雄大な自然や歴史、伝統工芸、祭り文化などたくさんの魅力を持つ富山県。ここは大伴家持(おおとものやかもち)が遺した「万葉集」のふるさとでもあり、特に「越中万葉」に詠まれた風景は、季節を通して今も眼前に広がっています。歌枕の地・高岡で家持の足跡をたどり富山の魅力を万葉集に重ねながら味わう、文学の旅を楽しみます。
画像: あなたの知らないディープ富山 ~ 越中万葉歌めぐりの旅

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

富山のふるさと文学「万葉集」と大伴家持を学ぶ「高志の国文学館」、高岡「高岡市万葉歴史館」

北陸地方一帯が「越(高志・古志)の国」と呼ばれていたのは今から1300年以上前。それが7世紀末に越前・越中(えっちゅう)・越後の3国に分割され、越中の国府は現在の高岡市伏木に置かれました。746年に越中の国守としてこの地に赴任したのが大伴家持です。家持は滞在した5年の間に多くの歌を詠みました。家持が編集に関わったとされる日本最古の歌集「万葉集」には約4,500首の歌が収められており、日本各地の祭礼や自然、旅した時に感じたこと、恋の歌まで、当時の人々の心情が綴られています。
近年では現元号である「令和」の出典が万葉集であったことでも話題となりました。

高岡市の人たちの間で親しまれ大切にされているのは、越中を題材にした歌と土地に伝わる民謡を合わせた「越中万葉」です。越中万葉から100首を選んだ「万葉かるた」や市内を走る「万葉線」、あちこちにある大伴家持像や歌を刻んだ歌碑など、万葉集は市民の生活に深く浸透しています。
家持は国守として都から越中へと赴き、視察などの職務を行いながら雄大な景色や冬の厳しさ、人々の営みなどを織り交ぜた越中に関する歌223首を残しました。

大伴家持の歌には年月日も記されており、巻17以降は家持の「歌日記」とも呼ばれています。現代の我々がX(旧Twitter)にふと思いをつぶやくような感覚で、視察の旅の中での出来事や出会った人々が暮らす様子、また感動的な風景を見て歌を詠んでいたのかもしれません。

富山市にある「高志の国文学館」では、越中万葉のコーナーを設置。万葉集を映像と朗唱で楽しめる体験型装置「万葉とばし」、越中万葉に関する絵画8点(季節により入れ替え)、家持の生涯などを解説。外装および内装壁面に使われているアルミ製の鋳物パネルには、万葉集に登場する植物15種類が鋳込まれています。

高岡市の国府があった伏木にある「高岡市万葉歴史館」は、日本初の万葉集を専門とする博物館です。当時の服装「万葉衣装」の展示や、万葉集の写本など貴重な展示があります。「万葉体感エリア」では大型のスクリーンを使ったプロジェクションマッピングにより、見る人のイマジネーションを膨らませることも。万葉植物が栽培される回遊式庭園は春夏秋冬エリアに分かれた四季の庭となっていて、季節ごとに鑑賞できます。

高志の国文学館

住所富山県富山市舟橋南町2-22
電話076-431-5492
開館時間9:30~18:00(受け付け 17:30まで)
休館日火曜日(祝日を除く)、祝日の翌日、年末年始
URLhttps://www.koshibun.jp/

高岡市万葉歴史館

住所富山県高岡市伏木一宮1-11-11
電話0766-44-5511
開館時間4月~10月 9:00~18:00(入館17:15まで)、11月~3月 9:00~17:00(入館16:15まで)
図書閲覧時間 9:30~16:30(複写サービス15:00まで)
休館日火曜日(火曜日が祝休日の場合はその翌日)、年末年始
URLhttps://www.manreki.com/

大伴家持が愛した奈呉の浦に建つ「放生津八幡宮」を訪ねる

射水市(いみずし)は富山県のほぼ中央に位置し、大きな河川に挟まれた平野であることから、古くから栄えてきた場所。船内見学できる「帆船海王丸」が停泊し旅客船も着岸する大きな港「富山新湊」や、漁業が盛んな「内川」など名所も数多くあります。
家持は古く「奈呉之浦」と呼ばれたこの地を気に入り、歌にも詠んでいます。
「放生津(ほうじょうづ)八幡宮」は、当地を気に入った大伴家持が崇敬する大分・宇佐八幡宮から勧請し建てた神社です。境内には江戸末期に建てられた流破風造の拝殿、欅材の寄木造の巨大な狛犬などがあります。

注目すべきは境内に建てられた松尾芭蕉の句碑(射水市指定文化財に指定)です。芭蕉の150回忌に合わせ地元の俳人子邁によって碑が建立されました。芭蕉は大伴家持の歌枕を辿るため越中を訪れ、奈呉之浦にも立ち寄り歌を詠みました。先人たちを慕い、また古典文学に登場する旧跡を訪ねてみたいという気持ちから様さまざまな土地を訪ね歩く中、歌われた土地をどうしても自分の目と足で確かめたかった、芭蕉のそんな万葉集への想いが表れているのがこの句碑なのです。
風蝕により見えにくくなっているものの「早稲の香や分け入る右は有磯海」の句が刻まれています。

放生津八幡宮では10月に秋季例大祭「神輿渡幸祭」が行われ、地域の曳山13台が巡行する「曳山行事」で町には活気が溢れます。この祭りは国の重要無形民俗文化財に指定されています。
奈呉町の曳山を見学させてもらえることになり、大きな曳山蔵を開けてもらいました。高さ約9メートルの曳山は昼にはカラフルな飾りをつけた「花山」、暗くなるころには提灯で飾られる「夜山(提灯山)」となり、町中を練り歩きます。江戸時代に始まった歴史ある祭りで、美しい金具や彫刻、塗りで彩られた絢爛豪華な曳山を大切に使い続け、今も伝承されています。
曳山巡行される射水市新湊地区は古き良き日本の雰囲気を残し、中でも内川エリアは運河に浮かぶ漁船と情緒あふれる水都で、その風景から「日本のベニス」とも呼ばれています。
個性のある橋がかかる川沿いや旧街道沿いを散策しながら、静かな港町の風情を楽しみました。

放生津八幡宮

住所富山県射水市八幡町2-2-27
電話0766-84-3449
URLhttps://www.houjyoudu.com/

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