その土地に暮らす人にとっては日常でも、訪れる人にとっては非日常。こういった発見こそ、旅を豊かなものにする醍醐味といえます。秋田県南東部の横手盆地に位置し、雄大な奥羽山脈の麓に広がる美郷町への旅路は、そんな発見が待っています。鍵となるのは、水。「名水百選」に選ばれた水源は、人々の暮らしを潤し、豊かな旅の魅力を生み出しました。

水のきれいな土地は日本各地にありますが、旅先の魅力に結びついている場所となると、その数は途端に少なくなります。秋田県の美郷町は、そんなめずらしい土地。

画像: 秋田県・美郷町。麗しい湧き水を巡る、山のふもとの旅物語

名水百選に選ばれた美郷町の湧水の源流は奥羽山脈。そのなかで「水源の森」として知られる七滝山は、湧水を汲んだり、迫力ある水源を見たりしながらトレッキングが楽しめます。他にも、多くの高山植物が見られる真昼岳、美郷町オリジナル品種のホワイトラベンダー「美郷雪華(みさとせっか)」が咲くラベンダー園など、見どころは豊富。町名のとおり、美しく豊かな自然に恵まれた土地の魅力は水が育んだものといえます。水を蓄える山から、水が湧き出す人里へ、美郷町の旅の物語に出かけてみましょう。

水を蓄え、ろ過する。美郷町の水の源を歩く

画像1: 水を蓄え、ろ過する。美郷町の水の源を歩く

降り注いだ雨や雪の水を吸収し、長い時間を掛けてろ過。きれいな水にして川に送り出す機能を持つ森を「水源かん養保安林」と呼びます。標高776mの自然豊かな七滝山は、まさにその能力を備えています。美郷町の市街地でこんこんと湧き出す地下水の“元栓”です。

画像2: 水を蓄え、ろ過する。美郷町の水の源を歩く

気軽に森林浴が楽しめる清澄なブナ林は、ぜひ町認定のネイチャーガイドとご一緒に。町からのアクセスもよく、四季を通じてトレッキングが楽しめます。尾根道は木漏れ日が気持ちよく、道中には自然が作り出したツルのブランコが。

画像3: 水を蓄え、ろ過する。美郷町の水の源を歩く

地中に蓄えられた水が湧き出し、麓へと流れていくさまは迫力があり、自然のダイナミズムをところどころに感じられるはずです。

七滝山

住所秋田県仙北郡美郷町六郷東根字七滝14-1(登山口)

水は川となり、美郷町の暮らしを支えてきました

七滝山の水はやがて川となり、人々の生活につながっていきます。美郷町六郷の中心部では水道の蛇口を捻ると、この地下水が流れてくるのです。こんな豊かな水源を、美郷町では生活に活かしてきました。町内には水に関する施設がたくさんあります。

画像: 水は川となり、美郷町の暮らしを支えてきました

なかでも1938年(昭和13年)に造られた「関田円型分水工(せきたえんけいぶんすいこう)」は、今も利用されています。円型分水工とは、水を水田に合理的かつ安定的に分配する設備です。その先に備えられた小水力発電所では、水の力を利用したエネルギーが近隣地域に活用されています。サステナブルという言葉が生まれるはるか昔から、クリーンエネルギーへの取り組みを行っていたことがうかがい知れます。

関田円型分水工

住所秋田県仙北郡美郷町六郷東根字上関田165-2

今も生活に欠かせない、湧水の文化を訪ねて

美郷町内には114カ所の湧水が確認されています。その半数以上が、六郷というエリアに集中しています。「六郷湧水群」と呼ばれ、散策にもぴったり。美郷町ネイチャーガイドと歩きながら巡ると、さまざまな学びが得られるはずです。

画像: 今も生活に欠かせない、湧水の文化を訪ねて

湧水のなかでも代表的なのが「御台所清水」。秋田藩主の佐竹義隆公が六郷でお休みのときに、炊事や茶の湯に使ったとされる由緒ある湧水です。四季を通して豊富な水量が湧き、夏場に触れるとひとときの涼をとることができます。

御台所清水

住所秋田県仙北郡美郷町六郷字宝門清水3-8

ハタチや酒店

住所秋田県仙北郡美郷町六郷字本道町52-1

ニテコ名水庵kuraカフェ

住所秋田県仙北郡美郷町六郷字大町59
電話0187-84-0062
営業時間11:00~17:00
定休日木曜
Instagram@nitekomeisuian

水に親しむ施設、豊富にあります

農業や電力に活用されてきた水は、町民にとっても親しい存在です。2024年2月に観光拠点施設「名水市場湧太郎」が、同4月には町民の憩いの場である「清水の学習・案内所 水の休み場」がそれぞれリニューアル。いずれも六郷湧水群のエリアにあり、ぜひ立ち寄りたいスポットです。

画像1: 水に親しむ施設、豊富にあります

水をイメージしたインテリアに生まれ変わった「名水市場湧太郎」は、会議や集会、さまざまなイベントに利用できます。また2階はコワーキングスペースとして、気軽に使うことができます。

