1991年に早稲田大学のアカペラサークルで結成され、1994年にメジャーデビューをしてから、日本のヴォーカル・グループの第一線を走り続けるゴスペラーズ。そのメンバーである酒井雄二さんは、ゲームやお菓子などさまざまな分野に造詣が深く、とりわけ大のパン好きとして知られています。

酒井さんがパンのなかでも特に心を奪われているのが「ローカルパン」。近年のパンブームが生まれる以前から、10年以上にわたり「ローカルパンハンター」として、コンサートの移動中に出合ったご当地パンをSNSで紹介し続けています。

地元の人にとっては慣れ親しんだ味、旅人にとっては未知の食べ物。ローカルパンが酒井さんをそこまで虜にした理由は何なのか。その魅力に迫ります。

画像1: ローカルパンハンター・酒井雄二がすすめる、ご当地パンに出合う旅

ローカルパンはその土地に住む人のソウルフード

酒井さんがローカルパンと出合ったのは2000年代初頭のことでした。

ゴスペラーズはコンサートツアーにおいて、数ヶ月かけて全国を回ります。終演後はすぐにチャーターバスに乗り込んで移動し、ホテルに到着したら体力温存のために就寝。起きたらすぐに会場へ向かい、本番にすべての力を注ぎ、終演後はまたチャーターバスへ……という超過密スケジュールをこなすこともしばしばでした。

さまざまな土地へ旅に行けるものの、それぞれの土地の魅力を堪能する時間を取ることができない。そんな物足りない思いを抱えた状況で酒井さんが出合ったのが、ローカルパンでした。

沖縄県那覇市内のコンビニへ訪れた酒井さんを出迎えたのは、「ぐしけんパン」のなかよしパンや「オキコパン」のゼブラパンといった、沖縄のパン工場から生まれた人気商品の数々。見たことのないメーカーの個性的なデザインのパンが全国規模のパンメーカーのパンと肩を並べている光景に、目を丸くしました。

画像: ローカルパンはその土地に住む人のソウルフード

「全国チェーンのコンビニでそんな光景を目の当たりにするなんて、本当に驚きましたね。ローカルパン最初の衝撃でした。僕にとっては『なにこれ!?』と思うような見たことのないパンだけど、沖縄の方々にとっては当たり前で日常的な光景なんです」

コンビニやスーパーといった店舗に流通していて、その土地にいれば簡単に手に入るロングセラーのパン。つまり地元の幅広い世代の人々から長年愛されているパンこそ、酒井さんの考える「ローカルパン」です。

「そういうパンをSNSでアップすると、『昔からよく食べてました』とか『そのパンは全部食べるとカロリーがすごいことになりますよ』とか(笑)、投稿したパンが売られている地域の方々からたくさんリアクションをもらうんです。その存在を見たらみんなが一言自分のエピソードを話したくなる、つまりその土地に住む人のソウルフードになっているんです」

酒井さんがローカルパンの虜になった決定的な出来事は2010年。コッペパンブームの火付け役ともなった、岩手の「福田パン」との出合いでした。

「ツアー中に立ち寄ったスーパーのパン棚の一角に福田パンの商品がズラッと並んでいたので、写真付きで投稿したんです。そしたら『福田パンじゃないですか! 高校の購買では取り合いになるんですよ』『高校野球の県大会で売り子さんが福田パンを売ってます』『あんバターがめちゃくちゃ美味しいです!』といったリプライがびゅんびゅん飛んできて……。それが2度目の衝撃でしたね。その土地にしかないパンに、青春や思い出が刻まれているのがすごく羨ましかったんです」

ゴスペラーズメンバーとしての生活のなかで、地元の人にとってお馴染みのパンと出合えること――つまりその土地に住まう人の生活を近くに感じられることは、酒井さんにとって非常に感動的な出来事でした。何より、そこでしか売っていないパンの話で、その地域の方と話が弾むのがうれしいのだと言います。

