さらに、出水市の魅力を深く知るならば「農泊」という宿泊スタイルがおすすめです。農山漁村地域に滞在することで、その地域の生活を体験することができるのが農泊のよさ。
出水市の暮らしを身近に感じ、大自然にふれ、独自の食文化を知る。すべてを凝縮したような、1泊2日の旅に出かけましょう。
ナビゲーターは、JAL客室乗務員の北さん(左)と野田さん(右)。鹿児島出身で、「JALふるさと応援隊」として活動しています。おふたりによると、「鹿児島は温かい人が多い場所」だそう。どんな出会いがあるか、楽しみです。
一斉に飛び立つ1万羽以上のツルに感動
早起きをした2日目の朝は、「ツルの飛び立ち」を見に行きます。実は出水市は、2021年にツルの越冬地として「ラムサール条約(水鳥の生育地として国際的に重要な湿地に関する条約)湿地」に登録されるほど、ツルと人が共存する地域。日本の野鳥種の半数近くが生息する、バードウォッチングスポットの一つにもなっています。
宿から5分ほどの場所にある「出水市ツル観察センター」には、冬に渡来し春先(10月中旬~3月ごろ)までを過ごすツルたちのねぐらがあるため、1万羽以上のツルたちを観察することができます。
ナベヅルやマナヅルなど、そのほとんどが絶滅危惧種。世界のナベヅルの8割がこの場所に渡来してくるというから、貴重な体験です。今年(2022年1月時点)は、1万6,000羽以上のツルが観測されたそうです。
昼間でも田畑でのんびりと過ごすツルたちを眺めることができますが、毎朝7時ごろがゴールデンタイム。この日、ねぐらには1万羽以上のツルが集まっていました。徐々に空が明るくなると給餌が始まり、ツルが飛び立ちはじめます。
朝焼けと、飛び立つツルの羽ばたき。美しい景色が空一面に広がり、それは言葉が出ないほどの圧巻の体験。まさに、この時期、早朝だけに出会える絶景です。
寒さも忘れて、ツルの観察に夢中になるので、風邪を引かないように防寒対策はしっかり備えてください。
宿に戻っていただく朝食は、お母さんが焼いたベーグルや自家製ケールのスムージーなど、愛情たっぷりの料理たち。
その中でも、ふたりが「懐かしい」と声を上げたのは「あくまき」という鹿児島の郷土料理。竹皮に包んだもち米を灰汁で炊いた保存食で、きな粉をまぶして仕上げます。子どものころ、おやつ感覚で食べていたそうです。
食後は、散歩を兼ねて徒歩2分ほどの農園にいるヤギの親子のもとへ。エサをあげたり、手入れをしたり、動物の温もりを感じるふれあいの時間。無邪気にはしゃぐふたりは、童心に返ったような笑顔を見せていました。
農泊での体験メニューは、この他にもいろいろ用意されています。サンセットが美しいビーチへの散歩、パン焼き体験など、希望にあわせてくださるので、ぜひ、ご予約の際に相談してみてください。
農泊体験 悠遊庵
住所 | : | 鹿児島県出水市野田町下名5561 |
---|---|---|
電話 | : | 0996-79-3030(出水市観光特産品協会) |
営業時間 | : | チェックイン:14:00、チェックアウト:11:00 |
料金 | : | 1泊2食体験付き、大人11,000円、12歳以下6,500円 |
出水市ツル観察センター
住所 | : | 鹿児島県出水市荘2478-4 |
---|---|---|
電話 | : | 0996-85-5151 |
営業時間 | : | 9:00~17:00(入館受付は16:30まで) |
料金 | : | 大人220円、小・中学生110円 |
日本一大きな大願成就の大鈴に、願いを込めて
日本一の地蔵や日本一のツルの渡来地など、「日本一」が多い出水市。続いて訪れたのは、直径3.4メートル、高さ4メートル、重さ5トンの“日本一の大鈴”がある「箱﨑八幡神社」です。
狛犬の代わりのように鎮座する2羽の巨大なツルの間を抜け神門へ進むと、伊勢神宮御鎮座二千年を記念して設立された大きな鈴があらわれます。
あまりにも大きすぎて、真下に立つと鈴と分からないほど。古来より邪を払う力が宿ると信じられている鈴。成せば成る(鳴る)、幸福に成る(鳴る)、という意味が込められています。
神門にある祈願串を購入し、「撫鈴祈願」。
お願い事を書き込み、大鈴の下に供えられた鈴を祈願串で撫で、境内を進みます。
神社の階段を上り、賽銭箱の上にある祈願串納箱に納めてお参りを。鮮やかな朱色の神殿が美しく映え、心も晴れやかになりました。
箱﨑八幡神社
住所 | : | 鹿児島県出水市上知識町46 |
---|---|---|
電話 | : | 0996-62-2219 |
出水市だけでなく、その先まで一望。パノラマの絶景に出会う展望台
出水駅から登った「東光山公園」は、出水イチの絶景スポット。傾斜を利用した公園には、子どもたちが思いきり遊べるアスレチックがそろっています。休日には、お弁当を広げる地元の親子連れで賑わう、地域に愛される公園です。
4階建ての展望台に上がると、出水市だけでなく、遠くは熊本・天草まで一望できる、パノラマの景色が広がっています。
