉がわからなかったので、大会のスタッフさんに頼みたいことがあっても言えなくて。文化が違うので、どこまでお願いしていいのかもわからないですよね。
でも、あるとき勇気を持って伝えてみたら、「もちろん、全然いいよ」って。たぶん相手の方も、車いすの人に対してどういったサポートをすればいいのか、わからないことが多いと思うんですよ。
でも、私たちのほうから「こうしたい」「こうしてほしい」って伝えてみると、相手はこちらが思っている以上に受け入れる気持ちを持ってくれているんだなって。
なので、まずは片言でも何でも、自分の気持ちを伝えてみるのが大切かなって思います。
JAL:最後に上地選手の次の旅について教えてください。
上地:次は、2019年1月に開催される『全豪オープン』に出場するため、メルボルンに行きます! 皆さま、ぜひ応援をよろしくお願いいたします!
上地結衣(かみじ ゆい)
1994年生まれ。11歳から車いすテニスをはじめ、2014年に、女子車いすテニスダブルスで史上3組目となる年間グランドスラムを達成。女子車いす史上6人目のグランドスラム制覇であり、21歳135日での達成は、「女子車いすテニスにおける最年少での年間グランドスラム」としてギネス世界記録に認定されている。
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