*『家族みんなで行こう!車いすで雪あそびツアー』に参加した佐藤さん一家も、そんな“ためらい”を持つファミリーだった。しかし、今回、車いすのまま滑れるデュアルスキー(パイロットと呼ばれる厳しい試験に合格した人が操縦する着座式スキー)などが体験できる本ツアーを通じ、あらためて家族で出掛けることの楽しさや、一歩踏み出した先に待つ素晴らしい世界を知ったという。
*『家族みんなで行こう!車いすで雪あそびツアー』とは
※ata Allianceと共同で JALパックとJALが北海道で開催した限定のパッケージツアー。横浜リハビリテーションに通っている6家族が参加した。
※ata Alliance:専門性の高い機材や技術を用いて、障がいがある方に適応したスポーツ・アクティビティーを提供する一般社団法人
佐藤さん一家が今回のツアーで得たものとは何か? 障がいのある娘さんと一緒に様々なアクティビティを楽しむ先輩であり、同じく今回のツアーに参加した地引さん一家とともに、詳しいお話を伺った。
取材・文:石井敏郎
多くの体験を通じ、子どもの人生の幅や可能性を広げてあげたいという想いが起点に
OnTrip JAL編集部(以下、JAL):佐藤さんご一家の場合、これまでファミリーでのお出かけは、どのような場所を選ばれていたのでしょう?
佐藤さん(母)(以下、佐藤(母)):うちは子どもが3人いて、3人目の娘が生まれるまでは、割とあちこちへ出かけていたんです。長女がお風呂好きなので、一緒に温泉に入れる施設を探したりして。
佐藤さん(父)(以下、佐藤(父)):飛行機もよく利用していたんですよ。長女が小さなうちは、航空会社が用意してくれるチャイルドシートに座らせてあげることができましたから。
佐藤(母):でも娘が大きくなってチャイルドシートが利用できなくなると飛行機から遠ざかってしまって。上体固定ベルトを使用すれば座位が保てない子どもでも飛行機に乗れることを知らなかったんですよね。
また、子どもも3人に増えたので、夫婦2人ではとても全員の面倒が見られないから。ついつい自家用車で移動できる範囲のお出かけが中心になってしまっていました。
JAL:そうした状況で、今回『車いすで雪遊びツアー』に参加しようと思われたきっかけは?
佐藤(母):実は私、これまでスキーやスノーボードの経験がなかったんです。両親がウィンタースポーツをしなかったので、雪山に行く機会がなかったんですよね。
だから、大人になってから友達に誘われても、足手まといになりたくなくて断ってしまっていて。それが心残りというか、チャンスを得られずにできなかった経験があるのって、人生で損をしてるのかなと思っていたんです。そこで最近は長女の症状も安定してきて下の子たちも大きくなったので、みんなに雪あそびの経験をさせてあげられる良い機会だなと思いました。
JAL:なるほど。一方、地引さんご一家は、以前から登山などのアクティビティを、親子で数多く体験されていたそうですね。
地引さん(以下、地引):子どもたちに、なるべく多くの体験をさせてあげたいという想いがきっかけという点は、佐藤さんと同じですね。娘はあちこち移動したり、手でものを掴んで遊んだりすることもできないので、自分で色々な体験をして学ぶということが難しい。だから、できるだけこちらで機会を作ってあげたいと思っています。アクティビティ系の体験に関しても、積極的に参加するようにしています。
地引:うちにはもう1人、健常の弟もいますが、2人ともジャンルを問わずなるべく多くのことを経験して自分の世界を広げ、その中から自分の好きなことを見つけてほしいなと思っているんです。
日常では味わえない“スリル”に、子どもたちは大興奮!!
JAL:今回の『車いすで雪遊びツアー』でメインのアクティビティとなったのは、「デュアルスキー(着座式スキー)」でした。厳しい試験をパスしてライセンスを得たパイロットが操縦するとはいえ、お子さんに挑戦させるのって、かなり勇気が必要だったのではないでしょうか?
