都城最古の焼酎蔵「柳田酒造」で出会う伝統と挑戦の酒造り
都城の焼酎文化の奥行きに触れようと、都城最古の蔵を訪ねました。
「柳田酒造」は、大規模な蔵とは対照的に、小さな蔵だからこそ可能な繊細な酒造りを体現しています。
宮崎県は本格焼酎の出荷量日本一を誇り、なかでも都城市は芋焼酎の一大産地として知られています。
温暖な気候と良質なさつまいもの生産地という条件に恵まれ、焼酎は特別な酒ではなく日々の食卓に寄り添う存在。市内には全国的な銘柄を持つ大きな蔵もありますが、その一方で、原料や工程に徹底的に向き合う小規模な蔵が独自の個性を磨いてきました。
柳田酒造がとりわけ重視しているのは「蒸留」です。
焼酎造りの全ての工程が重要であることを前提としながらも、最終的な酒質を決定付けるのは蒸留にあるといいます。本格焼酎のもろみには原料由来の成分が豊富に含まれており、熱のかけ方ひとつで香りや味わいは大きく変化していきます。エンジニアとしての経験を持つ蔵元は、蒸留機を自らカスタマイズし、蒸気の状態を緻密に操ることで、原料の個性を最大限に引き出します。まるで香りを設計するかのようなその手法に、思わず「香りを導く匠」という言葉が浮かびます。
その根底にあるのは「原料由来の味わい」。常に原料と向き合うところから始まります。
麦は麦らしく、芋は芋らしく。
その土地で育った農作物の個性を、酒という形に映し出す。
麦焼酎にはトーストやカカオ、クッキーのような香ばしさを、芋焼酎には芋を食べたくなるような甘さを——そんな明確な設計思想が、酒質の輪郭を形づくっていました。
芋焼酎はとりわけ品種の違いが表れやすい酒で、特に芋の品種によって香りが大きく変わるのも特徴のひとつ。オレンジ色の果肉を持つ「ハマコマチ」からは紅茶やラベンダー、南国の果実を思わせる華やかな香りが立ち上がり、「紅はるか」からは焼き芋や甘栗のような温かみのある甘い香りが現れます。
さらに、収穫した芋はすぐに仕込まず、約40日間寝かせて熟成させることで香り成分が増し、より甘く豊かな酒質になるのだそうです。時間をかけて原料の可能性を引き出すこの手法にも、香りを重視する蔵の哲学が表れていました。
その思想を象徴するシリーズが「pentatonic(ペンタトニック)」です。
現代的で香りの表現に重きを置いた一本で、都城の王道ともいえる重厚な芋焼酎文化を踏まえつつ、軽やかで新しい方向性を示しています。蒸留の過程で現れる香りの変化を見極めた地点で抽出し、さらに樽熟成を施すことで、まるで洋酒のような広がりのある香りに仕上げられていました。
焼酎日本一のまちで出会ったのは、伝統を守ることと革新することを同時に選び続ける蔵の姿でした。
小さな蔵に息づく静かな熱量は、この土地に流れる焼酎文化の奥深さを感じさせてくれました。
都城を旅するなら、その酒造りに込められた思いに触れながらおいしい一杯で乾杯してみてください。
柳田酒造
| 住所 | : | 宮崎県都城市早鈴町14街区4号 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0986-25-3230 |
| URL | : | https://www.yanagita.co.jp/ |

