沖縄を代表する食といえば、県民食と言って差し支えないほどの人気を誇る「沖縄そば」(※)。中華麺に由来する小麦の平打ち麺にかつおダシのスープ、トッピングには三枚肉……というのがオーソドックスなイメージですが、いま、その沖縄そば界に大きな変化が起きています。
画像1: 「沖縄の味」の伝統と進化を堪能! スタンダード&ニューウェーブ沖縄そば4選

近年の沖縄では、若い店主がさまざまなアイディアを駆使した「ニューウェーブ沖縄そば」とでも言うべきお店も急増中。一方で、「昔ながらの沖縄の味」の魅力も、何物にも代えがたいもの。そこで本記事では沖縄そばの「スタンダード」と「ニューウェーブ」から2店舗ずつをご紹介。沖縄そばの文化の豊かさにおいしく・楽しく触れる旅へ出かけませんか?

※正確にはこの名称は沖縄本島や周辺にとどまるもので、八重山諸島には「八重山そば」、宮古島には「宮古そば」と、実はそれぞれ麺の形状やスープの傾向が違った進化を遂げたものが存在します。

※価格は税込み表記です。

ニューウェーブの代表格「STAND EIBUN」

まず向かったのは、琉球王国時代に王府が陶工を集めて住まわせたことで、現在に至るまで沖縄の伝統的な焼き物(やちむん)の中心地となっている壺屋(つぼや)エリア。伝統的なものだけでなく、現代沖縄作家のものを中心とした器のセレクトショップ「GARB DOMINGO」、クラフトラムやジンなど個性的なお酒を扱う「LIQUID SHOP」といった高感度なお店やギャラリーも点在し、まさに沖縄のスタンダードとニューウェーブが共存する街です。

画像: STAND EIBUN

STAND EIBUN

この地でここ数年、観光客や那覇の人たちの心を掴んでいるのが「OKINAWA SOBA EIBUN」。2016年の創業以来、その味と独創性が評判を呼んで、あっという間に常時10組以上の行列ができるほどの人気店になりました。そして2022年にオープンしたのが、2号店の「STAND EIBUN」。ポップなイラストが外壁を彩る1号店とは対照的に、こちらは直線的でクールな外観が印象的です。

白い壁面とメタリックなカウンターを基調にミニマルにまとめた店内ではクラフトビールも提供していたり、一角ではTシャツや調味料を販売するスペースを展開していたりするなど、モダンな都市生活者を意識した店構えになっています。

画像1: ニューウェーブの代表格「STAND EIBUN」
画像2: ニューウェーブの代表格「STAND EIBUN」

そんな「EIBUN」では、伝統的な沖縄そばから創作そばまで、多彩なメニューが楽しめます。いずれも魅力的ですが、ここでご紹介するのは、その中でも特に個性が際立った「冷やしジュレダレぶっかけまぜそば」(980円)。

画像: 「冷やしジュレダレぶっかけまぜそば」(980円)

「冷やしジュレダレぶっかけまぜそば」(980円)

まず、沖縄の空と海を思わせる、鮮烈なスカイブルーの器に心を掴まれます。味は甘辛の醤油だれをベースに、キリッと冷やしたカツオだしで作ったスープが濃厚&さっぱりの絶妙なバランス。沖縄の陽気に汗をかいた後、パワーのあるものが食べたいけどコッテリはちょっと……という体に染み渡ります。

そこにのるのが、酸味の効いたジュレだれと、沖縄そばには欠かせない豚肉。一般的な豚の三枚肉が、ここではキューブ状になって入っていることにも注目です。キュッと酸っぱいジュレと、甘辛い味のよく染みた三枚肉。食感も味覚も一つの鉢の中でさまざまに変化があるので、食べていて楽しい気持ちになります。

そして、個性派の具やスープの魅力を余すことなく絡め取って口に運んでくれるのが、コシのあるちぢれ麺。冷製のメニューにはこぶりなアーサ(あおさ)スープがついてくるという、「おいしそうだけど、体が冷えるのはちょっと……」という方にも嬉しい気遣い。瞬く間に人気店となった理由が、そんなところにも窺えます。

STAND EIBUN

住所沖縄県那覇市壺屋1-1-18
アクセス那覇空港のゆいレール「那覇空港駅」から乗車→「牧志駅」で下車(約17分)→徒歩でSTAND EIBUN(約12分)
電話080-7178-1187
営業時間11:00~16:00
定休日水曜
webhttps://sobaeibun.okinawa/

沖縄の歴史と記憶を見つめる「首里そば」

ニューウェーブ沖縄そばの代表格の心意気を堪能したあとは、原点回帰。昔ながらの沖縄そばを求めて向かったのは、かつて琉球王府の中心地として栄えた首里。多様な文化が入り混じる那覇とはまた違い、整然とした美意識がいまも息づく街並みに古都の誇りを感じます。

