そんな国東の良さを身近に感じられるのが農泊体験です。のどかな風景や独自の食文化、そこで暮らす人々との対話、すべてが暮らしの価値観や未来について考え直すきっかけを与えてくれます。さあ、出会いにあふれる農泊に出かけましょう。
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農泊とは?
農泊とは農山や漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことです。現在は全国656の地域が農泊に取り組んでいます(2023年時点・農林水産省調べ)。古民家での古き良き日本の暮らしや都会にはない美しい自然を体感できることから、最近ではインバウンドや移住を考える方の来訪も多いようです。
民宿や旅館との一番の違いは、農家さんや漁師さんの邸宅が旅の宿屋となり、体験プログラムを通してその地での暮らしや生き方を感じられること。土地に暮らす人々に溶け込んでお話を聞きながら地のものを食べ、夜を過ごす――。非日常の体験が特別な思い出に刻まれます。
国東の自然を味わう農泊体験
国東半島・宇佐地域は、豊後高田(ぶんごたかだ)市、杵築(きつき)市、宇佐市、国東市、日出(ひじ)町、姫島(ひめしま)村の4市1町1村で構成されています。自然がもたらす恵みを活用し、日本一を誇る原木しいたけの生産や小規模な水田農業が発展。そんな、自然と共存する暮らしを体験できる農泊施設を4カ所、取材しました。
人を呼び、人をつなぐ家「たまちゃんファーム」
大分県の空の玄関口・大分空港から車で約15分。水田が広がる道を行くと辿り着くのが、「たまちゃんファーム」です。
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「お待ちしていました」と温かい暖炉で迎えてくれたのは小玉さんご夫婦。築150年以上の古民家に入ると梁や柱はそのままに、小玉さんご夫婦が自分たち好みにフルリノベーションした素敵なお部屋が広がっていました。
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もともと宮崎県で中学教師をされていた夫・宏(ひろし)さんと大分市出身の妻・美香(みか)さん。導かれるようなご縁で10年ほど前に国東へ移住を決め、空き家だったこの邸宅を改装しました。現在は自然栽培(無農薬・無肥料・無除草剤)で、国東唯一の天日干しの無農薬米を作りながら、愛猫のミトン、ルーと一緒に暮らしています。
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荷物を置いて、コーヒーをいただきながら一息。トラクターも持っていない農業未経験の状態から始めた米づくりのこと、1年間を費やした家づくりのこと、家の裏に住んでいるおじいちゃんのことなど、気になる話を聞いているうちに、すっかりくつろぎモードになりました。
お腹が空いてきた頃、夕飯づくりにキッチンへ。
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今晩のメインは自家製窯で焼くピザ。生地を伸ばして、具材をのせていきます。トマトとバジルのソースに、タマネギ、ピーマン、ソーセージ。最後はたっぷりのチーズ。窯焼きのピザは火力が強く周りが焦げやすいため、生地の端を1cm空けておくのがポイントです。
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完成したら、窯の準備ができるまで、地ダコのカルパッチョ、春菊とザボンのサラダと豊後牛のローストビーフの前菜とカボチャのスープをいただきました。カルパッチョにかかるパセリのソースも、サラダのザボンドレッシングも、ローストビーフのソースもすべて美香さんの手作りです。
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美香さんの料理に舌鼓を打っていると、火の準備ができたということで母屋の裏にあるどろ窯へ向かいました。ものづくりが大好きな、宏さん。設計図のみを頼りに田んぼから粘土を運んで自作したというから驚きです。窯の中の温度は600度以上、制作秘話を聞いていたら1~2分であっという間に焼き上がりました。
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「ほらほら、早く食べて!」そう嬉しそうにピザをカットしてくれた宏さん。多少の焦げなんて、ご愛嬌です。熱々のピザを頬張ると、思わず笑みがこぼれます。畑で獲れた野菜や大分の名産・原木しいたけ、塩麹漬けの鶏肉も窯でグリルされると驚くほど甘くてジューシー。デザートにチーズと蜂蜜がたっぷりのクワトロピザまでいただき、贅沢な国東の味にお腹も心も満たされました。
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陽が落ちてすっかり暗くなった頃、車で5分ほどの場所にある近くのお風呂へ。サウナ付きの大浴場に癒され宿に帰ると、1時間前には見えなかった満天の星が広がっていました。山の冷たく澄んだ空気も、今日は湯上がりの身体に心地良く当たります。
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「たまちゃんファーム」に戻ると、宏さんが暖炉に火をくべてくれました。特に何を話すわけでもなく、揺れる火を眺めるだけという贅沢な時間の使い方。猫のルーちゃんもこの特等席がお気に入りの様子で、静かな夜を一緒に過ごしました。
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いつもよりも早くすっきりと目覚めた朝。地元の小学生が登校する様子を横目に身支度を整えていると、朝食の美味しそうな香りがしてきました。