画像2: 水に親しむ施設、豊富にあります

湧水散策の途中に立ち寄りたい無料の休憩所「清水の学習・案内所 水の休み場」は、湧水について楽しく学べます。映像や展示に加え、2階ではちょっと面白い取り組みも。

画像3: 水に親しむ施設、豊富にあります

水色に塗られた神秘的な部屋に、願いごとや水に流したいことを書いて壁に貼り、小正月行事「六郷のカマクラ」でお焚き上げ。その想いを天に届けます。
そのほか、施設では無料で地下水を汲むことができ、町内外から名水を求めて訪れる人が後を絶ちません。

名水市場湧太郎

住所秋田県仙北郡美郷町六郷字馬町83
電話0187-84-0020
開館時間9:00~18:00(12~3月は~17:30)
web美郷町名水市場湧太郎 公式サイト

清水の学習・案内所 水の休み場

住所秋田県仙北郡美郷町六郷字本道町22-4
電話0182-37-3980(美郷町観光情報センター)
営業時間8:00~17:00
営業期間4~11月

水のよさを存分に感じられるお土産はいかがですか

画像1: 水のよさを存分に感じられるお土産はいかがですか

水のきれいな町に来たのですから、水にまつわるお土産を選びたいものです。ぜひ押さえておきたいのが、明治35年から作られ、120年以上の歴史を持つ「ニテコサイダー」(280円~) 。秋田を代表する地サイダーです。

画像2: 水のよさを存分に感じられるお土産はいかがですか

お土産は町内各所で購入できますが、一堂に会するのが道の駅美郷です。立ち寄ったなら、レストラン「みさとのごはん」でのお食事もおすすめです。ここでの主役はお米。釜で炊いた名水育ちのご飯は絶品です。

道の駅美郷

住所秋田県仙北郡美郷町金沢字下舘124
電話0182-37-3000
営業時間9:00~18:00(11~3月は~17:00)、レストランは11:00~14:00
web道の駅美郷 公式サイト

時間があれば、ぜひ水を活用したアクティビティも

画像1: 時間があれば、ぜひ水を活用したアクティビティも

旅の合間に楽しむアクティビティはいかがでしょうか。美郷町では「水」を活用したアクティビティも楽しめます。緑が美しい季節なら、大自然に囲まれた溜池でカヌーやカヤックがおすすめです。ボートにパドル、ライフジャケット、ヘルメットなど必要なものはすべてレンタル可能。美郷町ネイチャーガイドが丁寧にご案内します。

画像2: 時間があれば、ぜひ水を活用したアクティビティも

また「六郷温泉あったか山」に併設されたテントサウナも人気です。「ヤマノサウナ」と題し、美郷町産のラベンダーを使用したアロマウォーターを使ったロウリュが特徴。サウナで十分温まったら、夏は美郷町の天然水たっぷりの水風呂へ。冬はこんもり積もった雪の中へ。美郷町の自然のなか、“ととのう”アクティビティには風情があります。

六郷温泉あったか山

住所秋田県仙北郡美郷町六郷東根字下馬転120
サウナ営業時間10:00~21:00(2日前までの予約制)
web六郷温泉あったか山 公式サイト

水のいい豊かな大地が育んだ、東北最大級のラベンダー畑

豊かな水に加え、美郷町のもうひとつの魅力がラベンダーです。東北最大級の規模を誇るラベンダー園では、初夏に約2万株のラベンダーが咲き誇ります。ラベンダーのアイスやドリンクなど、オリジナルの軽食も人気です。

画像1: 水のいい豊かな大地が育んだ、東北最大級のラベンダー畑

見ごろとなるこの時期には「美郷町ラベンダーまつり」が開かれ、摘み取り体験や遊覧車での周遊が楽しめます。また美郷町イメージキャラクター「美郷のミズモ」をはじめとしたキャラクターイベントなど、催し物も。キッチンカーや屋台の出店もあり、例年約10万人が訪れる大人気イベントで、初夏の美郷町は大いに賑わいます。

画像2: 水のいい豊かな大地が育んだ、東北最大級のラベンダー畑

必見なのはホワイトラベンダー「美郷雪華」。ここ美郷町ラベンダー園で発見され、平成25年に品種登録されたオリジナル品種として、ここでしか見られないものです。ラベンダーらしいさわやかさに加え、やさしく甘い印象の香りが特徴です。

美郷町ラベンダー園(見頃:6月上旬〜下旬)

住所秋田県仙北郡美郷町千屋字大台野1-4 大台野広場 内
電話0187-85-3131(大台野広場管理棟。冬期閉鎖)

清らかな水に心洗われ、水が育んだ文化に触れて、心躍る旅路へ

日本全国に多彩な旅先がありますが、目的地を決める基準は人それぞれ。有名なスポットは数多くあれど、人の営みが感じられる素朴な里に赴くのもまた一興というものです。その点、美郷町には豊かな自然と、その自然に支えられてきた人々の暮らしがあります。

画像: 清らかな水に心洗われ、水が育んだ文化に触れて、心躍る旅路へ

そこに待っているのは、奇をてらうことのない“非日常”。清らかな水で心が洗われ、培われた文化に心を躍らせる。そんな体験と旅の物語が、美郷町で待っています。

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