「まずは、お求めやすい価格でご提供したいと考えていますが、お客さまのニーズはそればかりではありません。私たちはお客さまに納得感を持っていただきたいのです。時代の移り変わりによりニーズが変わってきているなかで、必要なサービスを組み合わせてご購入いただくことで、本当に必要なものを損なわずに、お求めやすくフライトを提供したいと考えました」
JALの新しいLCC・ZIPAIRの西山雅博は熱く語ります。LCCとはローコストキャリアの略で、フルサービスキャリアに比べて、機体やサービスなどの質を落とした分、安価な運賃で運航する……というイメージかもしれませんが、ZIPAIRは少し違います。
ほしいサービスをお好みで。ご満足いただける旅を実現
「機体はJALからのリース、整備はJALに委託していますので、今まで通りの安心と安全はご提供できると自負しています。一方で、サービスはオンデマンドが基本です。機内食はカップラーメンからうな重まであり、お食事が必要ない方から少しリッチな旅をしたい方までお好みでお選びいただけるのです。具体的には、“移動だけの運賃”を基本料金とし、成田からホノルルまでのご移動だと大人お一人さま1万9,800円から。手荷物を預けられるようでしたら、別途4,500円。機内食は1,100円からご用意し、座席指定もオプション料金です。つまり、ほしいサービスを組み合わせていただけるのです」
また、お客さまが当社を想起する際の“印象”も工夫しました。これまでのLCCは安さを提示するためにポップな配色が比較的多く見られましたが、ZIPAIRでは落ち着いた印象の“トラストグリーン”と“ハーモニーグレー”を基調色に採用しました。
「ブランドパートナーの株式会社SIXの皆さまとともに、どのようなエアラインにしていきたいかを考えました。そのコンセプトが、お客さまにとっての納得感、“ちょうどいい”という感覚です。そこからロゴなどを決めました」
ちょうどいいという感覚は、ご提供サービスについても徹底しています。機内もモノトーンに統一し、シックな印象にまとめました。
フルサービスキャリアに匹敵する機内空間と、独自のサービス
「機能性にも抜かりはありません。最新鋭のボーイング787型機を採用し、機内はフルサービスキャリアの国際線基準に揃えたシートピッチで、中長距離に適した座席の提供をしています。少しリッチな旅をしたいお客さまに向けて、フルフラットシートになるビジネスクラスもご用意しています」
さらに、ラバトリーにはLCCでは初となるシャワートイレを完備するなど、フルサービスキャリアと遜色のないファシリティを実現しました。一方で、コストの最適化も行っています。
「一番大きな特長は、各シートにディスプレイが付いていないことです。重量が下がり、調達費も下がり、足もとの空間が広げられるというメリットがあります。しかしそれだとお客さまにエンターテインメントや情報をご提供できません。そこで無料の機内Wi-Fiをご用意し、お手持ちのスマホやタブレット端末で映画などをお楽しみいただけます」
お手持ちの端末をディスプレイの代わりにしていただくため、タブレットホルダーを全席にご用意。席にいながらお食事やお飲み物をオーダーでき、その場で決済もしていただけます。
「LCCを選ぶお客さまはご自身の価値観で航空会社を選ぶ方や、旅慣れた方が多いと思います。そういった方々はスマホやタブレットをお持ちのケースが多いため、あえてその仕様にしました。スマホでご注文いただければ、混雑時に機内食のご提供時間も表示されます。スマホひとつで機内サービスが完結できるように設計しています」
就航直前に訪れた、感染拡大の影響
こうしたコンセプトを取り入れながら、ZIPAIRは2020年5月14日にバンコク線の就航を準備していました。しかし、かねてよりのコロナウイルス感染拡大の影響から緊急事態宣言の発出を受け、就航延期を判断したのです。
「すでに機体を受領していて、人とモノはすべて揃っていました。たとえお客さまが少なくても、スタートラインは変えられないと考えていましたが、やはりお客さまの安全のため、延期を決断したのです」
その後の6月3日、ZIPAIRは貨物便として就航をスタートします。約3週間の空白期間のなか、ZIPAIRの社内ではひとつの決断が下されました。
「旅客便を考えていたので、正直当初、貨物便は考えていませんでした。しかし弊社の社長が、地方の酒造メーカーさんが飲料用のアルコールを消毒用に転換している試みを見て、私たちも社会に対して何かできるのではないかと考えたのです。旅客便が運休すると、航空物流もストップします。運びたい荷物が運べない事態が起こっているなかで、ZIPAIRを運航することで、少しでも社会貢献でき、事業も始められる。そこで貨物便での就航に踏み切ったのです」
安心と安全に最大限注意を払いながら、現在3路線を運航
旅客便が就航したのはその約5カ月後、10月16日のことです。成田とソウル(仁川)を結ぶ、就航時唯一の旅客便としてデビューしました。
「成田にいると、リアルタイムで国際線利用のお客さまがどの程度いらっしゃるのかわかるのです。感染拡大初期はほとんどいらっしゃらなかったのですが、夏くらいにかけて、ポツポツとお姿を拝見できるようになりました。帰国しないといけないお客さまなど、需要は一定程度あることがわかってきたのです。韓国線はもともと往来も多いわけです。日系の航空会社が運航を停止しているなか、成田と韓国を結ぶことには意義があると考えました」
その後、10月28日に成田-バンコク線、12月19日には成田-ホノルル線の旅客便を就航。お客さまの安心と安全に対して細心の注意を払いながら現在も運航しています。
「ハワイも韓国と同じで、日本との関係が深く、生活需要が活発化するなか、どのようにお客さまのお役に立つことができるのかと考え、運航しようと決断しました。また感染対策は、マスクの着用や除菌シートを配るなど、ほぼJALと同じ取り組みをしています。さらにスマホ一つで機内サービスを完結できるという、コンタクトレス、キャッシュレス環境を最大限活用し、万全の対策を講じています」
自分らしく、納得感ある新しいフライト体験を、ZIPAIRで
スタートしたばかりのZIPAIRですが、JAL譲りの高いクオリティと納得感のあるプライスのバランスをとりながら、現在3つの国際路線を運航しています。
「こういう状況でもしっかり運航することで、ZIPAIRが飛んでいることを知っていただけますし、手をこまねいているわけにはいきません。少しでも前進していくことに意義があると考えています。事業を継続しながら、次の一手を着々と準備をしています。お客さまのニーズを違った面からくみ取りながら、中長距離というLCCの空白地帯を埋めるという我々のミッションを遂行したいと考えています」
たとえば北米の西海岸など、フルサービスキャリアが提供しているフライトに違う切り口をご提案することが、ZIPAIRの役割です。この新しい航空会社を、選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。きっと、自分らしく納得感のある旅をご体験いただけるはずです。
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。