島根県東部を走るローカル列車"一畑電鉄"で結ばれる観光地、松江と出雲大社のちょうど中間に位置するのが今回旅した「平田エリア」です。この地は江戸時代、水運を利用し「雲州平田木綿」の集積地として栄え、木綿業を中心とした商人たちにより物流の拠点として繁栄しました。なまこ壁や町家が並ぶ「木綿街道」を歩きながら、歴史や文化色濃い平田エリアを旅しました。

"日本酒発祥の地・出雲"で酒にまつわるスポット巡り「佐香神社」「酒持田本店」「RITA 出雲平田 酒持田蔵」

〔日本酒発祥の地〕と伝えられる島根県・出雲地方。この理由は、約1,300年前の地誌「出雲国風土記」に記されている一文「この地に八百万の神々が集まって酒造りを行い、180日にわたり酒宴を開いた」がもとになっています。この伝説の地、平田エリア小境町にある「佐香神社」を訪れました。
佐香神社は前述の出雲国風土記の中にも「佐加社」として登場し、酒造りの神である久斯之神(くすのかみ)が祀られています。社名も「佐香=酒」として、酒にまつわる神社であることが窺えます。
1,400年ほどの歴史がある由緒あるこの神社では、宮司が杜氏となってお酒づくりを行い神事でふるまわれることでも知られています。毎年9月末頃に収穫される地元のコシヒカリを使い、祭式を行いながら例祭に合わせて酒を醸し、1カ月ほど醸造を行います。神職が作る酒をお神酒としていただく行事は、地元で「どぶろく祭」と呼ばれ親しまれ、多い年では1,000人以上が参拝する大きなお祭りです。例祭が終わる時期になるといよいよ酒造りの時期が本格化することから日本酒蔵の杜氏や蔵人たちも多く訪れる、まさに"酒造の神の神社"として全国から崇敬を集めています。
小高い山の中に建ち厳かな雰囲気がある出雲地方らしい神社で、社殿もこの地方特有の「大社造」。
これからもおいしいお酒が飲めるように静かな気持ちでお参りしたい神社です。

島根県産ブランド酒造好適米「佐香錦」他、すべて島根県産のお米を使って作る日本酒蔵「酒持田本店」ブランド名「ヤマサン正宗」を冠したお酒など、20種類の銘柄を扱う蔵元です。
木綿街道沿いで140年以上の歴史を持つ蔵で、建造物のうちの5棟が文化財指定を受けています。
平田は水運で栄えた町だったことからもわかるとおり水源が多く、水に困らない地域でした。木綿産業が衰退し始めた頃この水の豊富さと質の良さから多くの醸造蔵が生まれ、今でも木綿街道には酒屋1つ、醤油蔵3つが残り、前述のとおりブルワリーも加わりました。冬には雪も降る寒い地域であること、また米も良く育つ地域であることからも、酒造りに向いている地域だといえます。
日本酒以外に、地元の農産品を使った梅酒、出雲生姜のお酒、柿のお酒などもあり、バリエーションある少量多品種の酒造りを行う中で、2022年新たな取り組みも始まりました。

それが酒持田本店のお向かいにあった道具蔵を改装して開業した「RITA 出雲平田 酒持田蔵」です。
酒をテーマにした1日1組限定、一棟貸しの宿。登録有形文化財の蔵の中で日本酒風呂にゆっくり浸かり、地下には静かにお酒も楽しめる畳の小上がりもあるので、ゆっくりと酒を嗜むことができます。
1泊2食付きにした場合は近くの飲食店の料理に合わせた日本酒ペアリングが、朝食には持田醤油店のおかあさんのお話を聞きながらいただく家庭的な朝食が用意されています。
こだわりの寝具やパジャマ、部屋には吾郷屋のノート、ウェルカムスイーツは來間屋生姜糖本舗の生姜糖。居心地の良い空間で心地よい時間を過ごせそう。お酒の力を借りて、安眠も適いそうな宿でした。

酒造の神に見守られたこの町で、日本酒に酔いしれる時間を持てるというのもまた平田の楽しみ方のひとつ。
地酒の魅力に触れることはまさに旅の醍醐味、贅沢な時間の使い方ですね。

佐香神社(松尾神社)

