世界自然遺産の白神山地や八甲田山などの山々を望み、太平洋・日本海・津軽海峡と3つの海に囲まれた青森県。山と海の幸に恵まれた土地には、豊富な食材を生かしたおいしい料理の数々があります。

東京から青森に移住し、「食の豊かさ、グルメの豊富さに驚いた!」と語るのが弘前経済新聞編集長の工藤健さん。実際、青森の郷土料理やローカルグルメは驚くほどあるそうです。そこで、青森を訪れたら食べておきたい味の数々を、戦前からある「伝統グルメ」と、戦後に生まれた「現代グルメ」に分け、計10品を工藤さんにレコメンドしてもらいました。珍しいものからどこか懐かしさを感じるものまで、青森の未知なる食との出会いをご堪能ください。

稲作が適さないことから誕生した絶品。鍋にせんべいを入れる鍋料理「せんべい汁」

青森の伝統グルメ その1

鍋物の具にせんべいを用いるのは全国でも青森だけではないでしょうか。せんべい汁が主に食べられるのは青森の東側に位置する八戸エリアですが、その風土と食文化が誕生の背景にあります。八戸エリアは太平洋からの冷たい季節風「やませ」によって夏に気温が上がらないなどの理由があり、稲作が困難でした。そこで米の代わり食べていたのが、小麦粉でできた独自のせんべい。主食や間食として食べていましたが、さらに鍋にも入れてしまったのです。

ユニークな組み合わせと思うかもしれませんが、食べればこの組み合わせが正解だったことに気づくことでしょう。硬いせんべいがお麩のように鍋の汁を吸い取り、芯を少し残したアルデンテ状の煮上がりがベスト。せんべいと鍋物が想像以上に相性が良いことに、きっと驚くはずです。

画像: 青森の伝統グルメ その1

たとえばしょうゆ味の「松膳」。八戸市内には“マイスター店”多数

八戸市内ではせんべい汁を食べられる店がいくつもありますが、市民団体「八戸せんべい汁研究所(汁゛研 じるけん)」が仕掛けた「八戸せんべい汁おもてなしマイスター」を有する店がおすすめ。八戸せんべい汁ののぼりが目印で、市内に20店以上あります。中でも八戸駅前にある「日本酒居酒屋 松膳」は、しょう油ベースのスタンダードな味。寿司とのセットメニューも揃えます。味付けや具材は店によってさまざまで、何度でも楽しめてしまうのが八戸せんべい汁なのです。

画像: たとえばしょうゆ味の「松膳」。八戸市内には“マイスター店”多数
日本酒居酒屋 松膳
住所青森県八戸市一番町1-1-19
電話0178-51-8067
営業時間17:00~23:00(昼は予約のみ)
定休日日曜日
webhttps://www.facebook.com/sakematsuzen/

暮らしの知恵から生まれた津軽の郷土料理「いがめんち」

青森の伝統グルメ その2

いがめんちは津軽地方で食べられる郷土料理です。その昔、貴重な海の幸をムダなく食べきるために、あまったゲソの部分も残さず食べるアイデアが発祥だとか。すなわち「いか」の「めんち」なのです。家庭によってレシピが違い、刻んだタマネギなどの野菜と一緒に揚げたり、焼いたり、炙ったり。多様な作り方があります。

個人的に好きないがめんちは、揚げたもの。中がホクホクで表面はカリっと、食感のコントラストが楽しめ、ソースやマヨネーズをトッピングすれば味のバリエーションが増えます。弘前を中心に郷土料理を提供する料理店では定番のグルメです。

画像: 青森の伝統グルメ その2

ファストフード感覚で。弘前駅前の市場「虹のマート」

弘前市民の台所として60年以上にわたって愛されているのが「虹のマート」です。ここでは新鮮な食材が手に入るだけでなく、総菜も豊富。いがめんちはテレビや雑誌の影響で県外や外国からの観光客も買いに訪れます。いがめんちを片手に、市場を散策してはいかがでしょうか。

画像: ファストフード感覚で。弘前駅前の市場「虹のマート」
弘前食料品市場(愛称「虹のマート」)
住所青森県弘前市大字駅前町12-1
電話0172-32-6411
営業時間8:00~18:00
定休日日曜日
webhttp://www.hamadakaisan.com/