そんな首里の町の静けさと誇りを存分に感じられるのが、住宅街の一角にある「首里そば」。開店前から、20人以上のお客さんが並ぶ人気店です。

画像: 首里そば

首里そば

建物はもともとギャラリーだったそうで、コンクリートのミニマルな建物と、沖縄南部の地質を代表する石灰の風情ある石積みが美しくマッチしています。

画像1: 沖縄の歴史と記憶を見つめる「首里そば」

沖縄の鮮烈な光と、それが落とす影のコントラストが美しい店内。

画像2: 沖縄の歴史と記憶を見つめる「首里そば」

古いやちむんの壺や器といった調度品や昔の首里の風景を描いた絵画が店内のあちこちを飾り、この土地に根付くお店であることを改めて教えてくれます。

画像3: 沖縄の歴史と記憶を見つめる「首里そば」

お待ちかねの「首里そば:中」(500円)が登場。見るからに「端正」という言葉が似合う佇まいです。配膳の際にもこだわりがあり、必ず肉が手前に来るようにされているとか。器の側面を見ると、肉の下あたりに「首里そば」の文字。お店の背負った名前が常にお客さんと向き合うように置かれるあたりにも、王朝のお膝元の誇りを感じます。

画像: 「首里そば:中」(500円)

「首里そば:中」(500円)

メインの平麺は、弾力というよりはいさぎよい硬さが印象的です。手打ち麺ならではの不揃いな太さゆえに、口当たり、食感、そして喉ごしと、すべてが表情豊か。淡麗で上品なカツオだしのスープが麺の魅力を引き出していて、シンプルな外見からは想像もつかない滋味深さです。よくある紅しょうがではなく、味の主張の少ない針しょうががトッピングされているのもポイントです。

他にのる具は、かまぼこ、トロトロの三枚肉に加え、最近は出番の少なくなった赤肉(写真左下)が絶品。赤肉は脂身が少なく、甘辛く染みた味としっかりした噛みごたえのコントラストが楽しめます。

首里そばのオープンは1994年。戦後すぐの1951年から1993年まで同じ首里で営業していた「さくら屋」という沖縄そばの名店が閉店したのを受け、子どもの頃からその味に親しんでいた店主・仲田靖さんが一念発起して、その製麺の技術を受け継ぎました。

「さくら屋」は、戦争で夫を亡くした新里ツルさんという女性が作ったお店。沖縄そばに限らず、この頃の飲食店は現金収入を得るため、女性が身ひとつで始めたお店が多数ありました。

仲田さんご自身の記憶と戦後を強く生きた女性たちの記憶、そして時代の中で移り変わる首里や沖縄の景色を見守ってきたお店の記憶。首里そばの味は、この島を生きた人たちの記憶が幸福な出会いを果たしたことで守られてきた、唯一無二の味です。

首里そば

住所沖縄県那覇市首里赤田町1-7
アクセス那覇空港のゆいレール「那覇空港駅」から乗車→「首里駅」で下車(約28分)→徒歩で首里そば(約5分)
電話098-884-0556
営業時間11:30~14:00(売切れ次第閉店)
定休日木曜・日曜
webhttps://shurisoba.live-web.jp/

【知っているともっとおいしい! ワンポイントコラム】

新里ツルさんが営んでいた「さくら屋」。このお店は、戦争によって沖縄そばの重要な材料であるガジュマルやデイゴなどの灰(木灰=あく)が手に入りづらくなり、復興後も麺のつなぎがカンスイに取って代わられて本当の意味での「昔ながらの沖縄そば」が食べられなくなる中、頑なにその製法を守り続けたお店でもありました。戦争ですべてを失った沖縄のかつての景色を、ツルさんはその麺に託したのかもしれません。

変わり種&ヘルシー食材満載の「パパイヤとスブイ」

歴史の深みを感じる一杯をいただいた後は、再び那覇の中心街へ。観光客でいつでも賑わいを見せる国際通りの端っこ「県庁前」交差点からなだらかな坂を上ると、インパクトのある看板を掲げたお店が見えてきます。

画像: 沖縄そば パパイヤとスブイ

沖縄そば パパイヤとスブイ

こちらの「沖縄そば パパイヤとスブイ」は2022年にうるま市で営業を開始し、2023年になって県庁前に移転してきた、ニューウェーブ中のニューウェーブです。店名にもなっている「スブイ(シブイとも)」とは、冬瓜のこと。名前には「冬」と入っていますが、実は夏が旬である冬瓜は暑さに強く、沖縄でよく親しまれている農産品の一つでもあります。

画像1: 変わり種&ヘルシー食材満載の「パパイヤとスブイ」

お店に足を踏み入れると、巨大な冬瓜がお出迎え。沖縄の冬瓜は、とにかく大きく育つのです。

画像2: 変わり種&ヘルシー食材満載の「パパイヤとスブイ」

開けた大通り沿いで2方向に大きな採光のある店内は、グリーンもわさわさと育っていて自然豊かな雰囲気。懐かしい「小学校の机」が食卓として使われているのも、不思議とこの空間にマッチしています。

画像: 「パパスブそば」(880円)

「パパスブそば」(880円)