住所島根県出雲市小境町108
電話0853-67-0007
URLhttps://www.izumo-kankou.gr.jp/555 (出雲観光ガイド)

酒持田本店

住所島根県出雲市平田町785
電話0853-62-2023
営業時間月曜日~金曜日 8:30~18:00 土・日・祝日休み 9:30~18:00
URLhttps://www.sakemochida.jp/

RITA 出雲平田 酒持田蔵

住所島根県出雲市平田町810
電話0853-31-9793
URLhttps://rita-izumo-hirata.jp/

平田の繁栄を映す歴史建築、出雲式庭園「本石橋邸」「平田本陣記念館」

木綿街道沿いに残る歴史的建造物「本石橋邸」。
石橋家は木綿などを扱い江戸時代から昭和初期にかけ繁栄し財をなした大地主です。明治時代には自宅で郷校(学校)を開校、平田の教育推進を行いました。
江戸時代中期1750年頃に建てられた本宅は、昭和の時代まで使われていました。松江藩主も訪れた建築物で、正面は「つし2階」になっています。これは武士を見降ろさないようにとの理由で2階を作れなかった時代の町家の特徴のひとつです。
内部も、風合いのある「面皮材(樹皮を残したまま建材にしたもの)」を使った長押や釘隠しなど、建築的な見どころがあります。
庭園は石橋の苗字に由来とするのか石材が多用されています。巨石を多用した荒々しさと迫力もあり、また赤っぽい砂を敷き詰めた枯山水の雰囲気には流麗さも感じます。
一時は取り壊しの危機にも遭った本石橋邸ですが、木綿街道を象徴する建物であるとして地元の人々による保存活動が起こり保全され、平田が繁栄していた時代の面影を感じることができる施設となりました。全体に保存状態が良く、建物、庭、そして奥にある茶室なども鑑賞の価値があります。
木綿街道交流館で受け付けをし、ガイド案内を受けながら見学できます。

本石橋邸からは車で5分ほどの愛宕山の高台にあるのが「平田本陣記念館」。
ここは、平田木綿などを扱っていた豪商で松江藩歴代藩主の宿泊、休憩の場として利用されてきた本木佐家の旧宅を移築復元した建物です。
2階には民芸を集めた展示室、玄関には一式飾りなどもあり、平田地区の歴史文化を後世に伝えていく施設として大きな役割を担っています。
地域の歴史資料や美術品などを展示する施設として、また松江藩の本陣宿であった本木佐家をこの地に移築する目的で、平成元年に建てられました。本木佐家の美意識の高さや華やかな時代の足跡を感じることができ、平田を旅する上で知っておきたい歴史や文化を学べる施設となっています。
本木佐家には幕末に活躍した日本画家・浅井 柳塘(あさい りゅうとう)ら文人墨客が逗留し、文化的な交流が行なわれました。その証として、絵画や掛け軸なども残されています。
しかしなんといってもこちらの見どころは、松江藩お抱えの庭師の弟子が手掛け、本木佐家から移築された庭園です。黒松や灯篭がバランス良く配置され、大小の飛び石が交差するダイナミックな造りの出雲流庭園は一見の価値あり。季節によって移ろいを見せる美しい庭園を前に、抹茶とお菓子をいただけ、心が穏やかになる極上の時間を過ごすことができます。

旅を通して感じた平田の歴史・伝統・文化。
木綿の一大集散地であった時代から現代に至るまでの時代の名残を感じながらの散策でした。
地域の人たちの活動でここまで保存されてきた町の中に少しずつ新しい風が吹き込まれ、新旧のほどよいバランスを保ちながら魅力的な町へと変貌しつつある…。そんな今だからこそ日本の良さに立ち返り、目新しいものに心躍らせる充実した旅になりました。

本石橋邸

住所島根県出雲市平田町841
電話0853-62-2631
営業時間9:00~17:00
休館日火曜日(火曜日が祝日の場合はその翌日)
URLhttps://momen-kaidou.jp/map/spot11.html

平田本陣記念館

住所島根県出雲市平田町515
電話0853-62-5090
入館時間9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日火曜日、年末年始 12月29日~1月3日
URLhttps://www.izumo-zaidan.jp/honjin/

掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。

This article is a sponsored article by
''.