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10月31日(土)の14時を少し回ったころ、成田空港第2ターミナル到着ロビー南側にある国内線チェックインカウンターに、続々とお客さまが集まってきました。「空たび 秋の夜空ブルームーンフライト」の目的地は“空”です。日本の夜空を周遊しながら、上空でお月見をするという趣旨のチャーターフライトなのです。
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とりわけこの日は約3年に一度のブルームーンの夜。ひと月のなかに2度満月を迎えることを指し、見ると幸せになれるという説があります。気軽に海外旅行に行くのが難しい状況のなか、少しでもお客さまに旅行気分を味わってもらいたいと企画しました。
手作りのアイテムたちと、心づくしのおもてなし
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有人カウンターでチェックインしたら、旅のしおりとして配られた手作りパスポートに、グランドスタッフが記念のスタンプを押します。ところどころで消毒や検温を実施し、健康チェックシートを提出するなど、感染対策を徹底しています。
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またこの日のためのサイネージやパネルは、スタッフが手作りしたものです。
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搭乗券はグランドスタッフが手作りしたカードホルダーに入っています。一緒に配られたファイルの中には、ボールペンやアンケートシートが挟まれています。
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搭乗口では、整備士特製のLEDがきらめくパネルを持って記念撮影するサービスを行いました。また今回のフライトのために用意された写真ホルダーも配布。お好きな色をお選びいただける趣向です。
機体まではバスでのご案内です。搭乗する機体はボーイング767-300ER。タラップ前では客室乗務員がお客さまを歓迎し、記念撮影にも応じます。
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搭乗の際には航空機部品にも使用されている金属に空たびブルームーンフライトと刻印されたキーホルダーをお配りします。こちらも、シリアルナンバーの入った整備士特製のもの。なかには8個だけ青色のものが入っているのだとか。
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さらに座席には、普段長距離のビジネスクラスにご搭乗いただかないと手に入らない、パリのブランド「メゾンキツネ」のアメニティキットが置かれています。ちなみにビジネスクラスでは、ファーストクラス専用となるイタリアブランド「エトロ」のキットをご用意しています。
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また機内にはハロウィーンの飾り付けを施し、お出迎えです。さて、定刻を迎えると、機体はトーイングトラクターの牽引によりターミナルからゆっくりと離れていきます。
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秋晴れに向かってテイクオフ。便名は「よろしく夜景」です
「本日は日本航空の『空たび 秋の夜空ブルームーンフライト』にご参加いただき、誠にありがとうございます。本日は皆さまの素敵な夜間飛行をお楽しみいただけますよう、JL4981(よろしく夜景)便としております。皆さまの素敵な思い出作りをお手伝いさせていただければと存じます」
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チーフパーサーのアナウンスから、約3時間の空の旅が始まります。離陸時にはスタッフ総出で横断幕を掲げ、カーゴトレーラーが回転しながらお見送り。滑走路に機首を向けた機体はエンジンの出力を上げ、轟音とともに離陸。日も傾いてきた秋晴れの空に向けて舵を切りました。しばしのフライトを楽しみます。
「本日は『空たび 秋の夜空ブルームーンフライト』にご参加いただき、誠にありがとうございます。本日の飛行経路ですが、ハート型を飛行いたします。長野県小諸市、高知県土佐市を経由いたしまして、洋上フライトで夜景をお楽しみいただきます。本日の月の出の時刻は4時前、日の入りは5時30分前後を予定しております」
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中村機長の機内アナウンスが響き、右手に紅葉が色づく八ヶ岳を眺めながら、機体は徐々に高度を上げていきます。
ディナータイムは、めくるめく景色を楽しみながら
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諏訪湖を望みながら、機体は日本海側へと旋回していきます。遠巻きに夕日を頭上に掲げた富士山のシルエットが見えます。
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やがて富山湾へと辿り着き、南西に向きを変え、海岸線をなぞるように石川県、福井県と北陸を進みます。窓の外に目をやると、水面を軸に伸びる海の濃紺とあかね色に輝く空との美しいグラデーションが並走します。
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機内では、順に国際線の機内食のご提供が始まりました。この日のメニューは洋食。「コンラッド東京」の山本紗希シェフによる監修です。
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ディナーに合わせるのは、この日のために特別に用意されたアメリカのクラフトビール「ブルームーン」。コリアンダーやオレンジピールがほんのり香るライトボディで、メインディッシュの白身魚によく合います。
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高度1万メートルで見る月は、大きく輝いていました
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機外に目をやると、若狭湾が目に入りました。空のあかね色はより濃さを増していき、やがて太陽は日本海へと沈んでいきます。空が紫に輝くマジックアワーを経て、星空がきらめきだしました。食後のコーヒーを楽しんでいると、いつの間にか四国上空に。明石海峡を望みながら、やがて四国から太平洋へと飛び出しました。