ウニとアワビで仕立てた深い味に感動。漁師の吸物「いちご煮」

青森の伝統グルメ その3

名前だけ聞くと果物を煮た料理を想像するかもしれませんが、そうではありません。「いちご煮」はウニやアワビなどが入った吸物で、赤みが強いウニの卵巣の塊が、朝靄に輝く野イチゴのように見えたことが名前の由来。いわゆる漁師飯として親しまれ、ウニを煮て食べていたことが始まり。漁港が多い三陸沿岸で愛されていましたが、今では料亭や祝いの席などで饗されるようになりました。

ウニのうまみをたっぷりと含んだ乳白色の出汁にアワビと薬味の青じそなどが入ったシンプルな構成ですが、実に複雑で奥深い味わいを堪能できます。通年で食べることができますが、ウニが旬を迎える6~7月がおすすめです。

画像: 青森の伝統グルメ その3

いちご煮をはじめ、海と山の幸を堪能できる割烹「銀波」

八戸市街にある割烹料理店「銀波」は八戸港で水揚げされた魚介や地産の野菜を使用した郷土料理のほか、地酒や日本酒各種をそろえています。カウンター席や個室席があり、コース料理も提供。いちご煮のほか、地元の食の魅力をぞんぶんに味わうことができるお店です。

画像: いちご煮をはじめ、海と山の幸を堪能できる割烹「銀波」
割烹 銀波
住所青森県八戸市大字岩泉町7
電話0178-22-2426
営業時間11:30~14:00、17:00~22:00
定休日日曜日・祝日
webhttp://www.ginpa.jp/

雪国のおふくろの味。野菜の滋味深さが染みる「けの汁」

青森の伝統グルメ その4

ダイコンやニンジンといった根菜類を刻み、味噌で煮込む郷土料理が「けの汁」です。大量に作り、数日間にわたって食べられることから女性の家事を助け、雪深い津軽地方の貴重な栄養源としても重宝されてきました。地域によって具材は変わり、油揚げや豆腐、山菜なども入ります。

細かく刻まれた野菜のうまみが五臓六腑に染みわたります。あふれんばかりに盛り付けられた野菜を、一口含めばきっと止まりません。寒い冬に食べると体の芯まで温まる栄養豊富な田舎汁は、素朴ながら優しいおいしさです。

画像: 青森の伝統グルメ その4

弘前を代表する老舗郷土料理店「菊富士」

弘前の繁華街・土手町通り近くにある菊富士は創業100年近い和食店。けの汁のほかにも「じゃっぱ汁」や「津軽そば」といった津軽の郷土料理を食べることができます。ランチタイムで気軽に利用したり、個室でゆっくりくつろいだりもできます。

画像: 弘前を代表する老舗郷土料理店「菊富士」
創作郷土料理の店 菊富士
住所青森県弘前市坂本町1
電話0120-38-3638
営業時間11:00〜15:00、17:00〜22:00
定休日不定休
webhttp://www.kikufuji.co.jp/

貝殻を器に、こぼれないように。食べる楽しさがある「貝焼き味噌」

青森の伝統グルメ その5

ホタテガイの貝殻を鍋の代わりとし、ネギや鰹節、煮干しなどからとった出汁に味噌とホタテを入れて玉子でとじるのが「貝焼き味噌」。直径約20cm程度の大きい貝殻を使い、スプーンなどでかき混ぜながら食べます。

ぐつぐつと煮立つ貝焼き味噌をフーフーと冷ましながら食べるのがおすすめ。器として貝殻が使われているため、写真映えもするのではないでしょうか。地元の人たちからは「子どものころ病気のときに食べた」とよく聞きますが、大人にしてみればお酒のつまみ以外に考えられません。

画像: 青森の伝統グルメ その5

地元の人に愛される大衆食堂「なか川」

津軽地方で食べられる「貝焼き味噌」ですが、下北半島では「味噌貝焼(みそけや)き」と呼ばれ、さまざまな具を入るのが特徴。下北半島での元祖を名乗るのが、むつ市にある「なか川」です。家庭料理として親しまれてきた「味噌貝焼き」を商品として約50年前に初めて提供した店です。

画像: 地元の人に愛される大衆食堂「なか川」
食事処 なか川
住所青森県むつ市小川町2-21-11
電話0175-22-3798
営業時間10:30~15:00、17:00~19:00
定休日月曜日

