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お話を聞いたのは、一般財団法人 日本気象協会所属の気象予報士である北原さん(写真中央)と安齊さん(写真左)、JALのパイロットの相澤さん(写真右)。天気や空の様子に詳しい3人に、日本で見られる美しい気象現象をテーマにトークしてもらいました。
【気象予報士が厳選】日本で見られる神秘的な気象現象
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気象のプロフェッショナルである気象予報士のお二人が、日本で見られる美しい気象現象を厳選し、珍しさを星1から3つで独自にランクづけ。その仕組みと、出合うチャンスを逃さないためのポイントを聞きました。
珍しさ★☆☆:将来見られなくなる可能性がある珍しさ。オホーツク海の流氷
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ひとつ目は、北海道で見られる「オホーツク海の流氷」です。例年では1月下旬から3月にかけてオホーツク海沿岸に接岸することが多い、冬の風物詩。アムール川からオホーツク海に流れ出た淡水が凍り、風や海流によって運ばれてきた氷の群れが、知床半島から網走や紋別などの北海道東側の沿岸部に姿を現します。
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日本でも広く知られる現象ですが、実は世界的に見ても特別な価値を持っていると話す北原さん。
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北原さん「網走付近の緯度は、なんと地中海のモナコとほぼ同じなんです。温暖なリゾート地として知られるモナコと同じ緯度で流氷が見られることは、世界的に見ても大変珍しい。時期と場所を選べば比較的確実に観察できますが、地球温暖化の影響で流氷の量が減少傾向にあり、この貴重な自然現象はいずれ見られなくなる可能性もあります。ぜひ、早めに足を運んでいただきたいですね」
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そんな流氷は、上空からも見られるそうで…。
相澤さん「女満別空港に向かう途中や離陸直後では、高度を下げると客室からも流氷が見えます。晴れた日に上空から見る流氷の様子は圧巻です」
流氷は風に乗って移動するので、いつも接岸しているわけではありません。1月の後半から3月前半が一番のおすすめ。長い年だとゴールデンウィークぐらいまで氷が残ることもあります。
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珍しさ★★☆:宝石のような輝きを放つ。ジュエリーアイス
続いても、北海道で見られる光景です。十勝川から太平洋へと流れる氷が、波に削られて丸くなり海岸に打ち上げられる「ジュエリーアイス」という現象。太陽の光を浴びると宝石のように輝くことからその名がつきました。
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この現象が見られるのは、北海道の中でも特殊な気象条件が重なる十勝地方だけだといいます。
安齊さん「ジュエリーアイスが有名な豊頃町は太平洋側に位置し、雪が比較的少なく、強い冷え込みが特徴のエリア。氷点下20℃、時には30℃近く冷え込むことで川の水が凍り、それが海に流れて波にもまれていくうちに砕かれて丸くなり、透明感のある氷ができるんです。このような厳しい寒さときれいな水、澄んだ空気という条件が揃うのは、日本では北海道十勝地方だけで、世界的に見ても非常に珍しい現象です」
SNS映えすることもあり、毎年開催されるガイドツアーは大人気。朝と夕方では太陽の位置が異なることで全く違う表情を見せてくれるので、1日かけて観察することをおすすめします。時間帯によって変わる氷の輝きを楽しめます。
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珍しさ★★★:Wで見られたら幸運の兆し!? ダイヤモンドダスト&サンピラー
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iStock/wataru aoki
珍しさ星3つの現象は、厳寒の朝に見られる「ダイヤモンドダスト」です。空気中の水蒸気が氷の結晶となって舞い降り、太陽の光に照らされると、まるでダイヤモンドのようにキラキラと輝きます。さらに特別な条件が重なると、氷の結晶に反射した太陽光が空に向かって伸びる光の柱「サンピラー(太陽柱)」が出現することも。冬の早朝、静寂に包まれた雪原で見られる幻想的な光景です。
氷点下でしか起きないこの現象について、気温はもちろんですが、空気の状態がとても重要だといいます。
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上富良野町で見られたサンピラー
北原さん「氷点下20℃程度の強烈な冷え込みと快晴と無風という条件がポイント。さらに空気が澄んでいないと見ることができません。このような厳しい条件が揃うのは上川地方や十勝地方など北海道内陸部で、旭川周辺やさらに北に位置する名寄(なよろ)周辺が有名です。清涼な空気の中、天に向かって立ち上る光の柱と雪原が織りなす光景は神々しい美しさです」
標高の高い山や気温が下がるスキー場でも時々遭遇できるそうですが、相澤さんは、空港からも目視したことがあると話します。
相澤さん「女満別空港の離陸前に滑走路でダイヤモンドダストを見ました。とてもきれいでしたが、パイロットとして気象現象は常に注視しています。離陸の性能に影響することもあるので、隣の操縦士と『きれいだね』と声を掛け合い、離陸に問題がないという認識を共有してから運航しましたね」
珍しさ★★★:観察するのが最も難しい気象現象。グリーンフラッシュ
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iStock/Paul Wilson
「グリーンフラッシュ」とは、太陽の出や入りの瞬間に、太陽の上端が一瞬緑色に輝いて見える大気光学現象です。大気による光の屈折・散乱が織りなす自然のマジック。地平線に沈む(または昇る)太陽を遮るものがない場所で、空気が澄んでいるときにだけ観察できます。
