冬の福井県は、柔らかな湿度に覆われています。寒さのなかでも、どこか暖かさを感じるから不思議なものです。2024年、福井県は注目を集める文字通り“ホット”な場所。そんな福井への旅は、驚くべきダイナミズムに溢れていました。
画像1: 貫禄あふれる開高丼に、ダイナミックな恐竜博物館。大迫力の福井旅

本州の中央、日本海側に位置する福井県は、古い律令制では越前国と若狭国にまたがる地域です。道元禅師が建立した禅寺・永平寺を有し、東尋坊に代表される日本海の断崖絶壁もあり、荒々しい風情に溢れています。そんな福井の魅力をひもとくキーワードのひとつは、「ダイナミック」かもしれません。

福井は“恐竜県”。大迫力の恐竜博物館に息を吞みます

たとえば福井駅には、至るところに迫力ある恐竜のモチーフを見かけます。実は福井県、恐竜が有名なのです。日本で発掘された恐竜化石の多くが福井県内で見つかっています。

画像1: 福井は“恐竜県”。大迫力の恐竜博物館に息を吞みます

恐竜化石の一大産地である福井県勝山市に建てられた福井県立恐竜博物館は、恐竜を中心とする地質・古生物学博物館です。2023年7月に大規模リニューアルを果たし、さらに魅力を増し、想像を超える圧倒的な迫力に息をのみます。

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広い駐車場の先にある特徴的な建物に足を踏み入れると、エントランスから下る長いエスカレーターが迎えてくれます。天井に目をやると湾曲した白亜のドーム。設計は、中銀カプセルタワーなどで知られる世界的な建築家・黒川紀章氏によるもの。地下1階、地上3階建て、4,500平方メートルという巨大な屋内の常設展示エリアは、「恐竜の世界」「地球の科学」「生命の歴史」の3つのゾーンから構成されています。

画像3: 福井は“恐竜県”。大迫力の恐竜博物館に息を吞みます

エスカレーターを下った先には、50体もの恐竜の全身骨格をはじめとした、千数百に及ぶ標本の数々が待っています。「ダイノストリート」と名前の付いたアプローチが続き、左右の壁にはジュラ紀のカブトガニや魚竜の化石がインスタレーションのように並びます。恐竜の時代へと誘う演出です。

画像4: 福井は“恐竜県”。大迫力の恐竜博物館に息を吞みます

回廊の先にある「恐竜の世界」では、ティラノサウルスのロボットが待ち構えています。生々しく動き、雄叫びを上げる姿に、泣き出してしまうお子さんもいるというリアルさ。

ティラノサウルスの骨格標本のほか、ブラキオサウルスやスピノサウルス科スコミムスといったお馴染みの恐竜たちが。

画像5: 福井は“恐竜県”。大迫力の恐竜博物館に息を吞みます

実は恐竜の骨格が完全な状態で発掘されるケースは珍しいそうで、レプリカで骨を補っているのが常だといいます。しかしこのカマラサウルスは、9割以上が実物の骨格標本という貴重なもの。大半は石化しているため、重量に耐え得る頑丈な鋼鉄のフレームで体躯を支えています。

画像6: 福井は“恐竜県”。大迫力の恐竜博物館に息を吞みます

また、「日本とアジアの恐竜」では、福井県の発掘調査で発見された新種の恐竜6種を展示しています。

常設展示のみならず、さまざまな魅力が

画像1: 常設展示のみならず、さまざまな魅力が

恐竜博物館は、学術的な研究拠点としての役割を持ちます。通常の博物館ではパブリックエリアと完全に区切られた収蔵庫が、こちらではガラス張りになっており、文字通り“舞台裏”を垣間見られる仕様に。

画像2: 常設展示のみならず、さまざまな魅力が

ダイノライブラリーは絵本から恐竜や地質、古生物学に関する専門書までをそろえた図書室。落ち着いた雰囲気のなか、じっくり読書もできます。

画像3: 常設展示のみならず、さまざまな魅力が

巨大な恐竜骨格も展示できる特別展示室は、展示がない時期でも必見です。3面ダイノシアターと名付けられた巨大な3面スクリーンでは福井の街並みから恐竜の世界にタイムスリップ。太古に身を置いたような感覚を味わえます。

画像4: 常設展示のみならず、さまざまな魅力が

新館には、福井で発見された実物大の恐竜5種と鳥類1種をあしらった、高さ約13mのシンボルモニュメント「恐竜の塔」が。光の演出とともに楽しめる、人気の撮影スポットです。

リニューアルにより、新たに「化石研究体験」というプログラムを体験できるようになりました。小学生以上(小学生は保護者同伴)が対象で、洗練された空間は、さながらアパレルのお店のようですが、ここでは、恐竜の歯を取り出す「化石クリーニング」や、CTスキャンで化石の非破壊観察を行う「CT化石観察」など、時期に応じてさまざまな学びを得られます(観覧料とは別に料金がかかります)。

