![画像: おじゃったもんせ!冬でもあったか鹿児島で薩摩の志士と絶品グルメに出会う旅(前編)](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783489/rc/2019/12/18/b65ff012bf0c2755d59f4691e7a14485ea9c015a.jpg)
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。
「西郷どん」で一躍注目を浴びる街、鹿児島へ。
鹿児島へ向かう旅のスタート。1便はまだ暗く、飛び立つころにようやく朝日で明るくなってきました。出発の前日は満月で、朝焼けが広がる前の満月も見ることができました。
鹿児島空港からは空港バスで鹿児島中央駅へ。中央駅は大きな観覧車がランドマークの駅で、今回の旅ではこの駅を中心にお出かけします。
ホテルに荷物を預けたらすぐに出発!鹿児島中央駅から電車に乗って「伊集院駅」へ向かいます。薩摩焼の工房を見に行くのです。
伊集院駅には騎馬像が!この騎馬像、どこかで見たと思ったら…!(詳しくは写真の解説で)
鹿児島旅の初日は「薩摩焼の里」へのショートトリップからスタートです。
羽田から飛んだ飛行機では、朝焼けと満月の競演を楽しめました。
今年は冠雪が少ない富士山。朝日でピンク富士に。
鹿児島では「鹿児島中央駅」を基点にまわります。駅の屋根に観覧車が生えてます!
九州各所への在来線や新幹線など旅の起点にもなっている中央駅。「みやげ横丁」のお土産屋さんも充実。
「さつまあげ」のお店が並んでいました。1個から購入可能です。
みやげ横丁内には座れるフリースペースもあります。ちょうど揚げたてアツアツをおやつに。
創作さつまあげが多い「玖子貴(きゅうじき)」の「やきもろこし」。品評会で県知事賞を受賞した人気商品。
小腹を満たしたら電車で移動開始。薩摩焼窯元が多く集まる美山へ向かいます。
九州の電車はとにかくデザイン性が高い!乗車時間は数十分だけど、それでも乗りたい九州の電車。
なんと革張りのヘッドレスト。普通に通学の学生さんも乗る電車がコレ。九州電車のポテンシャルがすごい。
日置市にある伊集院駅下車。ここからは路線バスへと乗り換えです。
駅前の観光案内所で美山の冊子をもらい、距離感とか見どころを教えてもらいます。とても親切でした!
駅前には薩摩国の武将である島津義弘公の騎馬像。朝鮮から連れ帰った陶工職人たちを保護し、薩摩焼の制作にあたらせました。それにしてもこの騎馬像、見たことあるなぁと思ったら…。
なんと!熊本県菊池市で見た「菊池武光騎馬像」とそっくり!それもそのはず製作者が同じ。彫刻家の中村晋也氏でした。(左:伊集院駅前島津義弘騎馬像、右:菊池市菊池武光騎馬像)
JRから路線バスに乗り換えて薩摩焼のふるさとを見に行く。
伊集院駅からはバスに乗り換え。そこから向かう「美山」へは、空港から乗り継ぎがうまくいけば 鹿児島中央駅からバス一本でも行くことが可能。ただし市内は渋滞混雑が予想され、時間通りに着かないこともあります。
最初の訪問は「沈壽官窯」。どうしても行きたかった工房です。
日本国内だけでなく海外にも名を知られるようになった「薩摩焼」。
薩摩藩の島津義弘公が朝鮮から連れ帰った多くの技術者や陶工たちにより、この地に根付いた工芸です。朝鮮陶工たちはこの山奥にある小さな集落で開窯し、地場の材料を用いて世界に名をとどろかせるほどの豪華絢爛な焼き物を完成させました。400年もの間受け継がれており、現代にその技を伝えられてきています。
「白薩摩」は藩のための御用品。ベースの白に繊細な絵付けを行い装飾や彫りを施し、主に調度品として作られます。
一方「黒薩摩」は日常使いができるものとして、民衆の生活用品として作られました。シンプルですが黒々とした艶が美しく、使いやすさや親しみやすさに人気があります。
沈壽官窯では、白、黒ともに製造に携わっていて、工房ではその両方の作業工程を見ることができます。
1時間に1本のバスに乗り込みます。向かうは美山バス停。
美山地区は朝鮮からやってきた陶工たちが移り住んだ場所。いつしか多くのクラフト工房やカフェなどが集まる場所となりました。
「沈壽官(ちんじゅかん)窯」。美山バス停の目の前という立地。400年の歴史を継いで、現代にもその技術を伝えている 薩摩焼の窯元です。
立派な門をくぐり中へ。今回は製作現場の見学をします。ろくろ場や絵付けの現場などを見ることができます。