パッケージや味わいから、その土地の人々の歴史や風土が感じられる

そもそも、なぜローカルパンというものが生まれたのでしょうか。それはパンが加工食品でありながら生鮮食品と同じくらい鮮度が大事な食品であることが大きく影響しています。新鮮なパンを市場に出回らせるためには、現地での生産と流通が必要です。物流の中心となる大都市には全国メーカーの工場がありますが、地方にはそれが存在しない。だからこそ、その地の独自ブランドが生き残ったというわけです。

酒井さんが育った地元・愛知県刈谷市には、大手メーカーの工場がありました。

「通っていた中学校の近くにパン工場があって、いつもグラウンドには焼き立てパンのいい香りが舞い込んできていました。それが今の自分のパン好きにつながっているとは思うけれど、そのパンは全国どこでも売っているので『自分の街のパン』という意識はなかったんですよ。でもローカルパンは、他所では全然知られていないのに、地元の人の心に強く根付いている。ほかの街に引っ越したら『あのパンがまた食べたいな』と恋しくなる……そういうのがロマンチックですよね!」

ローカルパンを愉しむことは、その土地の名産を愉しむのと同じように旅の理由になるのではないかと酒井さんは提案します。

「地元のパンメーカーさんは全国展開を目指しているわけではなく、その土地の人に喜んでもらうためにパンを作り続けているし、パッケージや味わいからその土地の人々の歴史や風土が感じられるんです。つまりローカルパンはその土地特有の文化と言っていいと思うんですよね。それを最も美味しく食べられるのはやっぱり現地。今は全国のパンを取り寄せたパンフェスティバルが開催されることも多いのですが、輸送中に水分が失われるなど少なからず変化してしまう。どんなパンでも出来立ては、みんなが思っているよりもずっと美味しいんです」

愛されているパンは生き返ることがある

ゴスペラーズのツアー中に「ローカルパンハンター」としてさまざまなローカルパンを見つけてはSNSにアップするようになった酒井さん。ファンの方々も「今日は酒井さんどんなパンを紹介してくれるのかな?」と報告を楽しみに待つようになりました。

Twitter: @uzysakai tweet

twitter.com

「僕もその土地にしかないパンを探すのが任務というか、潜入捜査をするような気持ちになっていったんですよね(笑)。コンサートの本番当日だというのに、朝慌ててスーパーまで行ってローカルパンを見つけてはSNSにアップして、集合時間に5分遅れるという……(笑)。そういうなかでローカルパンに関する知識も増えていきました」

酒井さんがローカルパンにのめり込むようになって早10年以上。それだけの月日を重ねると、「生産終了」という別れを迎えることもありました。けれど、地元の人の生活に根差したローカルパンには、奇跡が起こることも。

「ローカルパンが生産終了することは、老若男女が共有してきた味が終わるということで、それはひとつの文化の終わりでもあると思います。でも愛されているパンは生き返ることがあるんですよね。岩手県・一野辺製パンのたまごパンのようにほかの会社がレシピを受け継いだり、静岡県・バンデロールののっぽパンのように地域の人の熱意で復刻することもある。それはローカルパンならではだと思うと同時に、時代を超えて受け継がれていくって、もうただの食品じゃないなと思うんです」

「味わう」から一歩先へ。ローカルパンを楽しむ上級テクニック

ローカルパンが生まれる過程にも、それぞれのストーリーがあります。福島県郡山市発祥のクリームボックスのように、地域一帯のメーカーやパン屋が同じフォーマットのパンを作ることでソウルフード化するパターンもあれば、北海道・ロバパンのように全国区メーカーと業務提携をしているパターンなどさまざまです。

画像: 郡山のクリームボックス

郡山のクリームボックス

「郡山のクリームボックスや長野の牛乳パンは、お店によってパンやクリームの材質が違ったりするんです。香川の讃岐うどんをひとつの店舗で食べただけで、讃岐うどんの味がわかったとは言えないじゃないですか。それと同じですよね。クリームボックスの食べ歩きをして『このお店とあのお店、同じクリームボックスなのに全然違う!』と思ったら最後、この世界にハマったも同然(笑)。『なぜこの土地にこのパンがあるのか』という地域性にまで想像を巡らせていくと、より深くパンを味わえる……という上級テクニックもこっそりお教えしておきます(笑)」