焼酎のまちとしても知られている都城。市内には4つの焼酎蔵がある

市内で最古の焼酎蔵「柳田酒造」を訪問。写真は、酒屋が選ぶ焼酎大賞2025“第1位”「千本桜 熟成ハマコマチ 2025」、「pentatonic DELFIN」

敷地内には、酒造りに欠かせない地下水がある。ミネラル豊富な伏流水に恵まれた土地だ

都城は芋の品種改良が盛んでもある。それが焼酎造りの礎となっている

焼酎造りは、発酵、蒸留、熟成などさまざまな工程がある。樽熟成による風味の変化も魅力のひとつ

もろみ造りにより、アルコールを生み出す

柳田酒造では、海外市場を見据えた焼酎造りにも取り組んでいる

現在は試飲や講座の会場となっているが、もともとは当主の実家だったという

香りを追求する柳田酒造。工程一つ一つに工夫を重ね、飲む人を魅了する芳醇な香りを生み出している
薩摩の記憶が残る、歴史と風土が染み込んだ大地「都城の街歩き」
さまざまな表情を持つ、都城の街歩き。
江戸時代から明治時代にかけて、町割りとともに整えられた石の文化はその象徴のひとつです。
都城は遠い昔の火山活動がもたらした大地の上に築かれ、近郊では良質な溶結凝灰岩が産出されました。石垣や石蔵は暮らしの中に取り込まれ、鹿児島から伝わった石工の技術によって、何気ない路地の石積みや小さな蔵も、この街の景色に溶け込んでいます。
石垣の高さからは、武家屋敷が整えられた時代の身分や家格がしのばれ、一帯には当時の面影を残す場所もあります。少しずつ姿を消しつつあるものの、いったん失われれば同じ形では戻らない、都城に欠かせない風景のひとつです。
そんな石の記憶を今に伝える場所として立ち寄ったのが、蔵を改装したカフェ「日向時間 島津邸石蔵カフェ店」。
内部には茶道具や菓子が並び、静かな時間が流れています。
都城はお茶の産地でもあり、おいしいお菓子とともに市内の茶園で作られた日本茶を楽しめます。
ここはかつての薩摩藩島津邸跡(都城島津邸)の敷地内。石の蔵のしっとりとした空気の中でお茶を楽しみながら、この土地の歴史に思いを馳せます。
さらに足を延ばしたのが「NAギャラリー」。
約70年前に奄美大島からこの地へ渡った人がもたらした大島紬の技が、いまも静かに受け継がれている場所です。
ギャラリーであると同時に、企画からデザイン、制作までを一貫して手がける場所です。作品はその場で購入することもできます。
極細の先染め糸を使い、1日にわずか20センチほどしか織り進められないという繊細な作業を経て生まれた布は、織り上げた後にさらして天日干しされ、やわらかくしなやかな風合いへと仕上げられます。
奄美では、大島紬は絹で仕立てられるものですが、ここでは綿とシルク、それぞれの長所を生かした布づくりにも挑戦しており、伝統に根ざしながら新しい表情を見せてくれます。
ひっそりと本物を守り続け、この土地の感性とともに息づいてきた美しい創作が見られる場所でした。
こうして歩いてみると、都城が歴史的に薩摩藩の影響を色濃く受けてきた街であることがよくわかります。隣接する鹿児島県との共通点も感じられ、地理的な近さだけでなく、人や文化の往来によって育まれた気配が、石の風景や茶、織物といった形で今も随所に残っていました。
派手な見どころが連なるわけではないけれど、静かに歩くほどに土地の豊かさが見えてくる。
都城の街歩きは、そんな時間の重なりを一つ一つ拾い集めていく旅でした。
石蔵・石垣保存プロジェクト
日向時間 島津邸石蔵カフェ店
| 住所 | : | 宮崎県都城市早鈴町18-5 都城島津邸 内 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 070-8462-5269 |
| 営業時間 | : | 10:00~16:30 |
| 定休日 | : | 月曜日(祝日の場合は火曜) |
| URL | : | https://hyugajikan.com/shimazucafe/ |
NAギャラリー(東郷織物)
| 住所 | : | 宮崎県都城市鷹尾4-15-4 |
|---|---|---|
| 電話番号 | : | 0986-21-3153 |
| 営業時間 | : | 14:00~17:00(要予約) |
| 定休日 | : | 日曜日 |
| URL | : | https://www.togo-ori.com/ |

都城市ぶらり散策、ディープな体験はまず石垣・石蔵めぐりから

笠木を乗せた石垣は格式を感じさせ、かつて高い位の武士が住んでいたことを物語る

何気なく建つ石蔵は、今も市の施設として現役で利用されている

表面仕上げにもバリエーションがある。「有孔」と呼ばれる無数に穴をあけた意匠は市内でも珍しい

益山建設石蔵は後年、庇を加えた独特な建築。時が経ち、ますます味わいのある風情を漂わせる

古い石垣と新しい石垣が並ぶ光景も見られた

武士たちの馬術稽古場だった「馬場跡」が市内中心部に残る。石は切り出され、荷馬車で運ばれたと伝えられ、馬の飼育の歴史は現代の都城の畜産文化にも受け継がれている

都城島津邸内の石蔵は、趣あるカフェとして利用されている

米蔵時代の名残で米俵の袋が破れないよう、壁には丸太が使われている

都城はお茶どころでもある。市内の「大石製茶」で作られたやぶきた茶を味わった

季節の和菓子とともにたのしむ、都城煎茶

最後に立ち寄ったのは「NAギャラリー」。地元作家の作品やアートが並ぶ、落ち着いた空間

都城で受け継がれる大島紬。緻密な糸が伝統の美しさを支える

奄美大島から伝わった伝統。併設の工房では、職人たちが織物を織り上げている

先染め技法で生まれる独特の色合いと模様が魅力

じっくり丁寧に紡がれる色と柄。職人の集中力と時間が織り込まれる

緻密な柄を表現するため、職人は針で微細な絵柄の調整を行う。仕上げに至るまで、職人の繊細な手仕事が途切れることはない

伝統の色柄に加え、華やかな明るい色合いの商品もある

現代向けのデザインも多く、目に優しい色合いで親しみやすい
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