国宝・松江城を有する城下町、島根県松江市は、古くから茶の湯文化が盛んです。市内には数多くの和菓子店が軒を連ね、京都、金沢と並ぶ“和菓子処”のひとつに数えられているのです。甘い誘惑に誘われて、夏が始まる松江へ。城下町を散策しながら、和菓子の歴史と魅力をひもとく旅に出かけてみましょう。

澄み渡る快晴の松江市。訪れたのは初夏とはいえ雨の多い時期。石畳がしっとりと濡れた城下町の風情を想像していましたが、ゆらめく陽炎越しに覗く風情ある街並みは、歴史の趣を克明に映し出すかのようです。

画像: 日本有数の和菓子スポット! 島根県・松江市、あま~い極彩色の旅

松平不昧公が礎を築いた茶の湯文化を、ゆかりの茶室で

松江市の中心には、国宝の松江城がそびえています。無骨な黒い城壁をぐるりと堀が囲い、対岸には風情ある城下町を形成。北門の正面にある細道を上っていくと、左手にあるのが茶室・明々庵です。

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木々の合間を縫うように整えられた石段を上がっていくと、美しい庭園が姿を現します。遠くには松江城の姿が。

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枯山水を有する庭に浮かぶようにたたずむ茶室は、茶人・不昧公(ふまいこう)として松江で親しまれる松江藩七代藩主・松平治郷公によるもの。木訥(ぼくとつ)とした風情が漂う草庵様式で、かや葺き屋根の穏やかな佇まいです。定石によらない不昧公の理想がありありと伝わります。

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見学だけでなく、ここでは茶の湯を楽しむことができます。お点前は不昧流。茶事の贅沢をいましめ、無駄をそぎ落とした武家の茶の本質を追い求めた、不昧公の美学が息づきます。

絶妙な“塩梅”の和菓子の味こそ、松江の茶の湯

「不昧公の茶は、“塩梅の茶”ともいわれます。目に見えるものに心を傾け、形式にとらわれず、そのときどきの最良のものをたしなむべきだという趣旨です。各流派で飲み方がありますが、こと不昧流については、礼儀はあるものの、作法にこだわらないということで、庶民に広まっていきました」

画像1: 絶妙な“塩梅”の和菓子の味こそ、松江の茶の湯

このように教えてくれたのが、明々庵を案内してくれた支配人の森山俊男さん。縁側に座って嗜むのが松江の人々に愛されてきたお茶です。お点前とともに、和菓子をいただきます。松平家の御用菓子を手掛けてきた三英堂の落雁「菜種の里」と、なめらかな求肥の「若草」。いずれもお茶の味を邪魔しない、ほどよい甘さ。これも不昧公ならではの“塩梅”です。

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森山さん「市内にあるお菓子屋さんは月に2回、新しい練り切りを作られます。季節を意識して、年に24種類ほど作っておられるんです。中国から入ってきたお茶が、四季の移ろいを取り込んで日本で体系化した独自の文化。松江にいらっしゃったら、四季折々のお菓子が楽しめますよ」

明々庵

住所島根県松江市北堀町278
電話0852-21-9863
webhttp://www.meimeian.jp

茶の湯文化を今に伝える食事「ぼてぼて茶」

画像1: 茶の湯文化を今に伝える食事「ぼてぼて茶」

お腹がすいたなら、茶の湯文化になぞらえた食事「ぼてぼて茶」を。松江城の広場にある「ちどり茶屋」に足を運びました。「ぼてぼて茶」とはあまり馴染みのない言葉ですが、松江で古くから親しまれるれっきとした食事の名前です。泡立てたお茶のなかに、漬物や刻んだ高野豆腐、おこわや煮豆を入れて流し込むという趣向です。

画像2: 茶の湯文化を今に伝える食事「ぼてぼて茶」

非常食という説や、たたら(製鉄所)で働く労働者が仕事の合間に空腹を満たすための食事であったという説など、「ぼてぼて茶」の発祥には諸説ありますが、乾燥した茶の花と番茶を丸い碗に注ぎ、長い茶筅で泡立てるときの「ぼてぼて」という音から名付けられたとされます。

画像3: 茶の湯文化を今に伝える食事「ぼてぼて茶」

なんとも豪快な食事ですが、どこか風情が漂うのは茶の湯文化の影響でしょう。

画像4: 茶の湯文化を今に伝える食事「ぼてぼて茶」

さらさらと流し込めば、塩味と甘みがほどよく合わさって、食が進みます。お茶の香りが漂いつつ、昆布のうまみもたっぷり感じられます。もち米と黒豆がほどよいアクセント。間食や軽い食事、飲んだあとのシメとしてもよさそうです。

ちどり茶屋

住所島根県松江市殿町428 松江城内
電話0852-28-6007

市内でもっとも歴史ある和菓子店「一力堂」で辿る文化

さて、松江市内には和菓子屋さんが13軒ほどあるといいます。人口20万人の地方都市としてはかなり多く、それだけ松江の人々の生活に茶の湯文化が溶け込んでいる証といえるでしょう。市内中心部の古い商店街・京店(きょうみせ)にある、もっとも古い歴史を持つ和菓子店とされる一力堂にお邪魔しました。

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「店の起こりは宝暦年間、1751年ごろです。松江は七代藩主・松平治郷公が有名ですが、六代藩主・宗衍公の時代です。一力堂初代が参勤交代で訪れた江戸で、あんこ作りを学び、松江で和菓子屋を始めました。不昧公の時代に御用達になったんだと思います。当時、城下町に和菓子屋が数店あったなかで、各店で作る菓子が指定されていたんですね。一力堂は羊羹と山川を受け持っていたと聞いています」

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饒舌に語ってくれたのが、ご主人の高見雅章さん。おすすめをいただきました。「錦小倉」は備中のやわらかい小豆をカステラ生地に挟んだもの。貴人の茶席に用いるため、江戸時代には一般への販売を禁止されていたという「姫小袖」は、サックリとした歯ごたえのなかに上品なあんが入っています。またこちらの「若草」はなめらかな求肥をたっぷり堪能でき、衣がサクサクとしたアクセントとなっています。

画像3: 市内でもっとも歴史ある和菓子店「一力堂」で辿る文化

「日持ちがきく羊羹などの菓子と上生菓子とは、意味合いが少し違うんです。上生菓子はその日に行かないと売っていないようなもの。ですから古くはお出しすることで『あなたのためにご用意しました』という真ごころを伝えました。こういったお菓子になぞらえた文化があるのが、菓子処・松江の特色だと思います。お菓子に対する鋭い感性が広く根付いているんです」

一力堂では、和菓子作りの体験も行っています(要問い合わせ)。松江が誇る和菓子の神髄を五感で堪能するなら、老舗ののれんをくぐるといいかもしれません。

一力堂 京店本店

住所島根県松江市末次本町53
電話0852-28-5300
※発送などのお問合せは楽山支店・工場 0852-21-3841
webhttp://www.ichirikido.jp

お腹も好奇心もたっぷり満たす、松江への旅

不昧公の時代から現在に至るまで、約200年。和菓子の町として風情を育んできた城下町の旅は、おいしい驚きの連続でした。

画像: お腹も好奇心もたっぷり満たす、松江への旅

豊かな歴史に彩られた城下町は、武家の文化らしく清廉な佇まいですが、極彩色の菓子と華やかな町民文化がそこかしこにあって、独自の情緒を作り上げています。お腹も好奇心もたっぷり満たしてくれる松江旅。さて、お土産はどの和菓子にしましょうか。

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