2021年2月4日、JALにとって特別なフライトが羽田空港を飛び立ちました。この機体に搭載されたのは、化石由来ではないバイオジェット燃料。しかも、衣料品の綿から作られたものなのです。ここに至るまで3年以上の歳月を費やした、JALの持続可能な社会に向けた取り組みの第一歩。その道のりをひもときながら、未来のフライトのあり方をご紹介します。
画像1: 衣料品からジェット燃料を製造!? JALが未来のフライトを実現できた舞台裏

衣料品を原料とした国産バイオジェット燃料の製造に挑戦するプロジェクトが、「10万着で飛ばそう!JALバイオジェット燃料フライト」です。きっかけは2015年にまでさかのぼります。

画像2: 衣料品からジェット燃料を製造!? JALが未来のフライトを実現できた舞台裏

技術開発と社会貢献のために、プロジェクトがスタート

松尾「都市ごみ由来の燃料で、映画『Back To The Future』に登場する米国製スポーツカー『デロリアン』を走らせるというプロジェクトにJALが協力したのがきっかけです。リサイクル事業を手掛けておられる日本環境設計株式会社さまのイベントだったのですが、『次は飛行機を飛ばせたら面白いよね』という話になり、プロジェクトがスタートしました」

画像1: 技術開発と社会貢献のために、プロジェクトがスタート

こう語るのが、ブランドコミュニケーション推進部の松尾知子です。本プロジェクトの主管部署の担当者として、実現に向けてさまざまな調整を行ってきました。

そもそも飛行機で使用するジェット燃料は、化石資源である原油を精製したものです。その性質はガソリンよりも灯油に近いもので、日本は多くを輸入しています。

燃料の調達を担当する調達本部の平野 佳が続けます。

画像2: 技術開発と社会貢献のために、プロジェクトがスタート

平野「ジェット燃料はガソリンや灯油と原料は同じです。精製の際、蒸留される沸点の差を利用して成分を抽出します。空港に駐機している機体の翼の下に、地面とホースを繋ぐ車が停まっているのをご覧いただいたことがあるかもしれませんが、それがまさに給油中の光景です。JALグループが排出する二酸化炭素のうち99%以上は航空機の燃料から出たものです。環境負荷を小さくするためには、二酸化炭素の排出量を減らす必要があります。そこで、バイオジェット燃料には以前から注目していました」

SDGsや環境問題が話題になるなかで、JALにとっても環境負荷低減はとても重要な取り組み。そこで、バイオジェット燃料の技術開発と利用を進めることにしたのです。衣料品を使うというアイディアを採用したのは、多くの方々に、環境負荷低減についてより身近に感じていただけると考えたからです。

原料は“綿”。25万着を回収し、仕分け作業

松尾「プロジェクトには時間とコストがかかるため、実施の可否について相当な議論がありました。しかし最終的には環境課題の解決と技術開発のために、必要な行動だと実施を決断しました。プロジェクトの前段として、『本当に実現可能か』を検証しました。バイオジェット燃料は既存の国内施設を使って製造したのですが、まず半年以上かけて各製造工程の施設を見学し、製造可能であるかどうかを確認しました」

画像1: 原料は“綿”。25万着を回収し、仕分け作業

プロジェクトが動き出したのが2018年10月。そこから日本環境設計株式会社さまのご協力のもと、不用になった衣料品25万着を4カ月かけて回収し、工場で仕分けを行いました。というのも、バイオジェット燃料の原料となるのはナイロンやアクリルといった石油由来の生地ではなく、天然由来の綿なのです。綿の混紡率によって、衣料品をひとつひとつ仕分けする必要がありました。

画像2: 原料は“綿”。25万着を回収し、仕分け作業

松尾「それも大変だったのですが、本当の苦労はそこからでした」

課題が続出。“理論”だけでは実現できなかった製造工程

衣料品をジェット燃料にする製造工程は、微生物の力を借ります。綿が含まれた衣料品を糖化させ糖化液を作り、そこにコリネ菌という微生物を混ぜることで、イソブタノール(アルコール)を作ります。それを濃縮、さらに触媒反応させることでジェット燃料を製造するのです。2019年1月から製造工程がスタートし、当初は半年ほどで製造できる予定でしたが、前例のない初めての取り組みは理論通りにいかないことが多々あり、なかなかスケジュール通りに進まないこともありました。

画像1: 課題が続出。“理論”だけでは実現できなかった製造工程

松尾「途中で製造工程が追加になるなど、想定以上に時間がかかりました。また、真冬に燃料の原液である糖化液を保存する際は、凍結による糖化液の破裂が起きないように、安定的な保存環境を整える必要が出てくるなど、予想外の課題が次々に増えていきました。さまざまな困難がありましたが、Green Earth Institute株式会社さまの技術的サポートのもとひとつずつ課題を乗り越え、2020年3月に燃料が完成しました」

画像2: 課題が続出。“理論”だけでは実現できなかった製造工程

同月、バイオジェット燃料の国際規格である「ASTM D7566 Annex 5」の適合検査に合格し、日本初となる純国産バイオジェット燃料が誕生したのです。

画像3: 課題が続出。“理論”だけでは実現できなかった製造工程

松尾「国産バイオジェット燃料製造の大きな一歩となりました。国内の技術力で作れる事実を証明できたことは、大きな意味があると考えています」

「CO2を出さない航空会社」を目指し、JALは取り組みを続けます

平野「現状、バイオジェット燃料は、ジェット燃料と混合して使用する必要があります。2020年6月中旬にジェット燃料と混合を行い、フライトへの搭載が可能となりました」

画像1: 「CO2を出さない航空会社」を目指し、JALは取り組みを続けます

平野「バイオジェット燃料は、ジェット燃料に比べて価格が5~10倍と高額です。バイオジェット燃料は世界的にもまだ開発段階にあり、安定的に供給できるレベルには至っていません。そこで、JAL自ら海外のバイオジェット燃料製造会社に出資もしており、海外発のフライトで搭載することのみならず、その技術を国内で展開する取り組みを開始しています。丸紅株式会社さまなど複数の国内企業と国産バイオジェット燃料のサプライチェーンの構築を進めており、2025年ごろ、フライトに搭載したいと考えています」

画像2: 「CO2を出さない航空会社」を目指し、JALは取り組みを続けます

JALグループは2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指しています。さまざまなアプローチのなかで、バイオジェット燃料の使用は不可欠な要素。きたるべき時代には、「CO2を出さない航空会社」というお客さまの選択肢になることを目指し、取り組みを続けていきます。私たちの身近なものから作られた燃料を載せた「未来のフライト」が世界中を飛びまわることは、もはや夢物語ではなさそうです。

JALの舞台裏

A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。

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