九州は、日本に、いやいや世界に誇る温泉天国。 名実ともに日本一の「おんせん県」大分をはじめ、温泉湧出量国内トップ5のうち3つを九州勢がしめているのです。(出典:環境省発表平成27年度温泉利用状況参照)
「ご飯食べにいく?」「買い物いく?」と並び、「温泉いく?」と、おでかけの選択肢に温泉が入ってくるほど、地元の方にとっては身近な存在でもあります。今回はそんな温泉天国、九州から「わざわざ行きたい名湯」5湯をご紹介。案内してくださったのは日本最難関の温泉検定と呼び声高い「温泉マイスター」の称号を持つ、宮崎由希子さん。ツウでなくても実感できる湯力抜群の個性派温泉の情報をお届けします。

ピリッと刺激が走る強酸性の湯。
全国の温泉通が舌をまく「奇跡の名湯」

塚原温泉 火口乃泉(かこうのいずみ)

画像: 塚原温泉 火口乃泉

塚原温泉 火口乃泉

先にお伝えしておくと、擦り傷がある場合、この温泉の入浴には覚悟が必要です。顔を洗ってすぐに目を開けてもいけません。なぜなら激痛が走るから。そんな刺激的な湯が湧くのは、由布院温泉から車で約15分、標高1,045mの伽藍岳(がらんだけ)の中腹にぽつんと佇む「塚原温泉 火口乃泉」です。

刺激の理由は、全国第2位を誇る強酸性の湯にあります。その酸度の度合いを表すpH値は1.4と、コンクリートさえ溶かしてしまうほどの威力をもちます。とはいえ、心配には及びません。強い酸度ゆえに、殺菌効果に優れ、皮膚病一切に効果を発揮するという名湯です。日本三大薬湯の1つに数えられ、湯治の名所としても知られています。

画像: 湯船がひとつあるだけの素朴な浴場。コンクリートを溶かす強酸泉であるため、湯船と床には松と桧が使用されている

湯船がひとつあるだけの素朴な浴場。コンクリートを溶かす強酸泉であるため、湯船と床には松と桧が使用されている

さらに驚きは、「酸性−含硫黄・鉄-アルミニウム−カルシウム−硫酸塩泉」というじつに多彩な成分が含まれた泉質。アルミニウムイオンは全国第2位、鉄分においては日本一と含有量も圧倒的で、湯治のために通う人々があとを絶ちません。そう、ここぞ、全国の温泉を知り尽くすツウも舌をまく奇跡の名湯なのです。

画像: 温泉棟から歩いて約5分、モクモクと噴煙を上げる様子はまるで地獄

温泉棟から歩いて約5分、モクモクと噴煙を上げる様子はまるで地獄

画像: 火口噴気で約20時間蒸した名物「むし卵」。豊富な温泉成分がしみ込み、まろやかでコク深い味わい。6個入り500円

火口噴気で約20時間蒸した名物「むし卵」。豊富な温泉成分がしみ込み、まろやかでコク深い味わい。6個入り500円

塚原温泉 火口乃泉
営業時間9:00〜19:00(9〜5月は9:00〜18:00)※最終受付は閉店1時間前
定休日年末年始、悪天候時
webhttp://www.tukaharaonsen.jp/
住所大分県由布市湯布院町塚原1235

渓流沿いの天然洞窟で楽しむ「究極の新鮮湯」 日本中の温泉の1%しかない「究極の新鮮湯」を天然洞窟で楽しむ

旅館 福元屋

画像: 旅館 福元屋

旅館 福元屋

温泉は鮮度が命です。空気に触れる時間が長いほど酸化が進むといったように、生き物のように刻々と変化してしまうのです。そのため、こだわりのある店主は、源泉の湯をいかに湧きたてのまま湯船に供給するかに腐心しています。温泉好きのあいだでも「究極の新鮮湯」として羨望されるのが「足元湧出風呂」というスタイルの温泉です。

画像: 左:創業1907年の老舗旅館。館内では、囲炉裏など昔なつかしい風景が出迎えてくれます 右:宿泊客に提供される温泉水を使った手づくり料理も評判。自家栽培しているつやつやで甘い白ご飯がすすみます

左:創業1907年の老舗旅館。館内では、囲炉裏など昔なつかしい風景が出迎えてくれます
右:宿泊客に提供される温泉水を使った手づくり料理も評判。自家栽培しているつやつやで甘い白ご飯がすすみます

これは読んで字のごとく、足元から温泉が湧出する風呂のこと。自噴泉が湯船のなかにあり、なおかつ適温であるという条件が揃わなくてはならないため、国内の湯のなかでもわずか1%に満たないといわれます。

そのひとつが大分県九重町にある「旅館 福元屋」の天然洞窟温泉です。渓流沿いの天然洞窟内で約300年前から湯がコンコンと湧き続けるこの温泉は、毎分1300ℓという桁違いの湯量も魅力。生まれたての湯がどんどん湯船を満たしては、川にジャンジャン流れゆく贅沢環境です。湯の入れ替わりが早いため、一般的にタブーとされるタオル着用もここでは可。混浴ですが女性でもトライしやすい一湯です。

旅館 福元屋
営業時間9:00〜21:00(立ち寄り入浴可能な時間)
定休日不定休
webhttp://www.kabeyu.jp/
住所大分県玖珠郡九重町町田62-1

まるで美容液に浸かっているような「日本三大美肌の湯」

源泉かけ流しの宿 嬉泉館(きせんかん)