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焼き鮭に卵焼き、しいたけがたっぷり入ったお味噌汁。朝獲れのふきのとうを使った味噌和えや生姜の佃煮もご飯のお供です。小玉さんご夫婦が愛を注いで作った自然栽培米をメインにいただきます。
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「お米は稲刈りの後、稲を乾燥させる必要があります。今はほとんどの農家がその工程を機械でしていますが、うちは国東で唯一、昔ながらの農法で束ねた稲をお日さまに当て自然乾燥しているんです。せっかくなら大変でも美味しい米を作りたい。時間も労力もかかるけれど、そのぶんお米がゆっくりと味わいを増していくので格別ですよ」と宏さん。
ふっくらと炊き上げたお米は米本来の甘さが際立ち、噛むと上品な香りが口いっぱいに広がります。さらに旨みを引き立てるおかずに箸は止まらず、おかわりまでしてあっという間に完食しました。
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帰り際、宏さんが「国東の魅力は食」だと話してくれました。山も海も近く、自然に恵まれた土地。その自然の力が詰まったものを食べて、自然に囲まれて暮らせることこそが幸せの本質だと気付いたといいます。そこには、近所の方が野菜を持ってきてくれたり、料理を教えてくれたりする、食を通じた「つながり」も残っていました。
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「昔、ここは集落をまとめていた庄屋さんの分家で、公民館のようにみんなが集まる場所だったそうです。10年前移住してきたばかりの私たちに、地元の方々はその話をしてくれて『ここを残してくれてありがとう』とおっしゃいました。農業を何も知らなかった私がここで米を作りたいと言った時も、農具を貸してくれて『あんたがため池から水を引いてくれたら助かるよ』と手伝ってくれたんです」
この家が人を呼んで、つないでくれている。不思議とそんな気がするんだ、と微笑む宏さん。
かつて集落中の人が集まっていた場所が、時代を超え、また新しい歴史を刻んでいく。あの頃と変わらない場所に、小玉さんご夫婦に会いに、今日も人が集まります――。
たまちゃんファーム
住所 | : | 大分県国東市国東町小原1065-3 |
---|---|---|
電話 | : | 0978-75-4510 |
web | : | たまちゃんファーム(VISIT KUNISAKI内) |
日本でここだけの工芸体験を。七島藺農家民泊「草結い」
国東ならではの体験をするなら、現在の日本では、国東半島のみでしか栽培されていない植物・七島藺(しちとうい)を育てる「草結い」に訪れましょう。大分空港からは、車で約20分。田舎暮らしに憧れ大阪から6年ほど前に移住してきた田端育代さんと看板娘のヤギが迎えてくれます。
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ここでは宿泊はもちろん、七島藺を使った工芸体験のみでも利用できます。そもそも七島藺とはカヤツリグサ科の植物で、畳の材料として使用されます。「い草」に似ていますが、断面のカタチが少し違い、「い草」よりも強度が高く頑丈なことからオリンピックの柔道の畳にも採用されていたことがあるそうです。
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江戸時代にトカラ列島から苗が輸入され、かつては全国で育てられていたのですが、今は国東で5軒の農家しか作っていない貴重な植物。工芸体験では、「七島藺亀作り」を体験しました。
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「後からいくらでも手直しできるので、最初はざっくり結っていけば大丈夫ですよ」と田端さん。やさしく丁寧に教えてくれるので不器用な方でも安心です。まっすぐと伸びて艶がある見た目に反して手触りはやわらかく、ほのかに草の香りに包まれます。
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最後に亀の尾に米を入れ、90分ほどで完成。慣れた手つきで教えてくれた田端さんも移住してきてからご近所の方に教えてもらったと話してくれました。
「私が師匠と呼んでいるすごく器用な方がいるんです。その方が結う作品は素晴らしく綺麗で古くから受け継がれる貴重な技術の賜物です。なのに、七島藺の生産する農家が無くなると技術も途絶えてしまう。そう思うとほっとけないし、何よりも自然や草花が大好きなので」
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私のしたいことをできる場所が国東だった。暮らせば暮らすほどしたいことが見つかると少し恥ずかしそうに話す眼差しは、凛と伸びる七島藺のようにまっすぐで、自分もそんな場所に導かれたいと思わせてくれる出会いを与えてくれました。
草結い
住所 | : | 大分県国東市安岐町糸永2844-1 |
---|---|---|
電話 | : | 0978-97-1281 |
web | : | 七島藺農家民泊 草結い(VISIT KUNISAKI内) |
豊後高田の山暮らしを体験する。安部自然農園「山帰来」
大分空港から車で約45分。豊後高田市・三笠山の麓にある安部自然農園「山帰来(さんきらい)」では、安部章二さん・良子さんご夫婦と一緒に古き良き日本の山暮らしを体験できます。この日は、ネギの収穫とかずら工芸を体験しました。
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歩いて数分の場所に畑があり、さっそく有機無農薬栽培で育てたネギを収穫。土や外側の葉を落として、ヒゲの部分もハサミでカットします。時間があれば、袋詰めをして値札のシールを貼り、近くのスーパーに納品するところまで体験できるそう。農家さんがいかにして野菜を育て、私たちが口にするまでどのような工程が必要なのかを知ることができるのが他にはない体験です。
