
西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

9:00 伊達藩ゆかりの寺で庭園に癒される「輪王寺」
仙台市内の北山エリアに美しい庭を持つお寺「輪王寺」があります。ここは、伊達家九代当主伊達政宗の奥方であった蘭庭明玉禅尼に所願され創建された、伊達家ゆかりの由緒あるお寺です。
朝、小雨降る中、輪王寺を訪ねました。仁王門から続く参道は雨に濡れた石畳に木々が映り、自然のエネルギーを存分に感じられる緑のトンネルでした。その参道の脇には十三体の仏様が置かれており、歩くだけでもご利益がありそうです。
見応えのある日本庭園は行き届いており趣があります。ぐるりと散策すると広さがあり、池ごしに見える三重塔や季節の花々には心洗われるような清々しさがあります。日々の生活に感謝する禅の教えを、自然から語り掛けられているような気持ちになれました。
街の中心地にあることを忘れてしまうほどの緑の多さで、まさしく仙台の名刹です。

伊達家ゆかりのお寺で、庭園が美しい「輪王寺」。朝の時間に訪れました。

雨がそぼ降る中、参道は光り輝く緑色で溢れていました。

この参道には精悍な顔つきの十三仏が置かれています。苔むした石像の姿が時の経過を感じさせます。

本堂の周辺も緑に囲まれていました。さらに奥に進むと庭園があります。

残念ながら雨の散策となってしまいましたが、手入れが行き届いており美しい庭でした。この日は蓮の花が咲き始めていて、雨も良く似合いました。

回遊式の庭園で池の周りをぐるりと散策できます。四季の花や木々が生い茂る景色、それらの池への映り込みなどが見る角度によってどんどん移り変わる楽しさ、また、三重塔との調和も見事です。

残念ながら雨が強くなってきてしまったので短めの滞在で終了。ゆーっくり散策すれば色んな草木や風景の発見がありそうです。もみじの木も多く、秋の紅葉時期も素晴らしい風景を期待できそうです。
曹洞宗 金剛寳山 輪王寺 | ||
---|---|---|
住所 | : | 宮城県仙台市青葉区北山1-14-1 |
web | : | http://rinno-ji.or.jp/ |
10:00 城下町に江戸時代から伝わる甘味”仙台駄菓子”の「熊谷屋」
庶民の味として、江戸時代から親しまれてきた仙台駄菓子。今の時代まで続く、いわばロングセラーの逸品ぞろいの伝統的なお菓子です。仙台市内には駄菓子を取り扱う和菓子屋さんが今でも残っており、店頭のケースにはコロコロとした一口サイズの可愛らしいお菓子が並びます。
仙台駄菓子の特徴として、種類が豊富であることが挙げられます。お皿いっぱいに並べてもまだ並びきらないほどの種類の多さ。派手好きとして知られた伊達政宗公の心意気は、庶民にもこのような形となって広がっていたのでしょうか。
米どころであった仙台では江戸時代、一級品の“糒(ほしいい)”が作られていました。糒は保存食として、また戦の携行品として重宝されていましたが、特に仙台藩の糒は全国に名を轟かすほどの名品でした。沢山の糒が作られた中、中級以下のものは駄菓子などの素材として利用されました。今でも米を原料とした駄菓子が多く残っているのもそのためです。
仙台駄菓子の熊谷屋は元禄八(1695)年の老舗で、現在十代目。仙台市民に愛されるなじみ深い味を守り続けています。

仙台の伝統菓子である仙台駄菓子のお店に立ち寄ります。

江戸時代から駄菓子を作り続ける和菓子屋「熊谷屋」。300年以上の歴史を持ち、仙台の“伊達文化”と共に伝統を伝え続けているお店です。

駄菓子だけでなく上生菓子や季節のお菓子なども扱いがある、街の和菓子屋さんです。

子どものおやつとして、また庶民の味として親しまれてきた仙台駄菓子。日本各地にある駄菓子との違いはその種類の豊富さ。上品な様式を保ちつつも、色も形も違う品目の多さが特徴です。