画像5: 常設展示のみならず、さまざまな魅力が

ミュージアムショップも充実。恐竜関連のアイテムがずらりと並び、お土産選びも充実したひとときになるはずです。

福井県立恐竜博物館

住所福井県勝山市村岡町寺尾51-11(かつやま恐竜の森内)
電話0779-88-0001
開館時間9:00~17:00(入館は16:30まで)※夏季繁忙期は8:30~18:00(入館は17:30まで)
※要事前予約
休館日第2・4水曜(祝日の場合はその翌日、夏休み期間は無休)、年末年始(12月31日と1月1日)。その他臨時休館あり。詳細はWebサイトをご確認ください。
観覧料一般1,000円、高校・大学生800円、小・中学生500円、70歳以上500円
webhttps://www.dinosaur.pref.fukui.jp

昭和の文化と日本海の絶品を味わえる、ふるさとの宿こばせへ

丸一日楽しめるボリューム満点の恐竜博物館を、後ろ髪引かれる思いで後にしたら、日本海側に向けて車で足を延ばすこと1時間半弱。ダイナミックな海産物の魅力を味わうため、越前町にあるふるさとの宿こばせを訪れます。

画像1: 昭和の文化と日本海の絶品を味わえる、ふるさとの宿こばせへ

ここは文豪の宿。食にまつわる著書も多い作家の開高健さんが愛したことでもよく知られる、海辺の温泉宿です。

画像2: 昭和の文化と日本海の絶品を味わえる、ふるさとの宿こばせへ

館内に足を踏み入れると、そこかしこに書や挿絵が飾られています。開高健さんの書や、相棒として知られるイラストレーター・柳原良平さんの作品、越前町出身の絵手紙作家・山下秀子さんの絵などがあり、昭和のカルチャーを賑わせたビッグネームの足跡を忍ぶことができることは、宿を訪れる大きな目的になりそうです。

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各部屋にもなんとも風情があり、和室に温泉宿らしい趣が感じられます。開高さんが愛した特別室には、書棚にさまざまな本が並び、文豪の息吹を感じられるかのよう。

画像4: 昭和の文化と日本海の絶品を味わえる、ふるさとの宿こばせへ

また、眼前に遮るもののない温泉は格別です。日本海が広がり、夕陽が沈んだ後には、漁火を眼下におさめることもできます。筋肉関節痛や腰痛などに効果があるとされる高張性弱アルカリ性温泉の湯は柔らかく、旅の疲れを癒やしてくれます。

全国から予約殺到! 幻の“開高丼”は、初冬だけのおいしさです

そして12月の時期は、多くのお客さまで賑わいます。お目当てのひとつは、その名も開高丼。毎年予約受付が始まるや否や、あっという間に札止めになる人気の品です。ランチタイムは1日7組だけしか食べることができません。宿泊でも食事処でのご提供ですが、今回は特別に部屋食でいただきます。

画像1: 全国から予約殺到! 幻の“開高丼”は、初冬だけのおいしさです

長谷さん「開高丼は、宿に足繁く通っていただいた作家の開高健さんから『美味いから開高丼と名付けたらどうか』と名前をいただきました。何泊かされた最後の晩に、先代がもうカニを出し尽くしたので、海の宝石箱をひっくり返したような逸品をご提供したのが始まり。11月中旬から1月中旬までの期間限定(ランチタイムは12月まで)です。というのも、具材となるセイコガニが1月中旬から産卵期を迎えるため、資源保護のための措置なのです」

画像2: 全国から予約殺到! 幻の“開高丼”は、初冬だけのおいしさです

こう語るのは、5代目ご主人の長谷裕司さん。そもそもセイコガニとは、越前ガニのメスのこと。小ぶりで身が小さいものの、産卵を控えた冬期にはおいしさを増す、希少な珍味です。開高丼は、基本的にコースのトリを飾るシメのお食事。それにならい、冬の福井ならではの冬の味覚を堪能しましょう。

丼に辿り着く前に満腹になるほど。絢爛豪華なカニ尽くし

かくして眼前に現れたのは、かくも豪華なカニ尽くし! 開高丼がセットになった3万円のお昼のコースです。カニといったらやはり茹で。こばせでは越前ガニのオスを使い、手間ひまを惜しまず始末をします。

画像1: 丼に辿り着く前に満腹になるほど。絢爛豪華なカニ尽くし

長谷さん「水深150~200mの場所で暮らすカニを3日くらい生け簀のなかに入れて砂を吐かせ、身が安定する温度で生かします。茹で時間と塩加減にもとことんこだわります」

