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![画像: 伝統と歴史、現代アートの交差点 香川の旅(後編)](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783489/rc/2019/11/25/e55bb5fc30dfb6c155c19e9d050cfe799df40f06.png)
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。
個性的なお店が道沿いに並ぶ、門前町「仏生山」で江戸時代の歴史に思いを馳せる。
高松中心部から「ことでん」に揺られること20分弱。
仏生山という名前は、高松藩主・松平氏の菩提寺であった法然寺の山号から取られました。
この法然寺へと続く本町通り沿いに栄えたのが仏生山の門前町です。代々の高松藩主がここを通り、法然寺へとお参りしたことから、「御成街道」とも呼ばれています。
かつては法然寺へのお参りが人々の娯楽であり、常に人の絶えない賑わいのある街でした。今は古い家々が並んだ静かで落ち着いた街という印象です。
歩いてみると、この街には個性的で面白いスポットがたくさんあることがわかります。
そのひとつが仏生山駅から御成街道までの間にある、「大衆劇場 仏生山」。今ではとても珍しい大衆演劇専用の劇場です。大衆演劇の公演場所はホテルや旅館がそのほとんどという今の時代に、全国でも数少ない劇場のひとつが仏生山にあるのです。平日も毎日公演が行われているので、演劇の世界に触れてみるのもいいですね。
御成街道沿いには、呉服屋さんを改装したお洒落なサンドイッチ屋さん「仏生山天満屋サンド」や、230年の歴史を持つ酢醸造の「神崎屋」、昭和初期のレトロモダンな古民家を改装したフレンチレストラン「カフェ・アジール」などがあり、さまざまな時代の雰囲気が混在しています。
ところどころに立てられている案内看板を読みながらこの街の歴史を知り、しみじみとノスタルジーに浸る…。そんなゆっくりとした時間の使い方が出来る街でした。
仏生山駅へは「ことでん」に乗って。高松築港駅から20分弱で到着します。
旅先で乗るローカル線っていいですね。仏生山駅は電車好きも楽しめる駅なんですよ。
仏生山駅には新旧の電車が止まっていて、ついつい撮り鉄してしまいました。ことでんの工場があり、体験会などが開催される時を狙って工場見学するのも楽しそうです。この日も多くの鉄道ファンが工場に案内されている姿を見ました。
仏生山駅から徒歩2分。門前町へ向かう途中にあるのが「大衆劇場 仏生山」。大衆演劇を行う専用劇場です。全国で40か所ほどある専用芝居小屋のひとつです。
大衆演劇はほぼ休みなく毎日行われます。平日も開催、それも昼夜2部制です。
門前町入口にあるのが「アオイ堂」。和菓子屋さんとしての歴史を物語る、古い木型などが並べられた店内。高松藩主松平頼重は水戸藩の“黄門様”こと徳川光圀の兄にあたるため、葵の御紋と所縁が深いのです。木曜日はどら焼きがお得です。
大きな看板が掲げられているのは「天満屋呉服店」。ここはお店の半分が「仏生山天満屋サンド」というサンドイッチ屋さんに改装されています。2階の虫篭窓が美しいです。
外観を見ると商家らしい華やかな意匠があしらわれているのがわかります。流麗なカーブに鏝絵を描いた持送りです。
酢醸造場の「神崎屋」。老舗醸造所で、仏生山では最も古いと言われる江戸末期の建造物。
御成街道には古い町屋と現代的な住宅が混在しています。旅人目線で見ると古い歴史が感じられる場所ですが、そこに住む人たちにとっては日常生活を送る場所。2つの顔を持った門前町です。
「仏生山法然寺」。仏生山駅から徒歩20分。江戸時代の初期、高松藩主によって創建されたお寺です。写真の五重塔は2011年法然上人没後800年を記念し、伝統的な木造様式、総檜造りで造られました。
仏生山の魅力を発信し続ける街の拠点「仏生山温泉」。
地元の人に「仏生山」の観光スポットを聞くと真っ先に名前が挙がるのが、日帰り温泉「仏生山温泉」。
2005年に開業し、お洒落な温泉がオープンしたというニュースで、瞬く間に人気になったスポットです。
お客様の8割は地元の人で、毎日のように温泉に浸かりに来る人も多い仏生山温泉。実際に開店と同時に地元の人らしきお客さんがやってきて、回数券で入館される様子が多く見られました。