(左上)うさぎ玉、(右上)マコロン、(左下)うめぼし、(右下)ごぼうきり。食感も形も様々。米や小麦を使った素朴なお菓子。
どれから食べるか迷ってしまうほど、たくさんの種類があります。濃い緑茶と一緒に食べたくなる味ですよ。

創業元禄8(1695)年、10代続く老舗です。これからも仙台の味と製法が受け継がれていくことでしょう。
元祖仙台駄菓子本舗 熊谷屋 | ||
---|---|---|
住所 | : | 宮城県仙台市青葉区木町通2-2-57 |
営業時間 | : | 8:30~17:30 |
休日 | : | 日曜定休 |
web | : | https://kumagai-ya.co.jp/ |
12:30 伝統と食の融合!仙台箪笥のミニ懐石「鍾景閣」のランチ
仙台の工芸品のひとつであり、また芸術品としても取引され今でも珍重される「仙台箪笥」。この伝統工芸を料理と共に親しめるということで、やってきたのは「鍾景閣」です。
仙台箪笥は土台である「指物」、装飾を行う「金具」、漆をかける「漆塗」という伝統技巧を用いた、和の緻密さを詰め込んだ宝箱のようです。もともとは刀や身の回りのものを入れるために使われ、その後も嫁入り道具として日常的な収納として利用されるものでした。しかし時代は変わり、現代では小さなサイズが好まれ、大型ではない様々にアレンジされた仙台箪笥があるそうです。
この日は仙台箪笥の引き出しに詰まったスイーツと、簡単なお食事までついた「箪笥スイーツ膳」を楽しみます。引き出しや扉の中にはいくつものスイーツが入っています。和洋組み合わされたバラエティある内容、また素材も仙台を意識した「ずんだ餅」や「秋保ワインを使った林檎コンポート」もありました。
きれいなお料理と丁寧な盛り付け、そして仙台箪笥という伝統的工芸を見ることが出来る鍾景閣ですが、何といっても見どころはうっとりするほどのお庭と、大名屋敷としての風格です。
ここ鍾景閣は、仙台藩主であった伊達家の邸宅を移築した建物。代々藩主として仙台を見つめてきた権威と、華族としての誇りを示す設えや意匠に加え、隠し扉や長刀を振れるよう天井高にした1階部分など、戦闘を想定した造りが非常に興味深いです。
仙台の有形文化財に指定され、昭和天皇の御泊所として、また現・上皇、上皇后両陛下の御休息御座所としても使われた由緒ある建築としての見ごたえも十分。
食事を仙台箪笥で提供するオリジナルのスタイルに加え、歴史的側面からも楽しめる、仙台でも貴重なスポットであると言えます。

伊達家の旧邸宅で食べられる「箪笥料理」を求めて。玄関から様式美溢れる佇まいです。

「鍾景閣」は明治時代後期に建築された伊達伯爵家の邸宅で、戦後まで使われていた屋敷です。昭和61年、現在の場所に移築復元されました。
お庭も整えられており、気持ちが良い景色が広がります。

木造平屋一部二階建ての主家は当時の意匠を数多く残し、情緒をかもし出します。木製の窓枠や昔の手延べガラスも壊れることなく保存されており、そのままタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。

華族が暮らした日常をそのまま残した文化財。貴重な木材を使用した継ぎ目のない梁や、伊達家の紋を配した釘隠しなどは見どころです。

鍾景閣では仙台の伝統工芸「仙台箪笥」を使った料理を食べることが出来ます。まずはお昼から贅沢なお食事が運ばれてきました!