三味一体。絶妙なバランスで調和した「味噌カレー牛乳ラーメン」

青森の現代グルメ その1

青森市民に約50年にわたって愛されているソウルフードが「味噌カレー牛乳ラーメン」です。味の想像が付かないかもしれませんが、食べれば納得。青森の名物のひとつに数えられる理由がわかります。その誕生はラーメン店「味の札幌 大西」の常連だった学生の遊び心ですが、今や青森市内を中心に県内各地のラーメン店で食べることができます。

カレーを彷彿させる金色の脂と白みがかったスープには、大きなバターが真ん中に添えられています。麺はコシの残る中太縮れ麺。最初はピリ辛のカレーが際立ち、後から味噌のコクが訪れますが、牛乳がまろやかにバトンをつなぐ優しい味です。バターを溶かしながらお召し上がりください。

画像: 青森の現代グルメ その1

青森駅から徒歩10分にあるラーメン店「味の札幌 大西」

「味の札幌 大西」は「味噌カレー牛乳ラーメンの元祖」ともいわれ、生みの親である故・佐藤清さんのもとで働いた現店主の大西文雄さんが切り盛りしています。カウンターや小上がりを備え、ランチ時には行列ができます。味噌カレー牛乳ラーメン以外にもさまざまなラーメンを取りそろえ、いずれも間違いのない味です。

画像: 青森駅から徒歩10分にあるラーメン店「味の札幌 大西」
味の札幌 大西
住所青森県青森市古川1-15-6
電話017-723-1036
営業時間11:00~21:00
定休日不定休
webhttps://www.oonishi0024.co.jp/

ラーメンのようで、ソース風味。麺の街で生まれた「黒石つゆ焼きそば」

青森の現代グルメ その2

「黒石つゆ焼きそば」の始まりは半世紀以上前といわれています。大正時代から続く製麺所があった黒石市内では、焼きそばは駄菓子店に並ぶほど身近なグルメでした。つゆを入れたのは戦後。理由は諸説ありますが、作り置きした焼きそばを温めるためだともいわれます。黒石エリアでは、惣菜店など70店舗以上もの提供店があります。

出汁の効いたスープに太平麺の焼きそばが入っています。見た目はラーメンに近いのですが、麺はソース味の焼きそばです。スープと麺とが織りなすハーモニーは思いのほか心地よく、焼きそばの脂っぽさを適度に中和しています。オイスターソースなどで、お好みで味を調整するのが地元流です。

画像: 青森の現代グルメ その2

古いアーケード街にある昔ながらの焼きそば店「すずのや」

藩政時代からある中町こみせ通りにある大衆食堂がすずのや。店内にさまざまな芸能人のサインが並ぶ、黒石つゆ焼きそばの代表的な提供店として知られます。黒石つゆ焼きそばの発祥店「美満寿(みます)」(現在は閉店)の常連客だった現すずのやの店主・鈴木民雄さんが、その味を再現したレシピで提供しています。

画像: 古いアーケード街にある昔ながらの焼きそば店「すずのや」
焼きそば専門店 すずのや
住所青森県黒石市前町1-3
電話072-53-6784
営業時間11:00~15:00
定休日火曜日 (祝日の場合は翌日休業)
webhttps://yakisoba-suzunoya.jimdofree.com/

鉄器産業が生んだ青森の焼肉文化「十和田バラ焼き」

青森の現代グルメ その3

鉄板にバラ肉とタマネギをのせ、青森県産リンゴとにんにくの甘辛いしょう油ダレにからませてジュージューと焼いたシンプルな料理が「十和田バラ焼き」です。しかしただの焼肉と侮ってはいけません。多めに入れられたタマネギから出る甘みがたれと混ざり、絶妙なバランスの味になります。白米にのせたり生卵をかけて食べたり、食べ方のバリエーションも豊富です。

十和田市内ではお店によって提供スタイルはさまざまで、肉の種類も豚、牛、馬とそれぞれ。「十和田バラ焼き」がこの地に根付いたのは、南部鉄器の流れを汲む鋳物の鉄板作りが盛んだったことも一因。青森だからこそ生まれたローカルグルメなのです。