ガタンガタンと音が聞こえてきたら、九州新幹線の登場。流れる雲や、キラキラと輝く海、いつまでも眺めていたくなる絶景です。春には桜が咲き誇り、お花見スポットとしても賑わうそうです。
絶景を目の前に、思わずスマホカメラのシャッターを切り続ける、ふたりでした。
東光山公園
住所 | : | 鹿児島県出水市上鯖渕6332-5 |
---|---|---|
電話 | : | 0996-63-2111(出水市役所) |
出水自慢の逸品。地域にも愛されるご当地グルメ「いずみ親子ステーキごはん」
九州新幹線全線開通を機に生まれたご当地グルメ「いずみ親子ステーキごはん」は、出水を訪れたら必ず食べておきたいメニューです。
「おもてなしの気持ちを込めて開発したご当地グルメです。出水は、鶏卵の産出額全国1位を誇る鶏の生産地なので、このメニューを通して魅力を知ってもらえたら」と話すのは「味処 魚松」の若女将・京子さん。メニュー開発に携わったメンバーの一人です。
メインの鉄板焼きはモモ肉とムネ肉があり、きれいな丸型にスライスされているのが特徴。鉄板にのせた瞬間のジューという音が、食欲を掻き立てます。
女将さんが焼き方を教えてくれるので、焼き加減は絶妙。トマトとタマネギのタレ、ハーブ塩、季節で変わるタレの3種類のオリジナルのタレにつけて頬張れば、そのジューシーさや、肉の旨みに驚くこと請け合い。
スープはデコレーションが美しく食べるのがもったいないほど。レモンを搾ると色が変わるというサプライズもありました。
このご当地グルメのために特別に仕入れているというブランド卵「黄身2らんらん(きみにらんらん)」を使った「卵かけご飯」もポイント。鶏肉と卵がそろうのが、メニューに“親子”という名前がついている理由です。
その他にも、注文にあわせて燻製するチキンサラダは、自家製ドレッシングや甘酢のジュレとの相性も良く、季節によって味わいが変わるそう。「訪れるたびに、新しい発見に出会えるように」という、おもてなしの心のあらわれです。
観光客向けに開発したメニューですが、今では地元の人たちもハレの日の食事として親しんでいるそう。それも頷ける、華やかさと食べ応えでした。
味処魚松
住所 | : | 鹿児島県出水市昭和町50-27 |
---|---|---|
電話 | : | 0996-62-0655 |
営業時間 | : | 11:30~14:00/17:00~22:00 |
定休⽇ | : | 日曜(木曜と土曜は夜のみ営業) |
: | https://www.instagram.com/uomatsu_8/ |
若女将が、自分の好きなものを仕入れる。県外でも評判のうつわ屋
商店街の一角に、インスタグラムのフォロワーが10万人を超える、驚くべき人気アカウントを持つお店があります。それが、「吉村金物店」です。
若女将・吉村満里子さんは、結婚を機にお相手の家業である金物屋をサポート。5年前にうつわの仕入れを担当するようになり、好きなものを仕入れていたところ、どんどん増えていき、今では別のアイテムのスペースや倉庫を侵略。金物屋の向かいにうつわ用の販売スペースを設けるまでになったそうです。
そして、好きなものをインスタグラムにアップするうちに、気づけばフォロワーが14万人に。現在は、「吉村金物店」に来るために、わざわざ、新幹線や飛行機で訪れる人がいるほどになりました。
その魅力は、店を訪れるとすぐに分かります。波佐見や有田、小石原、鹿児島の作家の作品など、九州を中心に取り揃えたうつわは、満里子さんでも把握できないほどの点数に。レトロなグラスや汁椀もあり、一式そろえたくなるラインナップです。
ふと、箸置きが低い位置に置かれているのが目に留まりました。その理由を尋ねると、「子どもたちが、自分でお気に入りのものを選んでほしいから。そうすることで、自然とお手伝いするようになったり、モノを大切にする心を学んだりできると思うんです」と満里子さん。
並んでいるうつわの作風に偏りがないので、どんな人でも必ずお気に入りの一枚が見つかるでしょう。時間がいくらあっても足りないほどです。そうして、じっくりと時間をかけて選んだうつわを、満里子さんが、丁寧に丁寧に包んでくださいました。
吉村金物店
住所 | : | 鹿児島県出水市本町12-14 |
---|---|---|
電話 | : | 0996-62-0032 |
営業時間 | : | 8:00~17:30(前後する可能性があります) |
定休⽇ | : | 日曜 |
: | https://www.instagram.com/goryo0115/ |
1泊2日の旅を終え、感じたのは鹿児島の温かさ。人も土地も大きな器で迎え入れてくれる、そんな居心地の良い時間でした。
応援隊の北さんは「鹿児島で生まれ育ったのに知らないことが多く、新たな発見になりました」と振り返ります。野田さんも、「日常生活とかけ離れた体験ばかりで、大きな気分転換になると思います」と農泊の魅力を語りました。
土地の魅力と住む人の魅力の両方を存分に味わうことができたのは、農泊だからこそ。出水の魅力を深く体感する旅に出かけてみませんか。
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。