熊本県中央部、雄大な阿蘇山の南麓に位置する南阿蘇地域。熊本市内から南阿蘇鉄道を使い、のどかな田園風景と連なる山々を眺めながら、自然の美しさと地域の温かさを感じさせる風景を楽しみます。自然と調和した地域に伝わる食文化、透明度の高い湧水地を巡り、無限の恵みを体感する阿蘇の魅力を味わう旅に出かけました。
画像: あなたの知らないディープ熊本~全線再開から1周年!南阿蘇鉄道でぶらり旅

西村 愛
2004年からスタートしたブログ「じぶん日記」管理者。47都道府県を踏破し、地域の文化や歴史が大好きなライター。
島根「地理・地名・地図」の謎(実業之日本社)、わたしのまちが「日本一」事典(PHP研究所)、ねこねこ日本史でわかる都道府県(実業之日本社)を執筆。サントリーグルメガイド公式ブロガー、Retty公式トップユーザー、エキサイト公式プラチナブロガー。

阿蘇の大自然を感じる南阿蘇鉄道で巡る楽しい旅路

2016年の熊本地震で甚大な被害を受け、一部の区間が長期間運休していた南阿蘇鉄道。
震災では橋梁の大規模な崩壊や路盤・軌道、駅舎、トンネルの損傷など、鉄道に深刻な被害をもたらしました。地震の1年後には一部で運転を再開しましたが、全線の回復までには7年の歳月を要しました。
しかし、多くの人々の努力と支援により2023年全線が復旧し、地域にとって大きな喜びと希望の象徴となっています。阿蘇山の南側、カルデラの中を走るこの路線は、旅情あふれる観光資源でもあり、また、地域にとっても大きな存在となっています。

熊本駅からJR豊肥本線で立野駅に向かい、そこで南阿蘇鉄道に乗り換えます。立野駅でJRはスイッチバックを行い、南阿蘇鉄道は高森駅方面へと徐々に標高を上げていきます。のどかな風景の中を1両編成の車両が走る姿は、南阿蘇の景観の一部ともなっており、ノスタルジックな雰囲気を感じる人も多いはずです。特にトロッコ列車は観光客に人気があり、最近ではインバウンド客も見られるようになっています。
復旧には地域社会の要望や産官学の連携が大きく寄与しました。専門家が知恵を出し合い、災害復興だけでなく、持続可能な地域交通のあり方も議論されました。その結果、インフラの再建だけでなく、地域全体の活性化を目指す取り組みが行われました。例えば、カフェや古本屋を併設した個性的な駅が新たに誕生し、今では沿線の名物として観光客を楽しませています。
観光資源の開発も進み、これらの施設は地域経済に大きく貢献しています。観光客が電車の待ち時間を退屈せずに過ごせる工夫がされており、カフェを併設した駅も多く見られます。特に「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」の長い駅名や、ユニークな仕掛けのある「阿蘇下田城駅」、開業当時の駅舎が残る「長陽駅」など、個性的な駅が並んでいます。各駅のホームや待合室からは、阿蘇外輪山の壮大なパノラマが広がる絶好のロケーションも楽しめます。

震災を経て新たな施設が生まれる一方、昔から親しまれているお土産も健在です。
その代表が、南阿蘇鉄道とJRが接続する立野駅前に店舗を構える「ニコニコ饅頭」です。JR豊肥本線の延伸に伴い、大正5年にこの地に移転して以来、100年以上にわたって地域の人々に愛され続けてきました。
「ニコニコ饅頭」という可愛らしい名前のこの饅頭は、昔ながらのソウルフード。全て店内で手作りされており、朝早い時間に購入するとほのかに温かさが残る状態で受け取れます。小ぶりで食べやすく、酒種で香り付けがされていますが、お酒のクセはなく、幅広い世代に親しまれています。添加物を一切使っていないため、日持ちは限られますが、その素朴な味わいは特別で、地元の人々や観光客にとって欠かせない存在です。