そんな「パパスブ」は、ヘルシーなスープが特徴。沖縄そばには珍しい椎茸の出汁をベースに完全無添加で仕上げられており、非常にスッキリとした味わいです。

代表的なメニューは、こちらの「パパスブそば」(880円)。店名の通り、細切りのパパイヤのシャキシャキ感と、じっくり煮込んで出汁がしみた冬瓜のほくほく感のコントラストを楽しめます。

画像3: 変わり種&ヘルシー食材満載の「パパイヤとスブイ」

そして、細切り昆布も重要な役割を果たしています。健康食品としての評価も高い昆布は、昭和の終わり頃まで長らく沖縄が国内消費量ナンバーワンでした。お正月の定番・クーブイリチー(昆布と豚肉の炒め煮)やじゅうしい(炊き込みご飯)など、さまざまな伝統沖縄料理に登場します。

そんな昆布の抜群の存在感もあってシャキシャキ、ほくほく、ぬるぬる、コリコリととにかく食感の楽しい「パパスブそば」。変化に富んだ食感を楽しめながらも、全体が美しく調和したやさしい一杯。手揉みのちぢれ麺もほどよい弾力で、疲れているときでもスルスル食べられます。スッキリスープを最後まで飲み干せば、なんだかとても健康的な気分に包まれる一杯です。

沖縄そば パパイヤとスブイ

住所沖縄県那覇市松尾1-10-1
アクセス那覇空港のゆいレール「那覇空港駅」に乗車→「県庁前駅」下車(約13分)→徒歩で沖縄そば パパイヤとスブイ(約6分)
営業時間11:00~15:00
定休日不定休

【知っているともっとおいしい! ワンポイントコラム】

パパスブで印象的に使われている昆布ですが、実は沖縄ではまったく獲れません。江戸時代にはるばる蝦夷地(現在の北海道)から江戸時代に盛んだった北前船航路を経て薩摩(現在の鹿児島県)に入り、そこから琉球に伝わったもので、いまでも100%県外産です。当時は遠い場所だった北の珍しい産物に、流行に敏感な那覇の人々は飛びついたのでしょう。今では「伝統」と言われるものも、その始まりはいつも「ニューウェーブ」なのかもしれません。

何度でも帰ってきたくなる「辰巳そば」

最後に向かったのは、国際通りから一本裏手に入った「ニューパラダイス通り」に佇む「辰巳そば」。

画像: 辰巳そば

辰巳そば

このお店には、お隣に「狩俣製麺所」という製麺工場が併設されています。沖縄にはこうした製麺所がいたるところに大小さまざま存在し、麺の直売をしていたり、スーパーに卸したりもしていますが、打ちたての麺をその場で食べられる、こうした店舗・製麺所の併設スタイルはやはり魅力的です。

画像: 何度でも帰ってきたくなる「辰巳そば」

カウンターとテーブルの並ぶ店内は、気取りのない庶民的な雰囲気。こうした「まちの個人店」といった趣のお店に来ると、どこか「帰ってきた」という、ホッとした気持ちになります。壁に大きく貼られたメニューの写真は海外の観光客にもわかりやすいようにローマ字表記もされています。

画像: 辰巳そば(940円)

辰巳そば(940円)

ここでは「辰巳そば」(940円)を注文。特徴的なのは、ひと目見てわかる肉の大きさです。軟骨・炙りの2種類のソーキ(豚の骨つきあばら肉)がゴロリと入り、三枚肉がのってボリュームは満点。玉子焼きが入っているのは伝統的な沖縄そばで時折見かけますが、キャベツが添えられているのはなかなか斬新です。打ちたての麺は少し細めのストレート麺で、スルスルと喉を通っていくなめらかな食感。スープはカツオと豚骨でとった、古きよき沖縄の大衆食堂の味。卓上のコーレーグース(泡盛に島唐辛子を漬け込んだ調味料)をキュッと絞れば、一気に華やかな味わいになります。

那覇市内も再開発が進み、中心部の風景は目まぐるしく変化しますが、こうした佇まいのお店がそこにあるだけで、ホッとした気持ちになります。沖縄に到着してホテルに荷物を下ろしたら、「ただいま!」とまず足を向けたくなる魅力に満ちたお店です。

辰巳そば

住所沖縄県那覇市牧志1-4-61
アクセス那覇空港のゆいレール「那覇空港駅」に乗車→「美栄橋駅」下車(約15分)→徒歩で辰巳そば(約7分)
電話098-867-1959
営業時間12:00~13:30、18:00~21:00
定休日水曜

以上4店、沖縄そばの「スタンダード」と「ニューウェーブ」を巡ってきました。ひと口に「沖縄そば」といってもお店によってさまざまな背景があり、その裾野も広がるいっぽう。正解のない分野で、それぞれの店主が美意識や創意をこらしています。沖縄を訪れた際はぜひいろいろなお店を巡って、お気に入りの一杯を見つけてみてください。

画像2: 「沖縄の味」の伝統と進化を堪能! スタンダード&ニューウェーブ沖縄そば4選

国内線割引運賃 スカイメイト

満12歳以上25歳以下限定!
搭乗日当日(出発4時間前)から予約可能なとってもおトクな割引運賃

関連記事

掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。

This article is a sponsored article by
''.