島根県大田市にある「三瓶山(さんべさん)」は、古くは〔出雲國風土記〕に「佐比売山(さひめやま)」と記され、神話の聖地としても登場する由緒ある場所。待望の山陰道の開通で出雲縁結び空港から同地にある世界遺産「石見銀山」などへのアクセスも向上しました。今回は、三瓶山の噴火活動による地質や地形、そこから作られた歴史や文化が息づく町・大田を体感する旅。雄大な風景に癒されながら、地質から生まれたリアス海岸の良港やそこに広がる温泉津町を巡り、その上に育まれた食や豊かな水にまつわる物語を辿ります。いざ、神話と今が交わる島根・大田の旅へ出かけましょう。

石見銀山の記憶を抱く温泉津 ~湯と港が紡ぐ物語

温泉津温泉(ゆのつおんせん)は、島根県内で高い人気を誇る温泉地のひとつ。同市内にある世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」の一部としても知られています。世界遺産、そして町並みが重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に指定されている温泉地は日本で唯一ここだけです。

温泉津温泉は、開湯1300年ともいわれる古湯で、その歴史は奈良時代以前にさかのぼります。
明治5年(1872年)の浜田地震によって新たな源泉が湧き、以来、元湯とあわせて2つの日帰り温泉施設が旅人を癒してくれます。
町を歩くと、建物の隙間や路地から岩肌がのぞき、火山岩や堆積岩がこの地が火山によって形づくられたことを物語っています。周囲の港はリアス式海岸に位置し、深い入り江を持つ天然の良港としても発展しました。町並みは地形に沿って曲がりくねり、江戸時代から変わらぬ景観を今に残しています。

素朴でひなびた風情が漂う温泉街として、旅慣れた人たちにひそかに人気を集める“通好み”の町だった温泉津。
それが近年、伝統と新しさが融合し、新たな魅力を持つ温泉地へと進化をはじめました。
決して都会の真似ではなく、温泉津らしさはそのままに。無理に多くの人々を迎えるのではなく、特定の人々に何度も訪れてもらえるような町づくり。おもてなしの質を高め、リピーターを大切にしたいという想いを込めて、さまざまな挑戦が行われています。
例えば「泊食分離」。これまでは旅館で1泊2食が当たり前だった町に飲食店が増え、朝食が楽しめるカフェや夕食のバリエーションが増えました。また、中・長期滞在にも対応できるランドリー併設のゲストハウスや、高級志向の一棟貸し宿も登場し、幅広い層の旅人を迎え入れる環境が整いつつあります。こうして、宿が地域全体の“窓口”となって、地元の店と自然にふれあえる流れが生まれ、単なる観光ではなく、「体験して、関係を築く」旅へのシフトが行われています。観光地として消費されるのではなく、訪れた人が何度も足を運び、町と関係を深めていける場所へ。華やかではないけれど、丁寧に旅を味わいたい人の心にそっと残る、そんな温泉地を目指しています。
新旧が溶け合う路地を歩きながら、観光してみてはいかがでしょうか。色んな魅力が自然と調和する温泉津は、静かに心をほどく旅の場所です。

温泉津温泉(温泉津めぐり)

WATOWA

住所島根県大田市温泉津町小浜イ1109-17
URLhttps://watowa.club/watowa/

本と喫茶のゲンショウシャ

住所島根県大田市温泉津町温泉津ロ160
営業時間平日11:00~14:00 18:00~22:00
土・日・祝日 11:00~22:00
定休日水曜日・木曜日
URLhttps://www.instagram.com/genshosha.yunotsu/

