【JAL最新機AIRBUS A350導入の舞台裏 vol.1】「なぜAIRBUS機だったのか。プロジェクトチームの7年にわたる挑戦」の記事はこちら
Airbus社の“日本好きチーム”と、世界でひとつのJAL仕様を目指して
JALの次期フラッグシップ機にAirbus A350が決定したのは、2013年。JALとAirbus社の二人三脚で、“JAL仕様機”の開発がスタートしました。それは機体性能や安全性といった飛行機の根幹部分にとどまらず、シートのレイアウトや快適装備など、お客さまの居住性や使い勝手の部分にも及びます。実は内装設備のほとんどが、徹底したJALオリジナルで開発されたのです。
その一つ一つについて、プロジェクトチームのメンバーに聞いていきましょう。まずは、広々とした室内空間。その実現には、JALのこれまでの経験が一役買っています。
「例えば、客室後方のラバトリー(化粧室)とギャレー(厨房)を隣接させてコの字のレイアウトにしたり、客室中央のギャレーをJAL独自の国内線用の小さなギャレーとすることで、客室空間が大きく取れました」(商品・サービス企画本部 開発部 空港サービス・客室仕様グループ 大久保隆弘)
さらに客席上部の荷室(オーバーヘッドコンパートメント)は大きな容量を確保しましたが、その分開け閉めが重くなるため、客室乗務員はもちろんお客さまの負担が大きくなってしまいます。そのため、開閉を補助する電動アシスト機構を採用しました。
お客さまの満足度を得るためには、小さなアイディアを実現していく大きな努力が必要
「Airbus社に何度も掛け合ってこの機構を入れました。当初は『難しい』と返されたオーダーでも、筋道を立ててきっちり説明をすれば、Airbus社は『そこまでいうなら』と最終的に私たちのリクエストに応えてくれる会社なんです」(大久保)
ときに激論を交わしながら、一方で常に和気あいあいと、良好なチームワークで臨みました。
「Airbus社の客室担当は何人もいるのですが、実は日本好きのスタッフが多かったんです。お土産には、日本のアイテムや食品が喜ばれたんです。プロジェクトの途中で生まれたお子さんには、ハナエちゃんと名付けたそうですよ」(大久保)
航空会社にとって、アイディアを実現することがゴールではありません。それを維持し続けることも大切です。
「機能が増えるということは、同時にトラブルの原因が増えることにつながります。万が一にも不具合や故障があった場合、国内線の40~50分という着陸から出発までの短い時間で修理しなければいけません。お客さまの期待に確実に応えるよう整備の体制を整えることは、我々整備部門にとって大きなチャレンジです」(技術部 システム技術室 Airbusグループ 平松昌人)
気鋭のデザイン会社と組み、日本らしいインテリア空間を創造
そして、インテリアデザインはイギリスのデザイン会社・タンジェリン社に依頼しました。日本の伝統美をテーマに、ブランドカラーでもある黒、グレー、そして赤を活かし、シックで統一感のある室内空間を創りあげました。
「機内全体のインテリアをデザインするのは、国内線では1996年導入のボーイング777以来、久しぶりのことです。導入後の改修と比べるとできることの幅が広く、どうせやるなら新時代を担うにふさわしいデザイン会社に託したいとオファーし、乗った瞬間にJALらしさを感じていただける内装をデザインコンセプトから作りました」(大久保)
こだわりのシートは、ほとんど国際線の仕様
各クラスのシートにもこだわりがあります。マッサージ機能を備えるファーストクラスはJALだけのフルオーダーメイドです。
「日本のシートメーカー・ジャムコ社とほぼゼロから開発し、座席の角度から作り込みました。プライバシーの確保や座り心地といった従来から重視されている価値に加え、せっかくだから新しい機能を入れようと考え、電動マッサージ機能を採用しました。世界ではあまり採用例がないのですが、日本のお客さまにはきっと気に入っていただけると考えたのです」(大久保)
目指したのは、華美な装飾よりも本質的な仕立ての良さです。ドイツのシートメーカー・レカロ社が手掛けたクラスJと普通席についても、従来よりも足もとの間隔を広く取り、その座り心地にもご納得いただけるはずです。
「国内線のスリムシートからひとまわり厚い、国際線並みのシートを採用しています」(大久保)
「やはり実際に入ってみると、『新しい雰囲気の客室になったな』としみじみ感じられますね。機内で最初にお客さまを迎え入れるJALの鶴丸ロゴは、紆余曲折を経て仕立てた部分です」(経営企画本部 経営戦略部 機材グループ 横田 敦)
国内線で全席に個人モニタを導入するのは、大きな決断
インテリアのみならず、IFE(インフライトエンターテインメント)もゼロから作りました。JALとしては初めて国内線全席に個人用画面を導入したのです。無料の機内Wi-Fiにアクセスして、お客さまのスマホやタブレットで映像が楽しめるサービスはすでにありますが、さらに踏み込み、どなたでも、より大きな画面で話題の映画や雑誌などをご覧いただけるようにしました。
「仕様選定のうえで、個人用画面を導入するのは大きな決断でした。国内線にそこまでいるのか? という声も多かったなか、このフラッグシップ機を最高の国内線機にしたいという思いで周囲の説得に当たり、サービス導入にこぎつけました。私は願を掛けて決定までの半年間ヒゲを伸ばして、社内の意思決定がされるころには戦国武将のようになってしまいました(笑)。中でも私のお気に入りのコンテンツは、自分の乗っている機体も見れる機外カメラからの映像です」(大久保)
システムはパナソニック社とタッグを組み、まったく新しいインターフェースを独自開発しました。
国内線でも映画を楽しんでもらうための様々な工夫
「私は現在の部署に異動してくる前に客室乗務員として乗務しており、1年半ほど前からこのプロジェクトに携わりました。IFEをどう活用し、どんなエンターテインメントを入れるのかを考えるのが私のミッションです。出てきたアイディアのひとつが、映画でした。しかし国内線の短い飛行時間では見終わらない可能性が高い。そこで見終わらなかったときのために8桁のコードが表示され、それを復路便などで入力することで、続きをご覧いただけるようにしたのです」(商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループ 松澤オレリアン雅樹)
操作性にもこだわりました。シンプルでわかりやすいデザインだけでなく、きめ細かな工夫を凝らしています。
「どの世代も直感的に使える操作性をゼロから考えました。また従来、肘掛けに設置されていたコールボタンやライトのオン/オフスイッチもタッチパネルに設置し誤って押されないようにしたり、搭乗時に座席を探していただきやすいように、各画面の右上に座席番号を表示させるといった小さな工夫も盛り込んでいます。ただIFEはいろんなシステムと関連づけられているため、デザインの変更や操作の変更には半年以上かかるケースもあります。開発はアメリカで行われているのですが、その都度現地に赴いて領収検査前の確認をして、またオーダーして……という時間のかかる調整が必要でした」(松澤)
A350の快適性とチームの情熱を、ぜひ機内で感じてください
「フラッグシップ機が変わるのは20年から30年に一度のことです。そんなまたとない仕事に自分が携われたことは、本当に嬉しかった」(大久保)
「ゼロから新しい価値を作ろう」「できることに妥協はしない」というチームの姿勢によって、A350の内装はこれまでにないクオリティで仕上がりました。そして、いよいよ2019年9月、日本の空に飛び立ちます。ご搭乗いただける機会があれば、そのクオリティの高さだけでなく、彼らの情熱も伝わってくるかもしれません。
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
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