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時期は問わないものの、グリーンフラッシュは気象現象の中でも「最も観察が難しい現象のひとつ」だそう。
安齊さん「空気が澄んでいて、遠くまで見通せることが重要。石垣島や小笠原諸島など温かい地域から、日本海側、北海道の道東のような寒冷地まで見られます。ただし、温かい海の上に冷たい空気が流れ込んだり、その逆のパターンがあったりするときに、さまざまな条件が重なってほんの一瞬だけ現れるので、その一瞬を捉えることは至難の業です」
温暖な地域から寒い地域まで幅広く見られるチャンスのあるグリーンフラッシュ。旅先で美しい夕日を眺める際は、意識してみてください。
珍しさ★★★:実は国内からも見られるチャンスあり。オーロラ
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iStock/Satoru S
“地球最大級の光のショー”とも呼ばれている「オーロラ」。地球の大気に太陽から飛来した荷電粒子が衝突することで発生する発光現象です。オーロラの観測には、地理的な条件だけでなく、太陽活動の周期も大きく影響するため、日本国内でも見られる可能性があります。
北原さん「北海道ではカメラに収められたり、時にはわずかながら肉眼で見えたという報告もあります。北海道では「低緯度オーロラ」といい、北極や南極で見られるような有名な緑のオーロラではなく、赤いオーロラです。地磁気の関係で、同じ緯度の他の地域より見られやすい条件が揃うことがあるんです。ただし、太陽活動の11年程度の周期に関係があるので、毎年見られるものではありません。定期的に見られる場所としては、アラスカやカナダなどもっと北の緯度が高い地域に行く必要があります」
そんな珍しいオーロラも、かつて機内から見えたと話します。飛行機に乗っていると、思いがけない珍しい気象現象と遭遇するようです。
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相澤さん「若い頃ヨーロッパ便を飛んでいたときに、ロシアの北の方の上空で見たことがあります。飛行機の中から見えるオーロラは、地上とはまた違った眺めになります。上を見上げる感じではなく、横から垂れ下がっているような感じで光のカーテンがゆらゆらと揺れて見えるんです」
こう話す相澤さんに、北原さんから飛行機に乗る際に役立つアドバイスが。
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北原さん「ヨーロッパまでの飛行機に乗るとき、オーロラが見られるかどうかは座席選びのポイントになりますよ。北米へ行くときは左側の席、帰りは右側の席が見やすいです。特に夜間のフライトで、アラスカ付近を通るルートなら、条件次第で素晴らしいオーロラを見られるかもしれません」
空からでも地上からでも、一度見たら忘れられない光景になること間違いなしです。
【パイロットが厳選】機内から見える感動の景色
相澤さんのお話でも登場したように、空の上には、地上からは決して見ることのできない特別な景色が広がっています。季節や時間帯によって異なる絶景ポイントや、座席の選び方まで、パイロットならではの視点でお話を聞きました。フライト時間を有意義に過ごすための参考にしてはいかがでしょうか?
珍しさ★☆☆:季節で変わる富士山の表情
飛行機からの「富士山」の眺めは、地上からとはまた違った感動があります。特に冬は空気が澄んでいるため、より鮮明な姿を楽しむことができるのでおすすめです。
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iStock/YURI KAMIZURU
相澤さん「冬の富士山は格別の美しさですね。空気が澄んでいて、雪をかぶった姿がくっきりと見える。特に雨上がりの晴れた直後なんかは絶景です。西方面へのフライトは、時々富士山の5マイルから10マイルくらい(8〜16kmほど)の近さを飛ぶことがあって、その時は客席からも火口までクリアに見えるんです。そういう時は『左側の窓から富士山が見えます』とアナウンスすることもあります」
機内から富士山を眺めるには、座席選びもポイント。西から羽田に戻ってくる便では、駿河湾越しに富士山を眺めながらの降下になるので、左席の窓際がおすすめです。
珍しさ★★☆:飛行機の影が作り出す。ブロッケン現象
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iStock/7maru
「ブロッケン現象」は、飛行機など、対象物の影が雲に映し出される神秘的な現象のこと。太陽、飛行機、霧や雲という3つの条件が揃うと、まるで巨大な飛行機のシルエットが雲海の上に浮かび上がったように見えます。
相澤さん「高度を下げてから雲の上をしばらく飛ぶときなどによく見かけますね。太陽が機体を映して、雲に投影されているような感じです。飛行機の影が雲に映し出されるので、まるで大きな影絵のようです」
ブロッケン現象は、ドイツのブロッケン山でよく見られたことから、その名前がつきました。山での登山者の影が霧に映る現象として有名でしたが、実は飛行機からは3つの条件が揃いやすいので見られる頻度は高いそうです。
相澤さん「夕方は太陽が西から差し、東側に雲がある状態になりやすい。そんな時、右席から外を見ると、この神秘的な現象に出合えるかもしれません」
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美しい気象現象を見に、旅に出よう!
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自然が織りなす美しい気象現象の数々。それぞれ見られる季節や条件は異なりますが、出合えたときの感動は格別です。また、飛行機からは地上では味わえない特別な景色が広がります。気象情報をチェックしながら、自分だけの感動体験を見つけに旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
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