
お話を聞いたのは、一般財団法人 日本気象協会所属の気象予報士である北原さん(写真中央)と安齊さん(写真左)、JALのパイロットの相澤さん(写真右)。
関連記事
夏より冬の方が時間差が大きい? フライト時間を左右する空の大河

上空約1万mには、地上では感じることのできない強い風の流れがあります。「ジェット気流」と呼ばれるこの空の大河は、飛行機の速さに大きな影響を与えていて、季節によってフライト時間が変わる要因のひとつ。夏は北寄りで弱く、冬は南寄りで強まるなど時期によって変わります。

相澤さん「特に冬は西からの風が強くなります。西へ向かうときは、向かい風との戦いで時速500km程度しか出ないときも。でも東に向かって帰るときは、この風に乗って時速900km、ときには1,000km近くまで出ることもあるんですよ」

「時刻表を見てもわかるくらい到着時間の差があります。羽田~千歳間で、夏と比較すると冬は、行きと帰りのフライト時間の差が大きく、羽田と新千歳間では行きのほうが10分から15分ほど早く着きますね」と北原さん。

すると、安齊さんからパイロットの相澤さんにこんな質問が。
安齊さん「ジェット気流は、南北に移動することもあるとのことですが、航路を変えて、よりいい風を探したりすることはあるのでしょうか?」
相澤さん「実は航路はある程度決められているんです。その代わり、高度でうまく調整しています。例えば冬の時期の宇部行きの便では、行きは18,000フィート(約5,500m)、帰りは39,000フィート(約12,000m)と、ほぼ倍の高度差をつけて運航しました」
効率的なフライトのため、高度を変えて調節しているとは驚きです。
風と踊る!? 着陸のダイナミズム
飛行機が、着陸態勢に入る際、時々機首を斜めにして降りてくることをご存じでしょうか。これには理由があると相澤さんは説明します。

相澤さん「飛行機は向かい風で離着陸するのが基本なんです。横風が吹いているときは、風に流されないよう、いったん斜めに機首を向けて進入していきます」
この芸術的ともいえる着陸風景に、自称“航空オタク”の北原さんも「空港で見ていると、パイロットの技術に感動します。特に冬の新千歳は雪が舞い、北風が強い時期なので、ドラマチックな着陸シーンが見られますよ」と目を輝かせます。

北原さん「日本の空港は、その土地の風の特性を徹底的に調査して作られていて、滑走路の向きはその場所で最も多く吹く風向きで決まります。新千歳空港の滑走路は南北に配置されているのですが、これは新千歳ならではの特徴なんです」
空港ごとの特徴の違いは、離着陸にも大きく影響すると相澤さんは話します。
相澤さん「各空港にはそれぞれ特徴がありますが、南紀白浜空港は印象的な空港のひとつですね。地形の影響で気流が変化しやすく、着陸直前に気流が荒くなることもある空港です。滑走路もやや短めなので、パイロットには慎重な操縦が求められます」
パンダに会える「アドベンチャーワールド」やホエールウォッチングが楽しめる場所など、空港近くに観光地が多いのが魅力の南紀白浜空港。訪れる際は着陸シーンにも注目してみてください。
とっておきの景色が見たい!時間帯で変わるベストシート

iStock/yaophotograph
「左手には富士山がご覧いただけます」機内アナウンスでこんな案内を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。実は、フライトの時間帯や季節によって、絶景ポイントの見える席は変わってくるといいます。
北原さんは、羽田から新千歳へ向かう便なら左側の席がおすすめなんだとか。
北原さん「青森や下北半島、津軽半島、北海道の渡島半島など、絶景ポイントが目白押し。特に冬は樹氷に覆われた山々が美しいですよ」

相澤さんも「羽田に到着する便で南風が吹いているときは、東京の街並みが間近に見える絶景ポイントがあります。特に天気が良い日に、午後3時以前に北日本から帰ってくるときは右席から、午後3時以降は左席から、都心の街並みや『東京ディズニーランド』、『海ほたる』など、ランドマークを次々と見ることができます」と教えてくれました。
関連記事
飛行機雲が教えてくれる、明日の天気の秘密
真っ青な空に白く残る飛行機雲。ただの航跡かと思いきや、実はこれ、天気の変化を予測できるサインなのだそうです。

iStock/Photography_Swede
安齊さん「飛行機雲が長く残るのを見かけたら、天気の下り坂のサインかもしれません。上空が乾いているときは飛行機雲がすぐに消えてしまいますが、湿っているときは長く残ります。この湿り気が徐々に下降してくるので、数日後の天気の変化を予測できるんです」
相澤さんはパイロットならではの視点を教えてくれました。
相澤さん「私たちにとって飛行機雲は気流の状態を知る重要な手がかりになります。飛行機雲の形が乱れているときは、気流の乱れを示していることがあるので、特に注意を払います」
台風の目は上から見える? 知られざる台風の姿
台風が近づくと、多くのフライトが欠航になるイメージがありますが、その判断基準はどこにあるのでしょうか。

iStock/Elen11
相澤さん「特に気をつけるのは横風の強さです。滑走路に対して横から風が吹く状況で、特に雨で滑走路が濡れているときは、より慎重な判断が必要になります」
ここで北原さんから「昔は台風の上を飛ぶこともあったと聞きましたが、実際どうだったんでしょうか?」と興味深い質問が。
相澤さん「実は、温帯低気圧は高さがあるのに対し、台風は意外と縦に低いんです。かつて貨物便で飛んでいたときは、台風の上空を通過することもありました。台風の目は、まるで海面に大きな穴が開いているように見えたのを覚えています」
安齊さんも「台風の目がはっきり見えるということは、それだけ台風が発達している証拠。上空からの眺めはきれいかもしれませんが、そのぶん危険な状態だということです」と専門家ならではの見解を示しました。
知れば知るほど面白い、空の上の物語
飛行機の運航は、天気と密接な関係があることが見えてきた今回の鼎談。安全安心な空の旅のために、パイロットは常に気象状況を確認しながら、より最適なルートを選んでいます。

相澤さん「天気予報は私たちの重要な情報源です。それぞれの専門知識を活かしながら、より良いフライトを目指していければと思います」

予報士の安齊さんは「地上の気象予報と実際の上空での現象は大きく異なることがあります。パイロットの方々の実践的な経験から、私たち気象予報士も多くのことを学ばせていただきました」と話します。
季節や時間帯によって変わる空の表情や飛行時間の違いといった気付きは、空の旅をより一層楽しいものにしてくれるはず。次に飛行機に乗る際は、窓の外の景色にもぜひ注目してみてください。
日本気象協会が運用する天気予報専門メディア「tenki.jp」では、各地の天気予報を2週間先まで確認することができます。各地の観光スポットや空港の天気予報など旅行前・旅行中に活用できます。「tenki.jp」で天気予報を確認しながら快適な旅をお楽しみください。
tenki.jpはこちら
関連記事
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。