地引:実はデュアルスキーは以前に親子で体験済みだったので、どのようなものなのかは知っていたんです。だから娘に挑戦させることに対しての不安はなかったんですが、その時には私が操縦をしていたため、消極的な滑走しかできなかったのが心残りで(笑)。
JAL:むしろ、よりハードな体験をさせてあげたかったと⁉
地引:小さなころから、様々なアクティビティを体験させているからなのかもしれませんが、娘は昔からスリルのある遊びが大好きなんです。今回、『車いすで雪遊びツアー』への参加を決めたのも、プロの方が操縦するデュアルスキーのほうが、私の操縦よりもずっとスリルのある体験をさせてあげられるかな、と思ったからなんですよね。
佐藤(母):あ、実はうちの子もそうなんですよ! 小さなころから静かな遊びよりも、ブランコのように風や重力を感じる遊びが大好きで。だから、デュアルスキーの存在を知ったときには「危ないかも?」という不安よりも、「この子、絶対喜ぶはず!!」っていう期待のほうが圧倒的に強かったんです。
JAL:だとしたら、2人ともデュアルスキーは、さぞ楽しんでいたんでしょうね。
佐藤(母):それはもう! 明らかに興奮した表情をしていましたから。
地引:久々の雪山をどこまで楽しんでくれるか心配しましたが、結果的にはツアーに参加して大正解でした。プロの方に操縦をお任せすることで、山頂からふもとまで、かなりのスピードでの滑走体験ができたのは、とても嬉しかったようです。私のスキルでは、味わえないスリルですから(笑)。
雪山を親子で一緒に滑走! 素敵な体験をさせてくれた娘に感謝
佐藤(父):娘が喜んでくれたのもさることながら、今回のツアーでいちばん楽しんだのは僕かもしれません。実は、結婚するまではスノーボードが趣味だったんです。だから、今回のツアーで久々にスノーボードに乗れたのが、とっても嬉しくて。さらに、デュアルスキーに乗っている娘と一緒に滑走できるなんて、本当に最高の体験でしたよ。
佐藤(母):ツアーから戻ってからも、しばらくの間はゴキゲンで、何度も娘に「(ツアーに連れていってくれて)ありがとうね!」ってお礼を言ってたんです(笑)。
佐藤(父):長女が車いすを使っていることもあって、正直、家族そろってウィンタースポーツができるなんて、想像もできなかったんですよね。たとえ行ってみたいと思ったとしても、現地までの移動や子どもたちの世話を考えると、とても実現できるとは思いませんでした。ですから、今回のツアーを見つけてくれた妻にも、本当に感謝しています。
最初の一歩を家族で踏み出せば、その先には無限の可能性が待っている
JAL:お子さんたちだけでなく、家族全体で楽しい体験ができたことが伺えるお話でした。あらためて、今回のツアーを振り返った感想をお聞かせください。
佐藤(母):普段子どもたち3人と過ごすと、どうしてもひとりひとりと向き合うことってなかなか難しいんですけど、今回のツアーでは久しぶりに兄弟それぞれに「(お母さんが)私だけをみてくれている時間」を作ってあげることができました。長女がデュアルスキーをしている間以外にも、多くのスタッフの方に子どもたちを見ていただけたので、自分はひとりずつをじっくり集中してみてあげることができましたから。いつも一緒に過ごしているけど、子どもたちの新しい一面が発見できたり。
佐藤(母):でも何より今回が私の人生初の雪山体験となったこともあって、まず自分自身の想い出として最高の体験ができたと思っています。
中にはご家族全員スキーウェアでキメて、家族みんなで滑ってる方もいたでしょ? それは、ちょっと悔しいと思いましたね。次は、私もスキーに挑戦してみないとって(笑)。
JAL:「お子さんに体験させてあげたい」という想いが起点となり、結果的にはご自身の体験の可能性も広がった、ということでしょうか?
地引:今回のツアーに限らず、それは大いにあると思います。娘がいてくれることで、自分も様々なアクティビティを経験することができましたし、その機会を通じて色々な人とのつながりができましたから。
地引:どんな場合でも、未体験の世界に飛び込むのって、不安ですよね。特に障がい児を持つ親の場合は、子どもの世話が大変だったり安全面に不安を感じたりして、新たな体験に躊躇してしまうこともあると思います。でも、実際に挑戦してみると「こんなに簡単で楽しいことだったのか!」と思えることも多いはずです。
佐藤(母):我が家にとっては、まさに今回のデュアルスキーがそれでしたね。自分がスキーもできないのに、車いすの娘にデュアルスキーを体験させられるのか? という不安もありましたが、適切なサポートがあれば、意外と簡単に実現できてしまうんだなぁ、って。
佐藤(父):今回のツアーで、もっとも印象的だったのが「限界をつくらないでほしい」という、ata Allianceの方が教えてくれた言葉でした。
自分では気づいていなかったんですが、たとえば家族でウィンタースポーツを楽しむのは難しいだろうなぁとか、知らず知らずのうちに自分で限界をつくっていたんですよね。今回のツアーを通じて、そこに気づいたことは、自分や家族にとって最大の収穫だったと思います。
JAL:ちなみに、今後挑戦してみたい体験はありますか?
佐藤(母):これまでは、旅行といえばバリアフリーが整備されたホテルを選ぶのが当たり前になっていたんですが、今回の体験を通じて、だんだんと欲が出てきたと言いますか(笑)。次は、キャンプまでは難しいかもしれませんが、コテージを利用したグランピングのような、アウトドアにチャレンジしてみたいと話しあっているところです。
地引:ここ数年、娘と一緒にハマっているのが、「ハンザ 」という2人乗りのヨットなんです。安全重視で作られている上、誰でも簡単に操船できるように工夫されているので、娘と一緒でも安心して楽しめます。昨年、広島で開催された世界大会にも出場したんですよ。登山やウィンタースポーツ、そしてヨットを体験して、山と海は制覇したので、次は空だね、スカイダイビングとか?なんて、話しているんです。
佐藤(父):すごい! そんな体験もされているんですね。今度詳しく教えてください。機会があれば、我が家でもぜひ挑戦してみたいです!
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