火山が遺した森と自然が奏でる音が響く鳴砂(なりすな)の浜、大地の記憶にふれる2つのミュージアムへ

大田市には、時を超えて大自然の力を感じることができるスポットがあります。
そのひとつが「さんべ縄文の森ミュージアム」です。約4,000年前の三瓶山の大噴火により埋まった巨木がそのまま残された“埋没林”を展示する施設です。
噴火による土石流や火砕流が森を一気に覆い尽くし、木々は瞬く間に地中に埋もれました。さらに、埋没後もこの地域は地下水(伏流水)が豊富であったため、埋もれた木々への酸素の供給が断たれ、腐敗しにくい状態が保たれました。その結果、木々は長い年月を経ても地中で保存され続け、1998年に水田の整備工事中に発見された際には、木肌や年輪まではっきりと確認できるほど良好な状態で姿を現しました。
現在でも、約4,000年前の太古の森の姿を目の前で見ることができます。まるで時を止められたかのようなその姿に、自然の力の偉大さを感じると同時に、時に猛威をふるう自然の恐ろしさをも教えてくれています。
ここで特に注目すべきは、他地域の埋没林と異なり、長い幹を残した木々がまっすぐに立った状態で発見されたことです。周囲には土石流によって倒された木々が横たわっていますが、これらの立木は、まさに当時の姿のまま地中に埋もれていました。しかもその多くは根回りが10メートルを超えるほどの巨木で、現代ではなかなか目にすることのないスケール感を持っています。
展示室では、手が触れられるほどの距離でこの埋没林を見ることができる他、三瓶山の歴史がわかりやすく紹介されています。
展示されている木々はほんの一部に過ぎません。今も公園内の私たちの足元には太古の森が静かに眠り続けています。何度も繰り返された噴火活動と厳しい環境の中でも、そこに根を張り、命を育んでいた植物たちの姿を思えば、壮大なロマンを感じずにはおれません。

島根県大田市、日本海に面した仁摩町には、「鳴砂」の浜として知られる琴ヶ浜があります。
この浜を歩くと、「キュッキュッ」と澄んだ音が足元から響きます。鳴砂の音は、いくつもの自然条件が揃ってはじめて生まれるものなのです。
琴ヶ浜の砂のおよそ65%は「石英」と呼ばれる鉱物で、大きさが揃って丸みを帯びた粒同士がこすれ合うことで音が生まれます。そして、砂浜が清潔であることも鳴砂にとって欠かせない要素です。
全国的にその数を減らしている鳴砂の浜ですが、琴ヶ浜では地元の人々による長年の清掃活動によって、その美しさと音が守られてきました。訪れる人々は今も、自然が奏でる繊細な音色を楽しむことができます。

仁摩町には、砂をテーマにしたユニークな博物館「仁摩サンドミュージアム」があります。1991年の開館以来、地元の宝である「鳴砂」の琴ヶ浜を守り、美しい自然環境を未来へとつなぐ願いを込めて運営されています。ひときわ目を引くピラミッド型のガラス建築は、仁摩町出身の建築家・高松伸氏の設計によるもの。透明感と幾何学的なフォルムが自然と調和した未来的な景観をつくり出しています。
一番の目玉は世界最大の一年計砂時計「砂暦(すなごよみ)」です。高さ5.2メートルもあるこの砂時計は、一年かけてじっくりと、重さ1トンの砂が落ちきるように設計されています。そして大みそかには、年男・年女108名による綱引きで「砂暦」が半回転され、次の一年に向け新しい時を刻み始めます。
この場所は、芦原妃名子さんによる人気マンガ〔砂時計〕の舞台としても知られています。ドラマや映画にもなった同作のファンが、今も「聖地巡礼」に訪れ、作中に登場した「1分計」を記念に購入する姿もよく見られます。
サンドミュージアムでは、鳴砂の仕組みや世界中の砂の展示など、砂を通して地球や自然、そして時間そのものについて考えることができる展示や体験が提供されています。

今回の旅を通して感じた、三瓶山の火山活動によって育まれた自然と、そこから生まれた温泉や地質遺産など、さまざまな恵みを今に伝える島根県大田市。自然と歴史のつながりを肌で感じながら静かに旅を楽しみたい人に、ぜひ訪れてほしい場所です。

さんべ縄文の森ミュージアム

住所島根県大田市三瓶町多根ロ58-2
電話0854-86-9500
開館時間9:00~17:00(最終受付16:30)
定休日火曜日(火曜日 祝日の場合、翌平日 休館)
12月と3月の第1月曜日から金曜日までの5日間
年末年始
URLhttps://www.nature-sanbe.jp/azukihara/

琴ヶ浜

仁摩サンドミュージアム

住所島根県大田市仁摩町天河内975
電話0854-88-3776
開館時間9:00~17:00(最終入館16:30)※変更の場合あり
定休日水曜日(祝日の場合は翌平日)※変更の場合あり
年末年始(詳細はURLをご確認ください)
URLhttps://www.sandmuseum.jp/

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