シーカヤックで見て学ぶ、宇城市が誇る世界遺産
有明湾を右手に望み、雲仙普賢岳を遠目に見ながら、宇土半島の西端へと進みます。旅の始まりは港から。「明治日本の産業革命遺産」のひとつである三角西港は、オランダ人水理工師であるローエンホルスト・ムルドルの設計により明治20年に築港されました。港の周辺には、古い木造建築と石畳が広がります。
歴史ある埠頭の石積みは、今もほとんどそのまま当時の姿を残しています。対岸にある飛岳から切り出した安山岩は緻密に積み上げられ、堅牢さは一目瞭然。とはいえ岸からだと、海に目を奪われて気に留めることができないかもしれませんから、絶好のビューポイントは海のうえ。
そこで、シーカヤック体験でその景色を楽しみましょう。丁寧なレクチャーを受け、カヤックの乗り方、パドルの漕ぎ方を学びます。
今回参加されたのは5名。県内在住の方や学生、海外から見えたゲストの姿もあります。深い青色を湛える穏やかな港湾から、特別なアングルで三角西港の岸壁を望みます。波の穏やかな内海では、会話の声もよく通ります。
港の成り立ちや変遷を解説するのは、宇城市観光物産協会事務局長の藏田 旭さんです。三角西港のシーカヤックは、オプショナルツアーとして販売を開始しています。こちらからご予約ください。
三角西港
住所 | : | 熊本県宇城市三角町三角浦 |
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電話 | : | 0964-32-0020(宇城市観光物産協会) |
大ヒット映画のロケ地になった国指定文化財で、テント泊
約1時間の“海のうえの散歩”を経て、向かったのは港湾に面した小高い丘に立つ、国指定文化財「法の館」。港の法と秩序を守る裁判所として、明治23年に開庁、大正9年に現在の場所に移築され、なんと平成4年まで裁判所として利用されていました。
現在は無料で見学可能な「法の館」という名を与えられ、当時の雰囲気はそのままに法の歴史や裁判の知識を学ぶことができます。
ここでは、なんと屋内にテントを設営します。今夜の宿は文化財。映画『るろうに剣心』のロケ地にも利用された風情ある施設のなかで宿泊するという試みです。文化財活用の新たなアプローチといえます。
法の館(旧三角簡易裁判所)
住所 | : | 熊本県宇城市三角町三角浦1031 |
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営業時間 | : | 9:00~17:00 |
入館料 | : | 無料 |
休館⽇ | : | 年末年始 |
地元の“つながり”も堪能できる、江戸時代からの温泉
お風呂は「金桁温泉」へ。ここにも由緒があり、江戸時代の享和3年(1803年)ごろに干拓地で発見された鉱泉で、大正から昭和にかけては湯治客で賑わったと伝わります。2020年に「地域間交流施設 金桁温泉」として復活。泉質は冷鉱泉で、胃腸病や貧血、リウマチなどに効果があるとされています。
また、特徴的なのは建築のデザイン。連続した切妻屋根は、地元“三角町”を連想させ、「つながり」を表現したものだとか。まさにこの日も、地元の方々で賑わいます。
地域間交流施設 金桁温泉
住所 | : | 熊本県宇城市三角町中村381-2 |
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電話 | : | 0964-53-0303 |
営業時間 | : | 10:00~19:00(最終受付 18:30) |
休館⽇ | : | 火曜、水曜(祝日の場合は翌日) |
入浴料 | : | 中学生以上300円、小学生150円、未就学児無料 |
地元の特産をふんだんに盛り込んだ、美食の数々
とっぷり日も暮れて、「法の館」には、料理のいい香りが漂います。白いクロスでテーブルメイクが施されたダイニングルームは、明治期の風情。県産、とりわけ宇城市の農水産物を活用したイタリアンが提供されます。
オリーブや摘果メロンピクルス、柑橘が香るニンジンのサラダや、ミントがアクセントのズッキーニ。カポナータや菊芋と里芋のフリッタータなど、彩り豊かな前菜です。コースは魚料理にアジと太秋柿、パスタはカラフルなサツマイモのニョッキで、肉料理はジビエ。宇城市で獲れたイノシシのローストです。
なかでも宇城市の名産であるコノシロを使った「宇城バッテラ寿司」は白眉といえます。4~5cmまでの幼魚をシンコ、7~10cm位の若魚をコハダと呼ぶ出世魚、江戸前ではお馴染みのニシン科の魚で、宇城ではよく獲れます。
通年で獲れますが、なかでも晩秋から冬にかけてのこの時期にはたっぷりと脂が乗って美味。宇城市では頭から尻尾までを使った姿寿司が有名ですが、より多くの方に親しんでいただくために、バッテラに仕立てることを考案。その趣旨に共感した市内の寿司店・大番の大将である大越忠義さんが、今宵腕を振るいました。
寿司割烹 大番
住所 | : | 熊本県宇城市三角町三角浦281-1 |
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電話 | : | 0964-53-0747 |
営業時間 | : | 11:00~21:00(L.O.20:30) |
定休⽇ | : | 木曜 |
地域を盛り上げる新たな名物とともに、旅の夜が更けていきます
大越さん「熊本は、コノシロの全国2番目の産地です。このあたりは藻が多いので、環境的に生育に適しているわけです。旬は10月から4月までで、段々と脂が乗ってきますよ。もともと地魚として食されてきたもので、姿寿司がメインでした。より食べやすく骨を感じさせないようにすれば、多くの方に楽しんでいただけるはずです。地域に根付いてくれたら、一番うれしいですね」
コノシロはコハダと同様に塩と酢で締めていただくのですが、この塩梅こそがコノシロの味を決めるわけです。大将の仕事はまことに素晴らしく、キュッと引き締まった身はうまみにあふれ、脂は繊細で芳潤。どっしりと受け止める酢飯とのコントラストが際立ちます。
ダイニングルームには、温泉で体を休めたゲストの姿が見えました。お好みのドリンクを注いだら、さあ乾杯です。肴は地産のイタリアンに加え、一日の思い出話。文化財や特産品を新たなアプローチで切り取った宇城の旅の夜が、ゆったりと更けていきます。
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※この記事は2023年2月3日に一部内容を更新しました。
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。