施設は無駄なものをそぎ落とした、シンプルかつ温かみのあるデザイン。お話を伺っていると、使う人たちの心地よさを重視した空間であることが理解できます。細長い形をしたロビー兼休憩スペースは、大きな窓から緑と玉砂利の庭が見え、光が差し込む開放的な空間です。物販コーナーには香川の伝統的工芸品の丸亀うちわやおみやげなどが並びます。たくさんの古本も用意されているので、お土産を探したり読書をしたりして過ごすものいいですね。
「仏生山温泉」は“暮らす”と“旅する”のちょうど真ん中くらいにある場所でした。
まずはこの気持ちの良い空間にぜひ足を運んで、仏生山の魅力を感じてみてください。
「仏生山温泉」。広い駐車場、温泉とは思えないモダンな外観。2007年グッドデザイン賞を受賞した日帰り温泉施設です。
ロビーには、物販スペースと休憩スペースが広がります。一面が窓になっていて、明るい光が差し込みます。
温泉に必要なタオルやてぬぐいの他、香川のおみやげなども置かれています。
古本の販売も。読みたい1冊を見つけることが出来るかもしれませんね。
お風呂上りに外の風に当たりたい、そんな時はデッキテラスへ。
デッキテラスからも入れるレストラン。施設内には必要なものがきちんと揃い、ここを訪れた人たちの「温泉で何をしたいか」の答えになっています。
フォントがかわいい看板も見逃さないでくださいね。
地元食材を使ったフレンチを古民家で提供する「カフェ・アジール」
ランチするために立ち寄った、御成街道沿いにある築90年の古民家を改築したフレンチレストラン「カフェ・アジール」。
街道側から見ると白いバルコニーのある昭和初期の家ですが、裏側にまわるとスタイリッシュなコンクリート打ちっぱなしのエントランス、藍染のれんが迎えてくれる、いい意味でのギャップがあるお店です。
「アジールランチ」はメインを数種類から選べます。前菜、スープ、メインとデザートまでついたコース仕立て。使われている食材は地元のものが多く、野菜は全て近くの畑でとれたものを使用しているそう。また、香川のブランド肉である「オリーブ牛」や「オリーブ豚」を使ったハンバーグなどが提供されていました。
この日はハーブを効かせたミートドリアを注文しました。ボリュームがしっかりあるので、男性でも満足できそうです。
レストランの体制が一新され、今年になり若きシェフが腕を振るう本格的なフレンチとなりました。また、今後隣には、同系列のパティスリー&カフェがオープン予定とのこと。テイクアウトが出来るお店になるそうです。
仏生山エリアにまたまた新しいスポットが生まれることになりそうですね。
街の人たちが誇れるものが少しずつ増えている仏生山エリア。住む人の満足が訪れる人の満足へとつながり、魅力と活力とがあふれた、現在進行形で発展する街でした。
御成街道沿いにある古民家を改装したフレンチレストラン「カフェ・アジール」。
裏側へまわるとコンテンポラリーなコンクリート打ちっぱなし。外観とのギャップに期待感が高まります。
店内は日本家屋の部材を残しながらきれいにリノベーションされており、和家具やアンティーク時計などが置かれています。
古民家レストランらしい雰囲気の店内で、フレンチのランチコースをいただきます。
前菜は盛り合わせ。きのことクスクスのマリネ、生ハムと洋梨のピンチョス、ラタトゥイユのカナッペ。
かぼちゃスープ。シナモン風味でした。
メインはミートドリア。丸い鉄板の底にはライスが盛り付けられていて、上にはたっぷりのベシャメルソースと香り高いチーズがかかります。
オレガノ、セージ、ローリエとハーブを使い、味わいにひとひねり加えたドリアでした。
デザートも一工夫あるものでした。見た目には真っ白なパンナコッタですが、レモンの風味がしっかりと感じられます。煮出す段階でレモンピールを使っているそうで、目には見えないけれどレモンを感じるさわやかなデザートでした。
現在はお菓子を提供するパティスリー&カフェの準備中。おみやげを買うこともできますね。仏生山に起こったイノベーションを感じるスポットのひとつでした。
今回の香川の旅は、アートや工芸をベースに「伝統とその中にある革新」、「老舗とニューオープン」など、オールド&ニューな場所をテーマに旅をしました。
日本で一番面積の小さな都道府県としても知られる香川県ですが、旅人の興味を惹きつける様々なテーマがぎゅっと詰まっています。ご紹介できませんでしたが、高松市内には銅板に覆われた「百十四銀行本店」や丹下健三作「香川県庁」など名建築もあり、瀬戸芸期間中でなくてもアート好き、建築好きにとっては見ごたえある場所になっています。
他にもグルメやアイランドホッピングなど、香川の遊び方は様々。「晴れの日」日数日本一の気候の良さも自慢です。
香川の、自分だけの楽しみ方を発見してください。
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