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西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎 (実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典 (PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。 サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。
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前編はこちら
五所川原の立佞武多に感動しつつ戻ってきた弘前。街をぶらぶらしながら、弘前のねぷたのことを考えていました。やっぱりここで、ねぷたを見ておかないと後で後悔しそう…。そこであれこれと街を探索開始です!無事「扇型ねぷた」も見学でき、ねぷた作りと地元に根付いた祭りの文化を考えます。
それは突然に。ねぷた絵師との出会い。
五所川原の「立佞武多の館」で見た立佞武多に感動を覚え弘前まで戻ってきてやっと見れた「岩木山」。夕日をぼーっと眺めていたらひとつの疑問が浮かびました。考えてみたらあんな大きなねぷたを一体どこで作っているんでしょう?そう思い、弘前であれこれと調査をしていた中、面白い情報が偶然にも聞けました。
私が訪問した7月初旬は7月末から8月にかけての県内各地のねぶた制作に一番大切な時期だとのこと。知り合いにねぷた絵師がいて、ちょうど今時期は絵の創作中だから見に行ってみてはどうだ?と思いがけないお話をいただき、早速訪問することに!
青森県内には沢山の絵師の方がいて、中には絵師であることが職業、という方もいるほど。訪問したのは、子供の頃から絵師の家に生まれ、先生に弟子入りし、今年で16年目という方の作業場。今年行われる各地のねぷたの図柄8枚分を任されているとのこと。ねぷたには前後に1枚ずつ絵を貼ることから、全部で16枚描くことになります。これは大変な仕事です。地べたに置いた和紙に絵を描きながらも、それが骨組みに貼られ立った時の姿や、中に照明を入れたイメージなど、完成形を想像しながらの作業です。
まずは全体の絵柄を決め下絵を描きます。その後大きな扇型の紙に下描きを施します。そこからの作業はほぼフリーハンドでの墨描き、その後染料をにじませながら色付けしていく。頭の中にある完成図を実際に紙の上で形にしていきます。
お天気が悪かったのでなかなか見ることが出来なかった「岩木山」。やっと見ることができました。
少しひらけたところから。少し雲がかかっていましたが夕日に浮かぶ稜線がキレイでした。頂上のところが漢字の「山」みたいになっているのが弘前から見える岩木山の姿です。
ねぷた絵師様の工房にお邪魔しました!和紙をつないで扇型に。お、大きくて全部カメラに収まりきらない…!
すでに下描きがされています。
色付けが終わったものを見せていたただきます!
下絵です。この段階でマス目を描いておき、大きく描く場合でもあらかたの寸法やバランスがわかるようになっています。
ロウ引きすることにより白く縁取りされ、それにより色は鮮明さを増す
ねぷたの色付けはグラデーションを効かせた「にじませ」により、立体感や迫力を際立たせる手法。しかしそうした染料の使い方は色と色との境界がぼんやりとにじみ合ってしまい、くっきりと題材を見せることが出来ません。そこで使われるのが「ロウ引き」です。布染色などでも使われるろうけつ染めと同じく、ロウを塗ったところだけが水分を弾き、そこの色を白く抜いてしまう方法です。ロウを塗ったところが照明を強く通し題材をはっきりと描けるだけでなく、力強くかっこよい絵にするための効果的な方法です。
この絵師さんの場合は主に5色の色を使いながらも特に赤色へのこだわりを持っていて、重たすぎず軽すぎず、ライトが入ったことを想像しながら自分の思う赤を差すのだそう。
ねぷたは勇ましく戦う戦士や、歌舞伎の題材、三国志の英雄などが描かれることが多く、これらはもともとこの祭りが「喧嘩ねぷた」であったことが関連しています。お互いにぶつかり合ったり石を投げて破ったりすることで競いあっていたのです。この競い合いがねぷたの巨大化や絢爛豪華さにつながり、また修復しやすいような形=立体的ではなく扇型、などに変化していきました。弘前のねぷたには立体的なものと扇型の両方があるということです。
主に5色を使いグラデーションを用いて色付けされています。勇ましくそして勇敢な戦いの場面が描かれ、そしてそれは喧嘩ねぷたの流れから、相手への威嚇などの意味合いもあります。
筆の使い方で迫力のある絵が描かれます。ほぼフリーハンドの毛の流れなどが大胆です。歌舞伎や三国志の一場面を切り取り、迫ってくるような力強さを表すのが絵師の腕の見せ所!
色付けには染料を使います。平たいはけの中で染料と水を使ってぼかしを作り、ひと筆、ふた筆と重ねていくことでグラデーションを作ります。簡単そうに思えるのですが、見ていてすぐに出来るような技ではないとわかりました…!