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収穫体験の後は、かずら工芸です。
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朝、山からとってきたという葛の木のツルを使って、カゴを編みます。まだ水分を含んでいるツルはやわらかく簡単にしなります。「間違って編んでもそれが味になるからいいよ」とやさしく教えてくれる章二さん。初心者でも、ものの1時間で完成しました。庭先に咲いた椿の花をさしたら何だか一層愛らしい。
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同じ頃、良子さんが作ってくださった昼ご飯も完成です。
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メインのノビル、ユキノシタなど春の山菜が華やかに食卓を彩ります。なかでも椿の花の天ぷらは、ネギの収穫帰りに採ったもの。新たな味覚との出会いに感激しながら、章二さんにお話を聞くと、豊後高田で生まれ、一度は上京をしたものの山が恋しくなって30年ほど前に地元へ帰郷したと話してくれました。
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「山帰来って植物をそこに飾っているんだけどね、『山に帰って来る』なんてほら、私にぴったりでしょう? かわいくてね、山にいっぱい自生するの。野菜だって虫だって空気と水と良い土によって生かされていて、それは人も同じ。自分もいつかは土に還るんだよ」
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そう話す章二さんは、たしかに、吹いてきた風を感じては季節を読み、植物や虫に触れては話しかけ、まるで山と会話しているようでした。かずらも心を寄せなければ、ただのツル。山にあるものを最大限に使って、山と共に生きることの楽しさを教えてもらったような気がします。
山帰来(さんきらい)
住所 | : | 大分県豊後高田市草地5164 |
---|---|---|
電話 | : | 0978-24-3466 |
web | : | 安部自然農園「山帰来」(豊後高田農村体験内) |
四季の風を感じながら過ごす。「古民家Villa Kobata」
「日本の夕陽百選」に選ばれた真玉海岸を望む山間に位置する「古民家Villa Kobata」は、土谷浩樹さん・知恵さんが迎えてくれる宿屋。宿泊はもちろん、カフェ利用や竹細工の箸づくりも体験できます。大分空港からは、車で約50分。
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
邸宅は豊後高田市で育った浩樹さんの生家。長年、東京や沖縄で仕事をしていましたが、2024年に帰郷。室内をフルリフォームし、かつて使っていた窓やドアもスタイリッシュな建材に様変わりしました。
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手袋をしてさっそく箸づくりスタート。箸に使うのは家の周辺の林に自生する竹です。
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まずはカンナで粗く削り、整ってきたら小刀に持ち替えて、最後はヤスリで磨きます。使い慣れない道具の使い方は、浩樹さんをお手本に進めましょう。最初に削りすぎてしまうと、後に細すぎたり短くなりすぎたりするので要注意です。
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黙々と取り組めば、1時間かからずあっという間に完成です。折り紙で作った箸袋に入れて、これで何を食べようかな。
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完成した箸を写真に撮りながら、お二人に話を聞くと豊後高田での暮らしは“第3の人生”だと言います。
「沖縄で一緒に飲食店をしていた頃は毎日忙しくしていましたが、ここに来て時間の使い方が大きく変化しました。畑をやってみようとか、もらったカボスでお酢を作ってみようとか生活に彩りが増える毎日。東京で生まれ育った私にとっては、自然の豊かさも食の美味しさも素晴らしくて本当に贅沢な環境です」(知恵さん)
「帰ってくると、やっぱり春夏秋冬の香りを感じます。東京や沖縄にいた頃には感じられなかった四季がここにはちゃんとある。地元の人は風でわかるんです。それに昔馴染みの近所の方が僕を覚えてくれていたり、昔は低かった木の背がすごく高くなっていたり。そんな些細なことがここで暮らす魅力です」(浩樹さん)
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同じ時間を生きるならここがいい。そう選んだ二人はキラキラと輝き、“第3の人生”をゆったりと歩んでいました。
古民家Villa Kobata
住所 | : | 大分県豊後高田市小畑874 |
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電話 | : | 090-2722-4086 |
web | : | 古民家Villa Kobata 公式サイト |
農泊における体験プログラムはあくまでもプランの一つであり、何を得て持ち帰るのか、その楽しみ方は無限にあると感じる取材でした。あの満天の星、七島藺のしなやかさ、ネギを抜いた時の感覚、風の香り――。豊かな国東半島で暮らす人と出会い、話を聞ける農泊だからこそ、その一つ一つに愛や情熱を感じて心を動かされます。
さあ。農泊体験を通じて、出会いにあふれる、豊かな時を過ごしてください。
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