画像: 源泉かけ流しの宿 嬉泉館

源泉かけ流しの宿 嬉泉館

嬉野温泉は「日本三大美肌の湯」に挙げられる実力派温泉です。トロトロとした浴感で、石けんが落ちてないと勘違いをして身体を洗い続けるというのは、ここではよくある話。なかでも湯のとろみが強く、まるで美容液に浸かっているようだと称されるのが、8室だけの小さな宿「嬉泉館」の温泉です。嬉野温泉には40軒ほどの宿があるのですが、じつは自家源泉かけ流しはここだけ。

毎晩清掃を終えた湯船に、ゆっくり時間をかけて源泉からの湯(90℃)を貯めることで温度を調節。以降も湯船の温度チェックを欠かしません。この細やかな仕事によって加水をすることなく源泉100%を実現しているのです。さらに湯の汲み上げも、「エアリフト方式」というこだわりの方法を採用しています。一般的な「水中ポンプ式」に比べて清掃に手間がかかるものの、オーナー曰く「湯が練れる」とのこと。つまり、湯がまろやかになるというのです。「本物の温泉を提供したい」、そんなオーナーの心意気が生みだした名湯です。

画像: 夕食も評判の宿。旬の地元食材をふんだんに使用しています

夕食も評判の宿。旬の地元食材をふんだんに使用しています

源泉かけ流しの宿 嬉泉館
営業時間10:30〜21:00ごろ(立ち寄り入浴可能な時間 ※ただし混雑時は不可)
休み不定休
webhttp://kisenkan.spa-ureshino.com/
住所佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙2202-18

「西郷どん」が愛した絶景の露天風呂と天然サウナ

白鳥温泉上湯

画像: 白鳥温泉上湯

白鳥温泉上湯

温泉好きであったとされる「西郷どん」こと西郷隆盛は、鹿児島や宮崎を中心に各地で湯治を楽しんだと言われています。標高780mの山あいの温泉「白鳥温泉上湯」も彼が楽しんだ名湯のひとつで、1874(明治7)年に3か月間逗留した記録が残されています。征韓論に敗れ、疲れ果てた西郷どんを癒したという蒸し風呂はいまも健在です。

蒸し風呂とは温泉蒸気を活用した、いわば和風サウナのことですが、白鳥温泉上湯のものはかなりの個性派。地面から蒸気がゴーゴーと音を立てながら噴出する穴のうえに小屋を設置したワイルドタイプなのです。天然蒸気100%のため温度調整は不可能で、日によって異なるものの、小屋内の温度はなんと70〜80℃。一歩入れば、尋常ではない量の汗が全身から吹き出します。

この地獄のような蒸し風呂に10分ほど耐えたのち小屋を出て、冷たい山水を浴びます。すると不思議。身も心もすっきり軽やかになるのです。地元の常連さん曰く、「ひきかけの風邪なら一発で治る!」とのこと。

画像: 男女別の蒸し風呂。手前の水風呂には、近くの白鳥神社からひいた神聖な水を使用

男女別の蒸し風呂。手前の水風呂には、近くの白鳥神社からひいた神聖な水を使用

画像: 蒸し風呂のほか、えびの盆地を一望する露天風呂もあります

蒸し風呂のほか、えびの盆地を一望する露天風呂もあります

白鳥温泉上湯
営業時間7:00〜20:00
定休日第1火曜日
webhttp://shiratori-onsen.com/
住所宮崎県えびの市末永1470

「神様が入っとさー」と地元常連さんも。お肌潤う美肌の湯

紫尾区大衆浴場

画像: 紫尾区大衆浴場

紫尾区大衆浴場

鹿児島県の山間にある紫尾温泉は数軒の宿と公衆浴場が1つあるだけの小さな温泉地です。最寄りのJR出水駅からタクシーで30分、鹿児島市内から車でおよそ90分と、決してアクセスの良い場所ではありません。

しかしここにはわざわざ足を運ぶ価値がある、極上の湯が湧いています。それが「神の湯」とも称される「紫尾区大衆浴場」。源泉は裏にある紫尾神社の境内という、なんともありがたい湯なのです。透明感あるエメラルドグリーン色の湯は時折ほんのり濁ることがあるそう。そんな日は「神様が入っとさー」と、地元常連さんの談。

画像: 泉質はアルカリ性硫黄泉。湯量も豊富で、シャワーやカランも温泉水を使用しています

泉質はアルカリ性硫黄泉。湯量も豊富で、シャワーやカランも温泉水を使用しています

トロトロとやわらかく、湯上がり肌がしっとり潤う美肌の湯は、なるほど確かに神様も楽しみたくなるかもしれません。そんな神のご加護か、ここには温泉の力を借りたおいしい名物があります。それは「あおし柿」という渋柿を温泉に一晩浸けておいたもの。泉質によって渋みが抜けて甘さが増すというのです。10月から11月末ごろまで、公衆浴場に併設される物産館で購入することができます。

画像: 名物の「あおし柿」

名物の「あおし柿」

紫尾区大衆浴場
営業時間5:00〜21:30
定休日なし
webhttp://shibionsen.web.fc2.com/
住所鹿児島県薩摩郡さつま町紫尾2165

宮崎由希子(みやざきゆきこ)

福岡を拠点に九州各地を飛び回るフリーライター。得意分野は旅とグルメと温泉。特に温泉は九州を中心に600湯以上の入浴経験をもつ。その世界では最も難関とされる「温泉マイスター」を取得。著書に『おいしい博多出張』(エイチエス出版)

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