画像: 青森の現代グルメ その3

十和田バラ焼きのアンテナショップ「司バラ焼き大衆食堂」

十和田市現代美術館から徒歩5分の十和田市中心市街地にある「司」。十和田バラ焼きを通じてまちおこしを仕掛ける市民団体「十和田バラ焼きゼミナール」のアンテナショップです。「十和田バラ焼き」はもちろん十和田グルメやお酒などを屋台形式で味わうことができます。

画像: 十和田バラ焼きのアンテナショップ「司バラ焼き大衆食堂」
司バラ焼き大衆食堂
住所青森県十和田市稲生町15-41
電話080-6059-8015
営業時間11:00〜14:30、17:30〜23:00(ラストオーダーは30分前)
定休日月曜日(月曜日が休日の場合は火曜日)
webhttps://tukasatowada.wixsite.com/barayaki

市場の魅力そのまま!海鮮のセルフサービス「青森のっけ丼」

青森の現代グルメ その4

「青森のっけ丼」は市場内にある鮮魚店から新鮮な魚介類を自由に選び、そのまま丼の上にのせて食べるスタイルの海鮮丼です。市場を自分の足で巡りながら、四季に応じて変わる旬の魚介をチョイス。自分好みの海鮮丼を作ることができます。魚介の種類の多さに時間を忘れて迷ってしまうかもしれません。

具材を選ぶコツは、店の人としっかりコミュニケーションを取ること。交渉次第ではサービスが期待できるかもしれません。津軽弁での会話にハードルの高さを感じるかもしれませんが、受付でお願いすればなんと通訳も可能。地元の人との触れあいを通して、最高の一杯を作ってみませんか。

画像: 青森の現代グルメ その4

30以上もの鮮魚店がひしめく「青森魚菜センター」

市場には約30店舗が並び、獲れたての魚介がずらり。座って食べられる休憩スペースがあり、みそ汁や炭火による焼き魚の提供もあります。選ぶのが苦手な人はお店の人にまかせることもできます。新鮮な魚介は朝のうちに入荷するので、朝早い時間から食べに行くのがおすすめです。

画像: 30以上もの鮮魚店がひしめく「青森魚菜センター」
青森魚菜センター
住所青森県青森市古川1-11-16
電話017-763-0085
営業時間7:00~16:00
定休日火曜日
webhttps://nokkedon.jp/

しゃぶしゃぶで味わえば“主役”級のおいしさ。「大鰐(おおわに)温泉もやし」

青森の現代グルメ その5

大鰐温泉もやしは、温泉熱と温泉水だけで作られるもやしの在来品種です。まっすぐ伸びる30cmもの大きさで、シャキシャキとした食感が特徴。最盛期には数十軒あったといわれる生産者は現在では6軒まで減ってしまいましたが、近年は若い生産者が増えつつあります。大鰐町を中心に出荷され、もやし自体を購入することもできます。

ラーメンの具材やお浸しなどにしてもおいしいのですが、生産者のオススメはしゃぶしゃぶ。大鰐産の豚肉と一緒にサッと湯にくぐらせ、ポン酢でいただきます。最大の特徴である大鰐温泉もやしのシャキシャキ感と、やわらかな肉質の豚肉とのハーモニーに舌鼓を打つこと間違いなしです。

画像: 青森の現代グルメ その5

800年の歴史を持つ大鰐温泉ともやしを満喫できる「お食事処 花りんご」

「大鰐町地域交流センター鰐come(わにかむ)」内にある「花りんご」でしゃぶしゃぶを味わうことができます。施設内には産直コーナーや温泉設備が充実しており、日帰り入浴も可能。大鰐温泉もやしを味わうとともに、温泉も一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。

画像: 800年の歴史を持つ大鰐温泉ともやしを満喫できる「お食事処 花りんご」
お食事処 花りんご
住所青森県南津軽郡大鰐町大字大鰐字川辺11-11
電話0172-49-1126
営業時間11:00~15:00(ラストオーダーは30分前)
定休日水曜日
webhttps://www.wanicome.com/

今回、工藤さんには青森の各地にある郷土料理とご当地グルメにスポットを当てて紹介してもらいました。しかしこのほかにも、青森には珍しい食材や果物を使ったスイーツや食文化がまだまだたくさんあるといいます。グルメは旅の最大の楽しみのひとつ。ほかではまずお目にかかれない青森のグルメの文脈は豊富にあるのです。それらを「発掘」しに訪れてみるのも、青森の楽しみ方のひとつといえそうです。

写真協力:青森のうまいものたち

掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。

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