2023年5月16日、JAL史上初の特別な国際線がお客さまを乗せ、羽田空港から飛び立ちました。目的地はアメリカ・ロサンゼルス。機体はこのフライトを最後に退役する「ボーイング777-200ER」です。通常、国際フェリーフライト(回送運航)と呼ばれる最後のフライトに、お客さまを乗せることはまずありません。このユニークなツアー、実は同機のスケジューラー・パイロットの発案。世にも珍しい空の旅の全容をご紹介します。
画像: 史上初! 退役機の“最後のフライト”国際線ツアー、驚きの中身

2002年にJALが導入したボーイング777-200ERは、国際線の長距離から近距離まで幅広く活躍した高性能な大型機です。安定感のある機体として数多くの空の旅を支えてきました。運用から20年を迎え、後継のボーイング787にその座を譲り、多くの機体が退役を迎えることになりました。

パイロットの発案で生まれた、前代未聞のフライトツアー

画像1: パイロットの発案で生まれた、前代未聞のフライトツアー

「GE製のエンジンがすごくパワフルなんです」と、会田雄吾。「コックピットの重厚感と使いやすさは、すばらしいレベルです」と、山下順平。“愛機”の良さを力説するふたりは777の副操縦士で、今回のツアーの企画メンバー。同じくメンバーの永瀬智規・長野誠也は777運航乗務員のスケジューラー業務を担当しています。

画像2: パイロットの発案で生まれた、前代未聞のフライトツアー

長野「現在の部署では機体売却の担当をしています。実は退役フェリーフライトを見送りに空港に来られるお客さまは多くて、なにか喜んでいただける方法はないかと考えていました。永瀬とともに上司と話していたとき、フェリーフライトにお客さまをお乗せすることを思いつきました。昨年の5月のことです。とはいえ私たちにはツアー企画の知識がありません。そこで、社内の各所に相談するところから始めました。調達と販売、整備にまで声をかけたところ、やはり『面白いけどハードルがある』と。そこから試行錯誤を始めました」

通常、フェリーフライトにお客さまをお乗せするケースはありません。多くの退役機はロサンゼルスに近いビクタービル空港に向かいます。ここはしばしば「飛行機の墓場」と称される砂漠のストックヤード。広大な敷地に、飛行機がずらりと並びます。これらの多くは廃棄されるのではなく、売却して再整備の後に新たに運用したり、部品用にストックされたりするのが一般的な退役機の“余生”です。

画像3: パイロットの発案で生まれた、前代未聞のフライトツアー

会田「売却機材にお客さまにお乗りいただくことが可能なのか、売却先が受け入れてくれるのかが課題でした。また通常、整備をすべて終えておくのが引き渡しの前提です。その整備をどうするのか、コロナ禍で国際線チャーターがほとんどない状況も、不安ではありました」

前代未聞のツアーを行うため、交渉に次ぐ交渉

チームの調整が始まりました。海外ツアーに仕立てるため、社内各所を東奔西走。売却先との交渉もさることながら、もっとも時間を要したのが現地での受け入れ体制の確立でした。

画像1: 前代未聞のツアーを行うため、交渉に次ぐ交渉

会田「ビクタービル空港をフライトの目的地にするのがベストでしたが、アメリカの地方空港で、観光客を受け入れられる国際空港ではありません。そこでロサンゼルス空港に向かうフライトにし、ビクタービルと、同じく飛行機のストックヤードを持つモハベ空港へのバスツアーを企画しました。直行便ではないにしろ、これらの空港には旅客ターミナルすらありません。突然アジアからたくさんの人がアメリカの地方空港を訪れるわけですから、ハードルは高い。どうにか説得しなくてはいけません」

画像2: 前代未聞のツアーを行うため、交渉に次ぐ交渉

長野「まずビクタービルに行って、そのあとメールでもやりとり。しかしコミュニケーションが難航し、時差もあることから毎朝4時に出社して数十回にわたる電話交渉を重ねました。最後は現地MROの会社のCEOや副社長に対してZoom会議で説得しました」

画像3: 前代未聞のツアーを行うため、交渉に次ぐ交渉

航空業界でいうMROとは、退役機などのメンテナンスやオーバーホール、飛行機の保管、解体まで一貫して手掛ける企業のことです。売却先のみならず、一時的に機体を預かる会社にも許可が必要です。しかしチームの熱意が伝わり、交渉相手であるMROのCEOはツアー当日のチャーターバスに一緒に乗り、お客さまを歓迎してくれました。

長野「今回の交渉のために、2度現地に赴きました。空港当局のみならず、民間企業にも決裁をとらなければならなくて。入域に関してはツアー2週間前、機体の写真撮影ができると決まったのが24時間前でした。というのも、ビクタービル空港の飛行機はJALの持ち物ではないので、細かい点にも所有者の許可が必要になるからです」