南阿蘇鉄道

南阿蘇鉄道 トロッコ列車

運行日2024年は12月1日までの土曜・日曜・祝日(オンライン予約可能)
URLhttps://www.mt-torokko.com/trolley-train/

ニコニコ饅頭

住所熊本県阿蘇郡南阿蘇村立野1576
電話0967-68-0104
営業時間8:00~18:00(4月~10月頃) 8:00~17:00(11月~3月頃)
定休日火曜日 ※祝日の場合は営業、元日から3日間
URLhttps://niconicomanju.jp/

風土が育んだ至高の味「阿蘇たかな漬」

阿蘇高菜(あそたかな)は、熊本県阿蘇地域を代表する特産品のひとつで、阿蘇地方特有の品種です。標高が高く、昼夜の寒暖差が大きい南阿蘇の気候が高菜の栽培に適しており、各家庭で阿蘇高菜が栽培され、自家製の高菜漬としてそれぞれの家庭で異なる味わいが楽しめます。

阿蘇高菜は、九州一円で良く食べられる一般的な高菜に比べて風味が豊か。からし菜の一種であり、辛みとほのかな苦味があります。特に漬物として食べるとその独特でしっかりとした風味が際立ちます。阿蘇の気候条件がこの風味を引き立て、阿蘇地域特有の味わいが生まれます。同じ種を他の場所で育てても、阿蘇高菜とは異なる風味になるほど、この野菜は土壌や気候と深く結びついています。

阿蘇たかな漬は、日常の食卓だけでなく、南阿蘇村や高森町など南阿蘇鉄道沿線地域のお土産品としても親しまれています。茎が細くシャキシャキとした食感が特徴の阿蘇高菜は、柔らかい部分だけを手作業で収穫され、主に漬物として加工されます。薄塩で漬けた「新漬(しんづけ)」、また、塩を強めにして発酵させた「古漬(ふるづけ)」の2種類があります。「新漬」は青々とした浅漬けで、フレッシュな風味が楽しめます。一方、「古漬」は時間をかけて発酵させることで、より深いコクのある味わいに仕上がっています。

今回訪れた高森町にある約150年の歴史を持つ味噌・醤油蔵「阿蘇マルキチ醤油(合名会社豊前屋本店)」では、春先に「新漬」を、その後「古漬」を販売しており、どちらも地元で人気です。販売が始まったのは昭和40年代、真空パックの技術が生まれた頃。地域ブランドのお土産品として「阿蘇たかな漬」を真空パックにし、持ち帰りやすい形で提供したのがきっかけです。今でも全国から引き合いがあり、阿蘇の代表的なお土産として広く親しまれています。
しかし、最近では農家の高齢化や気候変動の影響で収穫量が減少しており、阿蘇高菜はますます希少な存在となりつつあります。熊本空港でも多くの阿蘇たかな漬が並んでいるので、熊本の伝統の味をお土産に持ち帰れば、喜ばれること間違いありません。

阿蘇たかな漬は、そのまま食べてもおいしいですが、料理の素材としても優れています。
例えば、高森駅から徒歩数分の「お食事処忠(なり)」では、自家製の阿蘇たかな漬を使用した「たかなめし」が人気メニュー。県産の雑穀米と合わせて炒め、プチプチとした食感に高菜の辛味が効いた絶品の一品です。毎年春になると、阿蘇高菜を漬物樽いっぱいに漬け込み、年間を通してこの「たかなめし」に使用できるよう冷凍保存しています。
阿蘇の風土に育まれた地元の恵みを、アットホームな雰囲気の中で楽しむことができる「お食事処忠」。地元の人々にも愛されるこのお店で、心温まるひとときを過ごしてみませんか?

阿蘇マルキチ醤油(合名会社豊前屋本店)

住所熊本県阿蘇郡高森町高森1231
電話0967-62-0535
営業時間9:00~17:00
定休日第一日曜日
URLhttps://aso-marukichi.com/

お食事処 忠(なり)

住所熊本県阿蘇郡高森町高森1590-1
電話0967-62-0181
営業時間11:30~18:00
定休日日曜日
URLhttps://www.instagram.com/takamori.nari/

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