たとえば「愛されて70年」という文言がパッケージに書いてあるパンならば、第二次世界大戦後からほどなくして生産されたことが推測できます。時代背景が変われど、今もなお変わらない味わいで生活に密着しつづけている。ローカルパンに触れることは、その土地の歴史を実感することとも言い換えられるのです。

「ご当地のロングセラーパンは現代のパンや高級食パンの味とは違いますし、それが粗削りに感じることもあるかもしれません。でも食べ終わったときに『このフィリングとこの質感のパンはよく合うんだな』と納得がいくし、だからこそ長く愛されてきたと思うんですよね。それに、ロングセラー商品のパッケージは往々にして愛らしい。字体、フォント、デザインも2020年代の感覚では生まれないものばかりで、文化史的な意味でも美味しい。今ないものが、ローカルパンにはあるんです」

現地に行かないと合えないパンがある。
酒井さんが提案する初心者向けローカルパン7選

ここで酒井さんに、おすすめのローカルパンを紹介していただきました。

地元コンビニやスーパーに出回る「パンメーカー系」から5つ、個人店もしくは地域一帯のパン屋が同一商品を製造する「パン店・文化圏系」から2つのセレクトです。

「現地に行かないと合えないパン、いつか合えなくなってしまうパンが、日本全国にたくさんあるんです。それは旅をする理由になりませんか?」

ローカルパンハンターだからこそレコメンドできる、入門編に持ってこいのポピュラーな、それでいてインパクトのある個性的なパン7選をお届けします。

高橋製菓/ビタミンカステーラ(北海道)

カステラではなく「カステーラ」、菓子パンなのに「ビタミン」という栄養面が考慮されているところがポイントですね。一般的なフィナンシェくらいのサイズで、茶色い焼き色が特徴です。北海道のコンビニならわりとどこでも売っているので、ローカルパンハント入門編におすすめです。だいたいお菓子とパンの境目あたりに置いてあります(笑)。

「ビタミンカステーラ」108円(税込)

たけや製パン/コーヒー、粒あんグッディ(秋田)

パンの袋には大きく「コーヒー」とだけ書いてあって、初めて見たときは「コーヒー……?」と思うんですけど、コッペパンの切り込みにダークブラウンのコーヒーフィリングが入ったそれを食べてみると「ああ、これはコーヒーだ」と納得するんですよ。コーヒーサンドという感じでも、コーヒーフレーバーという感じでもなく、コーヒー独特の苦みが前に出てくるんですよね。

画像: 「コーヒー」113円(税込)

「コーヒー」113円(税込)

丸っこくてマットな質感の「粒あんグッディ」はあんパンなんですけど、中につぶあんとマーガリンが入っていて、食べてみるとあんドーナツのような味わいなんです。本当はコーヒー1点に絞りたかったんですけど、僕は愛知県出身なのもあってあんバターが大好きで(笑)。あんバター好きの僕からもおすすめのパンです。

「粒あんグッディ」118円(税込)

シライシパン/豆パンロール(岩手)

東北はローカルパンが充実していて挙げきれない!(笑) そのなかでも個性的なのがこの「豆パンロール」です。「こんなにたくさんいいんですか?」と思うくらい、大ぶりの甘納豆がごろごろ入っています。そこにマーガリンも入っていて、適度な油っ気がまたいい味を出しているんです。こんな特色あるパンがコンビニに置いてあることが素晴らしいし、このパンがこの地で愛されていることに胸を打たれますね。

シライシパン製品の袋の裏にはシライシ坊やによるひとくちメモが書いてあるんですよ。それを見るたびに知識が増えて、「シライシ坊やありがとう!」という気持ちになりますね。

画像: 「豆パンロール」135円(税込)

「豆パンロール」135円(税込)

イケダパン/スナックブレッド(鹿児島)

食パンの白い部分にマーガリンを塗って、ケーキ生地のカステラでそれをロールしているパンです。パンがロールケーキの具になっているんです! パッケージにも「スポンジで食パンをロールイン!」と書いてあります(笑)。パンが主役のスイーツとして捉えていただけるといいのではないかと思います。

