2011年に「うどん県に改名しました!」と高らかに宣言し、注目を集めた香川県。しかしこのフレーズは「うどん県 それだけじゃない 香川県」と続きます。今回の香川の旅では、近年国内はもちろん海外からも人気の高い瀬戸内のアートや塩飽水軍の歴史などにスポットを当て、“それだけじゃない”楽しい香川をご紹介します。

丸亀からの歴史島旅。島の大工が作った立派な家々が並ぶ古い街並み「笠島地区」。

丸亀駅からフェリー乗り場までは徒歩10分ほど。フェリーチケットは乗船20分前から発売となります。目的地「本島」までは片道35分の海の旅です。
本島は、岡山県と香川県のちょうど真ん中あたりに位置する、周囲16キロの瀬戸内海の小島です。1日あれば見て回れる大きさと、瀬戸大橋を真横からパノラマに楽しめるロケーション、また独特の深い歴史が特徴で、国内はもとより海外からも多くの観光客が訪れます。
ここ本島には、国・県・市指定の文化財が目白押し。また「笠島のまち並」は重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)にも指定されています。
移動手段としては、島の入口に用意されているレンタサイクルと、コミュニティバスがあります。
本島は瀬戸芸の展示会場なので、期間中は作品鑑賞の観光客が増えるのですが、そうでない時は猫がのんびりと日向ぼっこするのどかな島。島内小学校や中学校が並ぶ道沿いでは、地元の小・中学生が作ったアートの展示などが行われていて、微笑ましいおもてなしを受けることができます。
島で最も人気のエリアである笠島地区までは海沿いの道から行きました。途中、瀬戸大橋の絶景を眺められ、気持ち良い潮風を受けながらサイクリングが出来ます。
笠島は香川県で唯一、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。島の北部にあり、小さな港を中心に街が構成されていて、細い路地に沿って江戸時代以降の古い建物が残されています。かつては城があり、その城の城下町として作られた街なのです。路地が細く複雑なのは、海の方向から来た敵を襲撃するためです。
伝統的な町屋建築が並び、どこを歩いても絵になる景色です。時代の面影を残す路地歩きをしながら、当時の本島の繁栄に思いを馳せました。

瀬戸内で栄えた海の覇者「塩飽水軍」史跡巡り。

塩飽衆は海に点在する領土である島々を収めるための役所を置きます。これが「塩飽勤番所」で、塩飽の政治の中心でした。現在は資料館になっていて、塩飽歴史観光の目玉です。ここには朱印状や古文書など、塩飽に関する貴重な資料が展示されています。
大小28の島々からなる塩飽諸島はどこの藩にも属さず、「人名(にんみょう)制度」という独特の制度で運営されるようになりました。名(みょう)とは領地のことで、「人名」と称される650人が領主となり、それぞれの島を集団で守り、さらにその中から選ばれた4人が「年寄」として全島の政務、管理を行っていました。「年寄」は塩飽の最高権力者で、島のために働き、交易などで島に繁栄をもたらしました。島のあちこちに残る「年寄の墓」には背の高い立派な墓石が置かれ、今でも島民に敬われています。
「木烏神社」は海が見える神社で、特異な形をした石鳥居が迎えてくれます。ここには島で一番大きな拝殿と「千歳座」と呼ばれる芝居小屋があります。特にこの千歳座は塩飽の繁栄の象徴です。
拝殿には手の込んだ彫刻細工が見られます。一方、千歳座は一見何の変哲もない倉庫か納屋のような造りをしています。これは、庶民が遊びに興じることを良しとしない時代背景にあったと考えられています。島民は廻船業や大工仕事のために都会へ行くことも多く、演芸に接する機会も多かったため、神社内に小屋を建て芝居を楽しんでいました。
回転する「回り舞台」、雨戸を開くと無柱の11メートルもある大きな舞台が現れる仕掛けなど、この舞台は中に様々な仕掛けがあります。舞台としての完成度の高さ、塩飽大工の建築水準の高さが評価され、市指定の文化財になっています。
島の西部にある「夫婦倉」も見学しに行きました。途中アップダウンが激しい場所もありましたが、倉の前に広がる「生の浜」の美しいこと!ほとんど人がおらず、瀬戸内海の美しさを独り占めできました。
「夫婦倉」はこの地で家庭燃料の薪廻船業を営んでいた長尾家の土蔵です。地元の大工棟梁によって建てられたもので、中が2階建ての、なまこ壁が美しい二連式の珍しい蔵です。
これもまた、塩飽の優れた船の操縦術がもたらした富を表すもので、今に残る歴史的遺構となっています。

本島と世界をつなぐ情報発信基地、「Honjima Stand」。

島の玄関口ともいえるエリアにある、本島港近くのカフェ「Honjima Stand」。
ここは、北欧のデザイナーズブランドを扱うインテリアショップ「CONNECT」が運営するカフェです。
室内からもテラス席からも瀬戸大橋を臨み、海を見ながらビールを飲んだりバーベキューを楽しんだりすることができます。
人気メニューは、デンマークのオープンサンドイッチ「スモーブロー」。またボリュームのあるホットドッグに挟まれているのは、島内の漁師さんが釣り上げた魚を使った自慢のフリットです。
CONNECTと本島の関わりは、CONNECTが自社で取り扱うデンマーク家具の買い付けをきっかけに、デンマーク王立アカデミーの学生の留学受け入れを行ったことが始まりです。
その学生たちが本島に滞在したことで、学生たちを通じて次第に島の人々との関係性が生まれ、島の美しさや歴史深い本島の良さに触れ、また島の「空き家問題」や「人口減少」などの問題を知ることになる中、何かしら島の力になれればと2018年11月Honjima Standをオープンさせました。現在はそのデンマークの学生たちと共に、島内にゲストハウスも建築中です。
CONNECTが島で行うプロジェクトは、デザインの力を通して島を訪れる人たちに気軽に島の歴史と文化に触れてもらい、そこから人と島とのつながりを生んでいくことを目的としています。そしてHonjima Standもまさに社名の「CONNECT」を体現させていく、島と世界をつなぐ発信拠点となっています。

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