テレビドラマや映画、舞台、CMなど幅広く活躍する俳優、片桐はいりさん。彼女は大の「旅好き」として知られ、グアテマラに住む実弟を訪ねたときのことを綴った旅エッセイ『グアテマラの弟』や、映画『かもめ食堂』の撮影で滞在したフィンランドの思い出を綴った『わたしのマトカ』など、旅に関する書籍も多数出版している。さまざまな国を訪れてきた片桐さんの旅スタイルとは、果たしてどんなものなのだろう。そして、旅がもたらすものとは? 最近も北欧に行ってきたばかりだという片桐さんに話を聞いた。
取材・文:麦倉正樹 撮影:森山将人(ミリ)

「旅を確認作業にしたくないから、下調べはしない」

JAL:片桐さんは、旅行前にしっかり下調べをするほうですか?

片桐:昔はかなり綿密にやっていましたね。とくに、インターネットが一般に普及してきたばかりのころは、調べるほどにいろんな情報が出てきて楽しかった。それこそ、そのお店の内装まで全部わかるみたいな。

でも、最近はほとんど下調べしないで行っちゃいますね。いまはスマホがあればその場で調べられますし。あと、調べることにハマっていたとき、最終的に行き詰まってしまったんです。「これ、ネットで調べたところを現地に行って確認してるだけじゃないか」って。

画像: 「旅を確認作業にしたくないから、下調べはしない」

JAL:旅が確認作業になってしまった、と。

片桐:ネットで見たお店に行って、それと同じものを注文して、同じ写真を撮る……、そういうのはいいやって。それで、もう調べるのはやめようと思ったんです。その代わり、その土地の有名な料理を食べ逃がしたりとかは、ときどき起こるようになりましたけど(笑)。でもまあ、それもどうってことないといえば、どうってことない話なので。

JAL:では、旅行前に準備しておくことも特にない?

片桐:そうですね。……でも以前、海外旅行をしたときにいろんな判断を迷わないようになりたくて、直感を鍛える訓練をしていました(笑)。たとえば朝起きたときに、今日はどのタオルを使うかっていうのを瞬時に決めるとか、その日使うお箸を、いろんな色や種類があるなかで、「これ!」って瞬時に選んでみるとか。ちょっと笑っちゃいますよね。

JAL:実際、その訓練は旅行に役立ちましたか?

片桐:役に立っているかどうかはわからないですけど、判断力は旅において重要だと思います。旅先の場合、電車の駅で降りる降りないの判断をするときや、タクシーで曲がる曲らないの指示をするときの判断は速くないとダメだし。そのためには直感を鍛えなくちゃいけないっていう(笑)。

あと、最近は、間違ったら戻ることができるよう練習しています(笑)。昔はあと戻りが嫌いで、山道でも、「こっち!」って決めたら絶対戻らない。まあ、遭難するタイプですよね。でも、旅先だと危ないこともあるので、最近は間違えた! と思ったら即「戻る」っていうのを、訓練しています(笑)。

「映画館に連れてって!」。明確な目的が充実した旅時間をつくる

JAL:片桐さんは、現地の人とかなり上手にコミュニケーションをとっている印象ですが、何かコツがあるのでしょうか?

片桐:人って、何か具体的な目的があると話しかけやすいじゃないですか。「私と仲良くしてください」とは言いにくいけど、「このへんに映画館はありますか?」とかだったら誰にでも聞けますよね。で、そこから「あなたは子どものころ、どこで映画を観ていましたか?」と突っ込んでいけるじゃないですか。

それは食べ物に関しても同じですよね。「これ食べたいんだけど、どこのお店がいちばんおいしい?」とか「あなたがいちばん好きなのは、どの食べ物?」とかだったら、大体みんな教えてくれるので、そこから話しを広げることができるんです。

画像: 「映画館に連れてって!」。明確な目的が充実した旅時間をつくる

JAL:日本でのコミュニケーションも同じようにしているのですか?

片桐:そうですね……。でも、海外では、言葉があまり通じないっていうのが、逆にメリットですよね。日本語だと、いろいろ言い訳したり、細かいニュアンスまで伝えられてしまうからややこしいけど、外国語だと、そこまでしゃべれないから、もうダイレクトに要望を伝えるしかないっていう。それはむしろ楽っていうふうに考えたほうがいいんじゃないですかね(笑)。

「何それ、ぜんぜんわかんない。でも面白い!」が旅の醍醐味

JAL:旅の経験は、俳優というお仕事にも活かされているのでしょうか?

片桐:うーん、あんまりそうは思わないですね。役者って結局、何にでもならないといけない仕事じゃないですか。こうしてお話しているあいだも、この人はこんな仕草をするんだ、とか、一秒一秒全部利用できるわけで、あえて特殊な体験をする必要はないと思っています。だから私は、仕事の勉強として旅に出るという感覚はないですね。

画像: 「何それ、ぜんぜんわかんない。でも面白い!」が旅の醍醐味

JAL:では、片桐さんが旅に求めていることはなんでしょうか?

片桐:たとえばいつも通る道路が工事中で、普段は通れない道の真ん中を歩けたりして、見る景色がいつもと違うだけで、私はもうワクワクしちゃうんですよ。「うわー、道の真ん中、歩いてるよ!」って(笑)。

旅も同じで、知らない土地に身を置くと、理解できない出来事もあるじゃないですか。でもその意外性が旅の醍醐味だと思うんです。「何それ、ぜんぜんわかんない。でも面白い!」みたいな。つまり私にとって、旅とは非日常のできごとに出会うためのもの。面白いこと、楽しいことの延長線上に、旅があるんだと思います。

片桐はいり
1963年生まれ、東京都出身。大学在学中から、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)で「もぎり」のアルバイトをはじめ、94年まで劇団で活動。その後は舞台のみならずテレビ、映画などで幅広く活躍中。主な出演作に映画『かもめ食堂』(2006年 / 荻上直子監督)、『小野寺の弟・小野寺の姉』(2014年 / 西田征史監督)、『シン・ゴジラ』(2016年 / 樋口真嗣、庵野秀明監督)、『沈黙サイレンス』(2017年 / マーティン・スコセッシ監督)、『勝手にふるえてろ』(2017年 / 大九明子監督)、ドラマ連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年 / NHK)、『富士ファミリー』2016年 / NHK)、『この声をきみに』(2017年 / NHK) など多数。著書に、映画への愛情に満ち溢れたエッセイ『もぎりよ今夜も有難う』や、『グアテマラの弟』『わたしのマトカ』などがある。

映画情報

画像: 『もぎりさん』より。©東京テアトル

『もぎりさん』より。©東京テアトル

学生時代から映画館で「もぎり」のアルバイトを始め、最近はご近所のキネカ大森でもときどきもぎりをしているという片桐はいりさん。今回、その映画愛に引き寄せられるように、先付ショートムービー『もぎりさん』が制作されました。映画館スタッフたちの映画愛、映画館あるあるが描かれた作品には、「街の小さな映画館が元気になるように!」という願いが込められています。片桐さんのファンのみならず、名画座ファンは必見の本作。キネカ大森限定で7月13日(金)から、映画の上映前に月替わりで併映されるので、毎月お見逃しなく。

7月14日(土)には、1~6話いっき観上映会+トークイベントも開催。

監督:大九明子(第1話〜第3話)、菊地健雄(第4話〜第6話)
出演:片桐はいり、佐津川愛美、川瀬陽太、前野朋哉、久保田紗友、伊勢志摩

キネカ大森
https://ttcg.jp/cineka_omori/

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