画像4: 前代未聞のツアーを行うため、交渉に次ぐ交渉

山下「また、整備士の発案で、エンジンカウル(エンジンの外装)に寄せ書きをしてもらうことにしました。これも各所に確認が必要でした。出発当日の昼過ぎに実施が決まったくらいです」

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この日のために披露された、滅多に経験できないフライト技術

さらに今回、一般的な直行便の航路ではなく、ツアーのための特別なルートを設定しました。

画像1: この日のために披露された、滅多に経験できないフライト技術

会田「ビクタービル上空で2度ローアプローチ、その後目的地であるロサンゼルスへ舵を取る三角フライトのようなものです。特別な航路でしたので、アメリカの管制当局と交渉して、実現できないか調整しました。許可をいただけたものの、現地の管制官にとっては一度ロサンゼルスから遠ざかる特殊な航路が不思議だったようで、航路に関する質問が飛んできて、あらためて事情を説明するというハプニングもありました」

画像2: この日のために披露された、滅多に経験できないフライト技術

また今回のフライトでは、パイロットによるさまざまなテクニックが披露されました。そのひとつが、ローアプローチ。ビクタービル空港付近の「飛行機の墓場」を、地上60mという低空飛行で通過します。

山下「通常行う操作の範囲内ですが、通常は訓練でしか実施しません。普段お客さまをお乗せしては行わないので、理論上は安全ではあるものの、果たして本当に心配はないか、そんな検証も必要でした。ちょっとでも危険なら許可はできないわけです。安全を考慮した上で、どこまでできるのかもキモでした」

画像3: この日のために披露された、滅多に経験できないフライト技術

山下「また、離陸はスタンディングテイクオフという手法を使いました。離陸前、ブレーキをかけたままエンジンの出力を大きく上げます。機体全体がガタガタと揺れ、ブレーキを解除すると一気に加速するんです。いわばロケットスタート。『3、2、1、テイクオフ!』と機内アナウンスでかけ声をかけました(笑)」

“特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

さらに、上昇中に機体を左右に揺らす、ロッキングウィングというセレモニーも実施。フェリーフライトで地上のお客さまやスタッフに対し、飛行機が別れを告げるためのサインです。機内は左右に約15度ずつ、大きく傾きます。

画像1: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

ツアー当日、出国手続きを終えたお客さまは出発ゲート前に早めにお集まりいただきました。

画像2: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

整備士によるトークショーを行い、「777」と記されたリムジンバスでメンテナンスセンター前の213というフェリーフライトを出すスポットへ向かいます。機体の周辺では、機体とたっぷりと触れ合っていただき、エンジンカウルには寄せ書きも。

画像3: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

永瀬「思いついたアイデアを実現できたことは嬉しかったです。もともと見送りに来てくださるファンの方に喜んでいただくことから始まった企画ですから、皆さんに撮影していただいた際、『思い入れがあるので感動した』とおっしゃっていただいたのが、印象深かったですね」

画像4: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

こう振り返るのは、777の業務グループで、今回のツアー発案者のひとり、永瀬智規です。お客さまを乗せた機体は、ロケットスタートで飛び立ち、ロッキングウィングを行い、ビクタービル上空に“寄り道”し、旋回してローアプローチで飛行。ロサンゼルスに降り立ちます。

画像5: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

山下「夜にはディナーイベントを行い、私たちも参加しました。皆さんすごく盛り上がって、私たちにとってもすごく楽しい思い出になりました。パイロットは、普段お客さまと直接接する機会が多くありません。そんななか、スタッフとお客さまという垣根を越えて、ひとつのチームになったような達成感がありました。お声がけやプレゼントまでいただき、本当に貴重でありがたい経験になりました」

画像6: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

会田「次回やるなら今回以上のサプライズを求めたいですね。とはいえ今回やりたいことはほとんど実現できてしまいました。これからもっとアイデアを集めて、またお客さまに喜んでいただける機会を作りたいです」

画像7: “特別”に彩られたツアー。お客さまからのアイデアもお待ちしています

「こんなフライトがあれば乗ってみたい!」。お客さまにもしアイデアがあれば、その声をぜひJALにお寄せください。一風変わった飛行機の楽しみ方を、今回とはまた違った形でご用意できるはずです。

@japanairlines_official ボーイング777-200ER退役チャーターフライトが無事終了しました✈️ ご参加いただいた方、誠にありがとうございました! チャーターのイベントの様子をダイジェスト版でご覧ください! #lastflight #Boeing #ボーイング #Boeing777 #lowapproach #KVCV #victorville #KMHV #mojaveairandspaceport #airplane #JAL #日本航空 #japanairlines #airline ♬ I Ain’t Worried - Acoustic - OneRepublic

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