画像2: 丼に辿り着く前に満腹になるほど。絢爛豪華なカニ尽くし

塩気も風味も素晴らしく、力強いカニ身のおいしさが堪能できます。カニミソもたっぷり入っていて、程よい塩加減。ふわっとほどけるような身の食感が楽しめる茹でガニに対して、焼きガニは、うまみがギュッと閉じ込められたようなおいしさです。引き締まった肉質は、カニ身が筋肉でできていると実感できることでしょう。

赤ちゃんのこぶし大にドンと盛られたカニミソ(写真右上)は自家製で、4~5時間かけて炊き上げたもの。濃厚で塩気も強く、うまみの凝縮に喝采を送りたくなります。熱燗が恋しくなるおいしさです。

続いてはセイコガニのみぞれ和え(写真右下)。福井は大根の一大産地で、山海のコラボレーション。冬場の荒々しい海をイメージした逸品です。

そしてお次は月見ガニ(写真左下)。カニの身の上に甘めに仕立てられた三杯酢と、卵白をあわせたものが乗ります。さっぱりとした三杯酢で泳ぐように踊る、プリプリとしたカニ身。甘さに負けない力強さに身もだえしてしまいます。

画像3: 丼に辿り着く前に満腹になるほど。絢爛豪華なカニ尽くし

最後はカニの洗い。生きているカニをその場でさばき、サッと冷水にさらせば、新鮮さから花が咲くかのように身が開きます。ねっとりとしたなかにカニの風味が存分に現出します。生臭さは皆無。うまみと奥深さばかりを感じます。

満を持して現れた開高丼。シンプルなのに多彩な味を持つ、極彩色の威容!

このような彩り豊かな付け合わせで満足感もひとしおですが、本稿の主題のひとつは丼。満を持して登場した開高丼は、いやはや、聞きしに勝る見事なインパクトです。ご飯の上にこれでもかと盛り付けられたセイコガニが、赤と白と濃密なコントラストを描きます。聞けばこの丼、大人4人前で、2kgはゆうにあるとか。

画像: 満を持して現れた開高丼。シンプルなのに多彩な味を持つ、極彩色の威容!

ホカホカと湯気を立てるその威容は、早く食べてほしいとねだっているかのよう。カニの身、ミソ、外子に内子と余すところなく使われています。身の小さいセイコガニは手作業でほぐすそう。シンプルながら驚くべき手間ひまがかかっています。

身の繊維質でさっぱりとしたうまみ、内子のホクホクとした甘さ、ねっとりととろけるようなミソ、外子のシャキシャキ感……食感のバラエティで楽しませてくれますが、何よりも驚くべきはうまみのコントラストです。それぞれに違った味を持ち、濃密で芳醇とは、まさにこの丼のことをいうのでしょう。

具材とご飯の橋渡しをする醤油だれの活躍もお伝えしなくてはいけません。貴重なセイコガニを残さず使うため、コトコト3時間ガラを茹でて出汁を作り、醤油とあわせて作られた特別なタレ。これがまたいい仕事をするのです。

心も身体も満たされて。福井のダイナミズムに酔いしれる旅を

潮の香りすらかき消してしまうほどの華やかな風味にあてられ、無心でかき込んでいただきます。もはや殻が付いていないのに無言にさせてしまうのは、セイコガニの持つ魔力ともいうべきもの。

画像1: 心も身体も満たされて。福井のダイナミズムに酔いしれる旅を

今回はセイコガニが7杯とご飯2合のオリジナルサイズですが、4人分という大盛りのため、1~2人の場合はセイコガニ3杯とご飯1合のハーフサイズにアレンジも可能だとか。ただし開高丼は料理コースをセットでオーダーする前提のご提供となります(3万円の昼食コースには付属)。

画像2: 心も身体も満たされて。福井のダイナミズムに酔いしれる旅を

「近年は価格が高騰し、申し訳なく思っていますが、カニを地元で食べる文化をなくしてはいけない。その思いから続けています」と長谷さんが教えてくれた通り、心づくしのおもてなしが、この豪快かつ盛りだくさんの献立に表れています。

画像: iStock/NaturePhotograph

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食べ終わればすっかり夕暮れ。日本海に夕日が沈んでいきます。灰色掛かった海辺の様子も赤く色づいて、満腹で上気した顔色に重なるようでもあります。聞いたところによると、開高さんは生前10回以上こばせを訪れたのだとか。

この季節のカニのみならず、旬に応じてウニやアワビ、ノドグロなどが主役に躍り出るといいます。四季折々の日本海のおいしさが手招きしてくれるのです。次は違う時期に来ることを心の中で誓いながら、この後は福井のどこへ足を延ばそうか、すっかり重くなったお腹をさすりながら、心と足取りは実に軽やかです。

ふるさとの宿こばせ

住所福井県丹生郡越前町梅浦58-8
電話0778-37-0018
営業時間ランチ11:30~14:00(要予約)、宿泊15:00~10:00
webhttps://www.kobase.co.jp

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