
この記事で紹介するのは、8つの島からなる奄美群島(鹿児島県)を巡る周遊旅。各島の特徴を踏まえた見所を、2記事にわたって紹介します。
太古の文化が息づく奄美群島
鹿児島の南方380~580kmの海上に点在する、「奄美大島(あまみおおしま)」「加計呂麻島(かけろまじま)」「請島(うけしま)」「与路島(よろじま)」「喜界島(きかいじま)」「徳之島(とくのしま)」「沖永良部島(おきのえらぶじま)」「与論島(よろんとう)」の8つの島の総称「奄美群島」。奄美群島の文化は、日本文化を基盤としつつ、琉球王国の支配時代に琉球文化の影響を受け、その後の薩摩藩の長期統治により鹿児島文化の影響を強く受けて発展した独自のものです。

この記事では、迫力ある闘牛文化が根付く「徳之島」、100年以上もの間、島民たちが守り続けてきたテッポウユリが咲き誇る「沖永良部島」、世界から注目される伝統工芸・大島紬発祥の「奄美大島」を紹介します。
闘牛とレーサーで賑わう「徳之島」
約400年以上にわたって伝統的な闘牛文化が根付いている「徳之島」。ルーツは諸説ありますが、農家の人々が集まり、農耕用の牛を闘わせることで日々の生活の辛さを慰める“なくさみ”という習わしから始まったとされています。

©奄美群島観光物産協会
直径20mのリング内を、700kgの小型牛から1トンを超える大型牛までが激しくぶつかり合う様子は圧巻のひと言。勝利した瞬間には応援団が「ワイドワイド!」と歓喜の声をあげて場内になだれ込んだり踊りを繰り広げたりして、場内のボルテージは最高潮に達します。毎年1月、5月、10月の年3回に加え、その他にも20大会ほど開催されるので、ぜひチェックして出かけてみてください。

また、闘牛大会と並んで根強い人気を誇るのが「トライアスロン」です。美しい山々に恵まれた自然豊かな徳之島では、1988年からトライアスロンの大会が開催されるようになり、今では“鉄人達の島”といわれています。

天城町にあるヨナマビーチからスタートし、2.0kmを泳いだ後はバイクで75km走り、最後は20kmのマラソンでゴール! 各コースにはエールを送る島民が大勢詰めかけ、温かい雰囲気に満ちています。大会は毎年6月に開催され、前日には「ウェルカム闘牛大会」としてトライアスロン参加者が無料で闘牛を観戦できるイベントも実施。トライアスリートの皆さま、ぜひ挑戦してみてください。

徳之島の自然で忘れてはならないのが、その豪快さです。特に、ムシロ(敷物)を敷き詰めたような巨岩が連なる「ムシロ瀬」は、思わず足を止めてしまう景勝地の一つ。冬場は荒れる波が岩に激しくぶつかり、白い波しぶきを上げる瞬間も見ものです。ここに立って夕日が沈む様子を眺めれば、自然の生み出す力強い美しさが感じられるはず。

徳之島では、ほかにも不思議な形状をした岩がたくさんあり、隆起したサンゴ礁が長年に及ぶ海水や風雨の浸食を受けてできた「犬の門蓋(いぬのじょうふた)」も見逃せません。毎年12~4月にかけてザトウクジラが姿を現すこともあり、出会えたらラッキーです。

また、亜熱帯の植物に囲まれた遊歩道を海に向かって下っていくと、2つの大きな洞門がメガネをくり抜いたように見える「メガネ岩」が。絶景の撮影スポットとしても人気なので、ぜひ思い出の一枚を収めてください。
伝統あるエラブユリの原産地「沖永良部島」
年間平均気温22℃、平均水温23℃と、年中通してベストシーズンな「沖永良部島」は、1時間ほどで島をぐるりとドライブできる小さな島。温暖な気候に恵まれていることから「花の島」とも呼ばれるほど花の栽培が盛んで、テッポウユリの原産地としても知られています。
沖永良部島のテッポウユリは「エラブユリ」として島民から愛され続けてきて、なんと、その歴史をひもとくと100年以上にものぼります。時には戦火からも球根を守り、大切に大切に育ててきたからこそ、今でも島にはエラブユリが自生しているのです。近年では新品種の開発も進み、春先になるとさまざまなユリが美しく咲き誇っています。

©奄美群島観光物産協会
沖永良部島を囲む青々とした海は「エラブブルー」と称され、海の底まで見えるほど、抜群の透明度を誇ります。地底には大小さまざまな200~300もの鍾乳洞群が眠ることでも知られ、洞窟体験(ケイビング)の聖地としても有名です。まるで宝石のような鍾乳石や棚田のような水たまり(リムストーンプール)など、自然が織りなす光景はここでしか見られないもので、非日常感に溢れています。

島内では、ケイビング専用の装備を貸し出してくれるほか、経験豊富なガイドによる万全のサポートで洞窟内に潜入できるケイビングツアーを開催。きっと、一生忘れられない体験ができるはずです。

エラブブルーを体感するなら、ダイビングやシュノーケリングもおすすめです。色鮮やかな魚やサンゴ礁が眼前に迫る光景は、感動すること間違いなし。運が良ければザトウクジラやウミガメに出会えることもあります。

絹織物の最高峰・大島紬が生まれた「奄美大島」
沖縄本島、佐渡島に続き、全国の離島の中で3番目に大きな「奄美大島」。「世界自然遺産」にも登録されるほど豊かな自然に恵まれた島には古くから人々が暮らし、独自の文化を育んできました。その一つが、伝統工芸「大島紬」です。日本が誇る絹織物の最高峰で、しなやかで軽く優雅な光沢は、国内外で高く評価されています。

歴史をさかのぼること、約1300年前の奈良時代。正倉院の書物の中にも大島紬と思われる記述が見られ、この頃にはすでに大島紬の原型があったことがうかがえます。そんな大島紬の最大の特徴は、奄美大島の自然や暮らしの道具の形をヒントに生まれた緻密な紋様と、独特の染色技法。
特に、島に自生する「テーチ木(シャリンバイ)」の汁と田んぼの泥の鉄分の化学反応で絹糸を黒に染める「泥染め」は、世界で唯一、奄美大島でのみ行われる伝統技法です。奄美大島の泥は粒子が細かくなめらかなため、美しくしなやかに染め上げることができるのだそう。また、泥染めを施すことにより、防虫効果や消臭作用が生まれるのもポイントです。

そんな大島紬の魅力を存分に味わえるのが「夢おりの郷」。大島紬ができあがるまでの工程を見学できるほか、着付けや泥染め、はた織りといった、豊富な体験メニューが充実しています。また、小銭入れや印鑑ケースなど、大島紬を使ったオリジナルの小物も多数販売。奄美大島のクリエイターとタッグを組んだアイテムもあり、お土産選びにぴったりです。
島に息づく歴史や文化に触れると、そこに暮らす人々の誇りや温かさを感じ、奄美群島の旅がより心に刻まれるものになるはず。変わりゆく時代の中でも大切に守られてきた文化は、これからの島の未来にどんな光を灯すのでしょう。そんな、島の歴史に想いを馳せながら、奥深い世界を訪ねてみませんか。
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