立派な蔵造りの沈家伝世品収蔵庫では代々の貴重な作品や文書、窯元ゆかりの品などが収められています。手入れの行き届いた お庭も美しく四季折々の風景を見せてくれます。
磁器のような白さを持つのが「白薩摩」。繊細で華やかな絵付けが施され、藩御用達として作られました。
「黒薩摩」は、主に庶民が使う食器、日用雑器として作られました。
グレー色の土から作られるのが白薩摩。現在はガス窯で焼かれ、高めの温度で焼きしめられます。
一方、黒薩摩は赤い色の土から生まれます。鉄分を多く含む土を使い、こちらも高めの温度で焼くため素朴な風合いで頑丈な器が出来上がります。
白薩摩に彫りを施す作業。濡れたタオルで水分を調整しながらの作業。絵付けだけでなく彫りによる凹凸やデザインをすることでより優美で豪華、気品あふれる調度品へと仕上がります。
白薩摩の香炉。寸分違わぬ精工な透かし彫り。絵付けもまるで高級な着物を見ているようです。
網かごを編んだような柔らかさを持つ彫り。この繊細な技を詰め込んだ白薩摩は1867年のパリ万博で薩摩藩ブースに展示されました。それ以降ヨーロッパでは「SATSUMA」と呼ばれ、一大ブームが起こります。
白薩摩の表面のうわぐすりに現れる細かいひび割れは「貫入(かんにゅう)」と呼ばれます。この計算できないひびを個性と感じたり質感・風合いとして鑑賞され、白薩摩独特の美しさと考えられています。
黒薩摩はどっしりとして艶っぽく、シンプルながらも存在感を放ちます。手になじむような温かみのある器です。
沈壽官窯では白薩摩、黒薩摩の両方を作っています。江戸時代までは黒薩摩が主流でした。
焼酎の器「そらきゅう」。この酒器は飲み干すまで置くことができません。「そら!」と注がれたら「きゅう」っと飲まなくてはいけない、そんなネーミング。鹿児島らしいお土産になりそうですね!
敷地内にある登り窯。年に3度も火入れを行うと聞くと、沈壽官窯の規模の大きさを感じます。台風などで倒木した松を使い1,200度まで上げ、黒薩摩を焼き上げます。登り窯は一番下の窯から徐々に上の窯へ熱を伝えていく、エコな構造になっています。
工房の棟。全国から集まった若い職人さん25人が働きます。薩摩焼の全てを見て、感じることができました。
カフェや茶畑や神社。山間の美しい街・美山散策。
美山は薩摩焼の窯元が集まっていると同時に、素敵なカフェも多く、ゆっくり時間を過ごすのも楽しいです。少し歩くと茶畑が広がり、その先には古い神社もあります。
焼き物だけでなく色んなクラフト工房や雑貨店などもあるのでお買い物もできますし、歩いて行ける範囲に名所旧跡などもあります。
バスは1時間に1本という少なさですが、その分中心地とは違う静かな町並みやたっぷり時間を使いたいカフェなどが沢山あって、わざわざ行きたい場所。
薩摩藩の財政を支え繁栄の礎ともなった薩摩焼きの里への、鹿児島中央駅からの日帰り旅でした。
カフェ「夏ノ庭」でランチします。
シックな外観でした。
カフェと雑貨。テイクアウトドリンクもあって、コーヒー片手に美山散策というのもいいですね。
野菜がたっぷり乗っかったカレー。器はもちろん薩摩焼。
かぼちゃ入りのココナッツベースカレー。かぼちゃが濃度を感じさせるマイルドなルー。
大人っぽい空間、シンプルな内装でゆっくり過ごせます。楽しそうにおしゃべりしながらランチしている人が多かったです。手作りケーキも美味しそうでしたよ。
沢山の工房の作品が一度に見られる「美山陶遊館」へ行きました。
「ろくろ」や「てびねり」の陶芸体験ができます。土を感じながら美山の技を楽しく学べます。
この美山陶遊館の中にもひとつ工房があります。それが「モダン薩摩」。薩摩焼の中にもカラフルな釉薬を使った現代のデザインが表現できるんですね。
帰りのバスまでの短い時間を使って、美山の少し奥まで歩きます。ここは「玉山神社」。
長い坂の上には二の鳥居。この神社は朝鮮から連れてこられた陶工たちの心のよりどころとして、長年この地で大切にお祀りされてきました。
茶どころ鹿児島らしい風景。大きな茶畑が広がる中を進みます。
背の低い鳥居から苔むした参道を通り社殿へ。
もともとは朝鮮風の建物であったとのことですが、現在は大正時代に建て替えられた和風の神社となっています。
美山を歩いていると、脈々と受け継がれている絶え間ない努力の結晶の息づかいを感じることができます。海外で高く評価を受け輸出品として数多く作られた薩摩焼は、薩摩藩の財政の礎となりました。そしてそれらは伝統の技として今も鹿児島の代名詞になっています。
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