菓子パンの主従関係を逆転させたような発想の、意外性があるパン。よく思いついたなと思いませんか? ジャムパンを食べていて「まだジャムが出てこない」と言う人にスナックブレッドを食べさせて、「まだパンが出てこないよ~」と言わせてあげたいですね!(笑)

画像: 「スナックブレッド」140円(税込参考価格)

「スナックブレッド」140円(税込参考価格)

牛乳パン(長野)

レンガくらいのサイズのパンに、分厚いバタークリームや牛乳クリームがサンドされています。「運動部の方々も、これがあればカロリーしっかり摂取できます!」というくらいボリューミーです。

どうやら長野の製パン組合で牛乳パンのレシピが提案されたらしくて、それを複数のパン屋さんが同時に作ることになり、それぞれのお店で人気が出たことがきっかけで長野のソウルフードになっていったらしいんです。だから長野県民の間でも、好きな牛乳パンを作っているパン屋さんがそれぞれ違ったりするんですよね。複数店舗で展開している商品だから閉店に左右されないし、この先も長く生き延びて愛されるパンだと思います。

画像: 小松パン店「牛乳パン」335円(税込)

小松パン店「牛乳パン」335円(税込)

以前取材した小松パン店さんでは、生地に牛乳を使用していて、特製ホワイトクリームをサンドしていました。あっという間に売り切れちゃうことも、しばしば。小松パン店さんの牛乳パンを食べるために、早起きしてパン屋さんへ……そういう旅も素敵ですよね!?

画像: 現地に行かないと合えないパンがある。 酒井さんが提案する初心者向けローカルパン7選

小松パン店

住所長野県松本市大手4-9-13
電話0263-32-0172

ぼうしパン(高知)

これも高知県のいろんなパン屋さんが出しているパンですね。まあるいパンにカステラ生地をかけて焼き、麦わら帽子みたいなつばを作るんです。

画像: リンベル「帽子パン」155円(税込)

リンベル「帽子パン」155円(税込)

リンベルというお店は実際にかぶれるくらいのサイズのぼうしパンを作っていて、これがかなりフォトジェニック。かぶる部分を食べて穴を開ければ実際にかぶれます(笑)。帽子がないなら高知を旅して、パンをかぶればいいじゃない!(笑)

画像: リンベル「帽子パン ビッグサイズ(左)」2,000円(税込)※要予約、右が通常サイズ

リンベル「帽子パン ビッグサイズ(左)」2,000円(税込)※要予約、右が通常サイズ

リンベル

住所高知県高知市永国寺町1-43 ハイツ永国寺1F
電話088-822-0678

今回ご紹介していただいたのは、地元のコンビニやスーパー、空港の売店などでも手に入るものばかり。ぜひ、旅先で味わってみてほしいと酒井さんは語ります。

「お土産に買って帰るのも悪くないけど、やっぱりその土地で買い立ての状態がいちばん美味しいし、それを味わうのがいちばん贅沢だと思うんです。でもローカルパンは本っ当にいろんな種類があるから、ひとりで全部食べるのは大変。カロリーが気になるようなら、中華の大皿料理のように複数人でシェアするのがおすすめです。みんなで『うまー!』とはしゃぎながら食べられたら、最高の思い出になりそうですね」

なにかひとつのものに深く踏み込むことから楽しい旅が始まるということを、ローカルパンを通して教えてくださった酒井さん。旅をすればするほどに興味深いパンに出合える喜びが、酒井さんの心のなかにさらなる情熱を燃え上がらせていました。

世の中の状況が落ち着いて、安心して旅に出られるようになったとき、気心知れた相手と現地のローカルパンを分け合いながら食べ歩き旅をしてみると、その土地に住む人々の生活にちょっとお邪魔できるかもしれません。

画像3: ローカルパンハンター・酒井雄二がすすめる、ご当地パンに出合う旅

ゴスペラーズ 酒井雄二(さかい・ゆうじ)

北山陽一、黒沢 薫、酒井雄二、村上てつや、安岡 優による5人組ヴォーカル・グループ、ゴスペラーズのメンバー。1994年12月21日に「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、数々のヒット曲を世に送り出す。

オフィシャルサイト
https://www.gospellers.tv/

文:沖さやこ

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