白く色を抜く「ロウ引き」。これにより色の境界戦がくっきりとするだけでなく、ねぷたの中に仕込む光の通り具合が変わるため、一層鮮やかな絵柄が映し出されます。
ねぷたの裏側にあたる「見送り絵」。この見送り絵を見るのが好きだという通の方もいるらしい。すらりとした美人画や幽霊などを描くのが一般的だとか。
津軽藩ねぷた村でねぷたの歴史やねぷたマインドを感じる
夜、弘前駅の周辺で煌々と明るい倉庫があります…。よく見るとねぷたの骨組みを作っている「ねぷた小屋」でした!早速声をかけて中を拝見します。自分たちのねぷたは自分たちで作る。老若男女が集まって仕事帰り、夜までかかってねぷたの整備や骨組みを作っていました。
翌日、弘前城近くの「津軽藩ねぷた村」へも行ってみました。こちらでは沢山の絵師の紹介や弘前ねぷた最大級の7メートルの高さがある扇型ねぷたを見ることができます。ねぷたは民間、特に農民から発生したお祭り。それ自体は一年のうちのたった数日間であるものの、文化としての占有率や子供の頃からのねぷたにかける情熱は、青森の人々の生き方に大きく影響を与えてきたと感じました。もちろん、その関わり方は千差万別、多様化している時代ではあるけれど、青森県を語る上でねぶた・ねぷたを抜きには話せないと思うのです。
数日間に凝縮させた情熱が、また次の一年に受け継がれていく。様々な人たちの想いで出来上がっている祭り、それがこの街に息づく夏祭りでした。
※通常ではねぷた絵師様の工房には立ち入りができません。またねぷた骨組み制作現場についても許可なく立ち入ることはできません。
弘前駅前で夜の作業中。骨組みの修理や小さな人形ねぷた(立体)を作っていらっしゃる現場です。
人形の姿を想像しながら中に照明を仕込みます。かつてはこれがろうそくで、ゆらゆらと揺れるろうそくの灯りで照らす方法を取っているのは弘前では2~3団体残っているそうです。
昔は木骨のみであったという骨組み。最近では鉄骨も組まれてより長く使えるよう、そして頑丈に作られています。
こちらもカメラに収まらず…。ほんとに大きくて、これがあの街の中を走るなんて信じられない!これを台の上に乗せるのでさらに高くなるのだとか。
弘前の街中を大きなねぷたが通り沿道にはそれを見物する沢山の人たち…、実際に見ないとなかなか想像ができません。言われてみるとねぷた行列をする道は電線がありませんでした。ここを威勢の良いお囃子が響き、扇がぐるぐる回りながらねぷた行列するんですねー。
翌日、朝のオープンに合わせて「津軽ねぷた村」へ行ってみました。
入った時、ちょうど津軽三味線の演奏が行われていました。指の動きがすごい…!そして迫力ある演奏に同席していた海外のお客さんたちも大喜び。
見るのに時間がかかる展示館ではありませんがじっくり見ていたらあっという間に過ぎる時を忘れそう。絵師へのリスペクトやねぷた祭りの歴史や成り立ちが学べます。またここで勤めている方たちはほとんどがお祭りに関わっている方なので色々と実際のお話も聞けますし、お囃子プレイヤーとしてもご活躍なんです。
あまり奇をてらった図柄よりも伝統的に受け継がれてきた絵に個性を加えたものが人気とのこと。沢山の絵師の方にもそれぞれのファンがいて、どことなくみんなタッチが違うんですね。そしてどれもやっぱり気迫あふれる表情してます。
電動でぐるぐる回す場合と、綱を使った手動式で回す場合があるとのこと。あぁ本物見てみたい!
古い時代のものなども展示があります。まんじマークは弘前市のマークでもあります。
艶やかな女性の絵柄は裏側にあたる「見送り絵」。見送り絵が好きという方も多いそうですが、私から したら上級者ですよね!
津軽ねぷた村近くにはお土産屋さんがありましたのでそちらもぜひ。「小山せんべい」は手焼きのおせんべいです。
ナッツやごまを乗せたら、
小麦粉の生地を上から乗せて押し付けるように挟んだら炭火で焼きます。
一人で一度に何枚ものおせんべいを操っていらっしゃいました。暑い日なのに火の前でご苦労様です。
ピスタチオが人気とのこと。ごまや落花生、アーモンドなど種類豊富です。
素朴な味で美味しかったです。ねぷた村だけでなく、弘前城やその北側の江戸時代の武家屋敷街からも近いのでぜひ立ち寄ってみてください。
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