また今回のインタビューは、東松さんもゲスト参加したハワイ島「ワーケーションプログラム」終了後に行われ、プログラムの企画・協力をしたJALスタッフとともにハワイでの新しい過ごし方についても語っていただきました。
単なる観光ではない、“リフレクション”のための旅
―週末だけで海外旅行をする東松さんが、旅することの本当の価値に気付いたのはキューバを訪問した時のことだったそうですね。
東松「最初は、旅行で非日常を感じるとリフレッシュできるという単純な楽しみで週末旅行をはじめていたんですね。でも、キューバに行った時に、それまでとは違う感覚を覚え始めたんです」
―それはどんな体験だったのでしょう?
東松「キューバの人は、とても“おもてなし”をしてくれるんですね。街を歩いていると声をかけてくれたり、ご飯を奢ってくれたり、夜にはダンスなど遊びに誘ってくれたりとか。初対面の僕に気さくに接してくれるんです。それまで海外旅行は、事前に調べたものを見に行く確認作業みたいな部分もあったのですが、そのときは、現地の人と触れあって、現地の暮らしや人々の生き様を感じるというまったく新しい体験だったのかもしれません」
―単なる観光ではなく、現地の暮らしや生き様を知ることにはどんな魅力があるのでしょうか。
東松「一言で言えば、自分を見つめ直す機会になるということです。仕事や日常と離れて、別の世界を知った時に、そこで感じたこと、実際に起こした行動って、それこそ素の自分だと思うんですね。いつも当たり前だと思っていることやしがらみのない所では、本当に自分の好きなこと、嫌いなことが見えてくる。これは仕事のある場所ではなかなか体験できないんです」
―旅行は客観的に自分を見つめ直す“リフレクション”の機会にもなるということですね。
東松「飛行機に乗るということも重要なんです。飛行機は、日常と非日常の間の空間。しかもほかに行き場所のない閉ざされた空間じゃないですか。だからこそ、気持ちの切り替えができたり、旅先での経験を振り返って自分を見つめ直す“リフレクション”の時間がたっぷりとれたりするんです。そして、日常に戻ってからやりたいこと、やるべきことが明快になっていく」
日本人は休み方を知らない
―今回、東松さんにはJALがハワイ島で開催した「ワーケーション」の実証実験にゲストとして参加していただきました。ワーケーション、つまり休暇中に会社の公式の仕事時間を取り込むというスタイルが広まるためのポイントとして、日本人の休み方に対する意識の改革が必要だとお話しされていましたね。
東松「そもそも“働き方改革”の前に“休み方改革”が必要だと思います。僕自身もリーマントラベラーに目覚める前は、本当の意味での休み方を知らなかった。ほとんどの週末は、仕事で疲れた心身の回復のために時間を使っている。でもそれって、結局は仕事中心の時間の使い方なんですよね。本来、休みの日は、物理的にも精神的にも仕事とは別の時間を過ごすべき。そのメリハリがなかったんです」
―確かに、上の世代も含めて「休みの日はどうしていいかわからない」なんて声を聞くことがありますね。
東松「それは、仕事以外の『自分中心の時間』を持っていない、ということなんです。仕事は、ここではサラリーマンの仕事に限ってですが、基本的には会社や職場、取引先との時間軸の中に自分の身を置きます。一方で、休みの日は、自分のペースで自分がやりたいことをやりたいようにできるはずなんです。そのためには、仕事以外の好きなことを見つける必要があります」
―東松さんにとってはそれが海外に行くことだった。
東松「そうなんです。いきなり『好きなことを見つけろ』といわれても、簡単には見つからない。でも、旅行だったら楽しいことは間違いない。だから、まずは海外に行って、別の世界に身を置くことで新しい自分を発見できるかもしれないわけです」
―「仕事をする自分」のために休むのではなく「仕事以外の自分」のために休むという意識に変わるだけでも、生き方はもちろん働き方も変わってきそうです。
東松「実際、休日にやるべきことがあると、平日の集中力も高まります。いつもならだらだら残業したり、休日出勤も考えたりしてしまいがちですが、自分には仕事と同等、あるいはそれ以上にやるべきことがあるという意識が逆に仕事のモチベーションを高めてくれることにつながるんです」
働く時間と休む時間。そして“ワーケーション”という新しい時間の過ごし方
働き方と休み方、それぞれ目的を持って過ごすことでメリハリが生まれ、モチベーションの高い過ごし方ができる。その中で、「ワーケーション」はさらに“休暇中に働く”という新しいスタイルを提案します。どんな効果が期待できるのでしょうか? ここからはワーケーションプログラムの企画をしたJAL人財戦略部の東原と、JAL HAWAIIの旅行商品を担当する国際路線事業部の阿部を交えて「ハワイ×ワーケーション」の可能性について語っていきます。
―今回実施された取り組みはどのようなものでしょうか?