そしてテーブルの上に存在感を放つ箪笥が置かれました。艶光りする漆塗りに豪華な装飾。仙台箪笥です。

箪笥の引き出しオープン…。スイーツの世界の扉が開きます。
引き出しという引き出し、扉の中にも、スイーツがぎっしり。和洋ミックスのスイーツが沢山。工芸品を実際に触れて、さらに美味しい体験まで出来る、楽しいランチでした。
旧伊達伯爵邸 鍾景閣 | ||
---|---|---|
住所 | : | 宮城県仙台市太白区茂庭字人来田西143-3 |
web | : | https://shoukeikaku.jp/ |
14:30 旧石器時代の森が眼前に迫る!「地底の森ミュージアム」
鍾景閣の帰り道、長町南駅から歩いてすぐのところにある博物館「地底の森ミュージアム」へ立ち寄りました。
ここは、旧石器時代にこの場所にあったとされる森の姿を見ることが出来る博物館です。
かつて生えていた木々が化石となり、腐ることなく埋もれ残っているもののことを「埋没林」と呼びます。この埋没林が見られる施設は国内でたった3か所しかなく、富山県・魚津、島根県・三瓶(さんべ)、そしてもうひとつが宮城県・仙台市富沢エリアにある地底の森ミュージアムです。3つの中でも駅から歩いていくことが出来るアクセスの良さはここ仙台・地底の森ミュージアムがダントツで、気軽に立ち寄ることができます。
小学校建設に先立って行われた富沢遺跡の発掘調査は、約2万年前にここに森があったこと、その植生はすでに絶滅した「トミザワトウヒ」他であったこと、また動物(鹿)が生息していたこと、森にいた昆虫などの発見につながりました。特に、この場所で人の手によって割られた石器が見つかり、ここで狩りのための道具を作ったことや滞在した跡(焚火の跡)などが地面に残っていることがわかりました。一見すると無機質な木々の幹や根が横たわっている展示なのですが、生きるために、食べるために行動した人の営みがしっかりと刻み込まれていることが証明されています。これはとても貴重なことです。
それらは展示品と映像によって詳しく解説されていて、とてもリアルに感じられます。
富沢遺跡は我々祖先の暮らしを現代に蘇らせ、そして様々なことを語りかけてくれているようでした。悠久の時を経て現れた地底の森に、2万年前の世界への想像力がかきたてられる時間を過ごしました。

旧石器時代の森が見られる博物館「地底の森ミュージアム」へ。建物の中に「富沢遺跡」の一部が保存されています。

昭和63(1988)年、2万年前にここにあった針葉樹を主とする森が発掘されました。地下1階のほぼすべてが湿地帯にあった森の姿をそのままの姿で公開するという、独創性ある展示方法です。

ここ富沢には現在は絶滅した針葉樹の森が広がり、そこには鹿や昆虫がいた形跡がありました。湿原だったために水の下に沈んでいて腐ることなく発掘されるに至りました。

富沢遺跡では森が見つかっただけでなく、旧石器人がここで活動した証である焚火の跡と槍に付ける石器を作り直した跡など、人の生活跡が見つかりました。この際どう行動したかについては研究と推察によりわかりやすい動画で解説されています。

1階は富沢遺跡に関連する資料の展示スペースです。

ミュージアム野外スペースでは、富沢遺跡で見つかった植物を復元、育成させた「氷河期の森」があり、実際に歩くことができます。2万年前は現在よりも気温が7~8度低かったため、植えられた植物は寒い地域の植生であることも注目点です。
地底の森ミュージアム | ||
---|---|---|
住所 | : | 宮城県仙台市太白区長町南四丁目3-1 |
web | : | http://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/~chiteinomori/ |
仙台で伝統を守り続けるスポットを「仙台まるごとパス」を使ってお得にまわりました。訪れた場所では興味深い“モノ”との出会いが沢山ありましたが、そこには“人”の探求心や努力、誇り、伝えていきたいという意欲が泉の如く湧き出ていました。
脈々と残る工芸や文化を感じ、奥深い仙台の魅力に気づけた旅でした。
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
よろしければ、アンケートにご協力ください。