テクノポップユニットPerfumeの振り付けやライブ演出をはじめ、近年では星野源の楽曲に振り付けた「恋ダンス」が社会現象となるなど、当代随一の演出振付家として知られるMIKIKO。その彼女が、今日のような活躍を見せる前夜には、ひとりニューヨークで過ごした約1年半の体験があったという。エンターテインメントの本場であるかの地で、彼女は何を見て、何を感じたのか。そしてその経験は、いまの彼女にどんな影響をもたらしたのだろうか。
椎名林檎らとともに、東京 2020 開会式・閉会式 4式典総合プランニングチームの一員にも選出されるなど、今後ますますの活躍が期待されるMIKIKOに話を聞いた。
文:麦倉正樹 写真:中村ナリコ

「旅」は自分と向き合える贅沢な時間。自分自身が何を感じるかがいちばん大事

JAL:ニューヨークで過ごした1年半というのは、いま振り返ると、MIKIKOさんにとってどんな経験だったのでしょう?

MIKIKO:とにかく刺激を受けて、吸収できるものはすべてしようとする一方で、アメリカやニューヨークのことを知るというより、自分自身がそこで何を感じるかということがいちばん大事だった気がします。

仕事をしていないぶん時間がたっぷりあるなかで、日本に帰ってからニューヨークでの経験をどう仕事に活かしていくのか、自分はいまここに何をしにきているのか、自分自身と繰り返し対話していました。自分のことだけに時間が使えるって、すごく自由でもあり、同時に苦しくもあるんだな、と痛感しましたね。

画像: 「旅」は自分と向き合える贅沢な時間。自分自身が何を感じるかがいちばん大事

JAL:日本では考えられなかったことを考えるきっかけになったんですね。

MIKIKO:海外に行くことの意味って、私にとってはまさにそれだった気がします。ルーティンの繰り返しで気づけなくなったことや、普段考える時間がないことを、気づいたり考えたりする。同じ場所に留まっていることで少しずつぼやけてしまった感覚を、一度外に出ることでリフレッシュする。いまも海外に行くと、その国の街や芸術に触れながら、その向こうに、自分が日本でやっていることやつくっているものを見ているという感覚があります。

ブロードウェイの真似ではなく「日本人がいちばん素敵に見える表現」を

JAL:MIKIKOさんにとって海外での経験は、あくまでも日本での仕事に活かすためのものなのですね。なぜ、日本で表現をすることにこだわるのでしょうか?

MIKIKO:日本人ならではの、見る目の厳しさってあると思うんです。技術に職人性を求めたり、海外の人以上に細かなところをよく見ている。日本基準でつくるほうが、純粋にハードルが高いなと思います。

でもそれ以上に、ニューヨークにいたときから「日本人がいちばん素敵に見える表現を見つけなくては」という使命感が、すごくありました。欧米人と日本人を比べたら、背丈はもちろん、何もかもが違うわけじゃないですか。そのなかで彼らと張り合って、ブロードウェイの舞台に立つことを夢見るのではなく、逆に、日本人ではないとできないものを日本でつくり出したいと思ったんです。

JAL:海外に行って、現地の文化に完全に染まってしまう人もいますが、MIKIKOさんの場合はそうではなかったのですね。

MIKIKO:ニューヨークにいたときは、いっそのこと染まってしまったほうが楽なんだろうな、と何回も思いました。でも私はやっぱりそこまで染まれず、そうならないと永住はできないんだろうなとも思って。だから多分、私の場合は、いまみたいなかたちで日本で仕事をするのがいちばん合っているんだと思います。

画像: ブロードウェイの真似ではなく「日本人がいちばん素敵に見える表現」を

「これがいつもの私たちです」と涼しい顔でやってのけるのが日本の「粋」

JAL:日本のどのようなところが、ご自身と「合っている」と感じますか?

MIKIKO:日本ならではの細やかさや、気遣いがすごく好きですね。また私の仕事は、自分で動くのではなく人に動いてもらうことなので、たとえば5人グループに踊ってもらう場合、5人が集まったときの全体のムードがとても大事なんです。技術の高い子だけを5人集めてきて、私の思うように動いてもらうのではなく、特定の5人の関係性のなかでベストのものをつくりあげる。だから一つひとつの仕事に時間はかかりますが、それが面白いんです。

JAL:個人の良い部分を引き出しながら、それを全体として美しく見せるというのは、ある意味日本的なのかもしれないですね。

MIKIKO:この仕事をつづける限り、絶対に日本でやりたいと思っています。海外公演もありますが、機材や会場の関係で、日本での公演をコンパクトにまとめたものしか持っていけていないんです。だから日本でやっている完全な公演をぜひ見にきてほしい。そういう思いは、すごく強いですね。

JAL:2020年には、MIKIKOさんも開閉会式のプランニングチームに選出されている『東京オリンピック・パラリンピック』がありますね。

画像: MIKIKOが演出チームの一員として手がけた『リオデジャネイロ2016オリンピック』の「フラッグハンドオーバーセレモニー」(©️Tokyo 2020)

MIKIKOが演出チームの一員として手がけた『リオデジャネイロ2016オリンピック』の「フラッグハンドオーバーセレモニー」(©️Tokyo 2020)

MIKIKO:そうですね。まだ議論を重ねている段階なのですが、『リオデジャネイロ2016オリンピック』の「フラッグハンドオーバーセレモニー」のときと同じように、変に海外向けを意識することなく、日本人が自信を持って、いまいちばんカッコいいといえるものを見せたいです。そしてそれを観客に押しつけるのではなく、「これがいつもの私たちです」と涼しい顔でやってのける。それが日本の「粋」だと思います。

画像: 演出振付家MIKIKOが語る、私を育ててくれたニューヨーク

MIKIKO
演出振付家。ダンスカンパニー「ELEVENPLAY」主宰。Perfume、BABYMETALの振付・ライブ演出をはじめ、さまざまなMV・CM・舞台などの振付を行う。メディアアートのシーンでも国内外で評価が高く、新しいテクノロジーをエンターテイメントに昇華させる技術を持つ演出家として、ジャンルを超えたさまざまなクリエーターとのコラボレーションを行っている。

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