東原「JALはMINDSという異業種連携コミュニティに参画していまして、ここでは日本のさまざまな企業が集まって“自分らしい働き方”を一緒に検討していく活動をしています。その一環として若い世代であるミレニアルワーカーたちが『ワーケーション』という勤務スタイルをハワイ島で体験し、仕事のパフォーマンスや心理状態をモニタリングしていくという実証実験を行いました」
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―休み中に残してきた仕事をするということではなく、しっかり計画的に公式な仕事として働く時間を取り込むということですね。
東原「そうです。そのため個人はもちろん企業側の協力も必要になります。今回は、3泊の中に『バケーション』の部分と『ワーク』の部分を作って、時間のメリハリをつけて実施しました。仕事時間は、企画書を作ったり、エンジニアの方はプログラミングの作業をしたり、さらに日本と電話会議などを行うこともありました」
―実際、参加者からはどんな声が挙がりましたか?
東原「参加者にアンケート調査を行っているため、精緻な分析はこれからですが、働く場所の選択肢の自由度があるほど、より顕著に仕事に対して前向きに取り組んでいることや、プライベートの充実が業務へのポジティブに影響していたり。つまり、長い人生の中での満足感や帰属意識の向上に繋がっていることが結果からもわかりつつあります。今回こちらでも『仕事の効率が上がった』ですとか『モチベーションがあがった』というポジティブな声を聞くことができました」
―東松さんから見て、このワーケーションというスタイルは、どのように感じましたか?
東松「僕自身は、普段は仕事を(日本に)置いて海外旅行をするのですが、今回はワーケーションということで原稿の執筆などの作業を持ち込みました。やっぱりハワイは、わくわくする気分になれるし、そのなかでアイデアが生まれたり、自分に優しい気持ちの中で仕事ができたりと、たくさんのメリットを感じましたね」
―それは、やはりハワイであることにも関係してくるのでしょうか?
東松「やっぱりこのバケーション感は大事だと思うし、ワーケーションという“モード”も重要だった気がします。“仕事を引きずる”という後ろめたい気持ちではなく、ちゃんと正式な仕事ありきで海外にくることで、頭の中はある程度日常モードになるので仕事との接点も切れていない。とはいえハワイだから、仕事だけではもったいないという気持ちが強くなります。だからシンプルに『はやく仕事を終わらせて遊びに行きたい!』という気持ちになって、仕事の効率もあがるということはあると思うんですよ。僕が普段、平日と週末とのメリハリでやっていることを、バケーションの期間内でメリハリをつけてやることができるんだと思います」
―JALとしても、ハワイでの過ごし方の新しいスタイルを生むという点で有意義だったのではないでしょうか?