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「管制に許可をもらい、当機はこれから旋回いたします」
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中村機長のアナウンスののち、高知県の室戸岬沖で数回にわたって旋回。そのころには月は水平線を遙か上空に離れ、丸く煌々と光り輝いています。秋の澄んだ空気のなか、地上で見るよりもひときわ大きく見えます。
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夕暮れ時を過ぎてからは、機内照明を落としてフライトします。丸く煌々と輝く月は、これこそブルームーンと呼ぶにふさわしい迫力です。
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太平洋沿岸を東へ進む機体は、やがて成田空港へとランディング。約3時間半の空の旅を終えると、機内は拍手に包まれました。
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案内に従って降機すると、出口では関係スタッフが総出でお見送り。「ブルームーン」の瓶を、お土産としてお渡しします。
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部門の垣根を越えて、チャーターフライトを実現しました
スタッフ総出でお客さまをお見送りしたあと、おもだった担当者が企画を振り返ります。
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堀岡「第1回は星空をご覧いただくフライトでした。こういう世の中なので、海外旅行に行きたいけど行けない。明るく楽しく、海外に行った気分になってほしいと思って企画しました。社員の有志で行ったのですが、こんなに盛り上げてもらえるとは思わなかったし、今回もたくさん協力してもらいました」
企画を担当した路線事業戦略部の堀岡昌代はこのように語ります。挙手制で企画が始まり、部署の垣根を越えてアイデアを集め、手探りで内容を決めていきました。旅行パッケージとして企画販売を担当したジャルパックの丹羽由紀子はこう振り返ります。
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丹羽「第一弾のお話を耳にしたのは8月です。旅行会社として、旅に行きたいというお客さまの声もいろいろあったのですが、実際にご参加いただけるか不安がありました。しかしJALが熱い思いで取り組んでいるのを目にして、ジャルパックとしても、とことんいいものにしたいという気持ちが強くなったのです」
スタッフがアイデアを持ち寄って、手作りのおもてなし
そんな思いから9月26日の「空たび 星空フライト」の実施が決まりました。整備部門の本村稔寛は、前回から引き続き企画に参加したひとりです。
本村「各部門でできることを考えてほしいという依頼を受けました。部署内で声を集約して、実現可能でインパクトが残るアイデアを形にしたのです。具体的には、手作りのメッセージボード、キーホルダー、フォトフレーム、フォトブック、コンテナの装飾です。また見えないところでは、使用する機材の整備と清掃も行いました。トラブルの少ない機体を選び、前日にエンジンの試運転まで行っています。また機内外を、ピカピカに磨き上げました。今朝も高所作業車で窓を拭き上げています」
そんな努力が実り、おかげさまでほぼ満席となりました。満を持しての第2弾となる今回は、さらに企画に磨きを掛けました。
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堀岡「社内からアイデアが出たのが、10月31日に見られるブルームーンをご覧いただくという趣向でした」
多くの方がご参加いただきやすい土曜日。10月31日に「空たび 秋の夜空ブルームーンフライト」の催行が決まり、準備期間が短いなかで、急ピッチで準備が進められました。成田空港で国内線ラインを担当する鏑木七江は振り返ります。
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鏑木「前回も今回も、成田空港の国内線担当のスタッフからアイデアを募集しました。せっかくなので、極力実現できるように、やり方を考えながら準備を進めました。たとえば国際線旅行ができないなか、『疑似でもいいから出入国を体験していただけないか』と考え、手作りのパスポートリーフレットに出入国のスタンプを作りました」
リーフレットに書かれた文章やデザインもグランドスタッフの手作りです。装飾やモチーフには「ブルームーン」という名の青いバラがモチーフに使われましたが、その花言葉は「夢かなう」です。これはお客さまに向けた言葉であると同時に、JALスタッフが抱いた気持ちでもあります。また、モルソン・クアーズ・ジャパン株式会社のご厚意により、ご搭乗のお客様の機内用とお土産用に今回のテーマにぴったりの全米ナンバーワンクラフトビール「ブルームーン」を無償提供いただき、チャーターをより一層彩っていただきました。チャーターフライトの企画は、JALスタッフにも刺激的だったようです。
第3弾以降も企画中です。次回もお楽しみに
堀岡「第3弾、第4弾と、ぜひ続けていきたいですね。空港整備発案のチャーターとかも面白いかもしれません」
本村「第3弾以降を見越して、整備ではキーホルダーの量産体制を整えています。実は手作業で前日までキーホルダーを作っていたので、大量生産を見越してデザインも考えています」
丹羽「いい企画が立ち上がったので、一緒に頑張ってやれたらと思っています。ここで終わらせたらもったいないですし、社員の思いも詰まっていますから」
鏑木「前回のチャーターフライトでも、定期運航がないなかで、カウンターのインチャージのスタッフはみんな楽しそうでした。接客が好きで、この仕事を選んだスタッフばかりですから、ちょっとジンと来てしまいました。また次も協力したいですね」
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振り返りのための取材でしたが、早くも次回に向けてのディスカッションが始まってしまいました。出発地に戻ってくるチャーターフライトにはあまり馴染みがないかもしれませんが、ご想像以上の感動があることでしょう。スタッフが知恵を絞ってご用意する次の企画も、ぜひ楽しみにお待ちください。
A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。
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