阿部「今回の実証実験にJAL HAWAIIとして協力したことで、今後の旅行商品開発に手応えを感じました。JAL HAWAIIで提案させていただいているハワイの過ごし方は、長期滞在も念頭に置いています。例えばJALのダイナミックパッケージなら5泊以上の長期滞在でお得なホテルの特典がつく魅力的なプランや、8泊以上で通常よりも割安になる航空券があるのですが、それに加えて『過ごし方』の提案も積極的に行っていければと思っています」
―その観点で言えば、ワーケーションは新しいハワイの過ごし方としても相性が良さそうですね。
阿部「今回の実証実験でも活用したバケーションレンタルのHomeAwayを使って、ホテルとは違う『暮らすように旅する』感覚で一棟貸しのコンドミニアムに滞在するのもいいですね。会社のグループでの滞在はもちろん、家族で長期間過ごして両親がそれぞれ交代でワーケーションしながら、片方が子どもと一緒に遊びに行って夜は家族団らん、なんてスタイルもできますよね」
―東松さんは、ハワイの中でもハワイ島であることにも相性の良さがあるとおっしゃっていましたね。
東松「そうなんです。ハワイ島は、ホノルルと違っていい意味で“何もない”ところが魅力です。何もないからこそ『休んでいる』実感がありましたし、逆に仕事するときはじっくり取り組める。また、観光スポットも自然や歴史を感じる場所がたくさんあって、非日常の体験をしっかりできるのがいいですね」
※2020年3月末に「HomeAway」は「Vrbo(バーボ)」にリニューアルしました。
東原「ワーケーション自体は、休暇を取ることがメインで場所は選ばないものなのですが、やはりハワイ島ならそこに“旅”の要素を存分に取り入れられることも魅力なのではないでしょうか。東松さんもおっしゃっていましたが、物理的に離れたところで自分を見つめ直し、じっくり考え事をする時間がとれるという意味でも自然の中で静かに過ごせるハワイ島は最適かもしれません」
東松「それから、すごく、健康的になれるんですよね。朝、早く起きるし、ちょっと近くをランニングしたくなりますもんね(笑)。日本に帰った後も、生活のリズムがある程度よくなっていくのではないでしょうか」
阿部「JALとしてもハワイ島には非常に力を入れています。ハワイ島のコナ空港へは、提携しているハワイアン航空も羽田から週3便で運航していますし、JALの成田―コナ間のデイリー運航と併せて充実したネットワークをつくっています。ワーケーションはもちろんですが、様々な過ごし方が出来るハワイ島は、ホノルルに匹敵するほど身近な観光地になってきています」
―「ハワイ×ワーケーション」のスタイルは、単なる休暇とも旅行ともちがう、新しい旅の価値になるかもしれませんね。
阿部「私は職業柄、海外出張が多いのですが、もちろん仕事で行っているのでほとんど『仕事モード』ではあります。でも、空いた時間にふと現地の空気を感じることでリフレッシュできたり、日本では気づかない自分のことについての発見があったりします。ワーケーションは、その感覚をより身近に、色濃く体験できるということなのかもしれません」
―その点でも東松さんのおっしゃるように単なる「ザ・観光」ではなく、現地の暮らしを感じることが大切なのかもしれません。
東松「ワーケーションとなれば、すべてが自分時間ではないですよね。そういう意味では仕事はもちろん旅行もいかに短い時間で実のある体験ができるか、が大切だと思います」
―どうすれば東松さんのように旅先で有意義な時間を過ごせるのでしょうか?
東松「とにかく予定を組み込みすぎないことです。事前に調べたことの確認になってしまっては、得るものはほとんどありません。行く場所は絞り込んで、現地の人と会話をすること。『写真を撮ってください』とか『おすすめのレストランを教えてください』といった簡単な質問でいいんです。そこから思いもしない幸運がやってくるかもしれない」
休暇中に正式な仕事時間を取り入れるワーケーション。休暇でも仕事でもない、これからの新しい時間の過ごし方として大きな可能性を感じる鼎談となりました。ワーケーションは制度や当事者の心理面でまだまだ解決しなければならない課題もありますが、先進的な個人や企業が、この「ハワイ×ワーケーション」をどんどん取り入れて普及していく未来を期待せずにはいられません。
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